144:バイト(即金、短期、高額、誰でも)
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
つい先日から、『カネなし法一』になってしまった兄弟子です。
ほら、アレだ、前世ニッポンで昔居たらしい
『ギオンショウジャもカネがねえ! オラこんな京都イヤだ~! オラこんな平家イヤだ~!』
とかいう批判ラップの弾き語り。
つまり、現在そんな感じです。
士官学校の寄付金集めな合法賭博に全額投入の結果は、惨敗でした。
愚かな兄弟子、まことに反省至極。
(しかし、マジでこのままじゃ年末が越せない気配が濃厚っ
── まさか異世界まできて、月末の給料日まで節約生活するハメになるとは!)
下宿先である魔導師学園の男子寮が、朝夕の食事付き(調理手伝いのまかない)だったのが、不幸中の幸い。
でなきゃ兄弟子、餓死してたかもっ
やっぱ、大穴1点張りはダメだな!(当たり前)
(── よくよく考えてみたら、『確率1.5%』とか絶対ムリじゃねえか!
携帯ゲームの単発ガチャで、いきなり『SSR』引くようなもんじゃねーか!)
あの時の俺は、大穴10倍に目がくらんで、どうかしてたっ
『ウヒョヒョ、金貨が10倍に!?』
じゃねーんだよ、おバカ!
(ク……ッ、これも平家の亡霊の祟りか!?)
そんな事を思いながら、パン屋でもらったパンの耳とかモソモソかじる、最近のお昼ご飯。
『よーしパパ、年末でボーナス出たばかりだから、今日のお昼はフンパツしちゃうぞー!』みたいな昼間っから肉食ってるオッサンに、うっかり呪詛を飛ばしそうになるくらい。
(── クソが!
いまどき『一杯のかけそば』みてーな、年末の辛気くせーお涙頂戴話とか、流行らねーんだよ!)
今にみていろ、平家の亡霊どもめ!
ハンニャシンキョウは、全てを解決するっ!!(キリッ)
── これこそ、我らが仏教徒の究極最終奥義『タ・リキ・ホンガーン』!!
(妄想覚醒技、キャラ選択画面で天上天下唯我独尊して[B]・[A]でキャラ選択)
そんな感じで、うろ覚えのハンニャシンキョウを唱えながら、帝国騎士団『第四』・監査部調査室の隠れ家の周りを托鉢(坊さんが寄付をもらうアレ!)にウロウロしてたら、イヤがられた。
(前世ニッポンの、年末の名物行事だぞ!?
恵まれない可哀想な兄弟子に愛の手を、だぞ!?
これだから異世界の政府秘密組織はダメなんだよぉっ!)
そんなイラッ☆と気分になったので、夜にチリンチリン鈴鳴らしながら周囲をウロウロ、ウロウロ。
「ハンニャ~ナントカ~、カネくれカネくれぇ~!(お経特有の語尾伸ばし)
ナンジ~ウンチャラ~、カネくれカネくれぇ~~、ェィッ!(ナゾ気合い)」
近所迷惑だと、超イヤがられた。
「そんなに元気がありあまっているなら、ちょっと暴れておいでっ」
そんな感じで『夜間の肉体労働で短期でガッポリ』な高額バイトを紹介してもらえた。
(── 超ラッキー!
いつかどっかで見たような白髪のバアさん、マジありがとう!)
あれは、先月だったか、先々月だったか。
銭湯帰りに、ケガした妹弟子の文通相手を見付けて助けた甲斐があった。
『なんとかの騎士』とかいう敵国の工作員だか暗殺者だかも、しっかり引き取ってくれたし。
── そんなワケで、肉体労働アルバイト的に明るく元気に、ご挨拶。
「チッス、チーッス!
今日はよろしくお願いしま~~す!
自分、おカネのタメに、超がんばりま~す」
「……これ、……が?
本当に……あの、『巨獣殺し』……?
……ありえない、……強者?」
変な仮面かぶった女性バイトリーダーに、『なんか変なヤツが来た!?』みたいな反応をされてしまった。
▲ ▽ ▲ ▽
仮面の女性バイトリーダー、10分くらいブツブツ何か言ってた。
慣れない宴会の仕切りを任された、若手幹事みたい。
「── い、色々、理解できない事が、ありますが……っ」
そんな前置きで、バイト『作業』の説明開始。
念入りな事に、図面と持って来て、色々細かな指示をされる。
(うぅ~ん、現場にイマイチ慣れてない感じがする。
この女性バイトリーダー、ガチで新任さんみたい……)
なんだか『マニュアル通りに段取り踏まないと怖くて進められない』というくらいのピリピリ雰囲気を感じる。
そんな、超念入りな仕切りで、俺含めて30人ぐらいの人員に、細かく役割分担を言われる。
だが俺とか、新顔バイトなせいなのか、あんまり大した『役割』が振られない。
むしろ、超・かんたん『作業』。
(あぁ~ね、いわゆるひとつの『いつものヤツ』か。
俺、最近1~2ヶ月くらい、週2か週3でそんな事やってるから、余裕ヨユー!)
個人的には、『え!そんな事でおカネもらっちゃっていいの!?』とさえ思うくらい。
(まあ、軍属スパイとか後ろ暗い業界らしいので、なかなか表社会の人を雇えないんだろうなぁ……
いやむしろ、機密保持というか口止め料とか入っているなら、妥当な金額なのか?)
そんな感じで、20分くらいたっぷり時間をかけて打ち合わせが終わる。
すると、バイトリーダーが声をかけてくる。
打ち合わせの途中で、俺のあくびを睨み付けていたので、『やっべ!』と背筋を伸ばす。
「ところで、貴方……
まさか、そのままの格好で行くつもりですか?」
「え、おかしい……?」
俺的には、いつもの格好。
白い式服を上着代わりに、下は剣術修行用のスエットパンツ。
「……いや、顔を見られて大丈夫ですか、と訊いているんですが?」
「あ、あぁ……そっちか」
ポケットをあさると、昼飯用にパンを買った時の紙袋が出てくる。
それにボスボスと覗き穴をあけて、パスゥ……ッと装着。
「── こんなんで、どうッスか?」
<帝都>の夜に紙袋仮面怪人、再臨!!
そんな感じで、親指・人差し指・小指の3本立てた、ナゾ手つきでキメてみる。
しかし、そんな格好いいポーズ☆を台無しにするように、グゥ~~……ッとお腹が鳴っちゃう。
紙袋からプ~ンと小麦の良い香りがするから、仕方ないね!
「……あぁ……、もう……いいです。
……好きなように、やってください……」
女性バイトリーダーは、仮面をかぶった頭を押さえて、離れていった。
▲ ▽ ▲ ▽
「── というワケで、ドォ~~ン!」
口で言いながらも、身体強化のオリジナル魔法【序の二段目:圧し】で、錆びた鉄扉を蹴り開ける。
「こんばんわ~~、討ち入りのお届けでぇ~~す!
サインかハンコお願いしま~~す!!」
「なんだ、テメーはっ!」
そして、隠れ家から飛び出てくる黒服を、愛剣・模造剣でバコーン!と殴り倒す。
「よっしゃ、まずは1匹!
今日はいつもより気合い入れて清掃活動すっかなっ」
いつもの無償奉仕作業と同じ『作業』で破格の報酬もらえるとか……っ
控え目に言って、最・高ッ!
(やっぱ、カミ様とかホトケ様ってのは、日頃の行いを見てるんだなっ
うん、うん……っ
南無三、いつもより多めにお祈りしときますね?)
そんなルンルンで裏組織の隠れ家に、正面突入。
すると、後ろからシュバババ!とバイトリーダーが走って来て、紙袋仮面の上から耳とか引っ張られる。
「── あ・な・た! 正気ですかぁぁぁぁぁ!!?」
えぇ~、急に怒鳴ってくるじゃん……?
「え、だって、突入のタイミングはまかせるって……っ」
「言いましたよ、言いましたけどね!
だからって! なんで街中で! しかも正面突入してるんですかぁぁぁぁ!!」
えぇ~、さっき好きなようにやって良いって言ったじゃん……?
「痛いっ、イタイっ、いたい!って!」
やめてヤメテ!
そんな力で耳ひっぱられた、本当に『耳なし法一』になっちゃうっ
平家の亡霊にヒドイ事されたビワ法師みたいになっちゃううぅ!!
── 『官警だ! 官警の押し入りだ!』
── 『書類を燃やせ! 時間をかせげっ』
── 『“顧客”を裏から逃がすっ、それまで食い止めろっ』
雑居ビルの中から、強面のドスのきいたザワザワ声が聞こえてくる。
ああ、これ、勢いのまま一気に畳みかけるのに、失敗したパータンっすね。
(誰かさんが、急に邪魔するからさー……)
そんな目で見ると、逆に怒鳴られる。
「── ほらぁぁ!
ああ、もう! せっかくの下準備がぁ!!」
「……いや、コレって、バイトリーダーが俺を捕まえて、大声を上げたからじゃない?」
「何ですかぁ! 何か言いましたかぁ!?」
「……もう、いいから、耳から手を離してよ?」
「ああ! もおおお!!」
理不尽に怒られ、トホホな気分。
ああぁ~、せっかくの労働意欲が萎んじゃうなぁ~……。
「もういいや……
適当に終わらせて、さっさと帰ろう……」
人差し指の先に小さな<法輪>を作って、自力詠唱。
何かと便利、【遠隔発動】だ。
その途端、
── 『ギャァァ!』
── 『足が、足が、あしがぁぁ!』
── 『ヒィ、ヒィイイ!』
── 『何が刺さった、ガラスの破片か、いや違う!?』
── 『なんだ、何が起きたっ』
── 『クソぉ、官警ども、魔導兵器かよ!?』
── 『街中でメチャクチャしやがるっ』
悲鳴と困惑の絶叫が、隠れ家である5階建て雑居ビルの中から響いてくる。
「な、な、何をしたの……?」
バイトリーダーの驚きの声に、面倒だと思いながらも、一応振り返って答える。
「ん~……、新技の練習?
【秘剣・陰牢:参ノ太刀・夕陰】 ── って言っても解らないか……。
脱出口になりそうな所に、オリジナル魔法で設置罠を仕掛けて、一斉発動させただけ。
── ズド~ン!って」
(※格闘ゲームでいえば ↙タメ後↘↙↗+[K] 画面端から横殴りの雨的に飛んでくる感じ)
小ぶりなナイフくらいの『見えない刃』が30本、ズガガガガ……ッ!と斜め45度に降ってくる設置罠だ。
大きな窓とか裏口とか、8カ所くらい仕掛けていたのを、雑に発動。
(初の実戦使用だが、今のところ大きな不具合もなさそう。
対人の制圧技としては、上々な性能かな?
……まあ威力が弱すぎて、魔物退治には使えそうにない技だけどね……)
よほど当たり所が悪くない限り、千枚通しで刺した程度の軽傷。
だから、遠慮なく、容赦なく、魔法斬撃の【断ち】が使える。
(ここ1~2ヶ月ほど、『未強化』で一般人な裏社会を殴ってて気付いたんだが。
どうも、剣帝流の『人殺しNG制限』って、殺す気がないなら発動しないみたいね?)
つまり『手足を切り落とさない程度』の小さなケガさせるなら、【序の一段目:断ち】が使える事に気づいたワケだ。
これが、最近ちょこちょこ暗殺者とか工作員とかと斬り合ったせいで、精神的な『人殺しNG制限』が緩んでいるのか。
あるいは、元々そうだったのか。
どっちか、今ひとつ解らないんだけど。
── まあ、そんなワケで『非殺傷で広範囲制圧な必殺技』という『矛盾の塊』が、もうちょっとで完成しそうなワケだ。
でも、妹弟子との模擬戦で使ったところで、多分引っかからないので、無駄な手札を増やした気もする。
(結局は、だ。
初期の【秘剣・陰牢】が完成度高いから、発展型が創りづらいんだよなぁ……)
そんな贅沢な悩みはさておき、脳内を術式開発から戦闘へ切り替える。
「脱出口に設置罠を仕掛けて、逃げ出す敵を一網打尽 ──
── そうやって楽する作戦だったんだが……」
最初に考えてた手順とは、逆になってしまった。
(── まあ、仕方ない、切り替えていけっ)
心の中で自分に気合いを入れ、現状にあわせて手順を組み直す。
「中の連中もビビって、しばらく脱出口に近寄らないだろうから、突入して殴り倒すか……っ」
── 結局は作戦の細かな事を伝え忘れた自分が悪い、というか。
── 報告・連絡・相談をサボったせいだな、と自分で反省。
(フゥ……、ちょっと浮かれると、いっつもこうなるよな、俺って……)
どうにも進歩が足りない自分自身に、呆れのため息が出た。
「……バ、バカげている……ぅっ」
バイトリーダー、仮面かぶってるから表情がわかんないけど。
確実に、呆れ果てられてた。
▲ ▽ ▲ ▽
さっき雑撃ちした、新技(仮)【陰牢】の『参』。
なんか予想以上に裏社会を負傷させたらしく、他の人員が予定変更して回収中らしい。
で、俺の方は、商業区域の5階建て雑居ビルに乗り込み中。
愛剣・模造剣を振り回し、出てくるヤツをボコスカ殴り倒す単純作業。
── 『なんだ、コイツはぁ~~!』
── 『白い魔導師の服に、素振り用の鉄剣!?』
── 『まさか例の、海港関所の白い死神ぃ!?』
── 『ひぃいっ、間違いねぇ、“毒蛇のダンカン”のケツ持ちだぁっ』
── 『黒蛇会も、青鮫会も、赤猫会も、白鷲会も、全部ツブした倉庫街の地上げ屋!?』
── 『そんなバケモンに勝てるかよぉっ』
── 『こ、殺されるぅっ』
何かワーワー言ってるけど、基本的に聞き流し。
最近は、強面の悲鳴や叫び声に慣れすぎて、耳に入っても内容が頭に残らない。
(……『ワ■ワニパニック』ならぬ、『黒服パニック』よなぁー)
あまりに単純作業過ぎて、あくびまで出ちゃう。
「あ、貴方……っ
東区の海港関所で、いったい何をしでかしたんですか?」
俺がひとりズンズン進んでいると、後ろの方から呆れの声が飛んでくる。
後ろを着いてきながら、なんか色々指示出したりチョロチョロしているバイトリーダーから、『どういう事?』と問いただされたワケだ。
「いや、別に、特に何も……?」
頭脳弱くて、クソいい加減な裏社会の話なんて、マトモに聞かんでくれ。
俺とか、最近、別に『裏社会退治』くらいしか、した覚えがないし。
変なあだ名を付けられる覚えなんて、別に…… ──
(── ん、『シーゲート』『しでかす』?)
何か、遠く薄れかかった記憶が、ちょっと引っかかる。
(……シー●ート社……外付けHDD……装置制御……会社の重要データ……読み取り不能……
……ウッ、アタマが……っ!?)
何か思い出してはイケない事が、脳裏に蘇りかける。
なので、ちょっと頭を振ってリセット。
そして、気分転換に思いっ切りバッティング!
「── どりゃぁ、氏ねええ、クソ上司がぁぁ!!
データのバックアップに問題が出たの、俺のせいじゃ無いって言ってんだろうがっ
誰だよ、会社の備品に海外メーカーの無保証安価品とか買ってきた、大バカ野郎は!?」
【序の三段目:払い】で野球素振り風に吹っ飛ばした木製イスが、狭い廊下を跳ね回る。
そして、ちょっと先の曲がり角に待ち構えていたバカ2人を、死角から強襲。
「うぎゃっ」「なんだっ」
慌てて出てきた黒服に、ゴスン!ゴスン!と脳天撃ち。
「── な……っ、待ち伏せを、あっさり!?
わたしが忠告する前に、既に察知していた?
いくら武術の達人とはいえ、ここまで正確に壁の向こうの気配が読めるものなの……?」
(いや、コレって気配を読む、いわゆる『魔力感知』じゃなくて。
オリジナル魔法【序の四段目:風鈴眼】の魔力センサーなんだよなぁ~)
いちいち説明する義理もないので、心の中にとどめておく。
術式の中核部分からすれば、剣帝流の秘伝的な身体強化魔法【五行剣:風】だからね。
あまり、見せびらかすのも問題なのかな、と今さらながらに思っていたりする。
── 魔力操作オンチの赤毛少女とか、つい同情心から1個お手製<魔導具>あげちゃったけどね。
(そういえば、『魔力感知』って言えば、赤毛少女の魔力操作が、予想よりも上達が早いよな。
さすがは、腐っても魔導の世界的名家<四彩の姓>直系ってところか?
そろそろ、次の訓練内容を考えてやらないとな……)
ここ2ヶ月くらい、朝一で魔法特訓に付き合っている落ちこぼれ仲間の事が、頭のすみにチラついた。
「── それこそ<翡翠領>のような危険地帯で、凶悪な魔物と死闘を繰り返す……
そんな桁外れの荒行で練武を積み上げれば、この『妖精の魔眼』に匹敵する『第三の目』が開眼する、とでも言うの……?」
後ろの方でバイトリーダーが、また小声でなんかブツブツ言っている。
「………………」
そろそろソレ、ホントにヤメて?
バイトリーダーって気配消すの上手いから、ジ~ィッと視線とボソボソ声が、ずっと背後に着いてくる感じだし。
なんかホントに『平家の亡霊が憑いてる』みたいな感じがして、時々ゾクっとする。
!作者注釈!
2023/07/04 妄想覚醒技『タ・リキ・ホンガーン』のコマンドを変更
という誰にとってもどうでもいい修正
2023/07/07 次の話(145話)と構成の一部を変更。最後に2千文字くらい追加。




