表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 6/勝利演出:水面下の空騒ぎ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

142/236

142:三者三様(下)

闇夜の林の中、緊迫の声のやり取りが続く。



「クッ、近づくのは悪手(あくしゅ)か……! ならばっ」



裂帛(れっぱく)の気合いと、ヒュン!ヒュン!という風切り音。

残った工作員(スパイ)2人の片方が、<短剣(ナイフ)>を左右の連投、しかも毒塗りの刃。


触れる事も恐ろしい『毒刃(それ)』を回避すれば、大きく体勢が崩れるはず ──

── その瞬間を、もう一人が<中剣>を構えて、今かと狙い澄ます。



「フン……、下らん手だ」



しかし、相手は鼻息ひとつ、全くの予想外の行動にでる。


両手を突っ込んだポケットから、タオルらしき布切れを出して、クルクルと振り回す。

たったそれだけの事で、毒塗り<短剣(ナイフ)>が2本ともに(から)めて落とされる。



「バ、バカな……」



暗部専用の、刃部が黒塗り加工された、格闘用<短剣(ナイフ)>が。

超人の身体能力で放たれた、必殺の飛刃が、まるで木の葉か羽毛のように。

そんな軽量な物では、ないはずなのに。



「コイツ、今、何をした……っ」



動揺する工作員2人の前で、村の青年が舌打ちする。



「クソっ、腕前が(・・・)下手(・・)すぎて(・・・)、力の流れが歪んでいる。

 お陰で、跳ね返すどころか、叩き落とすだけでも余計な腕力(ちから)を使わされる。

 やはり【五行剣(・・・)()使わないと(・・・・・)ダメか?」



面倒だ、とばかりに独白して、左手を胸の高さに上げる。

左手首の周りに精密な<法輪(リング)>が浮かび、5秒もかからず回転を終える。


── 『チリン!』と自力発動(・・・・)、鈴のような音が鳴る。



「身体強化を、自力詠唱(キャスト)!?」

「そんな、ばかげた事が……!」


「……ん、何を珍しがっている。

 剣帝とその弟子は、いつもこう(・・)するだろう?

 それともアイツ(・・・)、あまり表に出ていないのか?

 この『分岐(ルート)』ではお師匠様が、<黒炉領>(ブラック・フォージ)ではなく<翡翠領(グリンストン)>を修行場にしているし、いったい何がどうなっているんだか……」



特級の身体強化の魔法陣らしき物(・・・・)を背中に浮かべた村の青年が、首を傾げてまた独り言。


その間に、工作員(スパイ)2人は左右に分かれ、円を描くように両脇から狙いをつける。



「その幻術じみた面妖(めんよう)な技!」

「死角からの攻撃にも、対応できるかなっ」



工作員(スパイ)2人は、虚勢の声を張りあげて自身を鼓舞(こぶ)する。



「……いくら『魔剣士ではない分岐(ルート)』とは言え。

 『10番以下(ローカード)』なんかに、いまさら(・・・・)負けるかよっ」



身体強化の魔法陣を背負いながら、ろくに構えもしない村の青年。

その太々(ふてぶて)しい態度をあやしみながらも、工作員(スパイ)2人は一斉にしかかる。



「── ジャァッ」「── シャァ」



厳しい訓練が見て取れる、抜群の挟撃(はさみうち)

中剣(ミドル)>が足を狙い、<短剣(ナイフ)>が胸を刺す。



「ガァ……ッ!?」「なっ……ッ!?」



工作員(スパイ)2人が、お互いに(・・・・)、武器を突き刺し合っていた。

(さいわ)い<短剣(ナイフ)>使いの方は、脚甲に阻まれ仲間の(・・・)毒刃(・・)で傷を負わずに済んでいる。



「グゥ……、ゴフォ……ッ、ガハァ……ッ」


「なっ……、なぁっ……、なんだ、これは!?

 やはり幻像(げんぞう)か!?

 俺は(だま)されているのか!

 あるいは、薬物か何かで感覚を狂わされているっ!?」


「チっ、ひとり残ったか……

 思った以上に、腕が(にぶ)っているな。

 しかし、今さら鍛え直したところで、この『分岐(ルート)』で使う機会があるのか?

 逆に、また『薄目鬼(うすめおに)ルカ(・・)』なんかに、頼られても面倒だからな……」



村の青年は、片手をポケットに入れたままの雑な体勢で、片足を蹴り上げる。

しかし、足下に転がっていた死者1人目の<中剣(ミドル)>は宙を舞い、曲芸のように青年の片手に収まった。



「バ、バケモノめぇ……!?」



この工作員(スパイ)3人組は、全員が<四環許し>(上級の魔剣士)

普通なら騎士として地方領主に仕えていてもおかしくない、上位の腕前。


そんな自身が足下にも及ばないと感じる、敵対者のすさまじい技量。

番札(アルカナ)11番(ペイジー)』 ── つまり、小隊長格である武術の達人(特級魔剣士)以上の底知れ無さを感じ取り、冷や汗をぬぐう。



「せめて、コレだけでも……っ」



最後の工作員(スパイ)は、思わず自分の背の『荷物』に()れる。


そして、死者2人目の背嚢(バッグ)から<短導杖(ワンド)>を引き出し、すぐに機巧(ギミック)詠唱(えいしょう)

余裕の表情を向ける村の青年へ、『カン!』と拍子木(ひょうしぎ)の音を立てる副武装(サブアーム)を向けた。



── ズドドド…ォォン! と破裂音がいくつも重なった。



それは、すべてを有耶無耶(うやむや)にする、工作員(スパイ)の最後の手段。

森林火災を起こすための、特殊な広範囲の火炎魔法が放たれた。





▲ ▽ ▲ ▽



「ハ、ハハ……!

 さ、最初からこうしておけば良かったんだ!

 例え達人でも、例え幻像魔法で自分の位置を誤魔化しても、広範囲魔法なら ──」


「── なら、なんだ?」



連続破裂が起こったの炎の中から、冷ややかな声が聞こえる。


同時に、ゴウゴウと風が渦巻いた。



「な、なんだっ 竜巻かっ」



数秒、突風が吹き荒れ、逆巻き、炎を消し飛ばす。

最後の手段であった、森林火災を起こすための広範囲の火炎魔法が、消え去る。


そして、炎が消えた中心には<中剣(・・)を一振り(・・・・)している青年だけが立っていた。



「きょ、強風の<魔導具>(マジック・アイテム)……?」



そうに違いない!、という工作員(スパイ)の願望の言葉。

しかし、村の青年にあっさり否定される。



「いや、身体強化魔法 ── 【五行剣(ごぎょうけん)(みず)】の効果だ。

 熱・風・圧力・運動エネルギー、身の回りの物理的な力を操る特殊効果(ちから)

 その精髄(せいずい)・『推流(すいりゅう)(ずい)』に到達すれば、こういう事(・・・・・)もできるようになる」


「ご、【五行剣】!

 ハッタリではなく!?

 『剣帝流』、本物の『剣帝流』のひとりかっ!?」



神王国の工作員(スパイ)は、数ヶ月前の<聖都>(センダード)の大事件を思い浮かべ、顔を青ざめさせる。


たった2人の弟子が、魔剣士を含めて千人を叩きのめした、まさに『帝国最強』流派。

さらに、裏組織『兄弟の絆』(ブラザーショップ)の暗殺者を何人も蹴散らした事も確認されている。

そんな『剣帝流(かれら)』は、もはや工作員(スパイ)にとって恐怖の象徴。



「『剣神(・・)』、だよ。

 我が師・剣帝(・・)ルドルフ(・・・・)を越えて(・・・・)武神の(・・・)申し子(・・・)の領域にまで至った者。

 まあ、この『分岐(ルート)』の間者(スパイ)に言っても ──

 ── いや、待て、貴様。

 今、なんと言った?

 剣帝、『流』、だと?」



名乗った後に、急に困惑の声をあげる村の青年。


恐怖におののく神王国の工作員(スパイ)には、問いかけは届いていない。



「── ぁ……、あっ、あぁっ、そういう事かぁ!

 剣帝の3人目(・・・)の弟子(・・・)か!?

 そうか、貴様ら『剣帝流』は!

 あの『剣帝の一番弟子』が、闇の技を使うという理由は、コレか!?

 こうやって人知れず闇に君臨してきた、帝国の五番目の『防諜』(カウンター)

 それが文字通りの『帝国最強』という事か!?」


3人目(・・・)……2人目(・・・)ではなく?

 貴様は、いったい何を言っている。

 剣帝ルドルフの、お師匠様の弟子が ──

 ── 弟子に(・・・)なれる(・・・)人間が、そう何人も居るはずがないだろっ」



困惑する青年と、恐慌(きょうこう)状態の早口で推測を並べる工作員(スパイ)とでは、まるで会話が成立しない。


まさにディスコミュニケーション。

キャッチボールにはならず、ただ言葉を投げつけ合うだけの無為(むい)な時間が過ぎていく。



「なるほど、正統後継に女を()えたのは、衆目(しゅうもく)を集めるための(おとり)か!?

 そして貴様ら2人こそが、真の意味の『帝国最強・剣帝流』という訳か!?」


「正統後継の女?

 いやアイツ(・・・)女子に(・・・)見える(・・・)男児(おとこ)だろ……?」



村の青年は、理解できない言動に、思わず頭痛の仕草。


その瞬間、工作員(スパイ)の殺意が暴発!



「── くたばれっ」



無法者(ヤクザ)のような、腰だめの突進。

無様で泥臭い戦法だが、しかし確実な戦法だと判断した、捨て身の攻撃。



「── フッ……っ!」



ズン……!と確かな手応えに、最後の工作員(スパイ)はニヤリと笑い ──

── そして、自分の胸に生えた<短剣(ナイフ)>に、驚愕する!



「バ、バカな……この不条理……

 もはや幻術というより、奇術(きじゅつ)か……?」



工作員(スパイ)が腰だめで突進した相手は、その場から一歩も動く事なく、元の位置に立ち尽くしている。

中剣(ミドル)>をもっていない片手を、振り抜いた体勢で。



「……なるほど、『古代<魔導具>(マジック・アイテム)模倣品(レプリカ)』か」



さらには、いつの間にか工作員(スパイ)が背負っていた、<中導杖(ロッド)>すら奪い取られていた。



「コレと似たような物を、ベン先生(・・・・)が発見した『分岐(ルート)』もあったな。

 大方の翻訳をすれば、『魔物』の『神経』に、何か『直接』、『指示』でも与える?

 ああ、『模倣品(これ)』で貴様らが守り神ジョフー様を狂わせたのだな?

 その狂乱の結果、村が滅ぶ、という訳か。

 なるほど、なるほど……」


「そんな、ひと目で、古代魔導を……」


「ああ、古代魔導の研究は20~30周回、累計(るいけい)4~5百年ほどやったからなぁ……

 まあ、このくらいの、よく見る(・・・・)『死語』(デッドワード)くらいならな?」


「お、お前は、いったい……っ」



倒れた工作員(スパイ)は、血を吐きながら、最後の呼気(いき)で問いかける。



剣帝(けんてい)ルドルフ(おう)ただ(・・)一人の(・・・)弟子(・・)剣神(けんしん)』 ──

 ── さっき、そう言ったはずだ」





▲ ▽ ▲ ▽



村の青年は、最後の工作員(スパイ)息途絶(いきとだ)えたのを見届けて、背中を向ける。


そして、奪い取った『古代の<魔導具>(マジック・アイテム)模倣品(レプリカ)』を無造作に投げる ──

── 瞬間、<中剣(ミドル)>を上段に構えた青年の姿が消えて、10mほど先に出現した。


まるで、瞬間移動のような光景。

空中で<中導杖(ロッド)>は真っ二つに分断され、地面に落ちる。


凄まじい絶技だが、本人は顔をしかめて舌打ち。



「フン……ッ

 さすがに奥義は駄目だな。

 『無声の一迅』(サイレント・ゲイル)さえも、キレの悪さが目立つ。

 脚力もそうだが、そもそも腕が()()いている……

 ……こんな俺が、幸せな家庭をもった代償が、コレか……」



そして、鹵獲品(ろかくひん)の毒塗り<中剣(ミドル)>を、刃部の(なか)ばまで地面に突き刺し、片足を乗せる。

ドン!と小さな破裂音。

その片足は、足首まで土に埋まっていた。

足の下にあった<中剣(ミドル)>など、跡形(あとかた)もなく地中へ埋没(まいぼつ)している。



「……しかし、『剣帝()』とは何だ?

 『剣帝の弟子』、『剣帝の後継者』、『五行剣の継承者』 ── そういう呼び名でない理由は?

 いや、所詮(しょせん)間者(スパイ)の言う事だが……。

 ……だが気になる情報だ、この手の違和感は放置すると、だいたい痛い目に()う。

 今まで(・・・)一度も(・・・)俺は(・・)、そんな呼ばれ方をした事がないはずだが……?

 何故(なぜ)アイツ(・・・)の時(・・)に限って、こんな意味不明な事ばかりが……?」



青年はそんな事をぼやきながら、工作員(スパイ)の遺体3人分を、ボールのように軽々と蹴飛ばす。

そして死体の小山を造ると、分断した<中導杖(ロッド)>も放り込み、無造作に自力詠唱(キャスト)


わずか数秒で中級攻撃魔法が放たれて、業火(ごうか)が人間の死体の山をまとめて包み込んだ。



「ハァ……ッ、頭が痛い事だらけだ。

 そもそも、何故あの『薄目鬼(うすめおに)』が、『帝国西方の神童コンビ』なんて呼ばれている?

 だいたいルカ(おまえ)、『首刈り鎌(デスサイズ)』の頭領(とうりょう)だろうが!

 どの『分岐(ルート)』でも『裏・御三家史上、最強の隠密(おんみつ)』って話だったじゃないか!

 例の大男が生き延びたら、急に『神童』とか訳の解らない名誉職に()くなよ!

 いったい何が、どうなっているんだ!?」



少しすると、軍用魔法の高火力でジュウジュウと音が鳴り始め、人が焼ける匂いが一帯に広がった。


青年は臭気(しゅうき)に顔をしかめ、消し炭になるまで見守りながら、自問自答を繰り返す。



「── クソッ、今回の『分岐(ルート)』は訳が解らなすぎる……、

 判断のための情報が足りない、足りなすぎる。

 やはり『塩札の情報網(ソルト・ネット)』くらいは、万が一と敷いておくべきだったか?

 しかし、あれは維持と保全(メンテナンス)に手間がかかりすぎる。

 そんな何度も家を空ける理由が作れないし、無駄にあやしまれるだけ、家庭不和の元になっても困る……

 それに、幼い頃から父親が放浪など、あの子の成長に悪影響が……

 いや、所詮は、やがて無に帰る仮初(かりそ)めの人生だ……

 だが、人の親として、愛する子には、少しでも健やかに……

 ── ああぁ、クソッ!

 なぜ『休憩(きゅうけい)回』に、こんな無駄な苦悩をっ

 だが、もし<副都>の闇市(やみいち)に、あのダンカンが居るなら、俺の代わりを……

 ……いやしかし、あの性悪(しょうわる)マムシ男、虚偽(ブラフ)を混ぜた情報を寄越(よこ)してきて、こちらを(ため)真似(まね)をしてくるから、性質(たち)が悪い ──」



村の青年は、独り言をブツブツとつぶやき、ふと、自分を見つめる円らな瞳に気付く。

すると、すぐさま駆け寄り、その相手に優しく語りかけた。



「── ジョフー様。

 ご寝所(しんしょ)をお騒がせして、申し訳ありません。

 村の守り神の貴方様を(がい)する者は、もういない」



神殿じみた岩場で巨体を横たえる、大人を軽くひと呑み出来るほどの山椒魚(サラマンダー)

そのぬめる(・・・)肌にそっと触れて、頭を深く下げた。



「これからも我が村を、『彼女』を、そして『彼女との子』を。

 お願いです、どうか守って下さい」



この村で生まれ育った青年は、真摯(しんし)に願いを口にするのだった。


!作者注釈!


おもしろい!と思ったら下の方にあるヤツ、何か押してもらうと、

あと「何話がお気に入り!」みたいな一言感想でも、うれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] かつて対○忍シスターさんと一緒に村回りした『ガチ勢』さんは詳細不明ですが、ロックのお兄さんはガチでこの世界を何回もループしてる…ってことなのかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ