134:直結厨
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更新予告 https://pawoo.net/@kan_miyama
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
知り合いっぽいスパイを助けたら、覆面の黒装束に囲まれた。
しかも、周囲の連中、背中に魔法陣が浮いている。
どう見ても、『魔剣士 × 裏稼業』という、プロフェッショナル集団。
(俺、ただ、銭湯入って、宿に帰ってただけなのに。
どうして、こうなった……)
トホホな気分だが、戦闘準備はかかさない。
妹弟子のお友達が、敵対組織に襲われている最中。
手助けしないワケにはいかないだろう、兄弟子として。
── チリン!チリン!チリン!チリン!、と自力詠唱の遅延発現。
一対多の戦闘にとっても便利!
必殺技をストック&連続発動できる『必殺技連撃』だ。
しかし、この『遅延発現』って小技、魔法に詳しくないと『魔法を焦って大☆失☆敗!』に見えるらしく、
『── ハハッ、慌てすぎだ』『魔法で逃れる気かっ』『プッ、緊張で自力詠唱を何度も失敗か』『フッ』『カカッ、哀れじゃのう』
なんか、やたら小馬鹿にされる。
まあ、それは良いんだけどね。
油断してくれる方が、少数側としては、ありがたいから。
── でも、
『安心しろ、2人仲良くあの世行きだぜ』『無論、その前に全て情報を吐いてもらうがな!』『女2人、なかなかの上玉じゃ』『今晩は楽しめそうだなっ』『天国と地獄、両方とも味わわせてやろうっ』『カカッ、若さがよみがえるわい』
(……きっとコイツら、対立組織のスパイ的連中なんだろうが。
言っている事が『反社会勢力』連中と変わらないんだが(呆)
女の子や女顔チビを見たら、チ●チ●勃起する事しか考えられんのか(泣)……?)
スパイ!とかニンジャ!とかアサシン!とか影の軍団!とか陰の実■者になりたくて!とか。
そういう『闇に紛れて暗躍するのカッチョエエー!!』と中二病が燃えっちゃうオジサンとしては、色々悲しくなってしまう。
「こんなの……ただの『下半身直結中坊』じゃねえか……」
前世ニッポンでの、オンライン対戦の醜態 ──
── 『相手が女性と解ったら急に連絡先交換しようとする性少年』とか『女子学生と知ったら急にオゴリ始める社会人』とか思い出して、非常に憂鬱。
そんな6フレームくらいの瞬間回想で、容赦なくブチのめす決意が固まる。
「消えろ、スパイ(笑)ども!」
憧れと思い出を汚す、半端者ども!
── まずは、ケガ人の少女スパイ(知人)に駆け寄る。
「つかまってろっ」
「はいぃ?」
そして、遅延発現した必殺技を解放。
俺と少女スパイが、フワッと夜の空に浮かび上がる。
── 初手、逃走!!
▲ ▽ ▲ ▽
しかし、周囲を囲む敵スパイ集団は、驚きも焦りもしない。
『予想済みだ!』『間抜けっ』『構えっ、撃て!』『カカッ、おろかじゃのう』『フン』『逃がすかよっ』
空中の2人に、投げナイフ、弩弓の矢、<短導杖>から放たれた氷弾の初級魔法なんかが殺到する ──
── そして、何の抵抗もなくすり抜けた。
『── ん?』『なんだ』『手応えが……』『待て、一度攻撃を止めろ』『おかしい ── グホッ』『なっ!?』
さすがに対人戦のプロ、【秘剣・散華】にすぐに気付いたみたいだ。
なので、経験豊富そうな年寄りっぽい声の主から撃破しておく。
【秘剣・速翼】(遅延発動2個目)でカチ上げて、空中でポイッ。
つまり『飛翔10m』+『3階建て約10m』=20mの落下。
年寄りっぽい声の主は、『あ、あぁぁ~~!(ドップラー効果)』と落下して道路舗装でゴシャ!と快音。
── まあ、コイツらも腐ってもスパイ。
しかも魔剣士。
前世ニッポンの映画で見た英国スパイ#7とか映画スパイ大■戦なら、『ヤレヤレ』のひと言で無事生還する程度の高さだ。
魔法強化済みスパイ(笑)なら、死んでないだろう。
多分、きっと。
『そ、即席の幻影魔法っ』『何だ、今の速さはぁ!?』『デタラメすぎる!』『散れっ、固まるな』『クッ』
敵スパイ連中がビビって、思わず密集になりそうになる。
そこに、リーダー格の渋い声が注意を飛ばす。
(……さすがにリーダー格はバカじゃないな。
魔法みたいな遠距離戦対策は、散開・散兵が基本だよな)
そう考えながら、次の必殺技を空中で解放。
【秘剣・速翼:弐ノ太刀・乙鳥返】(遅延発動3個目)で、短距離を高速で旋回機動し、一番遠い敵の背後に回り込む。
『── なっ!?』
さすがは魔剣士スパイだけあって、反応が早い。
急降下の奇襲攻撃に、ギリギリ間に合わせてくる。
ギャリンと鉤爪みたいな手甲武器で、防御されてしまう。
── でも、無理な防御で態勢が崩れた。
「まだまだ!」
『── ガ……ッ!?』
だから追撃の派生攻撃までは、防御できない。
さらなる空中旋回で側面に回り込み、回転払いでゴツン!と後頭部を一撃。
模造剣に頭蓋骨を痛打した、確かな手応え。
「これで2人、あと4人か……」
ドサッと倒れる音に背を向ける。
『バケモノめ……っ』『噂の“月下凄麗”の妹分か!?』『クソ、そんな切り札がっ』『先に“殺戮人形”を殺レっ』
2人連続撃破に腰が引けた敵スパイ集団は、ケガ人の乙女に殺到した。
▲▽▲▽
敵スパイの標的にされた、褐色少女エルちゃん。
「── ふぅッ、……うァっ
た、タダでは殺られまセーンっ」
肩の傷がふさがっても、体力は回復はイマイチなのか、整わない息でヨロヨロ立ち上がる。
逆手に構える<短剣>が、プルプル震えているくらいの、体調不良っぽい。
『好機!』『畳みかけろっ』『同輩の仇、討たせてもらう!』『殺ったぁっ』
「クッ……」
きっと暗殺術みたいな、特殊な技法なんだろう。
身体強化した敵スパイ4人は、立体の影のようにスススゥー……ッと、音もなく距離を詰める。
── 妹弟子のお友達・エルちゃん、絶対絶命!?
「させるか!
【秘剣・陰牢】っ」
設置型の斬撃!(遅延発動4個目)
『必殺技連撃』の最後の必殺技を解放!
── 『ギャアァッ』『クッ』『はぁ!?』『なんだ、これは!?』
高さ2mの透明な魔法の刃が6本、空中に現れてズガガンと落下して突き刺さる。
念のためケガ人の周囲に設置しておいた、即席の周辺防御柵だが、敵スパイは突然出現した障害に混乱。
うち1人はタイミング悪く、手の平を貫通され、苦痛に身をよじっている。
「この、『下半身直結中坊』どもがぁ!
うら若い乙女に、多勢に無勢でナニしやがる!?」
そう大事な妹弟子の、貴重な同世代お友達なのだ。
過保護な兄弟子がそのまま放っておく訳がない。
その隙だらけの下劣男どもの背中に向けて、帝都魔導三院の研究論文のおかげで、術式を最適化できた超必殺技を自力発動。
「怒ゲージ・MAXぅ!!
── ヌゥウウン、【ゼロ三日月・乱舞】ぅぅ!!」
『ゴォ!』『ゲへ!!』『グハァ!』『ギヒィ!!』
お仕置きとして、ゼロ距離の非殺バージョン【三日月】で、タコ殴りにしておく。
── ズゴゴゴビシバシズダダダバコーン!(竜虎音)と。
軽く血を吐くくらいに殴った。
あ、ほら、本職の裏稼業さんなんで。
不意打ちとか『やられたフリ』とか得意そうだから、念には念を入れて、ね?
「── 成敗っ!」
「あ、相変わらず、人間離れしすぎデース……」
得意顔と仁王立ちしてたら、助けた相手からダメ出しを食らったんだが……。
▲ ▽ ▲ ▽
「なにはともあれ、助かったデース……」
褐色少女エルちゃんは、ようやく落ち着いた感じ。
肩から出血での目眩状態と、改良<回復薬>の興奮作用&体力消耗からも、回復したらしい。
「何か、色々と理解できない理不尽を見た気がしマース」
何だか遠い目をしている。
せっかく助けたのに、酷い言われよう。
「しかし、帝都は平和と思ってたら。
意外と、こんな人目につかない所で暗闘が繰り広げられていたのか……」
「一般市民に察知されたら、裏稼業失格デース」
「でも、たまにこうやって、俺みたいに巻き込まれちゃうワケか……?」
「人外の事は、ダレも想定してないデース……」
「── ん、今なんか言った?」
何か失礼な事を、小声でボソボソ言われた気がする。
「……何も言ってないデース」
「んじゃ、気のせいか……?」
そんな雑談をしながら、ボコった敵スパイ連中をしばり上げる。
あと、路地の石畳で気絶している老スパイを、『鋼糸使い』の技能で引っ張り上げる。
「異様に、手慣れてマース……」
「アハハ、最近ちょっと裏社会殴るのが健康習慣だからなぁ」
「………………トンデモない話を聞いてしまった、デース……」
エルちゃんが、何だか急に頭を抱え始めた。
(もしや、失血のせいで、まだちょっと体調悪いのかな?)
面倒事はノーセンキューだったので、このまま別れるつもりだったが。
体調悪い女子を、ひとり放置するのも、ちょっとアレだ。
「仕方ない、送っていくよ。
家ってどっち?」
「いや、結構。遠慮しマース……」
エラいジト目で見られてしまう。
下心あるなコイツ……っ、みたいな勘違いをされているみたい。
(いやいや、妹弟子の貴重なお友達に、変な事なんかしないって……)
そりゃまあ、俺も今世は脂ギッシュ若者な身体だが。
精神は一応、落ち着いた中年なので。
むしろ前世も今世も『モテない男』としては、感情的な年頃少女とか苦手意識しかない。
むしろ、おっかなくて、なるべくお近づきになりたくないくらい。
どこで大不評くらって、陰口たたかれるかか解らないので。
── 『●●って、アンタの事が好きらしいわよぉ(笑)』
── 『イ~ヤァ~! キモ~~イ! ム~~リ~~!』
── 『そうよね~、いっぺん死んで生まれて変わってこいってカンジ(笑)』
みたいな話をうっかり聞いてしまった体験とか、陰キャ男子なら誰にでもあると思う。
下手すると、陰キャ女子もそういう苦渋を味わってるかもしれない。
陽キャの特権みたいなもんだろう、あの横暴でデリカシーのなさ。
それを見知っていると、どうも年頃の異性に苦手意識が芽生えちゃう。
だから、恋愛射程外のお子様・オバさん・お婆さん辺りになると、ホッと安心して話せる。
(まあ、生まれ変わっても、不細工男から女顔小男と顔面偏差値は上がったかもしれんが、不快値平行移動だろう?
実際に、相変わらず、まるで異性受けしねーもんな……)
同性からは、『カワイイ女子か!?』みたいな歓喜されるんだが……(それも辛い)。
(ぶっちゃけ。妹弟子くらいだよな。
こんな貧弱なチビに懐いてくれる、貴重女子は……)
ちょっと、そんなマイナス思考に傾きかけたので、考え事を切り上げる。
感情や精神状態の自己操作。
これが出来る様になっただけでも、剣帝の剣術修行に感謝だ。
前世の俺なら、闇の思考の沼に沈み込んで、貴重な時間をムダにしていた。
「ケガ人に変な事をしないって。
そのくらいは信用してくれよ」
「いや、そういう話じゃないデース……」
エルちゃんに、話が通じなくて困った、みたいな顔をされてしまう。
── よくよく聞くと『スパイのアジトに部外者連れて行くのマズい』みたいな話だったらしい。
(勝手にエロい意味にとって、勝手に被害妄想で空回り言動とか……
マジで恥ずかしいな……)
思わず赤面しちゃう。
ある意味、俺も『下半身直結中坊』だったって事か。
いやー、人の話はちゃんと聞かないとダメだね?
早合点の空回りとか、思い込みで大失敗とか、前世からの悪いクセだ。
「で、アジトって所に、コイツらも運び込むの?
それはさすがに、1人じゃムリじゃない?」
「……ええ、ちょっと悩んでマース……」
大人5人、魔剣士でもない少女が運べる人数じゃ無い。
なんか前、こんな事あったな。
(ああ、<翡翠領>の北の森で、金髪貴公子と他国の工作員とか魔物とかを討伐った時か。
そう言えば、コイツらも、顔立ちが連中に似ているな……)
マスクを引っ張り下ろして、スパイ連中の顔を見ていると、背後に寒気!
── すぐに、エルちゃんを脇に抱えて、転がり回避っ!!
まさに間一髪という感じで、ビュン!と風を切り裂く音が響く。
『ヒャッヒャッヒャッ!
なんてガキだ!
“月下凄麗” 以外に、こんなのが居るとはなっ』
── ででっでっでっでっ・でぇ~ん!
── ちょうせんしゃ あらわるっ!?
不意打ちの主は、熊みたいな体格の黒装束魔剣士だ。
黄金色の鉤爪を見せつけながら、威圧の笑い声を上げていた。




