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異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 6/勝利演出:水面下の空騒ぎ

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140/236

140:三者三様(上)

<帝都>の最奥、夜の宮廷。


その離れの地下階廊下に、小刻みで軽い足音が響く。

若い女が肩を怒らせ、小走りにやってきた



「── 『金貨の12番(コインズ・ナイト)』を仕留(しと)めた。

 そんな寝言を聞かされ、万が一と見に来れば、貴女(あなた)ですかっ」



涙目の仮面と、白い式服 ── 魔導師の能力を高める、魔法付与(エンチャント)羽織(ケープ) ── という特徴的な格好の女だ。



「おや、仮面のお嬢さん、久しぶりだね」



振り返った相手は、騎士を退位した白髪の老女。

しかし、その長身は引き締まっていて老いを感じさせず、男性騎士に引けを取らない精悍(せいかん)さを(ただよ)わせている。



「……『狼泣かせのスペンサー』、そして『岩斬りのスペンサー』!

 西方国境の猛将にして剛剣(ごうけん)は、老いても健在ですかっ?」



仮面の女は、相手の連れた可憐な少女に気付く。

そして得心した(・・・・)と、小さく鼻息。



「フン、なるほど、秘蔵っ子の『殺戮人形』(キリリング・ドール)までも動員。

 騎士団の第四が切り札を使ってまで、神王国の工作員を暗殺(・・)とは。

 越権行為(・・・・)に死に物狂い、よほど『金貨の12番(コインズ・ナイト)』に恨み(・・)でもありましたか?」


「── 『暗殺』……?

 何を言っているんだい、『金貨の12番(アイツ)』、まだ死んじゃいないよ」


「はぁあ、『死んでない』って!?

 まさか、生きているんですか!」


「ウソだと思うなら、そっちの治療室をのぞいてきな?

 ベッドで青ざめてウンウン言ってるから。

 めったと見られない傑作だよっ」


「── コ、『金貨の12番(コインズ・ナイト)』が、生きて、そこに居るぅ……っ!

 神王国の切り札を、生け捕り(・・・・)ぃ!?

 ふざけないでくださいっ」



白い式服の女は、髪を振り乱すほど、頭を振る。

仮面に隠れて表情は知れないが、激情と混乱は明らか。


長身の老女は、失笑しながらも、話を続ける。



「さらに言うなら、今回の為手(して)はワタシでもこの子でもないよ」


「バカな!

 他にいったい誰が、あの『黄金色の悪夢』をっ、魔物同然の『巨獣』を!

 生かした(・・・・)ままで(・・・)()らえられると言うんですか!

 対人戦に長じる<狼剣(ろうけん)流>精鋭単班(ユニット)さえも、そろって生首を落とされたのに!

 ()(ごと)も、いい加減にしてくださいっ」



仮面の女は、ほとんど悲鳴じみた金切り声。

対して、老女は笑いをこらえるような声で応える。



魔物同然(・・・・)ね、クク……ッ、なるほど。

 なら逆に(・・・・)、得意中の得意だろうね。

 まったく、なんてガキだい……っ」


「いったい、何を言ってるんですか!?」



事情が呑み込めず混乱する仮面の女。

老女は、軽く肩をすくめて、極めて雑な説明を始める。



「この子を ── ウチの若い乙女を ── (にく)からず(おも)っている若者がね、窮地(きゅうち)に駆けつけて不埒者(ふらちもの)を叩きのめしたのさ。

 う~ん、愛の力は偉大だねぇ~っ」


「いやいや、お師匠サマ……」



祖母ほどの高齢騎士に、頭をなでられた褐色少女は困った様に(まゆ)を寄せる。

そんなアットホームな光景すら、仮面の女の神経を逆撫(さかな)でする。



「── バカにしてるんですかっ?

 お望みなら、宮廷に特別審問を申請しますよ!

 いくら『第四の監査部』が、貴族すら粛正(しゅくせい)する懲罰(ちょうばつ)部隊だとしても、こちらは帝室の直轄(ちょっかつ)機関(きかん)ですからね!!」


「やれやれ、余裕のないお嬢さんだね。

 いつもそんな様子なら、『月下凄麗』ルナティック・ティアーではなく『癇癪の涙』ヒステリック・ティアーとでも改名したらどうだい?」


「くっ、他人(ひと)をバカにして……っ」



仮面の女が、下唇を噛みしめる様な声を出す。


冷たく厳しい声色が、老女の口から漏れた。



「フン……、何を言ってるんだか。

 他人(ひと)をバカにしてるのは、アンタじゃないかっ

 ウチはアンタ達 ── 帝室密偵(みってい)の仕事を手伝った(・・・・)立場だよ?

 あんな厄介な神王国の工作員(スパイ)を、今まで放置してくれたお陰で、こっちの隊員が何人やられたもんか!

 それなのに、『越権行為』だの『特別審問』だの、(おど)される筋合(すじあい)いはないね!」


「……クッ……」



正論の反撃に、仮面の女は言葉に詰まった。


老女は、ため息をひとつ。

悪化した雰囲気を和らげる様に、冗談めかした口調で告げた。



「まあ、<帝都>から出た事ないアンタは知らないかもしれないけど、辺境はどこもおっかない所でね。

 <翡翠領(グリンストン)>の外れなんて、まさに帝国随一の魔境。

 まともな神経の人間が住む場所じゃない。

 だから、まとも(・・・)じゃない奴(・・・・・)が ──

 ── 例えば<羊頭狗(ガク)>と真っ向から()(むす)ぶような、尋常(じんじょう)じゃない猛者(もさ)が育つ」


「……『羊頭狗(ガク)殺し』。

 つまり、元AA(ダブルエース)冒険者『人食いの怪物(マン・イーター)』を雇用(つかった)

 だが、その戦団(パーティ)は数ヶ月前に<聖都>(センダード)から<副都>へ本拠地(ホーム)を移したはずです。

 この<帝都>に入ったという報告は受けていませんが?」



仮面の女は、疑念の声。


そこに、若い男の声が新たに加わった。



「若者、<翡翠領(グリンストン)>、『羊頭狗(ガク)殺し』……。

 なるほど。

 『彼』、元気にしてました?」



老女が振り返り、少し目を見開く。



「おや、そっちの金髪お坊ちゃんは、アイツ(・・・)の知り合いかい?」


「ええ、おそらく。

 その『彼』が、小柄であるのならば。

 ── おっと、ご挨拶が遅れました。

 お初にお目に掛かります、スペンサー元・特務騎士」



元・騎士の老女が若い男に目を向けると、相手は腰を折って頭を下げる。


穏和な言動に、明るい金髪と甘い美貌、そして精悍(せいかん)な長身痩躯(そうく)

若い女性の理想を形にしたような、若手魔剣士だった。



「── お初、か……。

 ワタシの方は、その嫌味なほど整った顔に見覚え(・・・)があるよ。

 あの種馬め、こんな男女(おとこおんな)まで口説きやがったからね。

 まったく『選ばれた血脈を(つな)ぐ義務』なんて寝言をほざいていたけど ── 息子か、孫か、はたまたひ孫(・・)か知らないけど ── アンタみたいな『実例』が生まれてるんじゃ『スケベ(じじい)妄言(もうげん)』と笑えなくなるねぇ」


「ハハハ……っ」



若手魔剣士は、身内への厳しい評価に苦笑い。

そんな彼に、仮面の女が()()った。



「── スカイソードっ

 貴男、今回の為手(して)に心当たりがあるのですか!?」


「ええ、先輩。

 前に一度、手を貸してもらいました。

 それこそ<羊頭狗(ガク)>の群れを連れた敵集団と、斬り合った時に」


「……ば、バカな……っ

 <御三家>の天才児 ──

 ── よりによって<天剣流>の第五席次(せきじ)である貴男に(・・・)匹敵する(・・・・)使い手が、無名のまま()に居るとぉっ?」



事もなく肯定され、仮面の女は思わず一歩(あと)ずさる。

そして仮面の下の細い(あご)に指を当て、ブツブツと独り言をもらす。



「あの<錬星金>(オリハルコン)『剣刃殺し』(ソード・ブレーカー)を突破して……

 『金貨の12番(コインズ・ナイト)』を生け捕りにするようなバケモノ(・・・・)が……

 この<帝都>に、人知れず(ひそ)んでいると……?」


「……『バケモノ』は(ひど)いね、仮面のお嬢さん。

 ウチの乙女の『いい人』なんだから、悪口はやめてもらえないかい?」



失笑しながら苦言をいう老女。

すると、部下の褐色少女が顔を紅潮させた。



「お師匠サマ、な、な、なにを!

 ワタシの『いい人』なんかじゃないデースっ」


「いいじゃないか。

 コレって男が居たら早くツバつけとかないと、すぐにかっ(さら)われるよ?」



老女と若い娘が、恋愛話で盛り上がる。

そこだけ切り取ってみれば、ひどく平和な光景。


仮面の女は、そんな弛緩した空気を斬り裂く様に、剣呑な声を発する。



「つまり、その小娘が色香(いろか)で、『羊頭狗(ガク)殺し』の人外(じんがい)手懐(てなづ)けている、と?」



すると、元騎士の老女は小さく肩をすくめて、年長者として含蓄(がんちく)ある言葉を告げた。



「バケモノ、人外(じんがい)、ねえ……

 自分が投げつけられた言葉のナイフを、他人に向けるもんじゃないよ、仮面のお嬢さん?」


「………………黙れ……っ」



仮面の女の声は、冷たく凍てついた物。

聞きようによっては、まるで泣く寸前の無機質さ。


老女は、また小さく肩をすくめる。



「フゥ……ッ、まあいいさ。

 詳しくは、そっちの色男に()きな?

 いわば『例外中の例外』、存在する(・・・・)はずがない(・・・・・)強者。

 ── そういう意味ではアンタのご同類(・・・)だよ、『妖精(ようせい)』のお嬢さん?」



そんな言葉を残して。

帝国騎士団第四方面隊の監査部 ── 不穏分子粛正の密命を帯びた特殊部隊は、帰って行った。





▲ ▽ ▲ ▽



同日、<聖都>行政府の中心。



「── だからワシはこう思うのじゃ。

 結局、『五行剣(ごぎょうけん)』を<封剣流>へ譲渡(じょうと)したのは交換条件(・・・・)の一つ、つまり『結納の品』代わりだと」


「つまり、剣帝が欲したのは『流派の後継者』としてのアゼリア(・・・・)=ミラー(・・・・)ではない……?」


「<封剣流>の娘を弟子に迎えた理由が『一番弟子につがわせる(・・・・・)花嫁だから』、だとぉ……?」


「ああ、そう(・・)としか考えられん。

 おそらく(くだん)の『竜殺の撃剣(けん)』、あるいは『斬撃の魔導』と呼ばれる術式こそが『剣帝流の真の奥義』じゃろう」



夜も遅い時刻というのに、魔剣士らしき老人たちが正装で集まっていた。



「つまりソレこそが、剣帝が苦境に身を置いてまで追い求めた剣の究極(・・・・)、という訳か?」


「なるほど。

 ナマクラを一時的に利刃(りじん)(きた)える魔導があれば、いかなる状況でも全力で闘える。

 粗末な武装で戦い抜いた常時戦場が(ゆえ)の、奥義(おうぎ)か……」


「そうと解れば、もはや疑問の答えは明白じゃろう?

 剣帝にとって真の意味での『後継(あとつぎ)』とは、あの一番弟子をおいて他におらぬ。

 ── ハッ、『魔剣士としての才がない』だと?

 ── 『魔力の不足から後継者から下ろされた』だと?

 バカを言うな、そんな(・・・)見れば(・・・)解る事(・・・)剣帝(ルドルフ)のヤツは最初から当然(・・)承知の上(・・・・)だったはず」



老人3人が雑談に興じているのは、大聖堂の奥にある貴賓室。



「そもそも剣帝は、10年以上も前に魔導三院へ(・・・・・)術式を(・・・)開示(・・)しておるからな。

 皇帝陛下との例の約束事の一部とは言え。

 そう言う意味では、あまり『五行剣(ごぎょうけん)』には重きをおいていないようにも、思えるしな」


「まあ、道理を考えれば当然か。

 確かに『五行剣(ごぎょうけん)』は新鋭の身体強化魔法であり、『特級(・・)を越えた(・・・・)超級(・・)』とでも呼ぶべき性能。

 だが現実として、いったい何人の魔剣士がそれを(・・・)使い(・・)こなせる(・・・・)か?」


「我ら<(うら)御三家(ごさんけ)>直系の中でさえ、そもそも『特級(・・)身体強化の特上性能すら(・・・・・・)十全に()かす才能』が何人いるか……」



この貴賓室は、聖教の最高指導者<聖女>(サンクト・シーコ)との面談の場。



特級でさえ(・・・・・)持て余し(・・・・)ている(・・・)のに、特級を(こえ)魔法(ちから)など無用の長物(・・・・・)


そんな物(・・・・)を使いこなすなど、それこそ『封剣流が練武千年の結晶』銀髪の忌み子(アゼリア=ミラー)くらいという訳か?」


「なるほど。

 『竜殺の剣士』を父に、『五行剣の継承者(けいしょうしゃ)』を母に、なぁ……

 ククッ、想像しただけで震えが起こるわっ」



しかし、この老人3人を呼び出した(・・・・・)、肝心の<聖女>(サンクト・シーコ)本人が急用のため、この部屋で待ちぼうけをくらっていた。



「そうして生まれた子は、間違いなく帝国最強の魔剣士……!」


「ああ、その血脈は『人類守護の剣』と呼ぶに相応しいであろうっ」


「ついに、真の意味での『斬魔竜殺』が体現されるかよぉっ

 それこそ、剣帝が考える『あるべき結末(ドン・ドハレ)』かぁ……!」



そのため、雑談が ── しかも他流派の後継について、という四方山話(よもやまばなし)がひどく弾んでいた。



「老いたこの身がうらめしいのう……

 『子』が育つまで20年、なんとしても生き延びて、その()(よう)をひと目みたいものよっ」


「しかし『子』とは、つくっておくものだなぁ。

 <轟剣流(ウチ)>も、魔剣士家業から逃げ出し漁師なんぞになった次男坊の、さらに子が、いつの間にか『神童』などと呼ばれるのだからな。

 つくづく、人の縁とは解らないものよ……」


「貴様ら<魄剣(はくけん)流>と<轟剣(ごうけん)流>は良いではないかっ

 『神童コンビ』という有望若手!

 さらに『剣帝流』から秘伝の<魔導具>(マジック・アイテム)も、戦争(いくさ)どさくさ(・・・・)で入手しおって!

 ── ああっ、どうして我が<玉剣(ぎょくけん)流>は、こうも冴えない『子』ばかりか……」



待ちぼうけ老人3人の話は盛り上がり、まるで居酒屋談義ほどに白熱してくる。


そこに、優しげな女声(おんなごえ)が水を差した。



「── 楽しそうな、お話ですね」



待ち人<聖女>(サンクト・シーコ)の入室に気づき、魔剣士の老人3人は居住(いず)まいを正す。



「これはこれは、聖下(せいか)!」

「聖女様も、お人が悪い」

「早くお声をかけていただければ」


「ごめんなさいね、あまりに楽しげでしたから」



呼び出した本人は曖昧な笑顔で、対面の席に腰掛ける。



「このような夜更けに、どのような御用向きで?」



最も年配の老人が、3人を代表して問いかける。


すると、聖教の最高指導者である老女は、ス……ッと目を閉じて、笑みを引っ込める。

独り言のようにつぶやく。



「……かつてミャーコ様も、このようなお気持ちだったのでしょうね。

 重い、重い決断をしなければならない時がきました。

 例え、後世に『血まみれの聖女』と呼ばれるとしても……っ」



そして、数秒の沈黙。


目を開けば、そこには冷厳な緊迫感がみなぎっていた。

凛とした声で、告げる。



「第38代目聖女、メーガン=タマーコ=クライスラーの名において ──

 ── 『首刈り鎌(デスサイズ)』の招集(しょうしゅう)要請(ようせい)します」





▲ ▽ ▲ ▽



当代の<聖女>(サンクト・シーコ)の言葉が続く。



「今から3ヶ月前のあの日、わたくしは会食に出席する予定でした。

 『剣帝流』の弟子2人との会食です。

 その翌日の『昇還祭(しょうかんさい)』開会式にも、貴賓(ゲスト)として迎えるつもりでした。

 <翡翠領(グリンストン)>を守った若き英雄の功績(こうせき)(たた)え、その名声を広めるために。

 ── 思い返せば、何と(おろ)かな考えだったか……」



第38代目聖女タマーコは、悲しげに微笑む。



「若者たちは、そんな形ばかり(・・・・)の栄誉や名声など、何も望んでなかった。

 むしろ、自ら進んでドロを被り、この<聖都>(センダード)に長年巣くう闇を浄めようとさえ、してくれた」



菱十字(ひしじゅうじ)を円に囲む、聖果(せいか)山梨(やまなし)の枝、翼の生えた雲・聖水霊クラムボン ──

── 最上位の聖紋衣を着た老女は、苦悩の顔で(かぶり)を振る。



「いま思い返せば、当日の『神童』たちも、どこか様子がおかしかったように思います。

 あれは『敵を(だま)すならまず味方から』、そのような武門の心構えだったのでしょうね。

 都市追放処分という重罪を覚悟の上で、裏組織との死闘に向かった少年少女。

 おそらくは<翡翠領(グリンストン)>防衛に協力した『神童コンビ』への、恩返し(・・・)のつもりでしょう。

 そんな戦友の友誼(ゆうぎ)と覚悟を重く受け取り、いまだに沈黙を守る『神童』の2人……!」



閉じた目尻に、光る物があった。



「若者たちが、身も心も犠牲にして……!

 栄誉も名声も全てドブに捨ててまで、未来を()(ひら)こうと必死になっている……!

 ── それなのに、わたくしたち年寄りは、いったい何をしているのかっ」


「………………」

「………………」

「………………」



<聖女>(サンクト・シーコ)(いきどお)りの声に、老魔剣士3人は表情を引き締め、ひた(・・)と向き合った。


第38代目聖女タマーコは、語りの声を変調させる。



「今より約300年前、帝国がその版図(はんと)を広げていた頃。

 <聖都>(センダード)を背負う当時の聖女、第25代目聖女のミャーコ様は、ひとつの大きな決断に迫られていました」


「── 『代聖伐(だいせいばつ)』、ですね?」



聞き手の老人のひとりが口を挟むと、聖女タマーコは小さく(うなづ)く。



「当時の旧・連合国は、腐敗と悪徳の極みでした。

 もっと早くに落ちるべき『山梨の実』が、枝に垂れ下がったまま活力を吸い取り続け、木その物を立ち枯れにする寸前でした。

 ── それは、旧・連合国を腐らせた、悪徳の都・<央乃宮國(マナッカ)>!

 初代聖女様の、<始源の聖女>フォント・サンクト・シーコ様のご昇還(おわかれ)を政治利用し、信徒たちの目が悲しみで(くも)っている間に(ぬす)(はたら)くように、(いつわ)りの『世界統一国家(エスペ・ランド)』を建てた、かの大罪人の末裔(まつえい)たち!」



聖女タマーコは、一度深呼吸して、荒れた語調を戻す。



「第25代目の<聖女>(サンクト・シーコ)は、きっと思われたはずです。

 自分が(たまわ)った聖別名が『天上の都(ミャーコ)』であるのは、偶然ではないと。

 聖兄 ── 『天の恵みの神(アーメ=ユージュ)』のご采配(さいはい)に違いないと!」



一同はそれぞれ、遙か昔の出来事に、思いを()せる。


それから先の話を、いちいち話されなければ解らない、<聖都>(センダード)の信徒ではない。


異世界ニッポンで例えるなら、『本能寺の変』のような大事件。

旧・連合国であれば誰もが知る、歴史上の転換点なのだから。




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