151:爆弾持ち
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
さて引き続き、バイト先の魔導三院の倉庫の中。
なんか見た感じ、『実験用魔物が逃げだし大騒ぎ』な、トラブル対応中。
『魔導三院の仕事始め』が、『魔物退治初め』になってしまった件について。
『── キィィィィイイイイ……ッ、ィギャァァァァ!!』
とかいう金切り声の、女性の悲鳴みたいな絶叫。
そんな魔物の遠吠えの後、ズドォォ……ン!という炸裂音が、遅れて聞こえた気がした。
── 『気がした』というのは、アレだ。
俺、ブッ飛ばされて、ゴロゴロ転げて、音を聞く状況じゃなかったからだ。
「うわぁ~っ、チビが死んだっ」
「……いや、死んでねーよ」
少年の悲鳴が、丁度いい気付けになって、パチリと目を開く。
「だ、大丈夫なの、スミス研究室の人!」
「ああ、まあ、なんとか……」
俺は、転がって砂だらけの事務服をバスバスはたきつつ、身を起こす。
見慣れた魔導学園の男子学生2人は、倉庫の木箱の後ろに隠れていたらしい。
「2人とも休みじゃなかったのか。
朝は姿を見なかったし」
「ボク達、昼から来るように言われてたんだ。
『爆弾持ち』魔物の処置に、男手が要るからって……」
「……『爆弾持ち』?」
地元<翡翠領>では聞き覚えのない魔物用語に、首を傾げる。
すると、三白眼少年が横から声をかけてくる。
「そ、そんな事より、お前平気なのかよ?
あんな至近距離で、魔物の『爆弾』をくらったのに!?」
「あ、あ~……
魔法攻撃の気配を感じて、瞬間的に防御したから、まあ平気」
ほとんど『溜めなし』で即撃ちされた全方位の衝撃波が、上級魔法くらいの威力で、ちょっとビックリ。
そのくらいの威力となれば、大型魔物や魔法の達人だって、10秒くらい詠唱時間が要ると思うんだが。
「なかなかエグい不意打ちだったな……」
魔物の周囲を見ると、さっきの冒険者PTはひっくり返っている。
俺は、魔力センサー【序の四段目:風鈴眼】のおかげで、不意打ち魔法に気付いた。
おかげで【秘剣・陰牢】の『防御柵』と、最近開発した肌を保護する魔法付与【序の二段目:張り】で、2重の防御が間に合った。
さらに、ゴロゴロ転がって勢いを減衰したので、頭にゲンコツ落とされたくらいの目眩ですんでる。
「……お、お前、アレくらって平気なのかよっ
あんなにブッ飛ばされたから、俺、絶対死んだと思ったんだけど……?」
いつも憎まれ口の三白眼少年・ガビノが、完全に及び腰。
むしろ、引っ込み思案なそばかす少年・マーティンの方が、まだ肝が据わっている。
「さすがに、もう逃げた方がいいのかな……。
運搬してきた冒険者の人達、全員ヤラれちゃったみたいだし……?」
「何が<副都>のA級で、熟練だ……!
やっぱり冒険者なんて、役立たずばかりじゃないか……っ」
「………………」
そんなコソコソ話をしている男子生徒2人を尻目に、グイッと<回復薬>を一気飲み。
無差別魔法のダメージ後遺症とかあったら怖いので、ちょっと回復。
あ、ほら、前世ニッポンの交通事故も、後から『ムチ打ち』とか色々症状が出てくるし。
念には念を、ってのは結構大事。
「さて、殴りに行きますか……!」
「── お、おいチビ、お前本気かよ!?」
「いやいやいやっ スミス研究室の人、本当に危ないから止めて!」
魔導系学生のお二人さんから、貴重なご意見をいただく。
もちろん、シロートさん(笑)のご忠告(呆)とか、聞く耳をもたないワケだが。
「……ってか、アレ。
俺、元々魔剣士流派の人って、アイツらに言ってなかったけ?」
(なんか過剰に心配されているのって、そのせい?)
とか、ひとり首を傾げて、すぐに突撃。
「── ヤッホーッ!
デカいワンちゃん、遊びましょ~っ?」
▲ ▽ ▲ ▽
ジャンプ攻撃のオリジナル魔法【序の三段目:跳ね】を自力詠唱。
『── ゥウ!? ワゥ!』
しかし、前脚爪を狙った1撃は、今度は簡単に回避された。
知能の高い魔物だけあって、俺の【跳ね】は、そろそろ覚えられたらしい。
『グゥ……ッ、グルルゥ……ッ』
しかし、警戒するばかりで襲いかかってこない。
よくよく魔物を見ると、さっき背中に生えてた水晶柱みたいな
『角っぽい物』が1本減ってる。
(なるほど、あれが『爆弾』の残弾数ってワケか?)
残りは1本、『最後の切り札』だ。
知能が高い大型魔物なら、温存したいと考えているはずだ。
(それに、さっきの『爆弾』ってのは、どうも自爆攻撃っぽいな……っ)
ちょっと距離を取って歩く魔物は、ダメージでフラフラ。
口とか耳とか、あちこちから血が出ている。
色々な意味で、連発できる術ではない ──
── そうと解れば、怖がる必要も無い。
「んじゃ、この手でいくか……」
どうも、この大型魔物って、冒険者に捕らえられて、人間の街に連れてこられたらしい。
さらに、檻を壊すような大暴れした上に、切り札の『自爆攻撃』まで使ったワケだ。
そんなストレス満点かつ疲労困憊の時に、テレテレしたキレの悪い動きの雑魚が出てきたら、『人食い怪物』の本能が触発されちゃうワケで。
「── キャぁぁぁ!!
血まみれのマモノよぉー! 食べられちゃう~、こわーいっ」
とか、か弱い乙女みたいに叫びプルプル震えながら、近づいたり離れたりチョロチョロしてみる。
大型魔物はしばらく迷ったが。
結局、ガバッ!と噛みつき突進。
「── 危ないっ」
誰かの切羽詰まった声が聞こえる。
俺は、狙い通りの状況に、即【序の二段目:推し】を自力詠唱して、ジャンプ後退。
ヒュバッ!バッ!と高速移動で、鉄骨柱の間に誘い込む。
『── ガァ……!? ガゥ! グワゥ!』
追いかけてきた大型魔物が、大口開けてつんのめる。
アゴの中に、鉄骨の間に張った『鉄弦』が引っかかったワケだ。
苛立たしげに、噛み切ろうとガジガジ牙を鳴らす。
「もらったっ」
── 『鋼糸使い』の技能、発動!
ヒュヒュヒュヒュン!と、魔力で操る『鉄弦』が、高速で空中を旋回。
魔物の頭部を『鉄弦』が包み込む。
『グゥ!?』
しかし、『あと一寸!』というタイミングで、大型魔物がバックジャンプして拘束を回避。
(チィ……ッ
犬口を縛り上げれば、自爆攻撃の『爆弾』ってヤツを封じられそうなんだが……)
さっきの全方位衝撃波はどうやら、遠吠えの時に『犬口の中に<法輪>を発生させて、遠隔発動させてる』っぽい。
一瞬だけ、チラッと魔力光の術式が見えたんで。
「『外骨獣』でもない雑魚魔物、とナメてたな。
装甲が薄い分、動きが素早いのか……っ」
── だったら、まずは脚から!
と思うが、近づこうとする度に、ドッスンドッスン飛び跳ねて逃げられる。
いよいよ警戒されたらしく、魔物の身体1個分くらいの距離から詰めれない。
『グゥ! グワァ! グワゥゥ!』
さらには、砂魔法で作った『延長の爪』で、遠距離から威嚇。
砂の長爪を槍代わり突き出し『ええい、うっとうしい人間め! 近づいてくんなっ』とチクチク攻撃してくる。
「予想以上に面倒だな、コイツっ」
それをヒラヒラ避けたり、カン!カン!と弾いてたら、いつの間にか見物客が『おぉ~~っ!?』とか湧いていた。
▲ ▽ ▲ ▽
「あんな、小さな子どもが……?」
「マジかよ、<跳岳大狗>が気圧されてるのか……っ」
「さすがは『魔物の大侵攻』越えっ」
「若くして、とんでもない腕前だな……っ」
チラ見したら、冒険者PTの連中だ。
至近距離の衝撃波魔法をくらったダメージから、ようやく復活したらしい。
だが、なぜか『まるで他人事』みたいな態度がスゴい。
(── おい、そこぉっ!
お前らも手伝わんかいっ
この『逃げた魔物の捕獲』って、俺に責任のある業務でも、俺のミス挽回でもないぞ!!)
── なんか前世ニッポンの、サラリーマン時代を思い出し、イラッ☆とする。
なんだ、あの『何もしてないのにPC壊れた~』とか言う、機械オンチども!
関係ないけど仕方なく、詳しい他人が必死に修繕しているのに。
『え~、まだ直ってないの?』とか。
『もう帰っていい?』とか。
『明日までに直しておいて!』とか!
他人事の顔して、簡単に言いやがって!!
(── うぅ、殺意が……、殺意が……っ
うっかり、模造剣に殺意が宿ってしまいそう……!?)
そんな気分のせいか、魔物の砂魔法の『延長の爪』を、バズバス斬っちゃう。
『グァ!? グルルゥ……ッ』
俺の思わぬ迎撃に、ビビって逃げ腰になる大型魔物。
つい、うっかり斬っちゃった(てへっ)。
(いかん、また警戒されて距離を取られた……っ
心を平静に! 【序の一段目:断ち】を非殺モードに!
コイツは魔物だけど、斬ったらダメなのっ)
殺せない魔物に、チクチク遠距離攻撃されながら、紙一重で回避&防御。
しかも、下手に隙を与えると、またさっきの自爆攻撃『爆弾』が来るかもしれない、という緊迫感もある。
── 俺自身は、そんな焦りで精一杯なのに!
何故に、またも『ぅおぉ~~っ!?』とか、大道芸でも見ているように見物客が湧く!?
「………………」
心が、虚無。
関係ない仕事を押しつけられ、怒りとか苛立ちとかが、激しく湧き上がる。
激情をまとめて精神制御すると、今度は心の中がやるせなさでいっぱいに。
(いかんな……
こういう虚無ってる時って、気持ちが入らな過ぎて、緊張が緩むんだよなぁ……
だいたい『凡ミスで大ケガ』って、こんな時なんだよなぁ……)
とは言っても、攻め手が決まらない内に、感情を爆発するワケにもいかない。
(本当に、当流派の剣帝流って『魔物退治特化』の流派すぎるな……っ
『殺さずにどうにかする事』が苦手すぎるだろ?)
そんな内心の悲鳴。
最近創ったばかりの新技【秘剣・陰牢】の『参』だと、威力が低すぎて、この大型魔物には『ハトに豆鉄砲』くらいの事にしかならなし。
(ああ~っ、チクショー!
精神負荷で頭皮が[検閲]そう!!)
── 頭皮ケアに命かけてる今世でも、薄毛で悩むなんて、冗談じゃねーぞ!?
▲ ▽ ▲ ▽
そんなストレス爆発寸前で、救いの声が聞こえてきた。
── 『荒事の音の元は、ここかっ!』
── 『みんな、魔剣士を! <御三家>の人を連れてきましたよっ』
── 『全員、突撃準備!』
扉錠前された出入り口が蹴破られ、魔剣士4~5人が飛び込んでくる。
「幸い、死人は出ていないようだなっ
貴方たちは、負傷者を連れて外へ!」
魔剣士隊のリーダーらしき中年男性が、テキパキと指示を飛ばす。
(── お……?
割と上段者の魔剣士か。
んじゃ、俺も『お役御免』かな?
スミス研究室に戻って、論文を読んでていい?)
早々に気が抜けて、模造剣を鞘に仕舞っちゃう。
俺の気分としては『火事の現場でお手伝いしてた、通りがかり人』な感じなんだ。
(本職が来たなら、もう引っ込んでてもいいよね?)
あ、ほら、俺って、アレだし。
魔導三院に研究資料読むために、肉体労働に来ているだけの人だから。
(業務外労働とか、本気でノーセンキュー!)
面倒な『業務』から開放されたせいか、一気にストレスがなくなり、スゲー気楽になってくる。
おかげで、回避だけに精神集中できる。
ヒョイヒョイ、砂の爪(伸縮槍魔法)を避けまくる。
まるで、前世ニッポンの『ダンスゲー』やってる気分。
(見ろよ、この完璧な譜面踏みっ!
異世界転生して剣術修行しまくったおかげで、短身ながらに細マッチョ!
今じゃ俺でも『フルコンボだドン!』がヨユー!
── って、それは違う筐体だったか……?)
そんな感じで大型魔物の魔法攻撃(しつこい!)を、さっきから躱しまくってる俺。
── だが、本職の魔剣士さんが、なかなか交代してくれない。
「あの冒険者が囮になっている内に急げ!
重傷者は、すぐに緊急搬送を!」
「おぉいっ、魔剣士ぃ!
そんな事より、早くコイツを処分しろぉっ」
犬走りみたいな高所にまだ居た、『魔導三院の所長』とモメ始める。
「── ん、魔導三院の所長殿?
しかし『そんな事』とは……、まずは負傷者の救助が最優先でしょ!」
「バカか、キサマぁっ
コイツは『爆弾持ち』だぞ!?
また暴れ出したら、どれほどの被害がっ ワシの責任がぁっ」
「いきなり連れてこられて、こちらも事情が分りません!
我ら<御三家>の魔剣士は、<帝都>の守護者!
まずは人命優先しますっ」
魔剣士隊のリーダーと、魔導三院の所長。
立場のある中年男性2人が、みっともない事に、ツバを飛ばし合う程に怒鳴り合い。
「いいから、さっさと魔物を殺せぇぇ!!
脳ナシの魔剣士が、口答えするなぁ!」
「やかましい、口だけの魔導師が!
高い所で偉そうに言うくらいなら、自分でやれぇ!!」
そんな話を聞いた瞬間、思わずプッチ~ン!
「おいおいおいぉぃ……、所長ぅ~……っ」
俺の我慢が、限界を超えた。
「── 魔物『殺して良い』なら、早く言えぇぇぇぇ!!!」
ぬぅうううん!
怒ゲージ、MAXIMUM!
── ロック、行きま~す!!
『ガァッ!』
背中を向けた状態で突っ込む俺(挑発行動)に、あっさり引っかかる大型魔物。
本能のまま齧りつく ──
── を、紙一重で避けつつ、魔物の腹の下に滑り込む!
「ヒュゥ……ッ」
という呼吸と、『チリン!』というオリジナル魔法の自力発動音が重なった。
「【ゼロ三日月・乱舞】ぅぅぅ! 死にさらせ、ワン公ぉぉぉ!!!」
── ズババババドシャシャシャシャバッシュ~~ン!
と、ストレス発散の乱れ斬り。
大型魔物の四脚の間を、地面をすべる歩法ですり抜けながら、いつも倍以上にズッタズタ。
「── 南無三!」
納剣と同時に、片手でお祈り。
同時に、ドシャドシャドシャ……ッ!と魔物が細切れになって、崩れ落ちた。
▲ ▽ ▲ ▽
そんな『いつもより余計に刻んでおりま~す!』な必殺技が決まって、ひとり背伸び。
「ふひぃ~……っ
久しぶりに魔物を斬ると、気持ちいいなぁ……っ」
気分は、仕事終わりのサウナのオッサン。
(キュッと炭酸キツめの、シュワシュワを呑りたいなぁ。
ノンアルコールでも可!)
そんな感じで、倉庫から出て行こうとすると、例の『魔剣士隊のリーダー』が何か言ってくる。
「しゅ、『瞬斬の神業』……っ」
「── ん……?」
勤め先の所長と口ゲンカしてた中年魔剣士が、呆然とした顔でこっち見てた。
「え、何……?」
「── あ、申し遅れましたっ
わたくし<天剣流>のラウル=スカイソードと申しますっ」
「あ、はい」
── えぇ~、急にペコペコしてくるじゃん……?
「さきほどの絶技!
噂に名高い、剣帝流の奥義『瞬斬の神業』とお見受けしましたっ
御一門の方でしょうか!?」
「あ、はい。
一番弟子のロックです」
なんか前世ニッポンで、高級ホテルの貸しスペースで会議があった時を思い出すな。
フロントの人の丁重な腰の低さに『俺みたいな庶民のオッサンにそんなにペコペコにしないでくれよ……』と気まずい気分になっちゃう。
逆に、あんなキラッキラッな高級調度の中で、平然と脚組めるヤツの気がしれない。
そんな俺は、今世でも小市民なワケです。
「おおぉ~、やはりっ」「これが、斬魔竜殺……」「竜殺の、剣士」「噂だけでなく、実在したのか……」
── えぇ~、部下の人達もコソコソ噂してくるじゃん……?
「………………」
なんか『有名人に会った!』的な、熱視線の集中。
気まずくて顔をそむけると、そこにもまた視線の集中。
『剣帝流だって?』『あのチビが……?』『ウソだろっ』『なんだよさっきの技っ』『魔法だろう、チリン!って鳴ったし』『だからって、あんな一瞬で魔物がバラバラになるの?』『魔導兵器よ、何か隠し持ってるはずっ』『どっちにしてもバケモンだっ』
周囲の逃げ惑ってた魔導師の皆さんも、こっち見てアングリ呆然。
(いや、どっちかというと『恐れ』の感情が強い……?
ついうっかり、癇癪で魔物ブチ殺したから、急に暴れるヤベー奴だと思われてる……?)
そんな分析をしていると、魔剣士隊のリーダーさんが、ズイっと迫ってくる。
「従姉妹を助けてくださって、誠にありがとうございますっ」
話を聞いてみると、どうも従姉妹が<翡翠領>の領主家に嫁入りしているらしい。
で、剣帝流が<翡翠領>の『魔物の大侵攻』で活躍したと聞いていたそうだ。
「いやいや! 最後の最後にチョロッと手伝っただけ!
そんなに畏まらないでっ」
なんか『身内の命の恩人』くらいの態度に、こっちの気が引ける。
(たしかに俺が『首魁』を真っ二つにしたけど、さ……。
でも、多分、放っておいても『神童コンビ』が倒してたと思うし?)
俺の立場とか、まさに『最後にオイシイ所だけ持っていったヤツ』でしかない。
そんな感じなのに『恩人面』するとか、ちょっと厚かましい。
「なるほど……。
剣帝殿の清廉の精神も、また引き継がれているのですね。
── 感服いたしましたっ」
謎の感動をされてしまう。
多分に勘違いなのだが、訂正するのが面倒そうで、諦めた。
さらには、金髪貴公子 ── マァリオ=スカイソードとも血縁との事。
「ああ、甥のマァリオをご存じでしたかっ」
「ああ、なんか冒険者しながら剣術修行とか……
厄介な依頼とかの時に、ちょっと手伝った仲かな」
「なるほど」
魔剣士隊のリーダーが、ニッコリと謎の笑顔。
含みのある顔、というか。
皆まで言うな、というか。
「実はわたくし、甥の幼少期の師匠でして。
なかなか周りと打ち解けず孤立していたのを、心配しておりましたっ
是非、これからも仲良くしてやってくださいっ」
── えぇ~、急にガッチリ握手して頼んでくるじゃん……?
そんな、困惑だらけの『仕事始め』だった。




