14:道場をやぶろう(中級編)
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
「必殺技2個であっさりヤられんなよ……!
この、クソ弱ザコカスゴミ野郎どもがっ」
俺はグチグチ言いながら、気絶したアホ2人を引きずり、強制連行。
後で思い返すと、我ながら『必殺技とは……?』と不思議になる事を言ってるな。
「なあオッサン、このゴミ野郎、どこの奴かしらない?
── ああ、ごめん、家じゃなくて道場の方」
長髪の髪を持って、生首ぶら下げてるみたいな見せ方すると、ビクッとしながら教えてくれた。
すまんな、善良な一般市民のオッサン。
早朝のランニングを邪魔して。
俺も前世はオッサン経験豊富なんで、中年の生活習慣病の予防が、命にかかわるくらい大切だって解ってるんだ。
(糖尿病とかなったら、好きな物も食えなくなるし、たまんねーよな……
ああ、でもこの異世界だと、意外とあっさり治るのかな……?)
サメにかじられて片脚が千切れかけても、<回復薬>で全快するしな。
このファンタジー世界、医療技術は前世ニッポン以上でもおかしくはない。
(まあ、でも、オッサンの早朝運動、陰ながら応援するわ。
習慣作りって大事だから、健康維持のためガンバってなー)
道案内のお礼に、朝市に並ぶ屋台でヘルシーそうなハーブティをおごって、バイバイする。
道場の場所は、この街<翡翠領>の南区の外れの方。
ジジイが通ってる診療薬局の近くじゃね、ここ。
(そういえば、そろそろ腰痛の湿布が切れるとか言ってたな、ジジイ。
早く片付いたら、俺が代わりにもらってやるか……)
そんな事を思いながら、朝練習に励む道場にダイレクトエントリー。
「── たのもぉ~~おっ!!」
── ででっでっでっでっ・でぇ~ん!
── ちょうせんしゃ あらわるっ!?
ほら道場破りだぞ、よろこべよ。
▲ ▽ ▲ ▽
鎧のインナーみたいな白い貫頭衣のゴツい連中が、ザワザワしながら注目してくる。
半裸で汗ふいてたり、ひと訓練終えて、いい汗かいたという毒気の抜けた、爽やかな雰囲気だった。
「── え、何この子」「お嬢ちゃん、迷子かな?」「ここは魔剣士の道場だよ」「何、誰かの友人?」「おーい、なんか黒髪の女の子がきてるぞー」「もしかして、入門希望かな?」「おい、なんか引きずってない?」「荷物? こんな朝早くから配達?」
なんか俺、今ひとつ『道場やぶり』扱いされてない。
女顔とかキンキン声とか、こういう時マジで損だな。
(── うわぁ、面倒くせー……)
これまでの事情説明とか、いちいちやるの面倒くせー。
せっかくの討ち入りテンションが下がりそう。
なので、ちょっと考えた結果、こうした。
── ドオォンッ、と木壁に叩き付ける。
顔面潰れて血まみれのボウズ男の足首を持って、太鼓叩くバチみたいに。
「── 道場やぶりだっ!
こうなりたいヤツから、かかってこい!」
シン……ッ、と静まりかえる代わりに、連中の目つきが一気に変わる。
俺は、ひきずってきた長髪とボウズ頭を、道場入口でポイ捨て。
そして、やっと緊迫感が出てきた、厳つい男集団の真ん中まで移動。
『モーゼの海割り』みたいに集団が割れて、俺を囲むように再集合する。
「── そこの君ぃ、一体どんな事情があったか知らないが。
こんな事をしたら、もう冗談じゃすまないよ?」
正面に立つスポーツ刈りのさわやか青年が、やや感情を抑えた声で言ってくる。
「あ、そういうの、もう良いんだよ。
早くかかって来い、ザコ魔剣士どもっ」
「── ザコ……」
緊迫感が増し、ようやく殺気立ってくる。
というか、仲間がやられた事より、『ザコあつかい』に反応するのか。
よく解らん連中だ。
スポーツ刈りが、最後通告みたいな事を言ってくる。
「ぼくは、たしかに忠告をし ──」
「── い・い・か・ら、早く強化魔法使ってフル装備でかかってこい!
ひとりずつが怖いなら、全員同時でも構わんぞ、腰抜けのカスども!!」
返事の代わりに『ザワザワッ』と男達の呼吸が荒くなり、無数の殺気で肌がピリピリする。
ようやく本気か、火付きの悪い湿気た連中だな。
そんなヌルい感じで、魔物相手とか本当に大丈夫か?
『カン!』『カン!』『カン!』……次々と、周囲で強化魔法の魔法陣が展開していく。
同時に、剣を抜くシャリン……というような音が、いくつも木霊する。
── そんな周囲を、俺は『まぶたを閉じた方の片目』で見ていた。
▲ ▽ ▲ ▽
── オリジナル魔法【序の四段目:風鈴眼】。
ジジイ独自術式の【五行剣:風】から、パクった技だ。
本当は、自分なりのオリジナル魔法で揃えたかったが、4ヶ月ガンバってもムリだった。
開発期間4ヶ月というと、オリジナル魔法【秘剣・三日月】の原型が出来たくらいの期間だ。
これだけガンバってダメなら、もうムリだろうと諦めた訳だ。
なので、やむを得ず丸パクリ。
【五行剣:風】の術式コア部分を丸々コピーさせてもらったワケだ。
でも、その辺、ちゃんとジジイの許可は得た。
『いいじゃんいいじゃん? 俺も一応ジジイの弟子なんだし、本来は俺が受け継ぐはずだった予定だし、正式版はリアちゃんしか使わないし、俺が使うのは部分コピーの劣化版を改造した半ば別モンだし、これだって術式が出来たらジジイとリアちゃんにも教えてやるし、フォロー体勢も万全な、いわばギブ&テイクのノウハウ共有だよ! 何、言ってる意味がわかんないって? だから悪いようにしないから、とりあえずOKだけちょうだい、OK? ねえOK? よしOK!! と言う訳でコピーします!!』
── まあ、ちょっと強引だったかもしれんが……。
ちゃんと承諾は得た。
得たって言えば、得たんだ。
ジジイの【五行剣】は、名前の通り『5種類のオリジナル強化魔法』。
こんなオリジナル要素盛りだくさんな強化魔法を5個も作ったとか、ジジイもすげえよなぁ。
俺も負けてらんねーな、と必殺技開発に熱が入ったわけだ。
俺の【秘剣シリーズ】がいまのところ5種類なのも、ジジイの【五行剣】リスペクトな部分もある。
指輪状態にして填めたら、片手が埋まるから、そういう意味でも丁度いい。
── なお【五行剣:風】は、カウンター専門という、珍しいタイプの身体強化魔法の術式だ。
うっそうと樹木がおいしげる山の中では、効果抜群の不意打ち対策。
感覚の鋭敏化した上で、周囲に微風の結界を形成する事で、周囲の異常を察知する。
実際の使用感は、鳴子みたいな警報装置が常時発動している感じだ。
── で、ここからが俺のオリジナル要素
【五行剣:風】の周辺感知機能は、どうも原理的には魔力の感知機能っぽいので、そこを大幅先鋭化。
このファンタジー世界では、人々は魔力を肌感覚や匂いみたいな感じで、感知している。
わかりやすく言うと、空気感というか『熱い・寒い・湿度が高い・乾いている・良い匂い・臭い……』等々そんな感じだ。
つまり、非常に感覚的で、曖昧すぎるのだ。
転生者な俺が求めたのは、もっと具体的で数値化できるような、詳細な情報。
イメージ的にはサーモグラフィのように色分けされた視覚情報。
わかりやすく魔力の流れや働きを視認でないか。
そういう事を色々やってみた。
ジジイには『わざわざそんな事をせずとも、魔力に対する感覚を研ぎ澄ませば、おのずと周辺空間を掌握する境地に到達できよう』とか言われた。
使って見せても『本当に要るのかそれ?』『二度手間じゃないか?』みたいな扱いだった。
(まあ、職人肌の人にはそうだろうね……)
前世ニッポンじゃ、長年の経験と感覚で判断しているから、逆に数字で言われてもチンプンカンプンという工芸職人とかも居たらしいし。
俺が新作魔術のお陰で『魔法の術式をひと目でコピー出来る』と知ったら、ジジイもうるさく言わなくなったけど。
そんな結果で出来上がったのが、このオリジナル魔法【序の四段目:風鈴眼】
(── そう言えば、前世ニッポンであったな、こういう少年マンガが……)
敵の技を次々とコピーする腕利き忍者の、特殊な眼力。
たしか名前は『車輪が ──………… いや、何でもないよ?
なんか今、脳裏に『シュウエイ社、訴訟、賠償金、破産』とか言う文字が乱舞した。
何コレ、異世界転生した代償とか、呪いとか?
▲ ▽ ▲ ▽
そんな訳で【序の四段目:風鈴眼】を使用し、右目を閉じてまぶたの内側に表示した『魔力センサー』をじっくり見ながら、周囲の道場生の位置と人数を確認。
(── お、槍もってきた。
長さ5mくらいあるぞ、結構な重量級だろ。
なんだ、湿気たカスばっかりかと思ったけど、みんなヤる気あるじゃんっ)
感心して、うんうん、ひとりで頷く。
(しかし、こんな状況ひさしぶりだな……)
必殺技がある程度完成した頃、調子のって陸サメを試し斬りしまくった事があった。
無闇やたらにサメを追い回して狩りまくってたら、いつの間にか中型サメの群のど真ん中。
20~30匹から一斉に狙われたのを思い出す。
あちこちガリガリかじられて、あの時は死ぬかと思ったもんな。
大変な反省材料だった。(その後、必殺技をメチャクチャ改良した)
(さて、スタートくらい、俺の方からちゃんとしてやらんとな。
そこは『道場やぶり』としての、最低限の礼儀だろ)
そんな事を思って、懐から1枚、ピカピカの金貨を取り出す。
前世ニッポンの金銭感覚に換算すると、1枚10~15万円くらいの高額硬貨。
本物の、12Kだか18Kだかの、純金のコイン。
道場やぶりの治療費として、ここに置いていこうと思ってる金額だ。
「準備と覚悟はいいか? こいつが落ちたら、始めだ……!」
ピン、と親指でコインを弾く。
この道場の天井は、前世ニッポンの市民体育館くらいはある。
コインは、その高天井の2/3くらいまで上昇し、落下。
キン、キキン! とコインが石床に跳ねる ──
── 同時に『セヤーーァッ!』と、息のあった気合いの声。
最初に、槍が四方から撃ち込まれる。
2本は、5mの高さからの叩き落とし。
残り2本は、胴と足下への突き。
(おー、すげぇっ 集団戦に慣れてる!
口だけじゃなく、結構魔物とか狩ってるのかな? 俺も本腰入れないと……っ)
感心しながらも、オリジナル魔法【序の三段目:止め】を発動。
胴体を狙ってくる槍突きの方にわざと飛び出し、剣で横に弾く。
同時に、足下を突いてくる槍もよける。
ほぼ同時に、頭上から降ってくる、2本の穂先。
なかなかのスピードだ。
風のうなりが、ジジイが身体強化して本気撃ちする、上段の剛剣を思い出させる。
何発も連打されたら、【序の三段目:止め】の防御くらいなら突破されそう。
だから、タイミングを合わせて側面を叩き、軌道をずらす。
── この一連の迎撃と回避を、斜め後ろに歩きながら剣を円を描くように振るという、一瞬の流れる動作でやる。
こういう風に『1回の動作で複数の相手を対処する』のが、対集団戦のコツだ。
中型サメの群にやられて得た、貴重な教訓だ。
── 『セヤーーァッ!』と、まだまだ気迫の声が飛んでくる。
声と一緒に、剣を振りかぶった道場生4人が、四方から飛んできた。
(なるほどなるほど、槍で先に牽制して、次に剣で止めを差しに行く。
他流試合って、勉強になるな……っ)
感心するが、手加減はしない。
四方からの跳躍斬りに、遠慮なく必殺技で迎え撃つ。
俺は中指を伸ばし、指輪に偽装した待機状態の魔法を解放。
魔法の術式<法輪>が、腕輪の大きさに広がって高速回転、『チリン!』と鳴る。
「── 【秘剣・木枯:弐ノ太刀・旋風】」
一瞬で360度回転しながら、周囲に向けて無数の突きを放つ。
小規模な人間竜巻という感じの必殺技だ。
(※ 格闘ゲームなら →↓↘+[P]。
対空技。無敵時間もH.A.も無いので注意)
4人の剣撃を突きで跳ね返した上に、がら空きの胴体に1人3~4発ずつ突きをドコドコ叩き込んで、そのまま壁際までブっ飛ばす。
「はぁあ!?」「なんだ、コイツッ」「魔法使いか!?」「散れ、固まるなっ」
残りの道場生たち十数名は、慌てて後ずさる。
だが、ちょっと判断が遅い。
(俺が、ど真ん中に自分で行った時点で、コイツ怪しいなと思っとけよ……っ)
笑うような、呆れるような、微妙な気分だ。
今度は、人差し指を伸ばす。
指輪に偽装した待機状態の魔法を解放。
魔法の術式<法輪>が、腕輪の大きさに広がって高速回転、『チリン!』と鳴る。
「もう一丁ぉ!
── 【秘剣・三日月:参ノ太刀・水面月】」っ!」
俺は、もう一回、360度高速回転。
同時に横薙ぎで放った極大の三日月斬撃波(非・殺傷モード)が、水面の波紋のように道場いっぱいに広がる。
(※ 格闘ゲームなら ↓↙←+[P])
あわてて後退する槍の持ち手や、控えの剣士 ── 計14人を、まとめて薙ぎ倒した。