137:特殊な訓練を受けています(自力)
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
さて、みなさん、今日は大事な話があります。
ワタクシ、非常に不本意ながら。
嘔吐に……ミス、王都に……ミス、<帝都>に残る事になりました。
(こっちは、早く<翡翠領>に戻りたいのに……!
ひさしぶりに陸鮫魔物をかわいがりしてヤりてーのによぉ、チクショーッ!)
つい数ヶ月前に<聖都>でボコボコにした暗殺者組織の元締めというか、親玉というか。
そんなヤバイ連中の恨みを買った状態で、闇夜に暗殺者や工作員が闊歩する<帝都>に、カワイイ妹弟子1人だけ残して帰るワケにはいかないワケでっ
まあ、仕方ないねっ!!(大変不満)
(── まったく、兄弟子はツライぜ……っ
お控えなすって! ワタクシ、生まれも育ちも異世界ファンタジー民、ブッダに来世をさずかり、姓なし平民、名はロック、人呼んでナマクラ剣士と発します!)
そんなバカな事を考えながら、いつもより早めに起きて早朝練習。
いつもより所用時間5割増しな、ストレス発散運動。
ボタボタと滝みたいに汗をかいた頃、なんか聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「── アレっ
もしかして、アンタってロック?」
「ん……?」
魔導師学園の女子生徒?
悪いが、研究機関・魔導三院にバイトに来てる『グラッツイア先輩』って風紀委員みたいなメガネ女子しか知り合い居ないぞ?
「わたしよ、わかんない?
ほら、わたしっ、メグよ!
マァリオとサリー姉と一緒に、<翡翠領>の外れの森まで冒険者ギルドの依頼で魔物退治に行ったでしょ?」
「……あ、ああぁっ」
思い出した。
リアちゃんと、やたら口ゲンカしてた赤毛少女か。
「へ~、メグちゃん?、って魔導師学園の生徒さんだったのか。
雰囲気が全然違ったから、わかんなかった」
「まあ、今年入学したばかりなんだけどね……。
わたしって魔導の才能がないから、実家じゃ居場所ないし。
かと言って、サリー姉みたいに冒険者するには、腕前も度胸も足りてないから。
せめて勉強くらいはガンバろうと思って」
「……まあ、そうよな」
従姉妹のお姉さん・サリーさんに比べて、格段に小さい。
まあ、年頃も小6だか中1だかくらいの年齢だから、発育が遅くても仕方ないのかもしれない。
割と小柄な部類だし、この子。
そんな感じで胸元を見ていると、
「── なんかアンタ!
いま失礼な事を考えてるでしょっ」
バッと胸元を隠し、ムッとした声を上げてくる。
「── おおっ、そのキンキン声の感じ!
まさに、あの時のプンプン瞬間湯わかし器な赤毛少女だっ、なつかしいなぁっ」
「……わたしって、アンタにどんなヤツだと思われてるのよ?」
なんか、ガックリ肩を落として、俯いてしまう。
そう言われてもなあ。
いわゆる『キレやすい子供』?
(と、前世でレッテル貼られたな、俺たちの年代。凶悪事件のたびに。マスゴミども絶対許さねーぞ!!)
まあ、やたら騒がしい子だった、くらいの印象しかない。
戦闘では、まるで役に立たなかったし。
「ところでさっき、もう1人くらい居なかった?
遠目で見たら、2人で剣術の特訓しているみたいに見えたんだけど……」
「ああ、幻像かな?」
いつもの特訓用の『幻像魔法』を自力発動。
浮かび上がる立体映像は、1週間前にタコ殴りにしてやった黄金爪の暗殺者で特級魔剣士な賞金首。
なんだっけ、『なんとかの騎士』?、とか言われてたアイツ。
その黒装束な大男の幻像と、模擬戦みたいな単独訓練を、ちょっと実演してみせる。
(これ、他人に口で説明するのが面倒だし。
当流派の剣帝も妹弟子も、術式完成させて実演して見せるまでは、『はぁ……?』って半疑問形の顔だったし。
前世サラリーマン時代に、上司相手に『PCの2000年問題』を説明している気分だったし……)
手こずった相手の『記憶』を投影して、何度も反復練習する事で、最適な動きを模索するという独自トレーニング法 ──
── つまり、格闘ゲームの操作練習みたいな感じ。
あるいは、イメージトレーニング用の立体映像というか。
SF映画の、戦闘シミュレーターみたいな感じ。
(── うん……っ
ファンタジー異世界の現地民相手には、絶対通じない説明ですね!!)
▲ ▽ ▲ ▽
そんなワケで幻像の黒装束大男と、いざ勝負。
「ヒュゥ……ッ」
模造剣の<小剣>を構えて、呼吸を整える。
『── ジャァ!』
身長1.9mの筋肉ムキムキが、とんでもない速力で迫ってきて、容赦ない双腕鉤爪の連撃を開始。
(こうやって改めて観察すると、コイツかなりの強敵だったな……
立体の影みたいな、ヌルッとした動きで、迫ってくるし。
前屈体勢で前動作なく、しかも死角の真下から、片方の鉤爪が跳ね上がり、もう片方が追撃してくるっ
この『ジェノ■イドカッ■ーもどき』が、マジで隙がなさ過ぎる……!)
とんでもない身のこなしで、相変わらず感心する。
だが、事件の翌朝から、いったい何回繰り返し投影したか。
もう既に100回は余裕で越えている、反復訓練。
さすがに敵の動作パターンが、身に染みついてる。
『卑怯ハメ技』連発してきても、回避・回避・回避で、すり抜け出来る。
でもまあ、集中してやらないと、すぐに当たって『ビリッ』と来ちゃうけど(弱電流の魔法を組み込んで、幻術に『攻撃判定』つけてる)。
(あの時は『拳術の技量はLv40~45くらい』とか雑に判断したけど。
こうやって改めて見ると、この『野良ル■ール』って、実は妹弟子並の腕前じゃない?)
技量が低そうに見えたのは、相手の油断というか慢心というか、そういうムラッ気のせいか?
今まさに再生している幻像魔法の黒装束が、まさにそうだ。
殺し合いの雰囲気をまとっているのに、手加減というか、手抜きな挙動が多い。
そのせいで、技量を低く見積もってしまった。
相手の力量を読み間違えるなんて、生死に関わる大問題だと、深く反省。
(さらに、『未強化』で超人な身体能力の上、<五環許し>とか、下手すると『腰痛時の剣帝』並か、その一歩手前なんじゃない?
小回りの利く爪付き手甲で、しかも両手装備とはいえ、奥義の【ゼロ三日月・乱舞】をほぼ全発を迎撃されかけたからな。
そういう意味じゃ、マジで剣帝(腰痛ver)一歩手前の超強敵だったワケか……)
もっと早くから相手が本気になっていたら、ちょっとヤバかった。
ケガ人の女の子を庇ってた俺なんて、瞬殺されてただろう。
(あと、あの時は考えなしに弾き返してたけど、この三本鉤爪もだいぶんヤバイよなぁ。
いわゆる『剣士殺し』って機能か?)
時折、幻影の大男が、模造剣を三爪の間に捕らえようと、何度か回転拳突みたいな動きをしていた。
下手な防御をしていたら、簡単に<小剣>を絡め取られていたはずだ。
(つまり、対・剣術を専門とする暗殺術ってところか……?)
無意識に対魔物用の防御方法(大きく回避)をしていたから、敵の『剣士殺し』に引っかからずにすんでた。
対人剣術の挙動(ギリギリで避けて反撃を狙う)をしてたり、『鍔迫り合い』になったら、簡単に武器を封じられていたんだろう。
そんな分析をすると、ちょっと冷や汗。
(『対人戦の剣術』に対して天敵性能を持つ『剣士殺しの暗殺術』も、『魔物対策の剣術』には無意味って事だったのか。
ある意味、『相性』の勝利だったんだな……っ)
── そんな感じの単独訓練を続ける事、約60秒。
魔法効果時間が切れて、幻像が薄れて消えていく。
所詮は訓練用の立体映像なので、【秘剣・散華】みたいに念を入れて幻像を何個も重ねてない。
だから、ちょっと木の葉や剣先が当たったくらいで『砂嵐だらけになる黒装束の大男』なんで、誰がどう見ても幻像魔法の産物と解るだろう。
「フゥっ……」
と小休憩して、呼吸を整える。
すると、赤毛少女メグちゃんが、半眼でため息ついてくる。
「……うわぁ……
相変わらず、サラッと異常な事してくるわね、コイツ……」
「……ん?」
もしや『幻像魔法とチャンバラなんて実戦の役に立たない』とか思われてる?
「── いやいやっ
言っとくけどコレって、1週間前に実際に戦った相手の幻像だからな?
復習っていうか反復練習っていうか、『自分のこの動きはマズかったな』とか、『相手のこの攻撃はこう回避した方がいいかな』とか、思い出しながら研究しているんだからな?」
「………………はぁ。
あの時、マァリオが。
妹弟子と同じくらい、アンタが異常な腕前って言ってた理由が、ちょっと分かったわ……」
なんか、聞こえるか聞こえないかくらいのボソボソ声量で、呆れた感じの事を言われた。
▲ ▽ ▲ ▽
俺は、ハードトレーニング後のビショビショ汗をふきつつ、軽く雑談を振ってみる。
「ところで、才能無い才能無いって、前の時も言ってたけど。
魔力はかなりの量あるのに、いったい何が出来ないんだ?」
「アンタも妹弟子も、普通は触れない事を、割とズバッと言うわよね……?
まあ、いいけど……
腫れ物に触る様な扱いより、ずっとマシだし……」
赤毛少女メグに『呆れ果てた』みたいなタメ息を、深々とされちゃう。
すまんな、デリカシーがなくて。
兄妹弟子そろって、コミュ障なんだよ、俺らって。
「生まれつき、魔力の扱いが下手なのよ、わたしって。
例えば、生活用品みたいな簡単な<魔導具>なら一般向けの構造だから、そんなに問題ないんだけど。
軍用の攻撃魔法の杖とか、魔導技工士や宮廷魔導師が使う特殊な<魔導具>とかは、使う本人の魔力操作技能が影響するのよ」
「へえ~、そうなんだ?」
「<四彩の姓>にとって一番大事な古代魔導研究だって、研究用の<魔導具>を使える事が必須条件。
つまり、『生まれつき魔力操作に問題がある』メグにはムリって事!」
「なるほど。
言いにくい事を言わせて、すまんな?」
コミュ障なんで、人の心の機微みたいな事を察するの、苦手なんですよ兄妹弟子。
しかし、<四彩の姓>の落ちこぼれ少女も、すでに開き直っているのか、軽く肩をすくめるだけ。
「いいわよ、別に」
そして、なんかコッチをチラッと意味ありげに見て、小さく笑った。
「だからって腐ってても仕方ないし?
せめて『術式の知識』とか、そういう勉強でどうにかなる事だけでもガンバろうかって、魔導学院に入学したワケよ」
「うんうん、良い心がけっ
なんだ、お前、めっちゃガンバってんじゃん?」
ちょっと見直した。
前会った時とか
『こんなに魔力量が潤沢なのに、才能ないって腐ってるとか、ナメてんの?』
『どうせお前、基本的に努力が足りないだけだろ?』
とか、偏見を持っていたんだが。
どうやら、この赤毛っ子は、キチンと努力をしていて、なお『才能の壁を越えられなかった』不遇なタイプらしい。
生来の魔力が極少で魔剣士になれなかった、俺 ──
── 『ナマクラ剣士』としては、他人事とは思えない。
まあ、我ながら『安い同情心』だとは解っている。
だが、同じく『才能なし同士』だ、ちょっと助けになってやりたい。
「── なあ、メグちゃん?
試しに、ちょっと魔法を自力詠唱してみてくれない。
キミの魔力の使い方が、ちょっと見てみたい」
だから、そんな事を提案した。




