表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 7:副都ステージ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

151/236

151:爆弾持ち

俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)




さて引き続き、バイト先の魔導三院の倉庫の中。

なんか見た感じ、『実験用魔物(モルモット)が逃げだし大騒ぎ』な、トラブル対応中。


『魔導三院の仕事(はじ)め』が、『魔物退治(はじ)め』になってしまった件について。



『── キィィィィイイイイ……ッ、ィギャァァァァ!!』



とかいう金切り声の、女性の悲鳴みたいな絶叫。

そんな魔物の(・・・)遠吠え(・・・)の後、ズドォォ……ン!という炸裂音が、遅れて聞こえた気がした。



── 『気がした』というのは、アレだ。

俺、ブッ飛ばされて、ゴロゴロ転げて、音を聞く状況じゃなかったからだ。



「うわぁ~っ、チビが死んだっ」


「……いや、死んでねーよ」



少年の悲鳴が、丁度いい気付け(・・・)になって、パチリと目を開く。



「だ、大丈夫なの、スミス研究室の人!」


「ああ、まあ、なんとか……」



俺は、転がって砂だらけの事務服をバスバスはたき(・・・)つつ、身を起こす。


見慣れた魔導学園の男子学生2人は、倉庫の木箱の後ろに隠れていたらしい。



「2人とも休みじゃなかったのか。

 朝は姿を見なかったし」


「ボク達、昼から来るように言われてたんだ。

 『爆弾持ち(ボマー)』魔物の処置に、男手(おとこで)()るからって……」


「……『爆弾持ち(ボマー)』?」



地元<翡翠領(グリンストン)>では聞き覚えのない魔物用語に、首を傾げる。


すると、三白眼少年が横から声をかけてくる。



「そ、そんな事より、お前平気なのかよ?

 あんな至近距離で、魔物の『爆弾(ボム)』をくらったのに!?」


「あ、あ~……

 魔法攻撃の気配を感じて、瞬間的に防御(ガード)したから、まあ平気」



ほとんど『()めなし』で即撃ち(ブッパ)された全方位の衝撃波が、上級魔法くらいの威力で、ちょっとビックリ。

そのくらいの威力となれば、大型魔物や魔法の達人だって、10秒くらい詠唱時間(キャスト・タイム)が要ると思うんだが。



「なかなかエグい不意打ちだったな……」



魔物の周囲を見ると、さっきの冒険者PT(パーティ)はひっくり返っている。


俺は、魔力センサー【序の四段目:風鈴眼(ふうりんがん)】のおかげで、不意打ち魔法に気付いた。

おかげで【秘剣・陰牢(かげろう)】の『防御柵(設置斬撃)』と、最近開発した肌を保護する魔法付与(エンチャント)【序の二段目:()り】で、2重の防御が間に合った。


さらに、ゴロゴロ転がって勢いを減衰(コロ)したので、頭にゲンコツ落とされたくらいの目眩(ダメージ)ですんでる。



「……お、お前、アレくらって平気なのかよっ

 あんなにブッ飛ばされたから、俺、絶対死んだと思ったんだけど……?」



いつも憎まれ口の三白眼少年・ガビノが、完全に及び腰。

むしろ、引っ込み思案なそばかす少年・マーティンの方が、まだ肝が据わっている。



「さすがに、もう逃げた方がいいのかな……。

 運搬してきた冒険者の人達、全員ヤラれちゃったみたいだし……?」


「何が<副都>のA級で、熟練だ……!

 やっぱり冒険者なんて、役立たずばかりじゃないか……っ」


「………………」



そんなコソコソ話をしている男子生徒2人を尻目に、グイッと<回復薬(ポーション)>を一気飲み。


無差別魔法のダメージ後遺症とかあったら怖いので、ちょっと回復。

あ、ほら、前世ニッポンの交通事故も、後から『ムチ打ち』とか色々症状が出てくるし。

念には念を、ってのは結構大事。



「さて、殴り(ボコり)に行きますか……!」


「── お、おいチビ、お前本気かよ!?」


「いやいやいやっ スミス研究室の人、本当に危ないから止めて!」



魔導系学生のお二人さんから、貴重なご意見をいただく。

もちろん、シロートさん(笑)のご忠告(呆)とか、聞く耳をもたないワケだが。



「……ってか、アレ。

 俺、元々魔剣士流派の人って、アイツらに言ってなかったけ?」



(なんか過剰に心配されているのって、そのせい?)



とか、ひとり首を傾げて、すぐに突撃。



「── ヤッホーッ!

 デカいワンちゃん、遊びましょ~っ?」





▲ ▽ ▲ ▽



ジャンプ攻撃のオリジナル魔法【序の三段目:()ね】を自力詠唱(『チリン!』)



『── ゥウ!? ワゥ!』



しかし、前脚爪を狙った1撃は、今度は簡単に回避された。


知能の高い魔物だけあって、俺の【跳ね】(ジャンプ斬り)は、そろそろ覚えられたらしい。



『グゥ……ッ、グルルゥ……ッ』



しかし、警戒するばかりで襲いかかってこない。


よくよく魔物を見ると、さっき背中に生えてた水晶柱(クリスタル)みたいな

『角っぽい物』が1本減ってる。



(なるほど、あれが『爆弾(ボム)』の残弾数ってワケか?)



残りは1本、『最後の切り札(トラの子)』だ。

知能が高い大型魔物(ワンちゃん)なら、温存したいと考えているはずだ。



(それに、さっきの『爆弾(ボム)』ってのは、どうも自爆攻撃っぽいな……っ)



ちょっと距離を取って歩く魔物は、ダメージでフラフラ。

口とか耳とか、あちこちから血が出ている。


色々な意味で、連発できる()ではない ──

 ── そうと解れば、怖がる必要も無い。



「んじゃ、この手でいくか……」



どうも、この大型魔物(ワンちゃん)って、冒険者に捕らえられて、人間の()に連れてこられたらしい。

さらに、(おり)を壊すような大暴れした上に、切り札の『自爆攻撃(ばくだん)』まで使ったワケだ。


そんなストレス満点(マックス)かつ疲労困憊(ボロボロ)の時に、テレテレしたキレの(・・・)悪い(・・)動き(・・)雑魚(チビ)が出てきたら、『人食い怪物(マモノ)』の本能が触発されちゃうワケで。



「── キャぁぁぁ!!

 血まみれのマモノよぉー! 食べられちゃう~、こわーいっ」



とか、か弱い乙女みたいに叫びプルプル震えながら、近づいたり離れたりチョロチョロしてみる。


大型魔物はしばらく迷ったが。

結局、ガバッ!と噛みつき突進。



「── 危ないっ」



誰かの切羽(せっぱ)()まった声が聞こえる。


俺は、狙い通りの状況に、即【序の二段目(スピードアップ・):推し(ショート版)】を自力詠唱(『チリン!』)して、ジャンプ後退。

ヒュバッ!バッ!と高速移動で、鉄骨柱の間に誘い込む。



『── ガァ……!? ガゥ! グワゥ!』



追いかけてきた大型魔物(ワンちゃん)が、大口開けてつんのめる。

アゴ(くち)の中に、鉄骨の間に張った『鉄弦(いと)』が引っかかったワケだ。

苛立(いらだ)たしげに、()み切ろうとガジガジ牙を鳴らす。



「もらったっ」



── 『鋼糸(いと)使い』の技能(スキル)、発動!


ヒュヒュヒュヒュン!と、魔力で操る『鉄弦(いと)』が、高速で空中を旋回。

魔物の頭部を『鉄弦(いと)』が包み込む。



『グゥ!?』



しかし、『あと一寸(ちょっと)!』というタイミングで、大型魔物がバックジャンプして拘束(こうそく)を回避。



(チィ……ッ

 犬口(マズル)を縛り上げれば、自爆攻撃の『爆弾(ボム)』ってヤツを封じられそうなんだが……)



さっきの全方位衝撃波はどうやら、遠吠えの時に『犬口(マズル)の中に<法輪(リング)>を発生させて、遠隔発動させてる』っぽい。

一瞬だけ、チラッと魔力光の術式が見えたんで。



「『外骨獣(ガイコツじゅう)』でもない雑魚(ザコ)魔物、とナメてたな。

 装甲が薄い分、動きが素早いのか……っ」



── だったら、まずは脚から!


と思うが、近づこうとする度に、ドッスンドッスン飛び跳ねて逃げられる。

いよいよ警戒されたらしく、魔物の身体1個分くらいの距離から()めれない。



『グゥ! グワァ! グワゥゥ!』



さらには、砂魔法で作った『延長の爪(ロング・クロー)』で、遠距離から威嚇。

砂の長爪を槍代わり突き出し『ええい、うっとうしい人間(チビ)め! 近づいてくんなっ』とチクチク攻撃してくる。



「予想以上に面倒だな、コイツっ」



それをヒラヒラ避けたり、カン!カン!と弾いてたら、いつの間にか見物客(ギャラリー)が『おぉ~~っ!?』とか湧いていた。





▲ ▽ ▲ ▽



「あんな、小さな子どもが……?」

「マジかよ、<跳岳大狗>(ワイルド・ファング)気圧(けお)されてるのか……っ」

「さすがは『魔物の大侵攻(モンスターパレード)越え(・・)っ」

「若くして、とんでもない腕前だな……っ」



チラ見したら、冒険者PT(パーティ)の連中だ。

至近距離の衝撃波魔法をくらったダメージから、ようやく復活したらしい。


だが、なぜか『まるで他人事(ひとごと)』みたいな態度がスゴい。



(── おい、そこぉっ!

 お前らも手伝わんかいっ

 この『逃げた魔物の捕獲(ほかく)』って、俺に責任のある業務(しごと)でも、俺のミス挽回(ばんかい)でもないぞ!!)



── なんか前世ニッポンの、サラリーマン時代を思い出し、イラッ☆とする。

なんだ、あの『何もしてないのにPC(パソコン)壊れた~』とか言う、機械オンチども!


関係ないけど仕方なく、詳しい他人(オレ)が必死に修繕しているのに。

『え~、まだ(なお)ってないの?』とか。

『もう帰っていい?』とか。

『明日までに(なお)しておいて!』とか!

他人事(ひとごと)の顔して、簡単に言いやがって!!



(── うぅ、殺意が……、殺意が……っ

 うっかり、模造剣(ラセツ丸)殺意(・・)が宿ってしまいそう……!?)



そんな気分のせいか、魔物の砂魔法の『延長の爪(ロング・クロー)』を、バズバス斬っちゃう(・・・・・)



『グァ!? グルルゥ……ッ』



俺の思わぬ迎撃(・・)に、ビビって逃げ腰になる大型魔物(ワンちゃん)

つい、うっかり(・・・・)()っちゃった(てへっ)。



(いかん、また警戒されて距離を取られた……っ

 心を平静に! 【序の一段目:()ち】を非殺モードに!

 コイツは魔物だけど、斬ったら(・・・・)ダメなの(・・・・)っ)



殺せない魔物(テキ)に、チクチク遠距離攻撃されながら、紙一重で回避&防御。

しかも、下手に(すき)を与えると、またさっきの自爆攻撃『爆弾(ボム)』が来るかもしれない、という緊迫感もある。



── 俺自身(こっち)は、そんな焦りで精一杯なのに!


何故に、またも『ぅおぉ~~っ!?』とか、大道芸でも見ているように見物客(ギャラリー)が湧く!?



「………………」



心が、虚無。


関係ない仕事を押しつけられ、怒りとか苛立(いらだ)ちとかが、激しく湧き上がる。

激情(それら)をまとめて精神制御すると、今度は心の中がやるせなさ(・・・・・)でいっぱいに。



(いかんな……

 こういう虚無ってる時って、気持ちが入らな過ぎて、緊張(テンション)が緩むんだよなぁ……

 だいたい『凡ミスで大ケガ』って、こんな時なんだよなぁ……)



とは言っても、攻め手が(・・・・)決まらない(・・・・・)内に、感情を爆発(ブースト・オン)するワケにもいかない。



(本当に、当流派(ウチ)の剣帝流って『魔物退治特化』の流派すぎるな……っ

 『殺さずにどうにか(・・・・)する(・・)事』が苦手すぎるだろ?)



そんな内心の悲鳴。



最近創ったばかりの新技【秘剣・陰牢】の『参』(散弾攻撃)だと、威力が(・・・)低すぎて(・・・・)、この大型魔物には『ハトに豆鉄砲』くらいの事にしかならなし。



(ああ~っ、チクショー!

 精神負荷(ストレス)頭皮(アタマ)が[検閲(ハゲ)]そう!!)



── 頭皮ケアに命かけてる今世でも、薄毛([検閲])で悩むなんて、冗談じゃねーぞ!?





▲ ▽ ▲ ▽



そんなストレス爆発寸前で、救いの声が聞こえてきた。



── 『荒事の音の元は、ここかっ!』

── 『みんな、魔剣士を! <御三家>の人を連れてきましたよっ』

── 『全員、突撃準備!』



扉錠前(ロック)された出入り口が蹴破られ、魔剣士4~5人が飛び込んでくる。



「幸い、死人は出ていないようだなっ

 貴方たちは、負傷者を連れて外へ!」



魔剣士隊のリーダーらしき中年男性が、テキパキと指示を飛ばす。



(── お……?

 割と上段者の魔剣士か。

 んじゃ、俺も『お役御免(やくごめん)』かな?

 スミス研究室(ジムショ)に戻って、論文(ホン)を読んでていい?)



早々に気が抜けて、模造剣(ラセツ丸)(さや)仕舞(しま)っちゃう。

俺の気分としては『火事の現場でお手伝いしてた、通りがかり人』な感じなんだ。



本職(プロ)が来たなら、もう引っ込んでてもいいよね?)



あ、ほら、俺って、アレだし。

魔導三院(ここ)に研究資料読むために、肉体労働(バイト)に来ているだけの人だから。



業務外労働(サービス残業)とか、本気(マジ)でノーセンキュー!)



面倒な『業務(しごと)』から開放されたせいか、一気にストレスがなくなり、スゲー気楽になってくる。

おかげで、回避だけに精神集中できる。

ヒョイヒョイ、砂の爪(伸縮槍魔法)を避けまくる。


まるで、前世ニッポンの『ダンスゲー(D.D.R.)』やってる気分。



(見ろよ、この完璧(パーペキ)譜面(フメン)()みっ!

 異世界転生して剣術修行しまくったおかげで、短身(チビ)ながらに細マッチョ!

 今じゃ俺でも『フルコンボだドン!』がヨユー!

 ── って、それは違う筐体(ヤツ)だったか……?)



そんな感じで大型魔物(ワンちゃん)の魔法攻撃(しつこい!)を、さっきから(かわ)しまくってる俺。



── だが、本職(プロ)の魔剣士さんが、なかなか交代してくれない。



「あの冒険者が(おとり)になっている内に急げ!

 重傷者は、すぐに緊急搬送を!」


「おぉいっ、魔剣士ぃ!

 そんな事より、早くコイツを処分しろぉっ」



犬走り(キャットウォーク)みたいな高所にまだ居た、『魔導三院(ハゲ・デブ・)の所長(脂ギッシュ)』とモメ始める。



「── ん、魔導三院の所長殿?

 しかし『そんな事』とは……、まずは負傷者の救助が最優先でしょ!」


「バカか、キサマぁっ

 コイツは『爆弾持ち(ボマー)』だぞ!?

 また暴れ出したら、どれほどの被害がっ ワシの責任がぁっ」


「いきなり連れてこられて、こちらも事情が分りません!

 我ら<御三家>の魔剣士は、<帝都>の守護者!

 まずは人命優先しますっ」



魔剣士隊のリーダーと、魔導三院(バイト先)所長(ボス)

立場のある中年男性2人が、みっともない事に、ツバを飛ばし合う程に怒鳴り合い。



「いいから、さっさと魔物を殺せぇぇ!!

 脳ナシの魔剣士が、口答えするなぁ!」


「やかましい、口だけの魔導師が!

 高い所で偉そうに言うくらいなら、自分でやれぇ!!」



そんな話を聞いた瞬間、思わずプッチ~ン!



「おいおいおいぉぃ……、所長(ボス)ぅ~……っ」



俺の我慢(ストレス)が、限界を超えた。



「── 魔物(コイツ)『殺して良い』なら、早く言えぇぇぇぇ!!!」



ぬぅうううん!

(いかり)ゲージ、MAXIMUM(マキシマぁームぅ)


── ロック、行きま~す!!



『ガァッ!』



背中を向けた状態で突っ込む俺(挑発行動)に、あっさり引っかかる大型魔物(ワンちゃん)

本能のまま齧りつく(パックンチョ) ──

── を、紙一重で避けつつ、魔物の腹の下に滑り込む!



「ヒュゥ……ッ」



という呼吸と、『チリン!』というオリジナル魔法の自力発動音が重なった。



「【ゼロ三日月・乱舞】ぅぅぅ! 死にさらせ、ワン(こう)ぉぉぉ!!!」



── ズババババドシャシャシャシャバッシュ~~ン!

と、ストレス発散の乱れ斬り。


大型魔物の四脚の間を、地面をすべる歩法ですり抜けながら、いつも倍以上にズッタズタ。



「── 南無三(ナムサン)!」



納剣と同時に、片手でお祈り。


同時に、ドシャドシャドシャ……ッ!と魔物が細切れになって、崩れ落ちた。




▲ ▽ ▲ ▽




そんな『いつもより余計に刻んでおりま~す!』な必殺技が決まって、ひとり背伸び。



「ふひぃ~……っ

 久しぶりに魔物を斬ると、気持ちいいなぁ……っ」



気分は、仕事終わりのサウナのオッサン。



(キュッと炭酸キツめの、シュワシュワを()りたいなぁ。

 ノンアルコールでも可!)



そんな感じで、倉庫から出て行こうとすると、例の『魔剣士隊のリーダー』が何か言ってくる。



「しゅ、『瞬斬(しゅんざん)神業(かみわざ)』……っ」


「── ん……?」



勤め先(ウチ)所長(ボス)(くち)ゲンカしてた中年魔剣士が、呆然とした顔でこっち見てた。



「え、何……?」


「── あ、申し遅れましたっ

 わたくし<天剣流>のラウル=スカイソードと申しますっ」


「あ、はい」



── えぇ~、急にペコペコしてくるじゃん……?



「さきほどの絶技!

 噂に名高い、剣帝流の奥義『瞬斬の神業』とお見受けしましたっ

 御一門の方でしょうか!?」


「あ、はい。

 一番弟子のロックです」



なんか前世ニッポンで、高級ホテルの貸しスペースで会議があった時を思い出すな。

フロントの人の丁重な腰の低さに『俺みたいな庶民のオッサンにそんなにペコペコにしないでくれよ……』と気まずい気分になっちゃう。


逆に、あんなキラッキラッな高級調度(インテリア)の中で、平然と脚組めるヤツの気がしれない。

そんな俺は、今世でも小市民なワケです。



「おおぉ~、やはりっ」「これが、斬魔竜殺……」「竜殺の、剣士」「噂だけでなく、実在したのか……」



── えぇ~、部下の人達もコソコソ噂してくるじゃん……?



「………………」



なんか『有名人に会った!』的な、熱視線の集中。

気まずくて顔をそむけると、そこにもまた視線の集中。



『剣帝流だって?』『あのチビが……?』『ウソだろっ』『なんだよさっきの技っ』『魔法だろう、チリン!って鳴ったし』『だからって、あんな一瞬で魔物がバラバラになるの?』『魔導兵器よ、何か隠し持ってるはずっ』『どっちにしてもバケモンだっ』



周囲の逃げ惑ってた魔導師の皆さんも、こっち見てアングリ呆然。



(いや、どっちかというと『恐れ』の感情が強い……?

 ついうっかり、癇癪(プッツン)で魔物ブチ殺したから、急に暴れるヤベー(ヤツ)だと思われてる……?)



そんな分析をしていると、魔剣士隊のリーダーさんが、ズイっと迫ってくる。



「従姉妹を助けてくださって、誠にありがとうございますっ」



話を聞いてみると、どうも従姉妹が<翡翠領(グリンストン)>の領主家に嫁入りしているらしい。

で、剣帝流が<翡翠領(グリンストン)>の『魔物の大侵攻(モンスター・パレード)』で活躍したと聞いていたそうだ。



「いやいや! 最後の最後にチョロッと手伝っただけ!

 そんなに(かしこ)まらないでっ」



なんか『身内の命の恩人』くらいの態度に、こっちの気が引ける。



(たしかに俺が『首魁(ラスボス)』を真っ二つにしたけど、さ……。

 でも、多分、放っておいても『神童コンビ』が倒してたと思うし?)



俺の立場とか、まさに『最後にオイシイ所だけ持っていったヤツ』でしかない。

そんな感じなのに『恩人(おんじん)(ヅラ)』するとか、ちょっと厚かましい。



「なるほど……。

 剣帝殿の清廉(せいれん)の精神も、また引き継がれているのですね。

 ── 感服いたしましたっ」



謎の感動をされてしまう。

多分に勘違いなのだが、訂正するのが面倒そうで、諦めた。


さらには、金髪貴公子(ヒョロいイケメン) ── マァリオ=スカイソードとも血縁との事。



「ああ、甥のマァリオをご存じでしたかっ」


「ああ、なんか冒険者しながら剣術修行とか……

 厄介な依頼とかの時に、ちょっと手伝った仲かな」


「なるほど」



魔剣士隊のリーダーが、ニッコリと謎の笑顔。

含みのある顔、というか。

皆まで言うな、というか。



「実はわたくし、(アレ)の幼少期の師匠でして。

 なかなか周りと打ち解けず孤立していたのを、心配しておりましたっ

 是非、これからも仲良くしてやってくださいっ」



── えぇ~、急にガッチリ握手して頼んでくるじゃん……?



そんな、困惑だらけの『仕事(はじ)め』だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ