143:年末といえば
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
前世ニッポンで、年末といえばアレ。
そう、みんな大好きジャンボなドリーム宝くじと、アリ●記念だ。
え、仮装祭り?
え、サンタさんの日?
そういう耶蘇教の破廉恥な乱行は、ちょっと、ね……。
ごめんな、オッサン、前世じゃブッダさんの所の人だったんだ。
いまでも心は、硬派なヤマト魂なので!!(キリッ)
「というワケで、男は黙って全ツッパ!」
「はい、確認します。こちらの1点賭けでよろしいですか?」
賭けの受付窓口に、金貨数枚(日本円で数十万円相当)をジャラッと積み上げると、周囲からどよめきが湧く。
(ほらアレ、魔導学園の男子寮に食堂バイトとして下宿したから、それで浮いた賃貸の家賃)
── 『おおぉ~っ』
── 『強気の大穴1点買いしてるよ、あの子!』
── 『当たれば10倍! 確かにコレは熱いっ』
── 『あの人、2年生女子の準決勝も穴狙いだったよ?』
── 『ギャンブラーだ、ギャンブルに命賭けてるヤツがいるっ』
士官学校の年末名物の、『軍事演習会』。
ものものしい名前だが、実際には保護者が見に来る『運動会』的なものらしい。
そんな健全イベントで、しかも神聖な学舎で、何故に賭け事なんかをやっているかというと、賭けの胴元が学校事務局で、この手数料が士官学校への寄付金になるらしい。
つまり施設修繕や建て替えのための積立金づくり、半分チャリティーみたいな賭けイベントなワケだ。
士官学校の生徒は、武門とか貴族とかの出身ばかりなので、面子商売で負けん気が強い保護者が多く、昔その辺りのイザコザで売り言葉に買い言葉的に始まった伝統があり、今も特例的に続いているらしい。
なので、倍率は全体的に低め。
本命が1.5倍、大穴でも10倍で頭打ち。
まあ、公立学校内でやるなら、このくらいの低倍率が健全の範囲なんだろう。
「── さあ、賭けで人生狂いまSHOW?」
── 『おい、ヤベー事言ってるぞっ』
── 『あんな美人さんのボロ負け顔がおがめるのか……最高だな!』
── 『貴重な養分、ありがとうございますっ』
うっせーな。
過去の大穴的中率『6/400』って書いてあるんだぞ、超・余裕じゃん?
むしろ確率1.5%も引き寄せられない、引き弱どもめ!
豪運ってモンを見(魅)せてやんよ、クソガキども!
テメーらのお小遣い全部巻き上げちゃる!
── ところでこの異世界って『宝くじ神社』的なヤツが見当たらないんだが。
どこにお参りしたらいいワケ?
▲ ▽ ▲ ▽
そんなワケで、万全の体制で観客席へ。
なお、今日はお忙しい中、魔剣士名門<封剣流>からクルス=ミラー氏においで頂いております。
解説のクルスさん、今日はよろしくお願いします!
「── ん、ロック君どうしたのかね?
こちらをジッと見て」
心の中でバカな事を考えてたら、黒髪短髪のアゼリア叔父から不思議そうな顔をされた。
「いや、今日はリアちゃん活躍できそうかなぁ、とか思いまして」
「うぅ~ん、正直むずかしいだろうね……。
何せこの『軍事演習会』は文字通り、軍事訓練のお披露目だ。
個人の技能うんぬんというより、グループの連携のいかんが、勝敗を分ける種目ばかりだからね」
「なるほど……」
アゼリア、集団行動が苦手だもんなぁ……。
単独で突っ走って、みんなに迷惑かけてそう。
そう思っていたら、案の定な状況が目の前で繰り広げられる。
── 『さあ、ひとり飛び出したのは、アゼリア=ミラー!』
── 『噂の剣帝の後継者は、伊達じゃない!』
── 『さすがに強い、強すぎるっ、1人2人じゃ足止めにもならないかぁ~!?』
熱の入った解説のとおり、訓練武具を着けた男女を蹴散らし敵陣に攻め入る、銀髪美少女さん。
1対3という圧倒的不利にも、物怖じしない。
巧みな足さばきで敵を誘い出し、1対1の状況を作り出す。
つまり、3人から周囲を囲まれないようにしつつ、急接近と急離脱を繰り返し、血の気の多いヤツをあぶり出す。
うっかり、アゼリアの挑発にのって前に出すぎたヤツから、各個撃破していく。
残された敵2人は、突出して斬り合う仲間が邪魔で、なかなか攻撃が仕掛けられない状態。
(正確には、妹弟子が誘導して、斬り合う敵を盾代わりにしてる。う~ん、超天才児!)
そして、1対3から1対2に敵が減れば、嬉々として飛び込む妹弟子。
ギャ・ギャ・ギャ・ギャン!と、魔剣士特有の人間離れした超スピード斬撃音が響きわたる。
女子が剣1本で同年代男子2人と斬り合い、手数で打ち勝っちゃうという、デタラメっぷりを遺憾なく発揮。
速剣の大家<封剣流>の面目躍如だ。
「ひさしぶりに、よいブンブンでしたわぁ!」
ひとりで3人組を3単班くらい蹴散らし、いい笑顔している暴れん坊。
さすがは<御三家>が<封剣流>の秘蔵っ子、超天才児な個人技能だ。
その活躍っぷりに、歓声や喝采が飛び交ってもおかしくない状況 ──
── 『後方でノロノロしている味方を置き去り』とか、独断専行していなければ。
── 『しかぁ~し! 残念ながら自軍本陣が崩壊っ』
── 『今まさに、大将の軍旗が奪い取られたぁっ』
── 『チーム名、お洒落にワイワイDクラス! 敢闘も虚しく、予選突破できずぅ~!!』
ピピーッ!と試合終了のホイッスルが、無情に鳴り響く。
「やはり、こうなったか……」
「う~ん、いつものリアちゃんでしたね~」
頭を押さえる叔父さんと、呆れ顔でポップコーンをパクつく俺。
── 『どこいったぁ、アゼリア=ミラぁぁ~!! 私と勝負しろぉぉ~~~!』
なんか競技場にひとり、槍を振り回して暴れている女子生徒もいた。
▲ ▽ ▲ ▽
「あ、リアちゃんのお兄さん、来てるぅ~」
色鮮やかフワッフワ髪な妹弟子の友達、ペトラちゃんが手を振ってきた。
「やっほー」
手を振り返すと、女子仲良し4人組が近寄ってくる。
「こちら、リアちゃんの保護者で、叔父のクルスさん」
「はじめまして。
うちの姪と仲良くしてくれているようで、感謝しているよ」
「はじめましてぇー」
「……こんにちわ」
「どうもぉ~。ああ、確かに『らしい』感じの人だね」
アゼリアの叔父さんと、お友達3人が初対面のご挨拶。
妹弟子本人は、その間に俺の隣りの席に座っていた。
「お兄様! アゼリアの大活躍をご覧になって?」
フンス!フンス!と鼻息のあらい妹弟子。
褒めてもらう気マンマンと、銀髪キューティクルの頭を近づけてくる。
(お前なぁ……
チーム戦で初戦突破できずに予選敗退してんだが、わかってんのか?)
内心苦笑いしつつも、頭をなでなで。
ついでに、顎の下もなでなで。
気分は日向ぼっこの猫チャンなのか、ゴロゴロのどを鳴らす妹弟子。
(相変わらず、ポンコツだな……)
負けた自覚のないノンキっぷりに、ちょっと呆れちゃう。
すると、妹弟子のお友達のサバサバ高身長少女が来て、満足気に背伸び。
「うぅ~ん、ノルマ達成だね、お疲れさんリアちゃん。
とりあえず1種目は出場しておいたから、わたしもパパにうるさく言われなくて済みそうだよ、ハッハッハッ」
「……根暗なウジ虫も、縁が無い『演習会』に出場できましたので。
これで、今学期の内申点に怯えずにすみそうです……っ」
同類(と俺が勝手に思ってる)陰キャ女子も、どこか満足そう。
「なんか『参加する事に意義がある』みたいな感じだな……。
良かったのキミたち、それで……?」
優勝を狙う本気チームではないと思っていたが、あまりにアッサリしている。
「そっかぁ、部外者のお兄さんじゃ、ちょっと解んない感覚なのか~。
結局ね、優勝とか準優勝とか個人賞みたいな物って、『Aクラス』と『Bクラス』の子達がもってちゃうのよぉ~?」
「しかも、1年生の『Aクラス』『Bクラス』がライバル視してるのって、他の学年の『Aクラス』『Bクラス』だからねぇ、ハッハッハッ」
「……時々『Cクラス』の子が個人賞取るらしいです、番狂わせ的に」
「……お、おう、意外と世知辛いなぁ」
お友達3人の説明に、ちょっと悲しい気持ちになる。
しかし、本人達はあまり気にしていないようで、マイペースな口ぶり。
「ハッハッハッ、だってお兄さん。
ひとつ上位の『Cクラス』が、『A・Bクラス』からあぶれちゃった人のクラスだよ?」
「……『Dクラス』なんて、その足下にも及ばない、哀れなウジ虫なんです」
「それでも、ペトたち『Dクラス』だって、不良ばっかりの『Eクラス』には負けないヨ!」
「しかし、不良の方々は真面目に授業を受けませんので、こんなイベントにも参加されませんわ」
「なるほど、な……」
そういう説明を受けると、士官学校の構造って物が解るようになる。
実力でクラス分けされてしまえば、一発逆転の番狂わせなんて、ほとんど有り得なくなるんだろう。
前世でもあまりパッとしなかった俺としたら、クサっちゃってる不良学級『Eクラス』の気持ちも分からないでもない。
「あらあら、皆さんお疲れ様。
打ち合わせの想定以上の働き、すばらしいものでした。
試合終了後の指揮官、ホフマン家ご令嬢の苦虫を噛みつぶした表情ときたらっ
── いま思い出しても、ンフっ」
レースがいっぱい付いた扇子をワッサワッサしている、超ミニなタイトスカートのお嬢さんがやってくる。
ジュリ■ナ東京かな?
マ■ラジャ六本木かな?
好景気にブイブイ(死語)いわせてた系お姉さんに憧れがあるので、ちょっとドキドキしちゃう!
▲ ▽ ▲ ▽
カラフル髪のお友達が、気安く声をかける。
「ハリちん先輩っ、あいかわらず悪い顔してるネ!」
「だってペトラ、1年生女子のチームにあんなに簡単に蹴散らされ、さらに試合内容は、ほぼ引き分けなのよ?
いくら勝ち進んでも、チーム内は自信喪失で、肝心の本戦の成績もボロボロでしょうねっ」
格好はセクシーだが、仕草は上品っぽい扇子のお姉さん。
口元を隠して、ニッコリと目を細める。
「エリートと思い上がっていた連中が、1年生の下位クラスの子達に辛勝っ
これだから『弱兵』を指揮するのは、たまりませんねっ ンフフッ」
「………………」
なんか、『オーホッホッホッ笑い』がこれ以上なく似合いそうな、逸材が現れた。
「リアちゃん、ディアちゃんを筆頭にした『脳筋ちゃん達』の活躍も見事でした」
「アッハッハッ、大変でしたよっ」
「わたくしも、ガンバリましたわー」
「ええ、期待以上でした。
それ以上に、ペトパメ2人組の、粘りの防衛も素晴らしかったわっ」
「ブイぃ! 戦術的勝利!」
「……すごい、疲れました。もう乾燥状態なウジ虫です。
早く帰ってお風呂入りたい……」
「ホフマン家ご令嬢ったら『すぐに本陣を落とさないと予選敗退!?』と切羽詰まったのか、切り札を全部披露してましたからね。
これで、我が家の姉の勝利も堅調でしょうっ
みんな、よくやってくれました!」
逸材な先輩が、ヒラヒラと上機嫌に扇子を振り回す。
腰をくねらせるダンスとか、もう最高!である ──
── 最高!ではあるのだが……
「………………」
なんだか、うっかり聞いた事を後悔するような、すさまじい場外乱闘が仕組まれているようだ。
(── ってか、そこの女子先輩!
そんな陰謀モドキに、ウチの純真な妹弟子を巻きこまんでくれっ)
俺が内心のツッコミをしていると、アゼリア叔父が声をかける。
「君がチーム指揮官、作戦科の生徒かい?
なるほど、『防御を捨てて攻撃への一点集中』の戦略だったのか。
しかし、それでも勝利は難しかったようだが……」
「あら、どちらの保護者の方かは存じ上げませんが、充分な『戦果』でしょう?
2年生・3年生の『Cクラス』選抜の連合チームに、ほぼ1年生のみの『Dクラス』チームで健闘。
しかも、相手の主戦力をほぼ蹴散らし、勝利条件に今一歩にまでに迫る、濃い内容。
結果は『敗退』だったとしても、教官達もよい点数をつけてくださると思います」
「ふむ、なるほど……」
「そして、この威力偵察をして相手の手の内を丸裸にした後に、本戦で本命の『3年生の主力部隊』が待ち構えているんです。
捨て石とはいえ、優勝チームの勝利に貢献した事は間違いありませんよ?」
アリなのか、そんなチーム同士で協力みたいな作戦。
しかも、学年分けとか、そういう類別なかったのか、この団体競技。
「………………」
(いや、そう言えば、ここ軍人育成の学校だったな……。
勝利のためには、汚いとかズルいとか、二の次なのか?)
▲ ▽ ▲ ▽
そんな呆れ半分、感心半分の心地でいたら、急に熱視線。
逸材な女性先輩が、俺の方をジッと見てくる。
「── あら……、そちらはまた可愛らしい方ね。
どちらさんかの、妹さんですか?」
「あ~……、いや、兄、弟子です。
アゼリア=ミラーの、はじめまして」
急に話を振られて、変な返事をしちゃう。
すると、相手は眉間にしわをよせて、扇子で口元を隠す。
「リアちゃんの……兄弟子、さ、ん ──」
ババッ!と逸材さんがカラフル髪女子を引っ張り、物陰でコソコソ話。
「── ほ、本当ですか、ペトラっ」
「あ~……、うん。
本当に男の人らしいよ、リアちんの兄弟子さん」
「あんな可愛らしい見た目で、しかも武門の殿方ぁ!?」
そして、またババッ!と戻ってくる。
100%よそ行きの完璧笑顔を被って、上品な一礼。
「はじめまして、ハリエッタ=ローズガーデンです。
士官学校の作戦科2年生、今回、妹弟子さんのチームの指揮をあずかりました」
「はあ」
「ところで、貴男様は決まったお相手がいらっしゃいまして?
よろしければ、わたくしの婚約者に立候補されませんか?」
「はいぃ?」
「だ、だって、その、こんな小柄で、可愛らしいお顔でありながら、男性だなんてっ
たくみに粗野で苛烈で暴力的な本性を、お隠しになっていらっしゃるんでしょう?
なんていうか、ステキすぎて胸がドキドキしますっ」
「………………」
そう言いながら、お胸に扇子をギュギュッとしないでください。
ボリューム感がステキすぎてドキがムネムネします!
「それで、いかがかしら?
『婚約者』という提案は?
わたくし、3女で特に期待もされていませんから、お相手の身分差も大した障害になりませんしっ」
「………………」
いきなり見ず知らずの女の『婚約者』になれ、だとぉ?
(なんだぁ、いきなり出てきた平成痴女みたいな格好のヤツがナメやがって!
ここはひとつ、男としてビシッ!と言ってやらないとなっ)
なので、生意気小娘にビシッ!と言ってやった。
「はいっ、よろこん ──」
「── ブ~~! ブブ~~、ですわ!
残念! 売り切れですの、お兄様は売約済みですのぉ!
またの機会に、ですのぉ~~!!」
何故か、妹弟子が割り込み。
両腕で『×』して、目の前をチョロチョロする。
「なんだ、いきなり、妹弟子!
兄ちゃんの、千載一遇な婚活チャンスを邪魔すんなっ」
「ダメぇ~~! ダメダメですのぉ!
お兄様みたいな、ダメダメ男子に夢中になったら、きっと育ちのいい先輩とか、苦労するに決まっていると思いますのよぉ!」
「リアちゃんのお兄様、ダ、ダメダメ男子なの!?
しっかりして落ち着いてらっしゃる見た目に反して、実はプライベートはずぼらでいらっしゃる!?
あ、あぁぁっ、ど、どうしよう、たくさんお世話したい!
ハリエッタ、胸が高鳴ってしまいますっ」
何故か、さらに顔を真っ赤にする、逸材のお嬢さん。
すると、ついに妹弟子が野良ネコみたいなポーズで威嚇し始める。
「フ、フシャァァァ~~~!
ダメですの、ダメ絶対ですの!
先輩みたいなお嬢様は、ダメ男子なお兄様にボロボロにされちゃうに決まってますの!
お金にだらしなくて、趣味にジャブジャブで、家庭にお金なんて入れない系男子ですわよぉ!
歓楽街とか毎週通って、商売女に貢いでしまう、ロクデナシですわよぉ~~!」
「何を兄弟子のある事ない事、悪評をバラまいてやがる!
だいたい兄弟子、5年間もお前のご飯の用意からお風呂洗濯まで、ずっと面倒見てやったんだろうがっ
2回の人生で、初の結婚のチャンスなんだぞ!
ちょっとは恩を返せ、このポンコツ妹弟子!」
「だったら、リアが責任持ってお婿に引き取りますのよぉぉ~~~~!
一緒に寝ている妹弟子にエッチな悪戯してくる、野獣のような兄弟子ですのぉぉ!」
「ヤメロォ~~!
変な事言って回るなぁぁ! えん罪だぁ! 俺は無実だぁあ!」
「や、野獣!?
可憐なお顔をして、本性は野獣なのですか!?
── い、いけない、鼻血が……っ」
「そうですの!!
ですので、ハリちん先輩の代わりに、アゼリアが不幸嫁になりますので、どうぞお構いなくぅ~~!!」
絶対にこの縁組みを破談させてヤる!
そんな鉄の意志を感じさせる妹弟子の言動だった。
(アゼリアお前ぇっ
そろそろ本気で『兄弟子離れ』しろよな!?)
「ハハハッ、モテるねロック君?」
アゼリアの叔父さんは、ちょっと離れて、騒動を笑いながら見ていた。
!作者注釈!
ついカッとなって使い捨てキャラを出した。
今では反省しているし、今後出番の予定もない。




