表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 7:副都ステージ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

152/236

152:五行剣

俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)




今日も、いつもの平日勤務。

昼休みの間に、魔導三院(バイト先)の書庫へ。


いつものように、お偉いさんの娘さんらしい司書さんに書籍(ホン)(魔導術式の研究資料)の貸し借り手続きをお願いして、スミス研究室(ジムショ)に戻ろうとすると ──



「あまり調子にのるなよ、チビ!」



書庫の外で、三白眼の少年が待ち構えていた。

仁王立ちの上、ビシッと指を突きつけられる。



「はぁ……?」



なんとなく、礼儀知らずな『(ソレ)』をベッ!とハタき落とす。



「── あ゛あ゛あ゛っ!?

 このチビィ~~、調子に乗りやがってぇ~~~っ」



三白眼少年は、指を押さえて半泣きで、何か言ってくる。

当たり所が悪くて、()(ゆび)したらしい。


まあ、厚表紙(ハードカバー)の魔導書でハタいたからな。



「ガビノったら……、もうやめようよ?」



隣のそばかす少年・マーティンも呆れ顔。

『いくら止めても聞かない』という感じらしい。



「うるさいっ

 みんな(だま)されてるんだ!

 こんな貧素(ひんそ)なチビが、そんな有名流派のはずがない!

 俺が(うそ)を見抜き、真実を(あば)いてやるっ」



()(ゆび)の痛みでジタバタしてる子が、探偵ゴッコみたいな事を言っとる。

呆れて失笑(クソワロタ)


取りあえず、事情を知ってそうな隣の子に()いてみる。



「……いったい、どういう事?」


「あ~……、うん、実はね。

 先週、キミが『爆弾持ち(ボマー)』の魔物をやっつけたよね?」


「── あ……っ、ああぁ~!?

 なるほど、『昼飯おごってくれる』って事かぁ!

 あ~あ、今日はもうメシ食っちゃったよぉ~っ

 食べに行くの、明日の昼でもいい?」



もう、なんだよぉ~、早く言えよぉ~。

タダ飯はいつでもウェルカム!

どこ(おご)ってもらおうかなぁ~、高級店(タカいみせ)がいいなぁ~♪



「いやいやいや、違う違うっ」



俺が『お肉♪ お肉♪ 明日はお肉♪』とルンルンな気分でいると、途端にストップが入る。

『命の恩人な俺に、御馳走(おニク)でお礼』と思ったが、早合点(はやがってん)だったらしい。



(── ぬか喜びかよ!

 死ねばいいのに、この恩知らずクサレ男子学生どもめ……っ)



心の中で悪態ついて、ツバも吐いておく。

ペペッ!と(心の中の動作)。



「何というか、その。

 あの後ちょっと色々あって、ガビノが『アレは絶対ズルしている!』とか言い出して……」


「はあ……?」



ズルって、何が?



「── あ、怒らないでね?

 ガビノがさぁ、あの後に『絶対、スゴい流派の門弟なんかじゃない』とか、『アイツが魔剣士のハズがない』とか。

 変な事を色々と言い出して……」


「あ~……、うん、そだね。

 俺、別に『スゴい流派』でも『魔剣士』でもないし?」



はい、まさにご指摘の通りでございます。

ってか、それに何の問題が?



「うん、だよね…… ── って、はぁ!?

 えぇ! キミって、魔剣士じゃないの!?」


「むしろ魔剣士なワケないだろう……

 こんな魔力量が(・・・・)極少(・・)の魔剣士とか、居るワケねーよ。

 俺とかが、うっかり特級の【身体強化】を使ったら、即行(ソッコー)卒倒(ダウン)じゃん?」


「え、本当に魔剣士じゃないの……?

 え、ええ、えぇ~~?」


「………………」



(いや、見た目(・・・)の通り(・・・)だろ。

 魔剣士の身分証明(シンボル)の腕輪型<魔導具>(マジック・アイテム)も付けてないんだし。

 なんでそんなに驚くんだろう……?)



すると、金的くらったみたいにピョンピョン跳びはねてた子が、話に混じってくる。



「やっぱりそうか!

 そうだと思ったんだ、魔剣士じゃなかったんだ、お前ぇ!」


「え~と、そしたら、あの有名流派の門弟とか、そういう話は?」


「有名流派? 俺が? 無い無いって!」


「じゃあ、あの時、<御三家(ごさんけ)>の人と何か話してたのは……?」



あぁ~、ね。

御三家(ごさんけ)>の筆頭<天剣(てんけん)流>本家の人と、親しげに話してたから、身内みたいに思われたのか。



(ああ、納得ナットク。

 それじゃあ、ちょっと誤解を解いておかないとなぁ……)



しかし、俺が何か言うより先に、三白眼(ガビノ)が大声を上げる。



「ウソだ!

 やっぱりウソついてたんだ!

 ウソつきの最低チビ野郎だったんだ!」



何か『鬼の首でも()った』かのような、ビス!ビス!と荒い鼻息。


俺は『落ち着け落ち着け』と両手で手振り(ジェスチャー)しながら、軽く説明する。



「ウソも何も……。

 当流派(ウチ)の『剣帝流(・・・)』とか、落ちこぼれ弟子の俺を入れて、3人しか居ないマイナー流派だし……。

 あ、2人とも魔導師の学生さんだから、聞いた事ないよな?

 当流派(ウチ)の『剣帝流(・・・)』ってのは、ちょっと昔『剣帝』って称号をもらった魔剣士のジイさんが創った流派で。

 最近は、帝国東北部の<翡翠領(グリンストン)>で魔物退治ばかりしている ──」


「── 知ってるよ、そのくらい誰でも!」


「── ウソつけぇぇぇぇ!! 聞きかじった事並べて、適当に言うなっ」



魔導師学生(シロートさん)2人だから、せっかくやさしく説明してあげてたのに。

『そんな事ワザワザ()いてない!』みたいなダメ出し(・・・・)された。



── 解せぬ。





▲ ▽ ▲ ▽



『俺、剣帝流です!』

  V.S.(ヴァーサス)

『そんなワケがねえ!』



男子3人の、そんなどうでもいい(・・・・・・)話が、いつまでも片付かない。



── そもそも俺的には、赤の他人が信じようが信じまいが、どうでも良い。


どうせ俺って、(世間で言う所の)『妹弟子に後継者の座を取られた、落ちこぼれ一番弟子』だし。

流派一門の名誉や看板を、背負うような立場でもないし。



(まあ、今は(・・)剣帝流(ウチ)』がマイナー流派だろうが、あんまり関係ねーし。

 超天才児の(ウチの)美少女魔剣士さん(リアちゃん)が、将来的に『世界を救う』的な大活躍して、伝説的スーパー流派になってしまうのは、確定的に明らか!)



むしろ、『剣帝流(ウチ)』のマイナー流派っぷりを小馬鹿にしてくる、無知(むち)蒙昧(もうまい)愚民(ぐみん)の皆さんを、鼻で笑っちゃえるくらい。


兄弟子(にいちゃん)、サバンナのライオン(ヅラ)して、腕組んでるくらい。



── お前、伝説になった100年後でも同じこと言えんの?



そんな事を考えながら、うるさい男子生徒2人を適当にあしらう。



「はいはい、伝説の100年後をお楽しみに~。ではでは~」


「おい、待てって!

 逃げるな、変な事言って誤魔化(ごまか)すな!」



しかし、三白眼(ガビノ)の方が、いつまでも食いついてくる。



「うるせ~な、お前。

 んじゃ、何か証拠でも見せればいいのか?」


「へへ! 言ったな、ウソつきチビが!

 お前がもし、本当に『剣帝』の弟子なら、特殊な身体強化魔法『五行剣』の事だって知ってるはずだよな!」


「そりゃ、まあ……」



俺はちょっと、返事に困る。



「じゃあ、それを見せてもらおうか!」


「ええ~、それはちょっと……」



何といっても、当流派(ウチ)のジジイが編み出した秘術的魔法(オリジナル・スペル)

流派の秘伝、みたいな物。

赤の他人(しかも研究者の卵)に勝手に見せていいのか、判断がつかん。


そんな俺の困り顔を何と思ったのか、三白眼少年は勝ち誇った顔。



「ハハン!

 今さら逃げようって、そうはいかないぜ!」



ガシッと手首をつかまれ、どこかに引っ張られていく。



(ってか、そろそろ昼休み終わるんだけど?

 コイツらってたしか『学校の単位(かせ)ぎのためお手伝いに来ている学生さん』のハズ。

 なのに、所属の研究室に戻らず、こんな風に遊んでて(・・・・)大丈夫なのか……)



俺はそんな事を思いながら、コッソリため息ついた。





▲ ▽ ▲ ▽



魔導師学園の男子生徒2人に連れて行かれたのは、魔導三院の敷地の中央あたり。

広いグラウンドみたいな場所に、計測器みたいな<魔導具>(マジック・アイテム)があちこち置いてある。



「ハーディンさん、連れて来ましたよ!

 このチビが、噂のアレです!」


「おおっ、待ってた待ってた!

 キミが噂の『剣帝』の弟子 ── でも魔剣士とは思えないほど小柄ダナ~~っ

 体格は十代前半(ローティーン)の女子生徒くらいカナ~~?」



ヒョロッとしたメガネの青年研究員が、猫背でジロジロ観察してくる。


さらにその後ろの方で、メガネ連中が目をギラギラさせて変な声を上げた。



『── え、十代前半(ローティーン)!?』『じょ、女子生徒だって!?』『うひゃひゃ、予想の10倍ロリ!』『マジ! まだ毛生えてない!?』『ゴツい魔剣士なんてノーセンキュー……そう思ってた時代が俺にもありました』『ツルペタだ、いやっほ~~!』



── オイ、マジやめろ!



(今の発言、どれもガチでアウトだろ!

 お役所な研究機関のど真ん中で、犯罪っぽい事を口走るな!!)



フン!フン!鼻息の荒い、短身(チビ)やら肥満(デブ)やら痩身(ガリ)やら、やたらと不健康そうな男性研究員連中から目をそらす。


すると、猫背の主任(チーフ)っぽい人が、まだ周囲でジロジロ見ていたた。



「アレアレ?

 キミって、性別オトコなんダナ~~。

 あ、これが世間(ちまた)流行(りゅうこう)の『(ヲトコ)()』って属性(フェチ)カナ~~?」


「性別はオスで~す! 野郎で~す!

 決して『乙女』(オンニャノコ)ではありまっせ~~ん!」



青年研究員の、その後ろの目ギラギラ連中に聞こえるように、大声で告げる。


だが、聞こえてきたのはおぞましい(・・・・・)絶叫!



(── ヤメロぉっ! 

 『うっ、ロリ男児たまらんっ』とか『むしろアリです!』とか親指立てて、前かがみになるのは!!)



ってか、異世界でも『(ヲトコ)()』とか、女装男子愛(とうさくフェチ)流行(はや)ってのかよ!?



(終わってんな、このクソ世界!

 一刻も早く魔王か何かに蹂躙されて滅べ!)



そんな内心で毒吐いていると、さらにイラッとくる声がかけられる。



「おい、チビ!

 撤回するなら、今の内だぜぇ? ヘッヘッヘ~」


「……何が?」


「お前が! 『剣帝』の弟子っていう! ウソを! だよっ」


「いや、だからウソじゃねーし……」



やたら(から)んでくるな、この三白眼。



(お前、『神童コンビ』の細目(ルカ)の同類か?

 『辺境の英雄(ジジイ)』の信者(ファン)が<帝都>にも居たのか?

 アレか、前世ニッポンの『著名な素人歌手(インディーズ)を10年追っかけてるコアな音楽ファン』みたいヤツなのか?)



言動は、ほぼほぼ『厄介(やっかい)信者(ファン)』だが。

ホント、超・迷惑!



「白状するなら、今の内だからなぁ?

 ここハーディン研究室みたいな、魔導三院のトップ研究員の研究を邪魔したとかなったら、お前もうこの魔導三院に居られないからなぁ!」


「……うん、面倒(メンド)い」



ウザ(がら)みしてくんなよ。

しかも、魔導師(ヒョロガリ)のクソガキちゃんがよぉ。


相手見て、ケンカしてくれないかな。

チビながらパワフル脳筋(マッチョ)現世の俺(ロック)とか、魔法を使わなくても黒帯格闘家レベルには強いワケで。



(ねえ、俺そろそろ三白眼(コイツ)叩きのめしていい……?)



今までも、この生意気少年の言動も『年頃だから』と大人(オトナ)として聞き流してきたが、いい加減キレそう。



── そんなイライラをため込んでいると、背後から声がかかる。



「やあ、キミが例の『爆弾持ち(ボマー)』魔物をひとりで倒したっていう?」


「こんな子どもが? 本当に?」



20歳そこそこの、男女の魔剣士。

見た感じ、まあまあな腕前。

多分、どっちも<四環許(よんかんゆる)し>か<()環許(かんゆる)し> ── いわゆる『エリート魔剣士』だ。


プライドが高そうなので、ちゃんと礼節に(のっと)った方がいいだろう。



「あ、はい。

 ── 『剣帝流』の落ちこぼれ一番弟子のロックです、どうも初めまして」



胸に利き手の握り拳を当てて、腰を折るお辞儀 ──

── 武門の立礼(りつれい)だ。


すると、魔剣士の男女2人は顔を見合わせ、同じく『武門の立礼』を返してくる。



「これは、失礼しましたっ

 帝室親衛隊に所属しています、<狼剣流>ミリーです」


「同じく帝室親衛隊の所属。

 帝国第9の流派、<パインヴァリィ流>カーターです」



リラックスした感じが一瞬で抜けて、ピリッとした空気になる。

魔剣士として気合いが入ったという感じ。



「へぇ~。

 帝室の親衛隊って、確か相当なエリートだったな……」



って、ジジイがいつか言ったな、確か。

あと、何か、赤毛少年(ニアン)が、



「── たしか、ブルースって先輩がいるとか……?」


「おや、ブルースのお知り合いですか?」



俺の独り言に、親衛隊男子さんの方が反応した。



「いや『知り合いの知り合い』くらいの感じです。

 <翡翠領(グリンストン)>の<轟剣ユニチェリー流>と交流があったので」


「なるほど。確かにアイツ、<帝国八流派>の分派でしたね」


「そういえば<翡翠領(グリンストン)>って、『魔物の大侵攻(モンスター・パレード)』があったとか……」



帝室親衛隊の男女2人と、そんな軽い世間話をしていると、さっきの研究員の人が口を挟んできた。



「あ、せっかくの機会なんダナ~~。

 ミリー君とカーター君の、『五行剣』試作品も見てもらおうカナ~~?」



その猫背の研究員が主任(チーフ)なのか、言われるとおり親衛隊の男女2人が用意を始める。



(うん……?

 『五行剣』、の『試作品』ってどういう事?)



何の話か解らず、ひとり首を(かし)げる俺。


周囲を見渡すと、ニヤニヤしているガビノと目があう。

すると、小走りですぐ隣りに来て、耳打ちしてくる三白眼(ウザい子)



「おい! 逃げるなら今の内だぞ、大ウソつきぃ……っ!」


「………………」



コイツ、ホントにそろそろ(ボコ)っていい?





▲ ▽ ▲ ▽



事の発端は、10年ほど前。

当流派(ウチ)のジジイが『剣帝』とかヤバめな称号をもらった時。

帝国の研究機関・魔導三院(ここ)に『五行剣』の術式を提供するよう、偉い人から頼まれたらしい。


── 『五行剣(それ)』を参考にして、現在の身体強化魔法をパワーアップさせたいから、引き換え条件ね?


そんなワケで、魔導三院の研究室で『五行剣』の改良試験が行われているらしい。



(……なるほど。

 ジジイが『剣帝』みたいなラスボスっぽい称号をもらった理由は、『五行剣』が評価されたからなのか)



たしかに『魔物退治ガンバったで(しょう)』の割には、『剣の帝王』とかヤバい称号(あだな)もらったなー、と思ってたんだよ。


そもそも帝国内で『剣号』とかいう称号(あだな)が名乗れるのは、『武闘大会の優勝者』の特権。

一種の名誉職みたいな感じ。

しかし、『当流派(ウチ)剣帝(ジジイ)は、唯一の例外』なんて話も聞いた気がする。



(ジジイ、『武闘大会(そういうの)』に興味なさそうだもんなぁ~……)



流派の秘伝とか、前世ニッポンの企業秘密みたいな物だ。

そういう『企業秘密の無料開示』という普通ないような大盤振る舞い(・・・・・・)に対する『政治的配慮』から、特別に名誉称号(・・・・)を与える ──

 ── そう考えたら『()()王』とか、<帝国4剣号>の『剣王』とか『剣聖』より強そうな称号(あだな)ってのも納得できる。



── しかし、肝心の『新型・身体強化魔法の開発』が上手くいってない。

剣帝にヒントをもらおうと手紙を送っているが、まるで返事がない。


そんな困り切った状況に現れたのが、弟子の俺。

で、魔導三院で改良中の『五行剣』について、『本家・剣帝流(オリジナル)』側の人間として、色々と意見が聞きたいらしい。



── 今の状況を整理すると、だいたいそんな感じ。



「── で、おかしい所を気付いたら教えてくれ、と?」


「そう、そうそう!

 少しでも研究がすすむアドバイスが欲しいんダナ~~」



猫背の研究員の隣で、『試作版・五行剣(魔導三院の改良バージョン)』のテストを見守る事に。



── 『カン!(・・・)』『カン!(・・・)』と言う音と共に、2種類の身体強化魔法が機巧詠唱(ギミック)で発動する。



「まずは俺から。

 ── 行くぞ!」



親衛隊男子(カーター)さんが宣告し、グラウンドをジグザグに駆け抜ける。

木の杭みたいな障害物を避けながらの100m走って感じか。


ゴール位置で走行記録を聞いて、苦い表情。



── 『くっ、全然記録が伸びていないな……』みたいな事を言っている感じ。



「つぎは私ねっ

 ── 行くわよ!」



今度は、親衛隊女子(ミリー)さんが駆け出す。

その先には、桟橋(さんばし)人工池(プール)


最初は10m程の桟橋を駆け抜けた勢いで、バシャバシャ水面を走るが、徐々に失速して水中に沈んでいく。



「……何やってんの、コレって?」



そんな俺の疑問に答えたのは、研究員ではなく、そこに混じって偉そうに腕組んでた三白眼(ガビノ)



「バーカ、見て解んねえのかよ!

 『五行剣』の性能テストだろっ」


「いや、だからって、水の上を全力疾走する必要ある?」


「ハハッ、ついにボロがでたな!

 あれは『五行剣:水』って特殊な身体強化魔法!

 なんと!? 水面を走る事ができるんだよっ!!」


「はぁ……」



なんか、ドヤ顔で解説してくる三白眼(ガビノ)に、ちょっとため息。



「いや……、でも途中で沈んでない?」



俺がそう指摘すると、ちょっと怒った女声が割って入る。



「全力で走らないと、すぐ沈むのよ、この魔法!

 ── 『剣帝』は、この魔法で『水面に立った』とかいうけどっ

 どうやったら、そんな事ができるのよっ」



腰の深さの人工池(プール)を、ジャブジャブ歩く親衛隊女子(ミリー)さん。

何回やっても上手く行かないので、グチってる感じ。



「ハァ……、いやいや……」



俺は、ため息つきながら、テレテレ走って人工池(プール)に近づく。


そして、水面に飛び込みながら、オリジナル魔法を自力詠唱(『チリン!』)



「いや、何て言うか……。

 魔力が足の裏から()()して、インクがブワーと水面に広がるイメージっていうの……?

 それで、『地面みたいに硬い』というか『固まれ!』みたいなイメージしたら、普通に立てない?

 こんな感じで、さ……」



と、実演してみせる。

まだ人工池(プール)の中をバシャバシャ歩いている、親衛隊女子(ミリー)さんの目の前で。



「………………え?」



親衛隊女子(ミリー)さんが頭痛みたいに額を抑えて、変な声を出す。



「……いや、待って……?

 え……?

 ええ……?

 え、何……?

 いま、何が起こってるの……?」


「いや、だから……──

 ── フンッ!」



そろそろ5~6秒経つので、俺は水面を踏みつける。


【五行剣:水】の術式コア部分だけ流用した、特殊技の試作【序の三段目:(なが)し】の効果で、水面が(ヘコ)んで波を起こし、それが戻ってきて水面が上がるタイミングに合わせ、大ジャンプ。

イメージとしては、トランポリンで跳びはねるみたいな感じ。


そうやって効果時間10秒のギリギリで、人工池(プール)から陸地に戻る。



── 途端に、全員こっちを見て大騒ぎ。



「──は、はぁ!?」

「うわあああ!」

「ええ! えええ!」

「なんじゃそりゃぁ!!」

「え、今どうやったの! ねえ、今、どうやったの!?」


「── えぇ……、そんなにビックリする?」



たしかに、剣帝(ジジイ)の【五行剣】(特に、特殊効果の『水』)は世間的には(・・・・・)珍しい(・・・)魔法のはずだ。


しかし、思った以上に、研究関係者(みんな)にビックリされてしまった。


まるで(・・・)初めて(・・・)効果を(・・・)見た(・・)』かのように、盛大に驚かれてしまった ──

 ── それはつまり、全く(・・)研究が(・・・)すすんで(・・・・)ない(・・)事が、明らかになったワケだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ