133:そういや居たなこんなヤツ
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
<帝都>生活も3ヶ月目。
そろそろ夜風も肌寒く、秋の気配も深まる、今日この頃。
皆様、いかがお過ごしでしょうか。
こちらは、みんな元気です。
むしろ、<ラピス山地>の方が心配です。
大丈夫?
俺の陸鮫ちゃん、絶滅してない?
ジジイ、腰の調子がいいからって、狩りすぎてない?
貴重なフカヒレ材料なんだから、優しくしてあげてね?
── そんな私信は、さておき。
当流派の妹弟子は、無事お友達ができた。
年頃の少女らしく、キャッキャウフフな学園生活をエンジョイ。
週末のランチのたびに、そんなニコニコ報告を受けてる。
『コミュ障な妹ちゃんが、学園の寮生活で孤立ご飯してたらDOしよう!?』
という、兄弟子の過保護すぎる心配は外れて、ちょっとひと安心。
むしろ、士官学校の同級生たちは皆、寮生活で自立心を育てている。
保護者がいつまでもシャシャリ出る方が、ダセーよなぁ。
せっかくクラスに溶け込んでいるのに、逆に悪目立ちしちゃう。
── つまり、兄弟子、無事にお役目ご免なワケだ。
(── 勝ったな。
ちょっと銭湯ついでに、裏組織殴ってくるっ)
そんな野球中継を途中で切り上げる心地で、雑務の片付け。
銭湯の前に戦闘でひと汗、ってな!(ひとり笑)
「── そんなワケで!
お邪魔してま~~す!!」
「意・味・が・わ・か・ら・ね・ぇ・~~!」
なんか、見るからに反社会的勢力が何か叫んでる(笑)
コイツらホントに、港沿いの廃倉庫が好きだな~(呆)
フナムシかよ。
夜なのに、服もだいたい黒いし。
「オッスオッス!
ちょっと『スト2ごっこ』しに来ただけだって、気にすんな。
背景が船着き場だけに」
「は? スト? ツー? は? 何?」
あ、お前、車な?
ボーナスステージの。
レッツ、炎上いい?
「というワケで、波■拳代わりの【三日月】で、ドーン」
「ギャアァッ!」
ボーナスステージの自動車代わりの黒服を、飛ぶ斬撃波(非殺傷バージョン)で吹っ飛ばす。
すると、廃倉庫の中から、バタバタと足音が。
「── なんだ!」「今の声は!?」「カチコミか!?」「どこの組織のモンだァ!」
なんかヒゲとかハゲとかデブとか、いかにも反社会な強面がワラワラ。
しかも、鉄パイプとかナイフとか、色々持って来ている。
「おいおい、これじゃ対戦格闘じゃなくて、横移動アクションじゃんかぁ~?
WAHAHAHAhhhh(アメリカンな笑い)」
「何笑ってんだ!?」「イカれてんのか、コイツッ」「官警じゃねえなら、容赦しねえっ」「テメーら、ブッ殺してやれっ!」
(いいのそれで、キミたちぃ?
オジサンとか、『これぞ武■流』しちゃうよぉ?)
そんな感じで今日もまた、最近の入浴前の健康習慣。
『裏社会退治』が始まった。
── みんなの<帝都>をいつもキレイに。
── 最近、マナーの悪い『裏社会』が目に付きます!
── 可憐で純粋で天使過ぎる妹弟子に迷惑です、気をつけましょうっ!!
そんな感じの、兄弟子的社会奉仕活動の強化月間なのである。
▲ ▽ ▲ ▽
リーダー格らしい白スーツのスキンヘッドが、黒服一同に指示を飛ばす。
怒声と共にツバも飛ばす。
「なめやがって、ブッコロせ!」
「いやいやいや~!
そこのオッサンって、出来ない事とか言わない方がいいよ?
あとが格好悪いし、ププッ」
「── 殺せぇっ!!」
興奮のあまり、口から泡まで飛ばす。
「ありゃりゃ……」
暴力業界も、やっぱり体育会系なんだろう。
年下で部外者の忠告助言とか、耳も貸してもらえない。
「しゃぁっ」「オラァ!」「死ね!」「くたばれぇ!」
(うっひょぉ~!
四方同時攻撃とか、テンションあがるぅ!!)
新技の開発にちょうど良くて、内心ウッキウキ。
オリジナル魔法の試作版を、自力発動。
── カンカンカカァ~ンッ!
「なんだ!?」「バカなぁッ」「コイツ、素手で!」「鉄パイプをっ」
生身の両腕で、金属の鈍器攻撃を跳ね返したら、目を丸くして驚かれた。
『手刀』の形で力をこめて、皮膚の上に【序の一段目:断ち】を皮膜保護。
昔『手刀でスパスパァ~ンと木とか斬れたらカッコイイよなぁ~(無理でした!)』とか遊んでたネタ技だ。
だが、街中を素振り様の模造剣を持ち歩いているだけで、『職務質問』されちゃう平和すぎる<帝都>では、護身用・防御用に使えそう。
そんなワケで、最近ちょと大幅先鋭化している最中。
(うう~ん、まるで『侍魂』で武器破壊された後みたい……)
── オイ、素手でカキンカキン武器ハジくのかよ!?(吹笑)
という初見の衝撃を思い出して、ちょっと懐かしい気持ちになる。
まあ、昔のゲームだから、防御のエフェクト使い回しなのは仕方ないのかも知れないが。
「魔法付与……いや、防御アップだから、身体強化か?
……となると、序の二段目で……
まあ、凝固って事で、『凝し』かな?
── いや、肌表面に接着するイメージなんで……『張り』とかの方が語呂的にも良さげ……?」
そんな風にひとりでブツブツ言っていると、暴力業界の従業員さんたちは、警戒の顔で遠巻きに。
「コイツ、おかしな事をっ」「薬物中毒か!?」「なるほどっ」「痛みがマヒしてんのかよっ」
勝手に、変な推測さえ立てられるちゃう。
迷惑な。
「自分が低能無知無学だからって、変な決めつけは、どうかと思いますよ?」
「うるせえ、狂人女っ」
デブが、ナイフの腰だめで突っ込んでくる。
なんという任侠映画臭。
思わず『チャララ~ン♪』とか仁義のないヤクザ抗争的な音楽を口すざんじゃう。
「死ねぇ~~、狂人がぁ~!!」
「ち、仕方ねーな……」
『ナイフを防ぐ』だけなら、ともかく。
体重100キロ近い柔道家体型のオッサンの体当たりには、純粋に力負けしちゃう。
なので、愛剣・ラセツ丸の出番。
最近練習中の、回転居合い。
ギリギリまで引きつけ、ヒラリとジャンプ回避しながら、後頭部にゴツンと一撃。
リアちゃんの得意技の、空中回避&反撃を自分なりにアレンジしたヤツだ。
「……ぐぉっ」
失神した巨漢オヤジはボテンとつんのめり、ダッシュの勢いのままゴロゴロ転がる。
「この身のこなし!
コイツ、魔剣士かっ!?」
リーダー格らしい白スーツのスキンヘッドが、見当違いな事を血走った目で叫ぶ。
── 違いますぅ!
── 魔剣士になれなかったナマクラ剣士ですぅ!
── 本職の魔剣士はこんなもんじゃ、ありませ~~ん!(『剣帝流』比)
▲ ▽ ▲ ▽
そんな感じで15分ほど暴れたかな?
割といい汗かけた。
個人的に、今日の名場面は、背後から忍び寄ってきたヤクザ者に後ろ手に捕らえられて、
── 『な、なんだよぉ、コイツぅ! は、はなせよぉっ(棒読み)』
── 『よくやった!』
── 『そいつを離すなよっ』
── 『ゲヘヘッ、どう料理してくれよう!』
── 『おい、他の連中も呼んでこいっ』
── 『ちくしょー! こんなヤツら剣さえ使えれば、全員ボコボコにしてやるんだぁ(棒読み)』
── 『このクソ女ぁ、よくも好き勝手暴れてくれやがったなぁ!?』
── 『おい、魔力封じの首輪をもってこらせろっ』
── 『サメのエサにしてやる、覚悟しなっ』
── 『うるさい! ボク様はサイキョーの魔剣士なんだぞぉー(棒読み)』
── 『ウヒヒィッ、捕らえられたら凄腕魔剣士だって、形無しだっ』
── 『その前に生き地獄をみせてやるっ、女に生まれた事を後悔しやがれっ』
── 『ヒーヒャヒャヒャヒャッ、上玉じゃねえか、ぶっ壊すのがもったいねー!』
と、周囲の面子が充分に盛り上がった所で、種明かし。
── 『……はい。みなさんが醜い性根を出し尽くすのに、3分かかりましたっ』
俺がそう言うと、同時にドサッと倒れる、背後のヤクザ者。
そもそもコイツ、後方に忍び寄ってこっちの手を掴んだ瞬間に【撃衝角・劣】の至近距離衝撃波を腹にブチ込んでいるんで、とっくに気絶済み。
いやー、気絶した大の大人を背中で支えるの、面倒くさかったー。
すぐバランス崩れて倒れそうになるから、バタバタ暴れる演技で誤魔化すの、大変っ!
俺、必死(苦笑)
── 『はぁ!?』
── 『なんだ、何がおきたっ』
── 『いつのまにっ』
── 『どうやった、魔法か!?』
しかし、頭脳の残念な反社会の皆さんは、すぐに呑み込めないのか、ドタバタ。
まあ、頭脳が素晴らしければ反社会勢力なんてならずに、それを利用する悪徳商人の方になるよなぁ、普通。
── 『センセイやっぱり、弱い立場の人への、おもいやりとか、優しさとか、大事だと思うんです』
── 『と、いうワケで! 社会のクズ滅殺ぅ!!』
わざわざ囲んで集まってくれた反社会の皆さんを、範囲攻撃の必殺技【秘剣・三日月:参ノ太刀・水面月】で一網打尽である。
「── フゥ……ッ
ゴミを掃除して、さっぱり汗も流して。
これで、気持ち良くグッスリ眠れるなぁっ」
銭湯帰りに、ひとりルンルン。
思わず『チャララ~ン』と鼻歌も出ちゃう。
「よ~し兄弟子、今日は近道しちゃうぞっ」
ちょっとした出来心で、オリジナル魔法を自力発動。
たまたま今日使う機会がなかった、短時間版の身体強化【序の二段目:推し】で、建物の壁をシュパパパッと登る。
3秒くらいで、3階建てのレンガ建物の屋上に到着。
── 上機嫌のあまり、そんな余計な事をしちゃう。
「く……っ
このままでは……追っ手がっ」
「………………」
なんか、片膝ついて血まみれの肩を押さえている、褐色少女がいた。
▲ ▽ ▲ ▽
「うぅ~ん……?
なんかキミ、見た事あるような……」
「── ハァ、『剣帝流』の一番弟子ぃ……!?
ドーシテ、アナタがこんな所にいるんデース!」
褐色のメガネっ娘が、ギョッとした顔で立ち上がりかける。
しかし、すぐに顔をしかめて、座り込む。
「……痛タ……クッ、傷が……」
何か思い出した、このカタコト口調。
アレだ、アゼリアの『帝都の文通相手』。
そういえば居たな、軍属スパイ女子。
「おいおい……どうした。
飛翔魔法の改造に失敗して、高速で肩から落ちた感じ?」
「……か、改造、魔法デースか……?
ダレが、ソンな無謀で命知らずなバカなマネを……っ」
心配して声かけたら、盛大に存在否定られた。
「………………」
よくある事だと思うんだけどなぁ。
年頃のヤンチャな少年の時期とか、特に。
空を自由に飛ぶとか、永遠の憧れだと思うし。
「……とりあえず。
はい、<回復薬>。
手持ちの、安いヤツだけど」
「………………」
褐色メガネっ娘は、5秒か10秒くらい、すごい百面相。
「……解りまシ、た。
今は、その好意に、甘えマース……」
そして、迷った挙げ句に、ピンク液の小瓶を受け取る。
彼女が<回復薬>を呑み終わるのを待って、ちょっと声をかける。
「── 確か、エルちゃん、だったっけ?
こんな治安の良い<帝都>で、なんでそんなケガを?
何か、街中に魔物でも入り込んだ?」
「……魔物、ではないデース。
フフッ、なるほど『辺境の聖人・剣帝』の弟子だけありマース……」
「はあ……」
いや、肩の出血が、どうみても獣爪の傷痕っぽいから、そう聞いたんだが。
なんか『世間知らずだな』みたいな苦笑いをされてしまう。
んじゃ、それって、対人戦の傷なの?
前世ニッポンのニンジャ武器の鉤爪みたいな感じ?
「善良な好意、とても感謝しマース……
でも、ワタシを置いて逃げてくだサーイ……
アナタの手には負えない、相手 ──
── クッ!?」
なんか、やたら『覚悟完了!』な台詞の最中に、急にうずくまる。
「お、大丈夫?
ちょっと傷にシミた?」
「か、身体の、中が……熱いぃっ
── な、何を呑ませたぁっ!?」
急に熱病にかかったみたいな、真っ赤な顔で、潤んだ瞳。
親の仇みたいに、すごいニラまれる。
「あ、それ、<回復薬>の効果。
ああ、ビックリしたのか、大丈夫、大丈夫」
「う、ウソつくなデース!
い、いままで、こ、こんな事、なかった……っ」
そういや、みんな最初呑んだ時、こんな感じの過剰反応してたな。
その内に、身体が慣れるんだけど。
「あ~……。
うん、そうか、ゴメン、忘れてた。
いつも剣帝か妹弟子しか呑まないからな。
それ、俺が色々と成分足した、改造<回復薬>。
ほら、<ラピス山地>ってヤバイ毒もってる虫とか植物とかいっぱい居て、その成分って使い様によっては薬になるワケで?
治療院の先生とか、製薬職人とかに薬効のある材料を聞いて、色々混ぜてんだよ。
言ってみれば、オリジナルブレンドの<回復薬>?」
そう『ビックリした? ゴメンね、大丈夫ダイジョーブ』と背中を撫でつつ、説明してあげる。
しかし、何故か、ツバを飛ばす勢いで大騒ぎ。
「しょ、正気じゃないデース!
何て物を他人にぃ!?」
「でも、ほら。
そろそろ、血が止まったんじゃない?」
「── え、え、ありえナーイ!?
な、な、なんなんデースか、この即効性!
まさか、<神癒薬>ぁ!?」
相変わらずギャーギャーうるさい子だな。
そんなに暴れると、ようやく塞がった傷が開くぞ。
「── チ……ッ
追いつかれて、しまったデース……っ」
なんか急にシリアスな顔になった。
『クックックッ……』『“殺戮人形”といえど、人の子』『この人数には勝てまいっ』『おや、増援か?』『フンッ』『今さら1人増えたところでっ』
なんか急に変なヤツらに囲まれた。
人相隠しにマスクしているせいか、妙にくぐもった声で、聞きづらい。
「に、逃げて……っ
ワタシが、ヤツらを、引きつけマース!
その隙に、脱出を……っ」
なんか妹弟子の友達が死にそうな顔をしてきた。
「…………………」
── 結論。
とりあえずボコるわ。
!作者注釈!
2023/06/27 【序の二段目:凝し】がピンとこなかったので【序の二段目:張り】に変更してます




