149:帝都の新年
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
<帝都>に来て、もう5ヶ月少々。
なんか『妹弟子が敵国の工作員に狙われてる!?』とか想定外すぎる理由で、<帝都>で年越しする事になってしまった。
(そもそも<聖都>なんて、名前に反して助ける価値もない悪党ばっかの犯罪都市。
裏社会退治なんて、ムダな社会奉仕作業しなきゃよかった……トホホッ)
── うぇ~ん、もう暗殺者はコリゴリだよぉ~!(チャンチャン♪)
と、気分は昭和アニメ落ち。
そんなワケで、<帝都>で年明けだ。
年末年始の1週間は、朝練をお休みした。
正確には『みんな年末年始の色々あるだろ?』とか言って、生徒さんの指導をお休み。
(前世ニッポンのブラック企業や、ブラック部活みたいな、年中無休とか冗談じゃねー。
むしろ、『指導者な俺』の身が持たんっ)
なので年始4日目になって、ようやく新年の初顔会わせ。
「── 新しい年が、恩師にとって飛躍の一年となりますようにっ」
「我々、生徒一同、心からお祈り申し上げますっ」
士官学校の男女生徒コンビが、腰を折る90度お辞儀で、深々と一礼。
この2人より、ちょっと先に来て、
── 『おはよ~、今年も指導よろしくね? あ、これ新年祝い』
とか気軽に言って『縁起物の乾燥薬草』置いていったメグとは大違い。
態度激重の2人に、ため息が出ちゃう。
念を押すように、いつもの再確認。
「ハァ……ッ
いや、何度も言ってるけど、お前らを弟子にする気は無いからな?
あくまで、ちょっと指導するだけのコーチだから、俺」
俺は一応、ジジイの一番弟子ではあるが、魔剣士になれなかった時点で、区切りをつけている。
なので正直『流派に在籍しているか?』という辺りが微妙な立場。
そんな半端者が、勝手に弟子を増やせないワケで。
だから、コイツらの剣術訓練だって、基礎の部分しかやるつもりがない。
あくまで、そういう一時的な『指導者と生徒』という関係。
「もちろん、弁えておりますっ」
「ご指導頂けるだけでも、感謝にたえませんっ」
口先では、納得した言い方の2人。
だが、こっちを見る目がキラキラしすぎて、なんか不安。
「……まあ、いいや。
取りあえず、いつものメニューな?
で、今日はメグの魔法練習の方に付き合うから」
「はいっ、今日もよろしくお願いします」
「恩師のご指導、一分一秒たりとも無駄にはしませんっ」
前世ニッポンで言えば『現役メジャーリーガーの少年野球教室』みたいな気合いの入り方。
なんか『俺も、私も、こんなスターになるんだっ!』的な気持ちの圧がすごい。
(なんで俺、コイツらにキラキラ目線を向けられてんだ……?)
やっぱ、アレだろうか。
『バイトリーダー、やっぱり現場に居合わせた重要参考人なんでゴーモンする?』
みたいな話だったのが、
『いや、貴方の監督下におかれるなら、ちょっと目こぼししましょうか?』
とか、急にバイトリーダーが優しい事を言い出したせいだろうか。
(── 1ヶ月前の、あの一件。
この2人からすると、ピンチを救った恩人みたいな感じに思われてるのかねー。
多分バイトリーダー的には『しばらく泳がせて、不審な所があれば連絡しろ』という感じなんだが……)
実は『指導者と生徒』ではなく、『監視員と非行少年』という関係だったりする。
だから『赤の他人の指導なんて知るか!』と放り出したくても、出来ない理由がその辺りだ。
(前世ニッポンの、たしか『保護観察』だったけ?
ケーサツに頼まれる、ダルい社会活動あったなぁ、そういえば……)
面倒くせー、とため息が出ちゃう。
ちょっと報酬に加算付けてもらって、今さらだけど。
── だって、自主訓練の邪魔なんだモン、コイツら。
▲ ▽ ▲ ▽
毎朝毎朝この2人、ヤる気満々でやって来る。
その指導に手を取られるせいで、俺の朝訓練がゼンゼン出来ていない。
(厄介払いのつもりで『自主訓練用の幻像魔法』を、可及的速やかに造って渡したのに……
逆に、週末や祝日まで『毎日通い』になるとか……)
正直に言おう。
超・迷惑!
── なので、年末年始の指導お休み1週間が、ひとり訓練の大チャンスだったワケだ。
生徒さん達の指導から解放され、心ゆくまで超ガッツリ訓練。
前世ニッポンで言えば、正月休みに『棚上げゲーム』を消化していた気分。
不満解消。
心地よい疲労感。
寝る時に目をつぶったら、ジジイ(全力Ver)と『なんとか騎士』の姿が浮かぶくらいに超特訓。
(しかし、寝る前に残像とか、『ぷ●ぷ●』かよっ(笑)
『大連鎖っ』じゃねーんだよ……(呆))
そんな感じの熱中っぷりで、思い出すと自分でも呆れちゃうくらい。
── 魔法実践の指導しているメグは、一緒に魔物退治した仲だ。
すでに色々と手の内見せている事もあるし、ちょっと違法な魔法とか見られても、まだフォローのしようもある。
そもそも、古代魔導研究の名門<四彩の姓>出身なんだから、極秘情報をペラペラしゃべらないだろう。
── だが、士官学生男女は、素性が知れない。
それどころか、敵国の工作員の協力員みたいな、『裏切り者』の疑惑がまだ残っている。
最近の幻像訓練の『なんとか騎士』が、敵国の工作員だったワケで。
うかつに見せると、色々問題ありそうだし。
(……よくよく、考えたら。
俺って、年末の『軍事演習会』でコイツら2人が大穴だったから全額投入して、結局大損したんだよなぁ~……)
メグの魔力書き取り練習を見ながら、ぼんやり思い出すと、さらにイラッ☆とした。
(── なんで、そんな連中の指導させられてるんだ……!?)
やたら迷走した現状に、ちょっと頭が痛くなる。
軽く、恨み辛みを込めた目線を、いつも通り剣術訓練している連中に向ける。
(でも、まあ、コイツら。
最近、腕力まかせのクセが抜けてきて、ちゃんとした『剣の型』が身についてきたから。
もう一回くらい準決勝の対戦相手と闘わせたら、今度は勝つかもなぁ……)
士官学校2年生男女は、真面目な性根なのか、着実に上達してきている。
すると、『ピーン!』ときた。
(アレ……
もしかして、この2年生男女が秘密の特訓してるの、士官学校じゃ誰も知らないんじゃね?
また次回の賭け試合でも、大穴の倍率つくんじゃね?
もしかして俺、大穴10倍×2試合のゲット……!?
ミラクルひとり勝ちできるんじゃね!!)
── 勝ったな。
ちょっと、4月の武闘大会(士官学生の特別枠)までに、金貨ためてくる!
「ねー、ここってどうしたらいい?」
「あー、それはな。
ひと筆書きできない文字だから、途中すっ飛ばして最後まで書いて ──」
赤毛少女にそんな指導をしながらも、内心ではソワソワが止まらない。
チラ見をしたら、なんか下手クソ2人がぬるい訓練やってる。
(ちょっと明日から本気出して、死ぬほど鍛えてやっかぁ~……(粘着笑顔)
── デュフフッ、フォヌカポォ……ッ)
「うわ、キモ!
何変な笑い方してんのよっ」
年下生意気小娘に、クソみたいにダメ出しされた。
▲ ▽ ▲ ▽
その日の午後、ちょっとお出かけ中の兄妹弟子。
「ちょっと待って、リアちゃん」
「お兄様、早く早くぅ~っ」
妹弟子が、ひとりテッテッテ~と走って行く。
まるで『久しぶりのお散歩でルンルンな飼い犬』みたいな感じ。
流石は魔剣士名門<御三家>の<封剣流>は、格式が高い。
そのせいで、年末年始の1週間くらいは、一門伝統の恒例行事が山積みだったらしい。
やれご先祖参りだの、やれ厄除けの儀式だの、やれ帝室や有力貴族へのご機嫌伺いだの、やれ<御三家>の交流試合だの、聞いている俺がウンザリするくらい。
(当然、剣帝流のワンパク少女が何日も大人しくできないワケで。
ストレス溜まりまくってたんだなぁ~)
俺も『御三家の交流試合』には興味があったので、見学をお願いしてみたけど、
── 『いくらロック君が、我が<封剣流>とは遠戚関係にある剣帝流門弟だとしても』
── 『これは<御三家>が秘技・秘術を尽くす、部外者厳禁の催事だからね』
そういう正論で、アゼリア叔父に断られた。
(── チィ……ッ
幼い頃の妹弟子イジめてた『殴る奴リスト』のクソ共の実力を調べる、良い機会と思ったのに……っ)
特に、道場後継者候補の長男家のアホ兄弟ってのが、気になってたんだが。
お陰で、『決行日』はもうちょとお預けらしい。
(よかったなぁ、クソ共ぉ!
魔剣士なのに『魔剣士失格』のザコに叩きのめされる、絶望の未来が先送りになってぇっ)
兄弟子、まことに残念無念。
「── もうっ、お兄様ったらっ」
「ああ……っ、すまんすまんっ」
ひとりで先に行ってたアゼリアが、パタパタ小走りで戻ってくる。
考え事してたら、ちょっと足が止まってたみたい。
「ところでリアちゃん、今日の服はまたカワイイね」
「ウフフ、ペトラが選んでくれましたのよっ」
「ああ、なるほど~」
妹弟子の銀髪が映える、シックな黒のブレザーっぽい服だ。
ちょっと『名門女子校のお嬢さん』という感じで、大人っぽい。
陰キャ少女、良い仕事してますね!
「パメラは、『絶対コッチが良いヨ!』と別の服をおすすめされましたけど。
ちょっとリアには、着こなせる自信がありませんでしたので……」
「あ~、うん。 そうだろうね……」
妹弟子のお友達4人の、カラフル髪な子を思い出し、ちょっと納得。
本人は似合っているが、周囲にあのセンスを強要されたら困る。
そんな雑談をしながら、<帝都>の内堀水路へ。
日頃は城塞都市内部に物資を届ける大型船専用の輸送水路だが、新年の数日だけ遊覧船が行き交っているらしい。
その乗船券を、アゼリア叔父から頂いたワケだ。
── 『<帝都>が初めてなら、西区魚市場の売り始めも見てくると良い』
── 『新年の目玉催事で、出店もたくさん出ているからね』
そんなワケで、<帝都>西区まで船の旅。
さすがに新年だけあって、昼間でもあちこちで花火が上がっていたり、街角や建物自体に豪華な飾りがあったり。
滅多に入れない、幅50mくらいある輸送水路からの景色は、非・日常感があって楽しい。
「リア、帝都のこんな景色、初めて見ましたわ~っ」
飽きっぽいリアちゃんも、終始テンションが高かったくらい。
小1時間と長い移動時間だったが、見応え十分だった。
▲ ▽ ▲ ▽
<帝都>西区の船着き場。
城壁外の海に繋がっているだけあって、さすがに潮の匂いが強くなった。
何隻もの遊覧船が、ドカッと大量のお客さんを降ろしている。
「ようやく降りれましたわ~っ」
下船の待ち時間が長くて、退屈してたアゼリアが、背伸び。
トイレ休憩を挟んで、魚市場を散策する。
お昼がまだだった俺とリアちゃんは、イカの串焼きを片手に、お祭り会場へ。
「うわ~、すげー人混みっ」
「ここ人が多すぎですわ、全然進める気がしませんのっ」
『ごった返す』なんて言葉が生やさしいくらいの混雑状況。
ほとんど、前世ニッポンの『乗車率200%鉄道』か、という感じ。
流れに身を任せるだけで、ほとんど身動きできない。
「リアちゃん、兄ちゃんに捕まってっ」
「お兄様、アゼリアを離さないでっ」
手をつないでくっついてないと、人間の波に浚われるように、変な方向に流されそうになる。
そして、人混みと言えば、アレ。
「── ぅ、ひゃぁ……っ」
「どうしましたの、お兄様?」
俺がブルブル……ッと悪寒に震えると、妹弟子が不思議そうな表情。
── そう、人混み名物、スリとチカンである!
(クソがぁ……っ
男のケツとかナデていってるんじゃねーぞ、どっかのオッサン!!)
どこからともなく、ニュッと生えてきて、ササッと消えたゴツい掌に、イラッ!とくる。
「── ハッ……!?」
そして、すぐに隣の妹弟子を見て、そのピンチに気付く。
(こんな軽犯罪者だらけの人混みに、<帝都>非公式ファンクラブNo.1な超弩級の可憐美少女さん(全世界級!)の玉体が!!?)
ほぼほぼ、前世世界の肉食魚が群れる大河に、生身で飛び込むような愚行!
アワ!
アワワワワッッ!
リアちゃんが大ピンチ!
このままじゃ骨だけになっちゃう!?
(── いいぜ、チカンどもっ)
魔力センサーのオリジナル魔法【序の四段目:風鈴眼】、発動!
(テメーらが誰でも無料で触り放題、なんてナメた事を思ってるならっ)
不殺武器『イカ焼きの串』、装着!
(俺が、『そげぶ』する!!)
そして、防衛しやすいように、妹弟子の細い腰を抱き寄せ、密着ッ!!
「お、お、お兄しゃまぁっ!?
ひ、人前でしょんなぁ~、大胆しゅぎましゅわぁ~~っ」
まだイカ食ってる子が、俺の肩の上でモチャモチャ何か言ってる。
だが、極限の集中状態の俺には耳に入らない。
── この後。
お祭り会場の人混みで、イカ焼きのタレが付ついた手を押さえて『手が、手の甲がぁ』『うう、指の骨がぁ』『ぎゃぁ、生爪がぁぁっ』とか半泣きしているバカ共(一部女性)が20人くらい居た事だけ、申し添えておきます。
現場からは以上です。
▲ ▽ ▲ ▽
「ウフフ……。
お兄様ったら、ようやくお目覚めですか?」
意識が戻ると、そんな声をかけられる。
身を起こしてベンチに座り直すと、もう日が沈んで周囲が暗くなっていた。
「……アレ、もう夜?」
「あら、人混みに酔ったの、覚えてませんの?」
俺が首を傾げていると、膝枕してくれていた妹弟子が、ネコみたいにすり寄ってくる。
なんか、いつもより距離感が近い。
「……そうだった、け?」
そう言われれば、なんか気持ち悪くなった記憶がある。
お祭り会場のメインだったらしい、前世ニッポンの十二支的な動物(鹿とラクダの合いの子みたいな感じ)をナデナデして、お賽銭入れたくらいは、かろうじて覚えている。
前世ニッポンの『乗車率200%鉄道』みたいな状況で、【風鈴眼】なんて使えば、脳ミソの処理能力超えるくらいの情報過多だろう。
ぶっ倒れても、おかしくない。
「記憶トぶなんて、久しぶり……」
「フフッ。
そういえば、時々お山での修行でありましたわね?」
貧弱兄弟子がブッ倒れたせいで、多分2~3時間くらいムダにしたはずのアゼリアだが、妙に上機嫌。
サラサラ銀髪が首筋をナデて、ちょっとくすぐったいくらい、密着してくる。
すると、俺の、昼にイカ食べただけのお腹が、グゥ~ッと鳴っちゃう。
「何か食って帰るか……っ」
「アゼリアも、お腹がすきましたっ
何か、食べて帰りましょ?」
俺が立ち上がると、すぐに妹弟子がピッタリくっついてくる。
前世ニッポンで言う所の『二人三脚』くらいのピッタリ具合。
(いやいや、妹弟子、お前なぁ。
健全な性少年だと、寝覚めの時には色々な生理反応があって、女性にくっつかれるとちょっと困るのだが……)
そんな内心はおくびにも出さない、キリッとした顔で、
「……どうしたリアちゃん。
今日はカミナリ鳴ってないぞ?」
「もう、お兄様ったら!
それ、リアが小さい頃の話ですわよねっ
その恥ずかしい話を、いつまで言いますのっ!?」
そんな思い出話で、色々誤魔化しながら。
ベッタリくっつく妹弟子を連れて、魚市場近くの海鮮網焼きの店に立ち寄った。
貝のバター焼きが、美味美味でした。
!作者注釈!
ちょっと。
グラブルVSの発表見て、ショック受けてます。
いや、コマンド大事だろ?




