表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 7:副都ステージ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

146/236

146:不良少年

俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)




さて、引き続き『夜間の肉体労働で短期でガッポリ』な高額バイト中な俺。


最初に受けたバイトリーダーの説明からすると、ここ5階建て雑居ビルの中の、地上1階と地下1~2階が『裏組織の隠れ家(ゴミやしき)』になっているらしく、その『一斉検挙(おおそうじ)』の最中。



「── すみません『巨獣殺し』(ジャイアント・キラー)、手を貸してください。

 まだ呼吸がある者が居ますので、手当を」



バイトリーダーがそんな事を言って、手招き。

なんか変な名前は、俺の『仕事用あだ名(ビジネスネーム)』なんだろうか。



(まあ、工作員(スパイ)だの裏社会(ヤクザもの)だの隠れ家で、本名で呼び合うワケにはいかんよなぁ……)



士官学校の不良学生6人(・・)をぶちのめしたばかりの応接間みたいな場所は、地下2階の夜喫茶(クラブ)らしい。

その、会員制のちょっと高級な(おたかい)店のカウンターの向こうに、人員(スタッフ)(故人)が積み重なっていた。


バイトリーダーは、念のため『一斉検挙(おおそうじ)』の前準備で、無関係の地上2~5階にも『反社(ホコリ)』がいかないように、以前から張り込みさせていたらしい。

さっき、仮面のバイトリーダーが言っていた『血の匂い』の主は、その先発組(かれら)だったらしい。



「うわっ、だいぶん()られてるなぁ……」



帝国で一・二を争う超・危険地帯<ラピス山地>なんかに住んでいたため、無駄に人死(ひとじに)()れした俺。

10人弱の死体の山を、ポイポイ(わき)にどける。

すると一番下の方から、息も()()えな男性人員(スタッフ)が出てきた。


そんなギリギリな若い男性人員(スタッフ)に、気付け薬代わりに俺の改造(ブースト)回復薬(ポーション)>を飲ませると、なんとか話せるくらいに回復。



「……すみません、班長(リーダー)

 士官学校の制服を着ていたので、油断しました……っ」



地上2~5階の見張り(スタッフ)は、士官学生の魔剣士7人(・・)のだまし討ちで全滅。

その7人の中で一番腕利(うできき)きだった指示役(リーダー)は、空き店舗だらけの無人の5階にひとり居残り、隠れ家の中で酒を呑んでいるらしい。



「しかも『番札11番(ペイジー・クラス)』ですって?

 ずっと以前から5階に潜んでいる!?

 しかし、貴方たち先発の張り込みは1ヶ月以上前からで、すでに人の出入りがない事を確認したはずですが……っ」


「裏をかかれました……。

 そこの『(かざ)暖炉(だんろ)』、大昔からの代物で『本物』です。

 天井の煙突(えんとつ)は改修で無くなっていますが、構造を利用して地下2階と地上5階を結ぶ『隠し通路』になっています」



垂直に登るしかない隠し通路だが、魔法の力がある異世界で、しかも超人能力になる魔剣士であれば鼻歌交じりだろう。

さらに内部に足場があれば、地下2階から地上5階までの約30m近い垂直移動を10秒少々で、しかも汗一つかかないで行けるかもしれない。



「── チ……ッ、やられましたっ

 今まで衛兵の立入検査(ガサイレ)で引っかからなかった理由は、ソレですかっ

 5階まで秘密裏(ひみつり)に移動できれば、あとは屋上から出入り自由だと?」


「おそらく大家も仲間(グル)です。

 このビルの5階・4階は借り手がいないのではなく、物音で感づかれないために()さなかった……」



そこまで話すと、重傷の若い男性(スタッフ)は、眠たそうに目を細める。

重要事項(メッセージ)を話し終えて、緊張感が切れたんだろう


ただでさえ出血多量と瀕死からの回復なんだ。

既にスタミナ切れだろうし。





▲ ▽ ▲ ▽



バイトリーダーは、再び昏睡(こんすい)状態になった若い男性(スタッフ)を横たえて、静かに立ち上がる。


それと入れ替わりで、俺が重傷者を(かつ)ぎ、セッセと搬送(はんそう)の準備。

しかし、バイトリーダーが肩を叩いて止めてくる。



「……早く行きましょう。

 敵の主犯格(リーダー)が優先です、逃げられると厄介ですので」


「えっ、この人を運ばなくていいの?」


「今は、それだけの、時間がありません……っ」


「あぁ~、せっかく運ぶ物まで作ったのにっ」



バイトリーダーと若い男性(スタッフ)が話している間に、キャスター付きの家具を解体して、手押し荷車(キャリー)的な物を完成させたのに。



「魔剣士なら人間1人背負って移動したところで、大した負担にはならないでしょう。

 ですが、<無環(むかん)>の我々2人では……。

 大丈夫です、地上1階に戻った時に、見張りを何人か行かせます。

 それまでなら、彼も持ちこたえるはず ──」


「── うぅ~ん、それも結構な時間がかかりそう……」



(ってか、こっちの方が絶対早いって!)



そう思ったけど説得も面倒だったので、用意していた即興の術式を自力詠唱(『チリン!』)



── 勝手に、緊急搬送開始!


手の中で、ギュルルルゥ~……ッと、鉄弦の巻き軸(スプール)が高速回転。

重傷者を乗せた即席台車(カート)が、ギャ・ギャ・ギャ~~ッ!と廊下に飛び出ていく。


『鋼糸使い』の技能(スキル)で、1階の出入り口まで鉄弦を通し、照明鉄柱に引っ掛けてUターンして戻して、導線(ガイド)を仕掛けたワケだ。

あとは思いっ切り鉄弦を巻き取れば、勝手に入り口の見張り(スタッフ)の所まで搬送してくれるという、即席の仕掛け(ギミック)


階段とか通る時、ちょっとガタガタするけど我慢してね?



「ハァァァ!?」



この手(・・・)は思いつかなかったのか、ビックリ顔のバイトリーダー。



ちょっと調子にのった俺は、『鋼糸演奏』の技能(スキル)を併用して、導線(ガイド)の周囲へと注意喚起(アナウンス)を始める。



── 『あ~、テステス・テステスッ、ただいまマイクのテスト中!』

── 『みなさん、今から緊急車両が参ります、道をあけて下さ~いっ』

── 『はい、地下1階のお爺ちゃん、鉄弦(ライン)をまたがなーいっ』

── 『地上1階の帽子(ぼうし)の男女お二人、もう一歩だけ鉄弦(ライン)から離れてくださーい』

── 『どーも皆さん、ご協力ありがとうござました~っ』



人員(スタッフ)みんな、ギョッとしながらも、素直に協力してくれた。

お陰で無事、搬送完了。

所要時間30秒くらいかな?



「── ん? どうしたの、バイトリーダー。

 カウンターにお(なか)押しつけて、そんなにプルプルして。

 もしかして、消化に悪い物でも食べて、お腹(ポンポン)痛くなっちゃった?

 我慢できる? それとも、おトイレいく?」



(ハァ……、いやいや。

 さっき自分で『時間がありません(キリッ)』とか言いながら、いま腹痛(ソレ)はねーだろ……)



心の中で呆れのため息しながら、ヨシヨシと背中をさする。



「── ぅっ、るさいィッ! この非常識男ォォっ!」


「………………」



せっかく優しく()いたのに、殺意の籠もった声で怒鳴られた。



(── ()せぬ……っ)





▲ ▽ ▲ ▽



そんなワケで、最上階5階へ移動。


無人店舗のドアをバキッと蹴破(けやぶ)ると、中に士官学校の制服男子が1人。



「……予想より、だいぶん早かったな」



薄暗い部屋のど真ん中に、ポツンとソファーとローテーブル。

間接照明(スタンドライト)の薄い(あか)りで、厚表装(ハードカバー)の文学作品を片手に、ロック氷をカラカラ鳴らして蒸留酒とか呑んでやがる。



(多分、コイツ的には……

 『オレって裏社会を支配しているインテリ無頼(ヤクザ)ァ!(キリッ)』なんだろうなぁ……)



そのカッコつけ(・・・・・)な姿に、ちょっと失笑しちゃう。



「うわっ、ダセぇ(笑)、いいから早く立てよザコ魔剣士(呆)。

 どうせお前、おとなしく捕まるクチじゃねーだろ?」


「特級で免許皆伝の俺が、ザコねぇ……。

 彼我(ひが)の戦力差も解らない、そんな程度の低い刺客(しかく)がここまで来るとは……

 所詮(しょせん)は落ちこぼれの『Eクラス』って事か。

 この程度も片付けられないとは、アイツら本当に『烏合(うごう)(しゅう)』だな」



不良学生の親玉は、逆さホウキみたいは髪型をなでつけ、立ち上がる。

背中には既に身体強化の魔法陣が浮かんでいるので、戦闘準備は万全みたいだ。


しかし、相手はすぐに手にさげた<中剣(ミドル)>を抜かず、バイトリーダーへ声をかける。



「おいおい、『月下凄麗』ルナティック・ティアー……っ

 コレ(・・)、お前の弟子か後輩か知らないが、あまりけしかけるな(・・・・・・)よ。

 もしかして『俺を実戦訓練の相手に』とか考えているのか?

 バカ弟子を鍛えるどころか、無駄()にするだけだぞっ」


「……残念ながら、わたしの弟子ではありませんよ。

 何故か、たまたま()たような姿格好(すがたかっこう)ですが」


「また、見え見えの(うそ)を……」


「ちなみに帝室密偵(われわれ)は、この人物を『巨獣殺し』(ジャイアント・キラー)と呼んでいます。

 神王国(おたく)の『巨獣(きょじゅう)』 ──

  ── 『金貨の12番(コインズ・ナイト)』を仕留めた、おそるべき使い手ですよ。

 どうぞ、仲間の仇討(あだう)ちでもなんでもやってくださいっ」



なんか、バイトリーダーに投げやりに紹介された。

なので、紙袋の仮面を脱いで、握りつぶしてポケットにしまう。



「いぇ~い、剣帝流の一番弟子のロックで~す!

 魔剣士になれなかった落ちこぼれ男子だけど、仲良くしてね!」


「── バ、バカですか、貴方!

 なんで、いちいち素顔を(さら)すんですか!

 わたしが、わざわざ性別を伏せたのを、なんで台無しにするんですかっ!?」



スゲー剣幕(けんまく)で怒られた。



(── えぇ~……っ

 なんか名乗りを上げるような流れの気がしたんだけど……違ったの?)



そうやって言い返そうと、バイトリーダーの方を振り向いた瞬間 ──



「── シッ!」



逆さホウキ髪の不良学生は、特級魔剣士の脚力で疾風のように駆け抜け、<中剣(ミドル)>の横薙(よこな)ぎ。

俺は、リンボーダンスの体勢でギリギリ回避。


ちなみにバイトリーダーは横飛び、余裕でかわしていた。



「あんまりコッチを放っておいて、仲良し同士でイチャイチャするなよ。

 ()けるだろ?」



逆さホウキ髪は、ダン!と入り口近くの壁に片足ついて勢いを殺す(ブレーキ)



「しかし、『金貨の12番(コインズ・ナイト)』の旦那(だんな)が死んだか……っ

 道理で、ここ1ヶ月半ほど姿を見ないと思えば……。

 本国(くに)に呼び戻された訳じゃ、なかったのか。

 ── ククッ、いいね、ツイてきたじゃないかっ」



上機嫌で(さや)を投げ捨て、両手で<中剣(ミドル)>を構え直す。



「せっかく帝国(くに)を裏切ったのに、肩書きが『下働き(ペイジー)』じゃ()まらないって思ってたところだっ

 『月下凄麗』ルナティック・ティアーと『巨獣(きょじゅう)殺し』、お前達2人の首級(くび)で出世させてもらうとするかっ」


「………………」



なんか『剣術Lv35(師範代クラス)を越えるかどうか』くらいのザコが妙に張り切り、威勢(イキ)り散らかしていた。





▲ ▽ ▲ ▽



なんか不良学生の親玉が、やたらと身の程知らず発言(ビックマウス)



「そうすれば、俺が新しい『金貨の12番(コインズ・ナイト)』にっ!

 名実ともに『最強の暗殺者』として<帝都>の夜に君臨する日が来たのかっ」



競技界隈(プロスポーツ)でよくある『決意表明(ガンバリますっ)』なのかと思ったが、どうも声の調子は(うわ)ついている。



(もしかしてコイツ……

 本気で『自分はナントカ騎士(ナイト)と同格くらいに強いんだぁっ』とか思ってる勘違い(・・・)ヤロウ(・・・)なのか…?)



ひと月かふた月か前に遭遇した、あの金ピカ爪の工作員(スパイ)


油断しまくりの(すき)だらけなナメた態度のせいで、拳術(ぎりょう)Lv40(まあまあな熟練者)に見えた。

だが実際は、拳術(ぎりょう)Lv55(限界突破した天才)以上という、超・天才児の妹弟子(アゼリア)越え。

元々の超絶身体能力(スーパー・フィジカル)に、特級の魔剣士って事を考えると、総合Lv350は確実(カタい)


つまり、当流派(ウチ)剣帝(ジジイ)以外じゃ、今までで見た中で最強戦闘力だったワケだ。



(── そりゃそうだろ~ね~っ

 俺あの時、やたらと苦戦して、うっかりブッ殺されかけたワケだぜっ

 それだけ戦力読み間違えてたらね~。

 自分の腕が鈍っているのかと思ったぜ~……)



直後は『しばらく帝都(とかい)生活で魔物斬ってないからなー』とか原因を勘違いしてたが、幻像記録で研究すれば研究するほど、相手のヤバさが解ってきた。



(ナントカ騎士(ナイト)さん、マジ野良(のら)ル■ールっ!)



勝負の流れ次第では、俺が負けていてもおかしくない超・強敵。

いや、正直、勝率3割あるかどうかの、難敵だったはず。


── そんな経験値が美味しい相手なので、散々利用させてもらってま~す!



兄弟子(にいちゃん)難敵(アイツ)のおかげで、最近は頭打(あたまう)ちになってた剣術Lv(レベル)が上がりそう!

 ようやく剣術Lv65(達人一歩手前)への道のりが見えてきた感じ!)



スゴいぞ、『経験値稼ぎモンスター(メタル・■ライム)』は本当にあったんだ!?



(ナントカ騎士(ナイト)さん、マジ(ゴッド)っ!

 マジ(ゴッド)ル■ール!

 リアちゃんにも今度、練習させてあげるね!)



ここ最近は、元・師匠(ジジイ)の幻像と、アイツの幻像と、交互に仮想戦闘(トレーニング)

記憶そのまま再生(ノーマル・モード)』でパターン完封(100%クリア)が安定してきたので、どの動作をしてくるか解らない『ランダム再生(ハード・モード)』に改造して、いい汗流している。



(ウッヒョー、たまんねーな!

 この分だと、年に1ずつ剣術Lv(ぎりょうレベル)上がっちゃうぞ!?

 20歳(ハタチ)頃には、まさかの『剣術Lv65』ぉぉ!

 それから上昇率が半分になるとしても、30歳(ミソジ)には夢の『剣術Lv70』到達ぅぅぅ!!

 俺が! 剣帝(ジジイ)腰痛(じゃくたい)ver(バージョン))に追いついちゃう!?

 この身長150いかない、この無才(オレ)が!?

 身長200の達人(ジジイ)にぃ!!?)



やっべ。

その将来予想図だけで、兄ちゃん、今から15年訓練継続の自信アリ(たたかえちゃうっ)





▲ ▽ ▲ ▽



そんな妄想してて俺が黙っていたせいか、バイトリーダーが話し相手をする。



「士官学校の学生をそそのかした諸悪の根源は、よりにもよって<パインヴァリィ流>のご子息ですか。

 いかに帝国南方守護の名家・名門としても、3代は続かないのですね?」


「ハンッ、今の一瞬で(さや)の紋章を読んだのか?

 さすがは『月下凄麗』ルナティック・ティアー

 バケモノ(・・・・)みたいな眼力(がんりき)って(うわさ)は、(うそ)じゃないらしいっ」


「…………殺しますよ……っ」



敵の軽口に、バイトリーダーから濃密な殺気が立ち上がる。

なので、俺が慌てて割り込む(カットイン)



「スト~ップ、ストップ!

 生け捕りってミーティングの時に言ってたの、自分でしょうが?」


「……………………」



バイトリーダー、沈黙。

仮面のせいで表情が解らないが、気まずいのか、スネてるのか、微妙な雰囲気。



「そういう訳だ、権力の走狗(イヌ)ども。

 帝都の官警(サツ)は全部俺の親父の部下、お前たち帝室親衛隊の下部機関は、元副隊長の俺の祖父には逆らえない。

 つかまったとしても、明日には無罪放免。

 それどころか俺が何もしなくても、このくらいの不祥事の一つ二つ、簡単にモミ消すさっ」



金持ちバカ息子のまさに『ボンボン』が、親の七光りで調子にのり、さらに威勢(イキ)り散らしていた。

というか、世間知らずの甘ちゃんが、スゴい!



(いくら、帝国の上層部の血縁(けつえん)だろうが『反逆罪』をモミ消せるワケねーだろっ

 どこの世界でも、皇帝の身内でも、フツーに『死罪』だっ

 頭の中が『お坊ちゃん』過ぎるだろ、このバカ息子(ボンボン)

 ── ハァ……、なんで不良少年(ヤンキー)ってこう、世間をナメたバカばかりかね……)



何度か言ったかもしれんが、俺、こういうヤツ、大っ嫌い!


いや、別にイイのよ。

反抗期とか、親に逆らうとか。

生き物の生理現象というか、大人になるための通過儀礼的なところがあるから。

青少年的に、イライラするのは、仕方ないところもある。


そこは、認める。


でもな。

それは家庭内でおさめるべき話。

他人(ひと)様、余所(よそ)様に迷惑かけちゃダメ。


それなのに、この手のバカは、迷惑どこか危害までくわえやがる。

前世ニッポンで、どれだけ不良(ヤンキー)どもに殴られ、カネ巻き上げられ、イヤな思いさせられたものか。



(だいたい、ゲーム下手なくせに対戦台に座ってきて、ボロ負けしたらリアルに殴って来るとか、ゲーマーとしても論外だろうが!!)



そんな悪事山盛りのくせに、大人になっても罪の清算も何もなし。

俺、一度も、この手のバカに謝罪を受けた事ないんだが。


むしろ、成人式とかに酒飲みながらエラそーに悪事(ワルさ)自慢!

そのクセ、自業自得で立場が悪くなったら、今度は差別だの不幸だの世間が悪いだのヌかしやがる……っ



(ああ、ブッ(コロ)してやりてー!)



── そんな殺意ビンビンになりそうなの自制していると、再度、機巧詠唱(『カン!』)と聞こえてくる。

不良青少年が特級の身体強化をかけ直したらしい。


超人の身体能力で、障害物の少ない空き店舗を駆け回る。



「特級の魔剣士に逆らった愚かさ! 思い知れ!」



棒立ちの俺の死角に入った瞬間、特級魔剣士の脚力が爆発!

それに合わせて、俺も防御用のオリジナル魔法【序の三段目:()め』を自力詠唱(『チリン!』)


ギャリン!と1発目の上段斬りを、受け流す。

しかし、相手は壁を蹴って、即反転。


シャァァン!と2発目は下半身を狙った突進突き。

俺の模造剣(ラセツ丸)の剣身保護のオリジナル魔法【序の一段目:()ち】(非殺傷バージョン)を破壊して、火花を散らす。



「チィ……ッ、<無環(むかん)>のチビが思ったより手強い(ヤる)っ」



不良(ヤンキー)お坊ちゃんは、今の2連撃で仕留める気だったらしい。

警戒して、またグルグル周囲を走り回り始める。



「ふ~ん、それって初めて見るけど<聖霊銀(ミスリル)>の剣か?」


「ハンッ、驚いたかっ

 貴様のような貧乏人とは、装備の質が違うんだよっ

 そんな安物の<魔導鋼(マグサロイ)>なんて、すぐに細切れに ──」


「── ああ、これ、錬金装備じゃねーよ。

 ただの鋼鉄製の模造剣(ナマクラ)、しかも素振り用。

 ほら、こうやってギコギコやっても全然、手とか斬れないし?」



愛剣・ラセツ丸で手の平の上をノコギリみたいに、押したり引いたりしてみせる。



「こんな武器(モン)にビビるなよ、お坊ちゃんっ

 もしかしてお前、真剣で斬り合い(チャンバラ)した事ねーの?

 だから模造剣使うザコ相手に腰が引けちゃったカンジ~?」


「── はあぁぁぁぁ!?

 ふざけんな、クソガキがっ」


「ププッ、そうだよなぁ、お坊ちゃん、安全な<帝都>から出た事ない『温室育ち(ハコいり)』だモンなぁ。

 ちょっと上段者(・・・)として大人(おとな)げないから、ハンデくらいあげようか?

 よし、武器使うのやめて、素手で相手してやろうっ」



俺は半笑いのまま模造剣(ラセツ丸)納剣(しまい)、腰の(さや)ごと外して投げ捨てる。


すると、特級の脚力でグルグル走り回ってた、士官学校の不良生徒が急停止。

怒りMAXの声でズダァァン!と壁を殴りつけた。



「こ・の・ク・ソ・ア・マ・ァ~~!

 犯して、自慢の顔面(つぶ)れるまで殴って、手足を刻んで、ビービー泣かして、それからまた犯して、燃やして灰にして跡形もなく殺してやるぅ!!」


「おいおい、ハハッ、俺の顔が良いからって男に欲情すんなよ、お坊ちゃんっ

 さっき『俺、男の子』って言ったろ!

 お前、やたらと知的(インテリ)ぶってるくせに、記憶力ねーの?」


「── ぉオォおォ! お望み通り切り刻んでやるぅぅぅぅ~~!!」



特級魔剣士の学生さんは、オニみたいな顔で、奇声まで上げた。





▲ ▽ ▲ ▽



どうにもお坊ちゃん(コイツ)選民(エリート)意識の塊で、プライドが高すぎる。



(ちょっと演技を疑うくらいに、挑発に引っかかるなぁ……)



そう思いながら、用意していた『試作術式』を自力詠唱(『チリン!』)

【五行剣:(みず)】の中核(コア)術式だけ抜き取った、簡易版。

最近、ちょっと試作(テスト)中の【序の三段目:(なが)し】だ。



「死ねぇぇ、クソガキがぁぁぁ!」



それから2秒もなく迫り来る、高額金属製の銀色<中剣(ミドル)>。

両足の着地タイミングに、横薙(よこな)ぎを合わせた、妙技(みょうぎ)



「これが、風を微塵に斬り裂く<パインヴァリィ流>の斬滅剣(ざんめつけん)だあぁぁぁぁぁぁぁ ──」



ビュビュビュンッ!と後退する相手を追い詰める、高速3連続の横斬撃。

だが、激情のまま突進してくるようなら、なんの脅威もない。



「ヒュッ」



俺は呼気と共に、高速回転(スピン)

不良(ヤンキー)お坊ちゃんの身体強化の全力走を、回転ドアみたいな動きで受け流し、背中を押してさらに加速させる。

ちょうど、前世ニッポンのアイキドーみたいな、相手の力を利用した投げ技だ。



「── グギャア~!!」



酒に酔った特級魔剣士は、自分の超絶能力を暴走させ、顔面からドゴォン!と石壁に大激突!

石壁に血の跡と、もげた前歯がくっついている。


当然、一発K.O.(ノックアウト)だ。



「な、なんですか、今の技!

 相手の力を利用した、いわゆる『合力(ごうりき)の投げ技』!?

 いえ、それにしても、速力と威力がおかしい!

 貴方が触れた瞬間、倍以上に加速して突進していきましたよっ!?」



さすがに拳術家だけあって興味があるのか、バイトリーダーがうるさく()いてくる。

久しぶりに上手く決まったので、ちょっと上機嫌な俺は、ヤレヤレと肩をすくめて、もったいぶりながら教えてあげる。



「俺の元・師匠、剣帝の奥義の一つで、相手の力を操り吹っ飛ばす技。

 『潮汐の浮身』エーブ・アンド・フローって名前なんだが。

 俺みたいな才能なし(・・・・)だと(・・)、【五行剣:水】を使ってやっとなんだよ」



俺とか、体格がチビすぎて、人間相手か小型の魔物じゃないとかけられないし。


ジジイとか中級の魔物集団くらいなら、衝突や転倒とか同士討ち(・・・・)とかさせて、素手(ブキなし)でもボコボコに出来るくらいなんだぜ?


カネも無く、ロクに装備もなく、攻撃魔法の<魔導具>(マジック・アイテム)さえ修理点検(メンテナンス)不足で使用できない ──

── そんな絶望的な状況で魔物と戦い続けたからこそ(・・・・)の、『剣術の極意(おうぎ)』。



自分の手に武器がないなら、魔物の爪牙(ブキ)で倒し合ってもらおう、という超絶技巧(デタラメ)



「バーカ、魔剣士なのに戦う前にカッコつけて、強い酒とか呑んでるからだっ」



前世ニッポンで、酒呑んだまま普通に自動車運転したら、だいたい事故(じこ)る。

当然、それより何倍も(・・・)難しい(・・・)『特級身体強化の力加減(コントロール)』とか失敗するに(・・・・・)決まって(・・・・)いる(・・)


荒くれ者の印象が強い冒険者だって、二日酔いの日は魔物退治(かせぎ)(あきら)めて、酒が抜けるまで寝てるのに。



「本当にバカじゃねーの、この逆さホウキ髪ヤローっ

 魔剣士ナメんなよ、ザ~コォッ!」



自分の走力(ちから)で顔面粉砕した、士官学校の威勢(イキリ)ヤローに近づく。

そして、突き上げたケツを軽く蹴飛ばしてやった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ