139:特殊な修行を受けています(短縮版)
わたし、<四彩の赤>直系の娘・メグ=ルベルが、最初に耳にしたのは、ちょっとした噂。
『魔導学院の男子寮の食堂に、すごく可愛い給士係が雇われた』とかいう噂話。
男の子達が集まるたびに、『超美少女』とか『砂漠の花』とか『毎日の癒し』とか『生き甲斐』とか『俺の女神』とか色々言って、やたら盛り上がっていたのを覚えている。
とは言っても、男子生徒が憧れの女性を噂するだけの話。
見栄えのいい異性ならともかく。
あまり興味がわかなかった。
ブーブー文句言っている他の女子生徒たちみたいに『片思いの男子が夢中になっている!?』というような、ライバル心があるワケでもないし。
── それが、スゴい美男子って言うなら、目の保養に見に行くけどね?
── あ~、それでも、マァリオぐらいでもないと、今さらビックリしないしなぁ……
従姉サリーの冒険者仲間を思い浮かべると、今さらな気分になる。
少しだけ浮ついた心が、すぐに静かになった。
そしてすぐに、
── 『 聞きなさい! 怠惰な無能女!』
いつか言われた言葉を思い出し、反発心が湧き上がる。
── 『勝手に兄弟子を無能同士扱いしないで欲しいですわっ』
さらに、あの高慢女の兄弟子の活躍を思いだせば、完全に背筋が伸びた。
『未強化』の剣士が、魔剣士が精鋭<帝国八流派>の若き天才たちと肩を並べて大活躍する。
まるで、都合のいい筋書きの大衆演劇だ。
しかし、それは間違いなく、目の前で起こった現実。
才能がないと腐っていた自分に、これ以上ない勇気を与えてくれた、奇跡の光景だった。
── バカな事に気を取られている場合じゃないわ……
── 今、自分が出来る事を、少しでもガンバらないとっ
古代魔導研究の最先鋭である<四彩の姓>直系の娘が、帝国の研究者養成機関『魔導学院』なんかに入学。
── 『冒険者ごっこの次は、帝国の学院ごときに入学だと?』
── 『都落ち、も良い所だ』
── 『そこで、我こそ<四彩>直系、と大きな顔をするのか、あの能なしが?』
── 『お前の娘に恥という感情はないのか!』
── 『魔導伯の跡取り息子をたらしこみに行ったんだよな、そうだと言ってくれ』
── 『これ以上、一族の名に泥を塗るな!』
弟に聞いた話では、<四彩>の長老達に、両親が散々に責められたらしい。
── 『姉さんも、そろそろ実家に帰っておいでよ』
── 『みんなには、ボクの方から話しておくから』
優秀な弟の、姉想いのような言葉。
しかし、その声の調子はどこまでも冷ややかだった。
「帰るもんですか……っ
なにか一つでもいい、胸を張れる様な成果を、成し遂げるまではっ」
悪竜の炎のように、強い息を吐きながら、朝焼けの女子寮を出る。
誰より早く起きて、誰より多く魔法の練習をする。
入学から3ヶ月以上続けている日課だが、その成果はまだ出ていない。
── だけどきっと!
── 魔導学院の在籍4年間でやり通せば、少しくらいは何かが身につくはずっ
我ながら、フワッとした考えだと解っている。
だが、『赤魔』の生き字引である大お祖父様にも見限られた、わたしメグにはガムシャラ以外の方法なんて何もなかった。
そんな、ある朝に、再会する。
美少女の顔をした、少年剣士に。
研究機関・魔導三院の人脈で、食堂の調理手伝いを条件に男子寮に下宿させてもらっているという、その人物。
「── アレっ
もしかして、アンタってロック?」
わたしメグの、負け犬精神を改めさせた、その少年。
さらに、落ちこぼれ人生にトンデモない大変化を与える事になる、その少年。
── それが、剣帝の落ちこぼれ一番弟子だった。
▲ ▽ ▲ ▽
「エラそうに言った割に、かなり普通じゃない、この訓練?」
<翡翠領>で知り合った少年・ロックの魔法訓練は、言っちゃ悪いが普通だった。
なにか特別で特殊で、スゴい大変な訓練をするんだろう ──
── 勝手にそう思い込んでいただけに、拍子抜けだった。
「と、言われてもなあ。
剣術だろうが魔法だろうが、基本は大事だし」
「はいはい、わかったわかった……っ
もう、やれば良いんでしょ?」
その場で『バカらしい』と思って止めなかった理由は、わたしの腕にはめられた秘術的魔法の腕輪。
このスゴい性能の<魔導具>を、せっかくもらったのに、
『俺の指示が聞けないなら返せ』
と言われたらイヤだな、という気持ちだけ。
── 本人が納得するまで、付き合うしかないのかな……?
── こんな訓練、実家である<四彩の赤>でイヤという程やったわよっ
── パパもママも、お祖父様も、大お祖父様も、同じ事をしろって言ってきた!
── そして、弟と違っていつまでも上達しないわたしに呆れた……!
『お前には才能がない』
家族の冷たい目線、呆れ混じりの乾いた声。
いつまでも抜けないトゲとなって、胸の奥に刺さっていた。
── だから、ムダなのに……っ
そう思いながら、久しぶりにやらされた『魔導文字の空書き』。
「おいおい……
<魔導具>をちゃんと起動しろよ?
あと、目をつぶってやったら、意味ないだろ」
「はあ……?」
この『魔導文字の空書き』は、どこの魔導師の私塾でもやっているような、一般的な初歩的訓練だ。
やり方は簡単。
まずは『両目を閉じ、視覚以外の魔力感知能力を研ぎ澄ます』 ──
── これを『第三の目』と呼ぶ。
その上で『自分の魔力の軌線に感知しながら、魔導文字を虚空に指で書く』というだけ。
しかし、即席の『お師匠さん』ロックの指導は、その真逆。
「そもそも、教科書を見ながらやらないと、何の意味もないだろ?」
ロックは、美少女みたいな顔を呆れた表情にして、わたしの腕輪に触れる。
勝手に機巧起動され、『カン!』と術式が発動。
すると、またあの視界へと変わる。
それまではボンヤリとしか見えなかった魔力の光が、ハッキリと、そして美しくキラメいて乱舞する、豪華な視界。
その状態のまま、言われるとおりにやってみて、すぐに解った。
「なに、よ……コレ……っ
わたしが、空中に書いた魔力の軌跡まで、こんなにクッキリ……!?」
「ああ、こうやって見れば、誰でも自分のミスが解るだろ?」
「…………あ、……あぁっ、……ああぁっ!」
まさに『自明の理』だった。
ロックは、わたしの魔術について、さっきこう言っていた。
『途中で術式構文の軌線がブツ切れになりかかってる』
まさにその通りの状態の魔導文字が、両目にハッキリ見えた。
文字一つ一つが、ちゃんとした形になっていない。
途中でブツ切れだったり、一部が消えかかっていたり、直線だって波打っている。
あるいは、出力した魔力の量が膨大すぎて、まるで太い筆でグシャグシャしたみたいに、文字が潰れてしまっている。
「これが、わたしの書いた術式だったの……?」
字を習いたての子供が書いたみたいに、造形も大きさもバラバラのグチャグチャで、読みにくいったらありゃしない。
こんな字で術式を綴っていたら、魔法がきちんと起動しなくても当たり前だ。
── 今までは、魔力の光がぼんやりと輝く霧か何かにしか見えなかった
── 自分の空書きした魔導文字がどんな状態なのか、まるで解っていなかった
── だから、いくら改善しようとしてもムダだったのか
「こんなんじゃ……こんな魔導文字しか、書けないなら……
家族のみんなに、一族のみんなに、才能無いって言われるわよね……っ」
情けなさで、思わず涙が視界を揺らす。
そこにあの男は、とんでもない爆弾発言を放り込んできた。
「あのな。
これ、才能じゃなくて、慣れとコツの問題。
ちゃんと半年以内に、初級魔法は安定して成功できるようになるし、下級魔法だって自力詠唱できるようにしてやるから」
「── はああぁぁぁぁっ!? カキューマホぉぉ~~ッ!?」
▲ ▽ ▲ ▽
最初の3日間は、魔力を全開で放出し続けながら、縦線・横線・斜め線・円の4種類を空書きさせられる。
魔力の出力が一定じゃなかったら ── つまり、変に力入れたり、力抜けたりしたら ── 木剣でお尻を叩かれるという軽い体罰つき。
「アンタねぇ、淑女のお尻をバシバシ叩くんじゃないわよ!」
「叩かれたくないなら、集中しろ。
他人が朝練の時間を潰してまで付き合ってやってるんだから、気を抜くな」
次の3日間は、魔力を全開で放出しながら、魔導文字を一文字一文字、丁寧に書く練習。
翌週からは、基本的な魔導構文、頻出単語を書く練習。
「ねえ、わたしって、相当上達が早くない?
もう、こんなにキレイな魔導文字が書けるのよ?」
2週目の週末には、上機嫌でそんな事を口走るくらい。
自分が目に見えて上達できているのが、嬉しくてたまらない。
「はいはい、上手、上手。
それじゃあ、もうちょっと難しいスペル書いてみるか?」
3週目の半ばから、ついに魔力出力を半分程度に絞って、それで空書きする訓練。
しかし、思った以上に、あっさりと出来てしまう。
次のステップに進むのに、1週間もかからなかった。
「今までの訓練で、安定して出力する地力がついたんだよ。
俺はこれを『魔力の筋力』って言ってるけど」
「わたしって、いっぱい魔力出し続けても全然平気だから、『魔力の筋力』がすごいって事?」
「逆だ、どれだけ魔力を絞って一定に出し続けるか。
それが『魔力の筋力』の上達」
「なーんだ、つまんないっ」
「地道に『魔力の筋力トレーニング』を続ければ、来月末くらいには、照明魔法が50%くらい成功できるようになるぞ?」
「じゃあ、ガンバる!」
── こうやって思い出してみれば、ロックの指導は上手い
── やる気を出させて、飽きさせず、かといってムリもさせず、上達を実感させてくれる
── 妹弟子を指導した経験がいきているのだろうか
── そう考えると、なぜかちょっと、モヤモヤした気分になった
5週目には、半分の半分。
つまり、全力出力の1/4だ。
わたし自身の手首くらいの太さがあった魔力の軌線が、すでに親指の太さ。
── この分なら、あと1ヶ月くらいで、小指より細い軌線の太さに到達できそう。
そう思って意気込んでいると、ロックは急に訓練方法を変えてきた。
「今日から、空書きは禁止。
代わりに、魔力の糸を捻り合わせる練習な?」
「はぁ!?」
そんな練習方法なんて、聞いた事も見た事もなかった。
▲ ▽ ▲ ▽
「あ゛あ゛あ゛! やばい、やばいぃ~!?
また、つる! また頭がつりそう!!」
両手の人差し指から魔力を長く出力しながら、それらをお互いに絡ませ合う。
ちょうどヒモを2本ネジって、ロープを作る様なイメージ。
それは例えるならば、今まで使った事のない筋肉をつかっているような訓練。
あるいは、笑いすぎて腹筋を酷使したような変な負荷のかけ方で、魔力や体力ではなく、神経がまいってしまう。
最初1週間は、魔導学院の授業中にウトウトしたり、女子寮に帰ったら夕食を忘れてそのまま寝入ってしまうくらい。
「こ、こんなの! 出来るヤツいるわけないじゃない!?」
「出来るヤツいるんだよなー、お前の目の前に」
美少女みたいな少年ロックが、あっさりして見せる。
しかも、クモの糸と見間違いそうなくらいの極細の魔力の糸状態で。
シュルシュルと編み上がり、数秒もなく魔導文字を100も200も並べた<法輪>を形成する。
どんな超絶技巧だ、それは。
「いや、アンタみたいな変態と比べられても……」
内心スゴいと感嘆しながらも、つい憎まれ口を言ってしまう。
【風鈴眼】の腕輪を常用するようになって、その魔力の精緻な操作技術が、一流の宮廷魔導師以上かもしれない、と解る様になったから。
── わたしって、とんでもない人を『お師匠さん』にしちゃったわね……
ロックの魔力操作技術、オリジナル術式の精密さ、その発想の異常さ ──
── それらが徐々に理解できるようになってくると、尊敬の念さえわき上がってくる。
おかげで今まで『一流の魔導師だ!』と憧れていた魔導学院の教師たちが、なんだか『その辺の石ころ』のように思えてきた。
指摘や指導内容は、どこか的外れ。
魔力操作は練度が低く、雑で力づく。
自慢げに披露する魔法の術式は、あちこち小さな粗が見て取れる。
詠唱速度なんて、『お師匠さん』の10倍以上の時間をかけて、モタモタと。
同級生がウオォー!とかキャー!とか盛り上がるたびに、
『なんでこの程度の相手に感動してるの?』
とさえ思う様になってしまった。
そして、空恐ろしい事に、
「うわー、ウソでしょう……
1ヶ月続けたら、なんとなく出来る様になってきたぁ……」
「な? 何事も慣れだろ?」
【風鈴眼】で強化された視界に、キレイに等間隔でネジられたロープのような、わたしの魔力のヒモが映った。
▲ ▽ ▲ ▽
ロックの頭のおかしい訓練の効果は、テキメンだった。
万年筆か羽根ペンで書いた文字より、やや太いくらいの魔力の軌線が出力できるようになっていた。
その極細出力の魔力でやらされたのは、教科書の魔導文字をなぞる事。
印刷された文字列を、キッチリなぞっていき、術式の最後までハミ出さない事。
「いやいや、そんなのムリじゃない……?」
「ここまで来たら、意外と余裕ヨユー」
そう言われてシブシブ続けていたら、徐々にコツがつかめてくる。
はみ出さない様に、間違わない様に、太すぎない様に、ブツ切れにならない様に。
その全てにおいて【風鈴眼】で強化された視界が役に立った。
いや、逆にこれがなかったら、絶対に出来ていないと断言できる。
この頃になると『お師匠さん』の指導は、30分に1回くらい。
ちょっと見て、ひと言ふた言アドバイスしてくるだけ。
なんかアイツを『コーチ』と慕う、魔剣士学科の制服を着た2人が混じってきて、ソッチの指導に構いっきりだ。
「わたしの方が先約なんだけど!」
「悪い、悪いっ
メグが思ったより優秀で、細かな指示しなくても良くなったから。
つい、な?」
ひそかに尊敬している『お師匠さん』に、そういう風に認められたら、悪い気もしない。
『わたしが一番弟子なんだから、ちょっとは後輩達にゆずってやるか』みたいな事さえ考えてしまう。
そんな感じで、ほぼ『ひとり練習』みたいな形。
だが、2週間ほど続けていたら、この課題もクリアできてしまった。
▲ ▽ ▲ ▽
3ヶ月を待たずして、初級魔法【松明】が自力詠唱できるようになった。
精度というか、術式の成功率は、まだ『お師匠さん』の求める水準には達していない。
わたしの思っていた『安定して成功』は、成功率60~70%くらい。
ロックの基準では、それは成功率99%以上という意味だったらしい。
「俺たち『剣帝流』を何だと思っている。
魔物退治専門の魔剣士流派だぞ?
100%に近い精度で魔法が成功しないと、普通、死ぬだろうに」
ごもっともな話だった。
しかし、初級魔法の自力詠唱すら、5回に1回の成功だった私からすれば、格段の進歩。
誰かに見せたくて、自慢したくて、仕方ない。
もう落ちこぼれじゃない!
成長したわたしを見て欲しい!
認めてほしい!
ほめてほしい!
そんな幼稚な感情のまま、従姉の家に飛び込んだ。
そしたら、従姉がぶっ倒れた!
「サリー姉!!?」
「── なんですかこの魔力の鮮明な光度は、人間から沸き立つ魔力が水に溶かした顔料のように、いえ沸き立つだけじゃない裡に秘めた魔力までもがつまびらかに、ああウソでしょ、<魔導具>が浮かべる持続用魔法陣の紋様がまるで編み物の目をひとつひとつなぞるかの様に、術式は!?術式はどうなるの!ウソでしょ!こんなに明瞭に細部までハッキリと魔導文字が読み解ける!わたし、間違えて<刻印廻環>の刻印を読んでいるワケではないですよね!こんなの有り得ません!目がおかしくなったとしか思えないっこんなの現実にある訳無い!まるで夜に見上げる星明かり!星座をたどり形を見付けるよりも簡単に魔導術式が読み解ける!いえもっと明るく鮮やか!まさかこれが『妖精の魔眼』」
「サリー姉が壊れたぁ!?」
自分が初級の生活用魔法とはいえ、自力詠唱できるようになった事。
そして、ロックにほどこされた魔導の訓練。
さらには、譲ってくれた特別な腕輪と、その信じがたい性能。
そんな話を、つつみ隠さず聞かせた。
だが、まるで聞き流されて、本当の事だと信じてくれない。
それはそうだ、帝都の魔導学院に入学するため、筆記試験の勉強を毎日見てもらっていた時から、まだ半年少々しか経っていないのだ。
どんな魔導の天才児だって、そんな短期間で急成長するはずもない。
だったら、と従姉にロック特製の腕輪をつけさせて機巧詠唱させる。
『実際に体験させたら、信じてもらえるだろう』と思ったのだ。
そしたら従姉は、逆に、こんなパニック状態になってしまった。
「メグちゃん、これ絶対! 誰にも言っちゃダメですよ!
言ってませんよね、わたし以外には誰も!!」
泣いているのか怒っているのか解らない、スゴい顔をした従姉に、両肩をつかまれガックンガックンされた。
「いや、まだ、その誰にも、言ってない、けど……」
自分の上達が嬉しくて。
毎日の訓練が楽しみで。
それにずっと夢中で、他の事を考える余裕がなかった。
「わたし一人っ子だったんです! ずっと兄弟がほしかったんです!
だからメグちゃんが家出して、ウチに頼ってきて、お姉ちゃんって呼んでくれて!
嬉しかった! 本当に妹ができたみたいに嬉しかったのっ」
サリー姉が泣きながら、急に何か叫び始めた。
「そんなメグちゃんが、誘拐されて薬漬けにされたり、拷問されるとか、お姉ちゃん耐えられないっ!」
「── え、え゛え゛……!?
わ、わたし、薬漬けにされるの? 拷問とかされるの?」
「こ、こ、これ! これぇっ!
『妖精の魔眼』です!
<四彩の姓>が、ううん、私達のご先祖である『古代の魔導師たち』だって、ずっとずっと探し求めた、究極の魔法なんです!」
魔物がなぜ、生まれつき魔法を使えるのか。
その他の獣や人間はなぜ、生まれつき魔法を使えないのか。
その答えだとされる仮説が、『魔力の感知能力の差』。
空飛ぶ鳥が、方位を感知する器官を体内に有するように。
野生の獣が、人より夜目がきき聴覚・嗅覚がすぐれているように。
魔物は『魔力に関して遙かに優れた感知能力をもっている』と説が有力だ。
魔力という特殊な力に適応した生物が、魔物。
そんな魔物の、優れた魔力感知能力を、人間が手に入れられないか。
それが、古代魔導師達が求め続けた、特殊な能力『妖精の魔眼』
妖精という、伝説や空想上の中にしか存在しない種族がもっているとされる、超常の感知能力。
空気中に漂う、かすかな魔力の流れさえも、繊細に感知する。
人の目では『淡く光る霧』の様にしか捉えられない、魔法の<法輪>や、その術式の構文すらも、書物に印字された物と同様に読み取る事ができる。
── 芸術の世界に、こんな言葉があるという。
── 『つぶさに見て耳を傾ける事こそが、技能の基礎』
目が見えない者が、精巧な絵を描ける訳がない。
耳の聞こえない者が、麗しい旋律を演奏できる訳がない。
まずは観賞する事こそが、すべての技能の基礎だ。
ならば、我々人間はなにか。
ろくに目が見えないのに、弱視でおぼろげにしか映らないのに、なんとか書き写そうとしている哀れな存在。
それが、もしも、鮮明な視界を手に入れたのならば ──
「── いわば、あらゆる神秘を読み取る能力なんです!
ロックさぁぁぁぁんんん!!
なんでそんなものを、オリジナル魔法で再現しちゃっているんですかぁぁぁ!!」
「そ、そんなに、すごい物なのこれ?」
「『すごい』どころの騒ぎじゃありません!
どんな国だって、喉から手が出るほど欲しがります!
魔導技術がとんでもないスピードで発達してしまいますぅ!
下手したら、<四彩の姓>の4血族すら、奪い合いの戦争始めるかもしれませ~ん!
メグちゃんがこんなの持ってると知られたら、敵国のスパイとかに攫われちゃうぅよぉ~~っ」
「え、ええぇ……っ?」
この日から、わたしメグは、絶対口外厳禁の重い秘密を抱えて生きていく事に、なってしまった。




