138:共犯確定
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
<帝都>での早朝練習で、ばったり再会した赤毛少女メグ。
久しぶりだったんで、ちょっと話し込んでいると、何やら悩み事を聞かされた。
「俺も才能ないなりに努力したタイプだから、アドバイスできる事もあるかもしれん」
「え、アンタが? アドバイス?
魔力の使い方の?
まあ、いいけど……」
いきなりな話だったんで、ちょっと目を白黒される。
しかし、案外、素直にうなづくメグ。
(まあ、<翡翠領>で俺のオリジナル魔法を見せた事あるから、ちょっと説得力があったのかな?
半分くらい『鼻で笑われて、論外と切り捨てられる』という可能性も考えていたんだが……)
前世ニッポンでも、そういう事が、結構あった。
例えば『俺、PCとか得意だからソレ出来ます』みたいな事を言っても『はぁ、お前が?』みたいな扱いで、偉そうな陽キャが出来なかった事をササッとすませると、お礼どころか『ケッ、オタク野郎が調子のんなっ』みたいなイヤミ言われたり、とか。
最近また、勤め先で『魔力極少の落ちこぼれ』という扱いをされまくる。
そのせいか、なんかちょっとマイナス思考になりつつある感じ。
(いかんなぁー。
無闇に自信満々くらいのメンタルじゃないと、真剣勝負で遅れをとるからなぁ……)
体育競技の世界でいう所の、『勝ち癖』『負け癖』みたいなものだ。
精神状態の調整は、とっても大事。
── 閉話休題。
「でも、さっき言ったけど、わたしってホントに魔力の使い方が下手クソだから。
初級魔法だって、5回に1回くらいしか成功しないわよ?」
「まあまあ、とりあえず1回やってみて?」
「うん……、わかった……」
赤毛少女メグが、チマチマ構成し始めたのは、多分『生活用の照明魔法』。
真剣に慎重に、なおかつ苦手分野を他人に見られながら緊張してやったせいか、時間がかかった。
おかげで、魔力センサー【序の四段目:風鈴眼】を自力詠唱して、じっくり術式の構成過程を観察する事ができた。
「── えい、【松明】っ!」
甲高い気合いの声で、魔法の照明が手の平に生み出される。
フヨフヨと揺れる光の玉は、風で消えそうなくらい頼りない感じだったが。
「おおぉ~っ」
思わずパチパチ拍手しちゃう。
「はぁ……っ、珍しく一発で成功したぁ~。
学園の勉強をガンバったおかげかな?」
「その割に、2カ所くらい魔導文字をミスってたけど。
まあ、致命的な部分じゃなかったから、なんとか形になったんだろう」
「え! ホントに!? 2カ所もミスしてたっ!?」
赤毛少女メグが、胸に抱えてた本をパラパラめくり、術式構文を確認し始める。
どうやら、魔法実技の教科書みたいだ。
(もしかして、早起きして魔法の実技を『ひとり練習』してんのかな?)
それはそれで、感心だ。
「まあ、でも、魔法発動によく失敗する原因はわかった。
昔のリアちゃんと似たパターンだな」
「はぁぁ!? 魔法発動に失敗する原因がわかった!?
今、ちょっと見ただけで!?
赤魔の大お祖父様に相談しても『生まれつき』としか言わなかったのに!」
「………………」
何も『生まれつき』じゃねえよ。
(どこのクソ老害だよ、その雑な判定してるヤツ?
勝手に、他人の人生をムリとか、決めつけんなよっ)
ちょっと、イラッ☆とした。
▲ ▽ ▲ ▽
一度大きく深呼吸して、怒りに乱れそうになった心を落ち着ける。
(まあ、確かに『生まれつき魔力が多い事』が、魔力操作が下手になりやすい原因だからな。
ある意味『正解ではある』のか。
でも、100%の正解をいうと『魔力加減の問題』なんだけどな?)
端的に言えば『魔力が有り余り過ぎてる』。
だから、『魔力を抑える事が苦手』。
「── 結局、な。
魔導文字を魔力で書く時の出力がメチャクチャなんだよ」
膨大すぎる魔力に対して、制御能力が貧弱すぎて、振り回されてる。
魔力が『出力』と『停止』しか切り替えできない様な状況。
前世ニッポンの自動車の運転に例えるなら、ゆっくりスムーズにアクセルを踏む事ができない人。
急発進・急ブレーキ・急発進・急ブレーキ……と繰り返している。
あるいは、『幼稚園児が絵の具のチューブを握ってグチャ~~ッとやって、文字を書こうとしてる』くらい雑な感じ。
「最初に魔力をいっぱい出し過ぎて、その後で急に出力を絞ったりとかしてるだろ?
そういう変にリカバリーしようとしているせいで、途中で術式構文の軌線がブツ切れになりかかってる」
靴の裏で地面の砂をならす。
木の棒で、英語の筆記体みたいな続け文字を書く。
そして、途中途中で線をピピッと埋めて、文字列が途中でブツ切れになっているイメージを書いてみせる。
「パッと見た目、こんな感じになってるんだよ」
「え、わたしの術式ってこんな感じなの!?」
「うん、だいぶんブツ切れ。
逆に、よく最初から最後まで、<法輪>が回ったよな」
この異世界の魔法は、円環が基本。
文頭から文末まで魔力の軌線が続き、さらに文頭に戻ってないと、魔法が発現しない。
イメージとしては、前世ニッポンの電子回路に似ている。
(それが途中途中で、ぶつ切れになりかかってるとか。
そりゃぁ、5回に1回くらいしか成功しないよな……)
電球が点かない理由は簡単、途中で電気の線が切れてます!
前世ニッポンの電気工学で言うと、そんな感じ。
ともあれ、説明を続ける。
「変なクセついてるから、すぐには直らないだろうけど。
まずは3ヶ月ぐらいは、魔力の出力を一定にするトレーニングだな。
取りあえず、全力で魔力を出すあたりから始めるか?
それから徐々に出力の絞り方を覚えよう。
だいたい半年くらいで、初級魔法なら安定して自力詠唱できるんじゃない?」
魔力は、魔導文字を書く絵の具であると同時に、魔法を起動するエネルギー源でもある。
だから、術式に多大な魔力を込めると、今度は破綻する。
場合によっては、術者本人も大ケガする。
前世ニッポンの電化製品でいうと、雷が落ちたら電子回路が焼き切れる様な事。
適量の魔力を注げる様になる事が、魔法を安定して起動させる第一歩。
「つまり、たった半年で、わたしがマトモに魔法を使える様になるって……?
ねえ、アンタさぁ……っ
もしかして、適当に言ってないっ?」
なんか知らんが、疑念の目を向けられる。
「あのなぁ……。
こんな事でウソついてどうするんだよ?」
「でも、わたし!
<四彩>の『赤魔』で一番の物知りの大お祖父様に!
『生まれ持った素質の問題』とか言われたのよ!
『この子は、どれほどガンバっても魔導師として大成しない』って言われたのよ!
古代魔導研究の<四彩の姓>の! 魔導研究の長老の! 大お祖父様にまで!!」
赤毛少女メグが、半泣きで握り拳をブンブン振り回し、自分の不遇を訴えてくる。
(わかった、わかった。
泣かない、泣かない。
そうよな、今まで上手くいってないからな。
ガンバれば出来る!とか急に言われても、な。
ぜんぜん自信がもてないし、逆に凹んじゃうだけよな?)
涙目少女に、顔を拭く用のタオル(未使用)を投げ渡して、説明を続ける。
「まあ、大丈夫だって。
ちゃんと成功例があるから。
この方法で、上達した子がいるから。
似た感じで、自力詠唱が苦手だったリアちゃんも、まあまあ矯正ったし。
あの子も、今では普通に、中級魔法とかブッパしてるから」
そんな話をすると、赤毛少女がギョッとする。
「え、アゼリア=ミラー……?
……アイツも、昔はこんな感じだったの?」
▲ ▽ ▲ ▽
「ああ、まあね。
でも、魔剣士なら問題ない事だから、『剣帝流』に来るまで本人も気付いてなかったみたいだけど。
ほら、普通の<魔導具>なら、機巧が勝手に魔力を操ってくれるし。
だけど、ウチの流派って『身体強化魔法を自力詠唱』が基本だから」
そう告げると、急にメグが黙った。
しばらくして、何か絞り出す様な、うめく様な声を出す。
「…………身体強化を……自力、詠唱?
アンタの流派って、アタマおかしいの?」
「……まあ、それを言われると……」
はい、どうも当流派だけみたいだね!
身体強化魔法みたいな『クソややこしい術式』をわざわざ自力詠唱してる、魔剣士流派とか!
「ジジイが ── あ、ウチの師匠の剣帝ね ── 昔、徹夜で何日も魔物退治してて意識モウロウとした時に、
『あ、やべぇ! 攻撃魔法と身体強化魔法を、術式混ぜて自力詠唱しちゃった☆テヘペロ』
っていう事故が元で出来た術式だしな。
『剣帝流』の【五行剣】って……」
そう言うと、途端にメグが頭をかかえて、赤毛をグシャグシャし始める。
「あ……あ……あ、アタマおかしいわ……っ
アンタたち弟子2人もだいたいおかしいと思ったけど!
お師匠さんとか、100倍アタマおかしいじゃない!?」
うん、絶対アカンよな?
何でまた身体強化魔法に、攻撃魔法なんかを混ぜて、自力詠唱してしまったのか。
むしろ逆に、何故、爆発四散せずに済んだのか。
冒険者の魔法職が『自分が発動した攻撃魔法に巻き込まれて死ぬ』とか、あるある事故なのに。
前世ニッポンで例えるなら『爆薬のニトログリセリンを初めて飲んだヤツ』くらいの無謀さだ。
(なお、爆薬のニトログリセリンは、心臓病の薬にもなる)
しかし、元・弟子という立場上、元・師匠をフォローしとかないと。
「……そういう言い方すんなよ。
ジジイとか、無料奉仕で魔物被害の村を助けて回ってたから、武器防具どころか身体強化の腕輪まで壊れて、カネ無いから修理もできなくて、仕方なく自力詠唱でなんとかしてたんだから……
その頃の武器とか、農村の倉庫でホコリ被ってた、サビまくりの鎌とか鉈とかだぞ?
つまりな『そういう窮地でも魔物と戦える様に』という、常時戦場の心構えというか……」
そんな伝え聞きを話す。
しかし、メグは感心するどころか、頭をかかえたまましゃがみ込む。
「うわぁ~~……っ、う~~わぁ~~~ぁっ!
剣帝の逸話って、聞くたびに『絶対2倍か3倍くらい話を盛ってるでしょ!?』と思ってたけど……
『そんな絵に描いた聖人みたいな剣の達人とか、いるわけないじゃない!』とか思ってたんだけど……
噂話の方が10倍マシって、どういう状況なのよっ?」
なんか、半泣き。
うんうん、そうよな?
剣帝の思い出話とか『聞くも涙、語るも涙』な、ロクでもない事ばっかり!
聞けば聞くほど、思い出せば思い出すほど、ムカっ腹が立つぜ!!
「まあ、元・弟子の俺としては『剣帝の善良さにつけこんでタダ働きさせたクズ村人ども』を、見つけ次第、片っ端から殴ってやりてーんだが……
報復はさすがに、剣帝から止められてるからな……」
お陰で最近は『いつ頃どの村を回った』みたいな詳細情報を話してくれなくなった。
俺が『殴るヤツリスト』にコッソリ書いてたのが、いつの間にかバレたらしい。
いや、大丈夫だって、ジジイ!
先っちょ!
先っちょで、ちょっと斬るだけだからっ!
幼い妹弟子をイジメてた<封剣流>本家のクソ道場生と同じくらいしか、殴らないから!
「うん……それは、ホントに止めてあげて?
多分、アンタとか妹弟子が本気で殴ったら、その人達、きっと死んじゃうと思うし……」
なんか猛獣みたいな言われ様だ。
失礼な、ちゃんと死なない様に手加減するぜ?
(ドクズどもに生き地獄を味あわせるタメになぁっ、ケケケェ~ッ!)
なんかテンションが上がって、両手がワキワキしちゃう。
右手に『五本長爪付きの手甲』でも付けたい気分だ。
(ん~、そういえば。
『幻■殺爪陣』みたいな、ボタン連打で威力マシマシになる必殺技とか創れないかなぁ?)
ふと、そんな事を思いつく。
思わず、あーでもない、こーでもないと、ひとり術式をイジり始めてしまった。
▲ ▽ ▲ ▽
俺が別の事に気を取られていると、赤毛少女メグが何か思い出して、首を傾げる。。
「アレ……?
でも、アンタの妹弟子って、確か魔剣士の腕輪もってたわよね……?
あの時『カン!』って普通に、身体強化魔法を魔導具で発動させてなかったっけぇ……?」
「あ~~、それは、アレだ。
リアちゃん女の子だし?
いくら超天才児でも『未強化』だと、か弱い乙女だし?
戦闘中に焦って身体強化を失敗したら、普通にピンチだし?
だから、ちょっと過保護かと思ったけど、俺が作った」
そう、妹弟子の腕輪型<魔導具>は、兄弟子特製!
【五行剣】は門外不出の秘伝的な身体強化魔法なんで、町の職人さんに頼むワケにはいかないし。
手作りな<魔導具>なのも、仕方ないね!
「お陰で、最近ちょっと<魔導具>の調整作業が得意になってきたぞっ」
ちょっと得意顔。
兄弟子、なんだか『手に職』もてちゃいそう。
このまま<帝都>生活が長引いて、もしも生活費に困る事があったら、魔法技工士の工房にでも雇ってもらうかな?
「うん……わかった。
もう、アンタに常識を求めるの止めるわ、わたし……」
ヘンタイが居る!
目を合わせないようにしよう!
── みたいな、態度を取られてしまう。
「なぜ……?」
理不尽な扱いに、小首を傾げる。
すぐに、ハッと思い浮かぶ事があった。
そう、約2ヶ月半前の、アゼリアの入学テストの騒動だ!
(も、もしかしてっ
<魔導具>を無資格で造ると、密造で厳罰とかあるのか……?)
── 超 ・ あ り そ う !
特に魔剣士の身体強化魔法なんて、武門の師範から免許をもらわないと手に入らない、特別な<魔導具>だ。
勝手に造ってたとか、吹聴してたら大変な事になっても、おかしくない。
(や、ヤベえ事をしゃべっちゃった……?
い、いかん、官警に密告られたら、牢屋行きかも!?)
アワワワワッ!
兄弟子、大ピンチ!
光の差さない闇の独房に幽閉とか、気が狂っちゃう!!
(なんとかコイツ、口封じしないと……っ)
そんな感じで、俺の頭脳が高速回転 ──
── そしてピーン!ときたのは、無法者の流儀!
(コイツ、共犯にしちゃえ!)
兄弟子、最低だって?
知らんがな。
カワイイ妹弟子以外、どうなろうが知った事じゃねえよ(興味なし)。
▲ ▽ ▲ ▽
そんなワケで!
俺のオリジナル魔法を伝授されちゃう、特別チャンス!
『ナマクラ剣士に弟子入りして魔法の達人になっちゃおう』キャンペーン開始!
魔力操作の練習にピッタリ!
限定1名様にだけ、オリジナル魔力センサー魔法【序の四段目:風鈴眼】が当選!
「ちょっと試しに【風鈴眼】覚えてみたらイイヨ!
魔力の操作とか、すぐに即で秒で、マジ半端なくなるから!
ホントホントぉ、スーパーミラクル起こす『たったひとつの魔法』ッスよぉ!?
魔剣士失格ウソつかないっ」
特別に!
幸運にも!
貴女だけ!
今この場だけ!
これを逃すと、二度とありませんよ!?
「なんなの、その変なしゃべり方……?
まあ、とにかく、やってみるかな……」
だが!
案の定!
魔法の自力詠唱が下手すぎ少女メグちゃん、なワケだ!
難しいオリジナル術式なんて、何回やらせて成功しないのは、確定的に明らか!
そこで!
仕方なく!
やむをえず!
緊急避難的に!
すぐさま木材をコリコリ彫って、腕輪型<魔導具>を作ってやる!
(妹弟子の【五行剣】腕輪メンテナンス用に、予備の材料いっぱい持って来てる。【風鈴眼】とか、術式のコア部分が【五行剣:風】といっしょだから、簡単に流用可)
「よし、出来た!」
「ウソでしょ、早ぁっ」
有無を言わさず装着させて、半ば強制的に機巧発動。
「うわぁ! うわわああ! 何コレ!?
魔力がすごい光って見えるんだけど!
なんか、いっぱい色ついて鮮やかなんだけど!
目をつぶても、色々見えるんだけど!」
魔力は視覚でもとらえれる ──
── だが、薄い霧か、炎天下のロウソクの火か、という感じでボンヤリしていて細部は不明瞭。
だから魔剣士の達人は、隠れた魔物が察知できるように視覚以外の魔力感知能力を研ぎ澄ます。
だが逆に、幻像魔法を利用する事で不鮮明な視覚情報を補完するのが、この魔力センサー【序の四段目:風鈴眼】。
つまりは『SF映画の解析装置』みたいなイメージ。
「どうですかい、お嬢サンっ
今なら、特別にそれを差し上げてモぉ?(粘質笑顔)」
「── え、ほ、ホント?
この腕輪型<魔導具>もらっていいの?
で、でも、これっって、アンタが苦労して創った秘術的魔法なんでしょ?
え、ホントにいいの、そんな大切な物……?」
裸眼で視力0.1だった子が、初めてメガネかけて視力1.5になったくらいの、クッキリハッキリな視界!
ええ、世界がこんなに緻密にできてたなんて!?
あら、あんな遠くの文字までハッキリ読めちゃう!?
── みたいな感動で、完全に気を取られている!
よっしゃ、このままゴリ押しで、『犯罪者側』に引きずり込むぜ!
「うんうん、ドンマイ、気にすんナぁっ
俺タチ、一緒に魔物と戦った戦友ダロぉ?
ほら、困った時は、お互い助け合いダヨ~?」
「う、うん、わかった……
これ、大切にするね……?」
作 戦 ど お り !(得意顔)
そう!
初めてメガネかけた『目悪い子』が、メガネを手放せるワケないですよねぇ!
ボヤボヤで目をこらしても全然文字が読めない世界になんて、戻れないですよねぇ!?
(── これで、キサマも共犯だぁぁぁ!!)
兄弟子、勝利ッ!!




