15:道場をやぶろう(上級編)
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
またも必殺技2個で、魔剣士の道場生を蹴散らしてしまった。
こうなってくると、ちょっと考え込んでしまう。
(── まさか、世間一般の魔剣士って、皆こんなに弱いのか……?)
うちのジジイは、帝都でも有名な魔剣士で、達人レベル。
リアちゃんは、そんなジジイが認めるくらいの、超が付く天才児。
── どうしても俺の魔剣士の基準は、その2人になってしまう。
そんな異世界トップレベルかもしれない2人と、普通の一般のありふれた魔剣士さん達を比べるのは、ちょっと酷かもしれない。
それにしても、あんまりにも実力の格差がヒドすぎる。
(強化魔法つかって、無才の俺に簡単にボコボコにされる時点で、どうよ?
こんなに弱っちい連中が、ちゃんと魔物とか倒せんのかよ……)
── 例えば、剣の達人のウチのジジイを、剣術Lv100だとしよう。
で、最近は腰痛で、実力が3割減の剣術Lv70くらいの感じ。
そんな元師匠を基準としたウチの一門の剣術の腕前は、だいたいこんな感じ。
● 剣術の腕前のみ(ウチの一門)
剣術Lv100 …ジジイ(全力)
剣術Lv 70 …ジジイ(腰痛により弱体化)
剣術Lv 60 …俺
剣術Lv 50 …妹弟子
(強化魔法なしで純粋な剣術のみなら、リアちゃんと勝敗6:4くらいだし。
まあ、こんなもんだな)
ついでに言うなら、赤毛少年ニアンは剣術Lv20~25くらい。
なので、剣術Lv60と倍以上の腕前の俺が圧倒しても、まあ当然なワケです。
え、ニアンの腕前が思ったより低いって?
そもそもアイツって体格が良くてパワーが有り余ってるせいで、逆にテクニックがガタガタなんだよ。
前世ニッポンのRPGゲームで言うと、『攻撃力』ばっかりに成長ポイントを振るタイプというか……。
(ただ、これはあくまで『剣術のみ』。
ジジイたち魔剣士には、【身体強化】魔法による『プラス補正』がある)
ジジイは、帝都でも有名な魔剣士だけあって、魔剣士Lv500くらいはある。
【身体強化】魔法を使ったら5~6倍は強くなるので、多分そんなもんだろう。
● ジジイ(全力):
剣術100 + 魔剣士500 = 合計Lv600
うん、化け物だ。
── つまり、俺が剣術のみで戦った時の、10倍強いわけだ。
俺くらいの剣術家(魔剣士以外)が10人束になっても、一撃で吹っ飛ぶ。
100人いても、ダメージを与えられるどうか、あやしい所。
(改めて思うが、ウチのジジイってマジで化け物だな……。
もうこれ、ジジイひとりでどんな魔物でも倒せちゃうじゃね?)
そんなジジイだが、やっぱり若い頃に比べれば魔力や体力が下がってる訳で。
その辺りを『盛る』と、このくらいか?
● ジジイ(全盛期の推定値):
剣術100 + 魔剣士800 = 合計Lv900
(── え、合計Lv900(推定値)!?!?
なにそれ化け物すぎる!!
さすがに、おかしいだろ!?)
ジジイお前、魔王を倒した後に出てくる、大魔王かよ。
ゲームクリア後の隠しダンジョンで待ち構えてる、裏ボスかよ。
例えドラゴン相手でも、なます切りに出来るじゃね?
いや、この世界のドラゴンがどんだけ強いか知らんけど。
理不尽の権化だろ。
ジジイの墓とか『理不尽権化大明神』とか書かれて、神社が建ってもおかしくない。
(そりゃもう、偉い人から『剣帝』とかヤバそうな称号もらうよっ)
── 『剣帝』
……つまり剣の帝王か。
やっぱ、ラスボスだな、ウチのジジイ。
▲ ▽ ▲ ▽
さて、そんな理不尽ジジイの話は、脇に置いて。
妹弟子の実戦力はこんな感じか?
● アゼリア:
剣術 50 + 魔剣士220 = 合計Lv270
魔剣士の超天才とはいえ、まだまだ修行中の身。
ジジイの全力の半分よりも、ちょっと下くらいだし、まあ妥当だな。
(── それでも、合計Lv60の俺の4倍以上強いのワケだ!)
そんな貧弱・足手まとい兄弟子の俺にとって、最後の砦が『必殺技』。
オリジナル魔法の『秘剣シリーズ』だ。
最初の頃は、カッコだけ(笑)のスタイリッシュ(呆)な、オリジナル魔法だった。
ジジイに育成放棄されて、魔剣士の才能がないといじけて、ひとりで遊んでただけの、ヒマつぶしの手段にすぎなかった。
だが、改良に改良を重ねた今となっては、一瞬だけ4倍も5倍も強くなれる。
まさに『必殺』の領域にまで昇華した。
―― で、まとめると、こうだ。
● 雑な戦力LV表(ウチの一門)
剣術100 + 魔剣士800 = 合計Lv900 …ジジイ(全盛期)
剣術100 + 魔剣士500 = 合計Lv600 …ジジイ(現在の全力)
剣術 50 + 魔剣士220 = 合計Lv270 …妹弟子
剣術 60 × 必殺技4~5倍 = 瞬間的にLv240~300 …俺
(そんな俺が、楽々ぶちのめせる事を考えると……)
ここの道場生って、魔剣士のくせに俺の半分以下くらい?
つまり、戦力的にこんな感じか。
● ここの道場生:
剣術 25 (ほか不明、正式弟子になったばかり) …赤毛少年
剣術 30 + 魔剣士120 = 合計Lv150 …その他のザコ
(うわー……っ
剣術Lvは俺の半分で、魔剣士Lvはリアちゃんの半分しかないとか。
もっとガンバって修行しろよ、道場生さん達よぉ……)
そんな、仮定に仮定を重ねるような、雑な計算をしていると、道場の外に気配を感じる。
人数は、3人かな。
魔力の量的に、結構な上段者っぽい。
(ようやく、大将戦が来たか……)
俺は、ため息交じりに、道場やぶり最後の敵を出迎える準備を始めた。
▲ ▽ ▲ ▽
「よう、ゴミクズども、遅かったな。
お前らがタラタラしてるから、後輩達からいたぶらせてもらったぜ?」
と、人間ピラミッドの上に立って、上段者3人を見下ろす俺。
推定Lv150のザコ魔剣士の18人さまを、丁重に山型に盛り付けて、その上に立ってみました。
── 完全に見た目は、極悪なボスキャラだろう。
(もしくは、ハチマキ少女を挑発する金髪ドリルお嬢様……)
うん、多分、みんな知らないな。
……すまん、オッサンの妄言だ、忘れてくれ。
でも、これ、仕方ないんだ。
怒らせて即・戦闘突入 ── 多分、これが一番サクサクすすむ方法だろうし。
『どうもー、道場やぶりにきましたー、ロックでーす。
え、道場やぶりの理由? 実はですね、お宅の門下生さん達が ──』
気が抜けるだけの事情説明のやり取りなんか、いっそ省きたい。
勝負ってのは、気合いの入り方というか、緊迫感が勝敗の1/3くらいあるんだ。
気を抜いてノホホンとしてたら、格下相手でも足下すくわれてしまう。
だから、くだらん事をダラダラしゃべるイベントムービーみたいな、格闘ゲームのストーリーモードみたいなの要らん。
あと、俺の見た目がアレだからって、お嬢ちゃん扱いされるの、いい加減ウザい。
(あれだけクズでカスな、赤毛少年のアホ先輩2人すら、強化魔法を一般人相手に使うのを結構渋ったくらいだもんな……)
門弟の高段者とかなると、どれだけ時間を取られるか。
しかもコイツら、なんか警察か軍人っぽい制服着てるし。
口先でケンカ売っても、逆に説得されて終わりそうな、不燃焼な予感がする。
(俺、早く家(山小屋)に帰りたいんだけど?)
こんな下らない対人戦闘、さっさと終わらせたい。
まだ、朝飯もくってないし。
リアちゃんを、宿で2時間くらい待たせてるし。
かといって一方的にブチのめしたら、
『いや俺、強化魔法つかってないし? 全力じゃないからノーカンっしょ?』
とか言われて、また後日、再挑戦とかされても面倒だし。
名門道場通いの魔剣士とか、プライド高そうだし。
一度にまとめて片付けておきたい、厄介案件。
(……よくよく、考えてみれば、何のカネにもならないんだよな、コレ。
俺には何の得もないのに、こんなムダな事をやらせられてるのか……)
考えれば考えるほど、イラッとする。
というわけで、ノリノリの悪役ムーブ。
「ゲハハハ、見ろよこの情けねえ連中をよぉ!」
気絶している門下生の顔を、踏んだり、蹴っ飛ばしたり。
まさに典型的な悪役の挑発方法。
かぁー、嫌われ役だわー、つれーわー。
かぁー、俺ってオニだわー、アクマだわー。
かぁー、マジで今日の俺、董卓なみのクソ外道だわー。
「名門道場の『ご立派な魔剣士サマ』とやらがガンクビ揃えて、こんなチビにやられてりゃ、世話ねーぜ!?
お前らごときに、エラそうな流派名なんていらねーよ、明日からウ●コ流ビチ貧弱剣士とでも名乗りなぁっ! グハハハハ!!」
▲ ▽ ▲ ▽
「── きさまぁ……っ」
「その汚い足をどけろっ」
「後輩達を ── 敗者を辱めるのは、これ以上ゆるさんっ」
あ、マジでいいかんじ。
だるいイベント会話スキップ、こんな感じでいけんのか。
今度から参考にしよう。
「だったら、さっさと剣を抜いて、腕輪を使えよっ
それとも魔剣士道場の破門が怖くて、かわいい後輩たちを見捨てるかい!?」
「なめるな、誰が仲間を見捨てるものか……っ!?」
「よかろう、全力で相手をしてやるっ!」
「貴様のくさった性根、今すぐ叩き直してやるっ」
軍人か警察っぽい制服着た上段者の男3人が、眉を吊り上げながら、腰の剣を抜く。
よしよし、抜いたね?
腰の<正剣>を抜いたね?
みんな、それ真剣だね?
あと、腕輪も使ったね?
ちゃんと『カン!』って鳴ったね?
はい、いきますよ!
「では、尋常に ──」
俺は、推定Lv150のザコ魔剣士さんの山型重ねから飛び降りる。
石畳に着地して ──
── 即、オリジナル魔法【序の三段目:跳ね】を起動。
「── 一本目、勝負っ!」
超スピードの低空ジャンプで、いっきに距離を詰め、ナマクラ剣を上段に振りかぶる。
狙いは、3人の一番後ろ側に立っている、右のボブカットの優男。
「── ちぃっ」
優男は両手で上段防御をしながら、片足を引いて、斜め体勢に。
おそらく、このままでは超スピードのジャンプ斬りを、簡単に受けられる。
そして、斜めに俺の<小剣>をいなして勢いを逃がしつつ、<正剣>を反転させて頭を打たれる。
── なので、俺は『キャンセル』を入れた。
空中のまま、オリジナル魔法【序の三段目:払い】を起動。
上段斬りが横薙ぎに、急激に変化。
「な ── ガハァ……ッ!」
── ズドンォ……ッ!
特殊技の中で最強の一撃が、優男を道場の横壁まで吹っ飛ばした。
(※ 格闘ゲームなら →+[K]、特殊技:壁際まで吹っ飛ばし)
(コレよコレ、格闘ゲームと言えば『途中変更発動』。
コレがなければ『必殺技』なんて、決まった動作しかできない、ただの的だ)
さまざまな改良の結果、『特殊技 → 特殊技』と『特殊技 → 必殺技』の途中変更は出来るようになった。
しかし、『必殺技 → 必殺技』の途中変更はまだ上手くいかない。
まだまだ、『秘剣シリーズ』の術式の改良が必要不可欠だ。
あと、そろそろ『ガード不可の超必殺技』とかも欲しいところ。
「── なっ はやい!」「あの威力は一体!?」
残り2人は、俺から慌てて距離を取った。
!作者注釈!
道場やぶりは残り2話の予定。
「特級編」と「後始末編」があります。
2021/09/27 【序の三段目:薙ぎ】→【序の三段目:払い】へ修正
2022/12/30 見づらかったので、戦力表記をちょっと変更しました




