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異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 6:帝都ステージ

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131:商魂たくましい

俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)




<帝都>東北区域の船着き場には、倉庫が建ち並んでいた。

商人のオッサンから案内されたヤクザの隠れ家は、その一角。



『くぅっ、はずかしめ(・・・・・)を受けるくらいなら、死を選ぶっ

 ひと思いに、殺せっ』



薄汚れた廃倉庫を(のぞ)き込めば、現実に(リアル)『くっコロ』の現場だった。



(こう、目の前で『くっ殺せ(クッコロ)』とか言ってるのを見たら、ウンザリするな……っ)



── 『せっかく助けに来たのにぃ……っ』っていうか

── 『もっと命を大事にしろよぉ……っ』っていうか



思った以上に、イラッ☆とした。


だいたい『ナマクラ剣士(今世のオレ)』とか、魔力が極少(ザコ)なのに魔剣士修行とか、素質ゼロの無謀行為(みのほどしらず)してきたワケだ。

しかも、<ラピス山地>の凶悪魔物に本気噛み(ガジガジ)されつつ。


それに比べて、このお嬢さん。

魔力恵まれまくった上に美人さんで、実家金持ちっぽい身なりの、人生イージーっぽい人。


そんなヤツ(・・・・・)が、簡単に命投げ捨てる言動は、正直、シャクにさわる(カッチ~ンとくる)



(マジで、このまま放っておいてやろうかな、このクソ(アマ)ぁ……っ)



前世世界の超☆聖☆人(ゴッズ†セイント)釈尊(ブッダ)だか救世主(イエス)だかも、こう言ってたはず。

『神サマ仏サマに助けてもらえるのは、必死に頑張っているヤツだけ!』



── そうは苛立(いらだ)つが、横で身内の中年男(オッサン)がいて。



「ああ、ヴィッキー……っ

 よくぞ……っ

 よくぞ、無事でいてくれた……っ

 ワシが五体無事でお前を死なせたなど、天国の兄に申し訳がたたない所だったっ」



とか、年甲斐(としがい)もなくハラハラ涙を流していると、中々、文句も言いにくい。



「………………」



そんな風に、オッサンと俺とで2人並んで、コソコソと廃倉庫(かくれが)の様子を確認中。



── 倉庫の柱である鉄骨に縛られた、魔法使いな美女・ビッキーさん。

その周りに、見るからにヤクザ者という男達が、10人ほど。



『ハッハッハァ~、いつもながら、威勢のいいお嬢ちゃんだなっ』

『アンタの叔父貴(おじき)には、だいぶん迷惑かけられたんだ』

『埋め合わせをしてもらわないと、やってられねーぜ!』

『あの中年男(オヤジ)、ちょっと痛めつけただけでピーピー泣いて命乞いだったぜ?』

『そんな泣き虫の臆病者のクセに、証文(しょうもん)を踏み倒そうなんて小ずるい事をしやがってっ』



外まで音が響かないからと、ヤクザ者達は大声で荒ぶってる。



(なるほどなぁ……っ

 いわゆる『慈善事業(じぜんじぎょう)じゃねえんだよ!』案件か……)



つまり、借りた金を踏み倒し。

夜逃げ失敗。

で、ヤクザ激怒(げきおこ)


── これじゃあ、どっちが悪人か、非常に微妙なところ。

違法金利だとしても、『借りた金返せ』というヤクザ者の主張に()があるくらい。



(うへぇ……

 前世ニッポンで路上生活(ホームレス)してたヤツとか、大半がその手(・・・)の連中らしいからな)



だから(・・・)、ホームレス連中は、偽名が標準(デフォ)

本名とか出身地とか、決して(・・・)教えられない。

前世世界では『生活保護』とか便利な制度があるのに、連中が『利用しない』のもこのせい(・・・・)らしい。

借金踏み倒した後ろ暗さから『身元判明(身バレ)して金貸し(ヤクザ)に見つかったら命に関わる!』とビビリちらかしているワケだ。



(── で、そんな感じの自業自得的にブッ殺されかけてるのが、このオッサンと姪っ子さんなワケね?)



思わず、乾いた目を向けてしまう。

グズグズ泣いてるオッサンに。


すると、廃倉庫の中から、ゲラゲラ大笑いが聞こえてくる。



『特別に演目(メニュー)を教えてやろうっ』

『俺たちの相手が終わったら、次はキタねえ物乞いどもの相手だぜ?』

『だいたい、この生ゴミ臭い汚いジジイ共に犯されてる途中で、ぶっ壊れるんだがな』

『ヒッヒッヒィ! 次にガラス瓶に相手(・・)をしてもらい、最後は焼けた火箸(ひばし)相手(・・)だぁっ』

『ガラス瓶の痛み(・・)で正気にもどって、火箸(ひばし)熱さ(・・)で暴れ狂うのが爆笑なんだよなぁっ』

『お前がどんな叫び声をあげてくれるか、今から楽しみだぜっ』



ヤクザ連中は、ろくでもない事を実に楽しそうに言って、盛り上がってた。


あまりに内容がろくでもないので、ヤクザ者への同情心的な気分が、一瞬でふっ飛んだ。



(── ……訂正。

 それなら、姪っ子(ヴィッキー)さんも『くっ殺せ(クッコロ)』とか言うわっ

 たとえ俺だって『頼むからひと思いに殺してくれっ』って言うわ!

 本当にヤクザ連中とか、『人食いの怪物(マモノ)』より性質(タチ)が悪いなっ!?)



なんか前世ニッポンの、胸クソ事件を思い出す。

ほらアレ、往年の格闘マンガ家の娘か隠し子かが、海外で惨殺(リンチ)された事件(ヤツ)



もしも。


もしも、何かの間違いで、俺の超可愛い(きゃわたん)妹弟子(アゼリア)が、そんな事になったら……!?


── 超怒り成層圏突破全宇宙壊滅次元寸断必殺技『全生命(アイ)苦痛の果てに(・アム・)嘆き懺悔しろ!!(ザ・サタンッ)』が必要になってしまうぅっ

(※ 格闘ゲームなら、レバー四回転半後に画面破壊! 死ね! ことごとく!)



(やっぱり、裏社会(ヤクザ者)全壊必滅(デストローイ)!!

 ── (あく)破壊者(しおきにん)になりたくて!)



そんな、怒りピキピキ状態の俺。

すると、連中のクソ会話を聞いて顔を青ざめさせたオッサンが、涙目をこっちに向けてくる。



「── お、お願いします……っ

 わたしに支払える物なら、なんでも!

 だから、どうか、どうか、あの子を……っ」


「はいはい。

 じゃあ、準備開始だ」



俺は、小声でそう答える。


そしてオッサンと2人、急遽(きゅうきょ)用意していた物を装備(・・)した。





▲ ▽ ▲ ▽



俺は、とりあえず短時間(ショート)版の身体強化(パワーアップ)【序の二段目:()し】を自力発動(『チリン!』)


廃倉庫の、クソ重い上に、バキバキに()びた鎧扉(よろいとびら)をガラガラと開ける。



「はい、どうも~~」

「どうも、どうもぉ~っ」



小走りでパチパチパチ……ッと拍手しながら入っていく、俺とオッサン。



── 『………………っ!』



俺らの場違いに明るい声に、一同がギョッとして振り返る。

そして、口を開けてポカ~ン。


いきなり、紙袋に目の穴だけ開けたナゾの人物2人が乱入したら、誰でもそうだろう。



「え~、今日はお日様もまぶしく良い天気で ──」

「── もう、夜やないかいっ」



紙袋かぶった俺が、同じく紙袋かぶったオッサンの中年腹を、パァン!と勢いよく叩く。



「本当にいい陽気。思わず運動したくないりますね~、お(いち)ぃ、(にい)ぃ~、(さん)()ぃ~ ──」

「── もう、ずぶ濡れやないかいっ」



また、オッサンの中年腹を、パァン!と。



── 『………………』



周囲は、シィ~~~ンッ!とすさまじい沈黙。

高校の学園祭で、陰キャが一発逆転を狙って大・失・敗!

例えるなら、そんな『大講堂で大事故』みたいな、極寒の空気感。



「げ、芸人……?」



誰かがポツリとつぶやいたが、気にせず続ける。



「いや~、ちょっと私さっき海で新体験を。

 あ、知ってます? 海底散歩という、最新のアクティビティ!

 こう、縄で全身グルグル巻きで ──」

「── 殺されかけただけやないかいっ

 しかも、それヤクザが死体処理するヤツ!」



廃倉庫の中に、俺らの即席漫才の声と、パァン!と突っ込みの音だけが響く。



「お、お養父(とう)さん……?」


── 『………………っ!?』



姪っ子さんの恐る恐るという声に、ヤクザ者が一斉に振り向く。



「はぁ!?」「あの野郎っ」「まだ生きてやがったか!」「バカにしやがって!」「テメーら、しくじったなっ」「そんな!」「ちゃんと運河の真ん中で底まで沈めましたっスよ!」「じゃあアレはなんだよ!?」「ピンピンしてんじゃねーか!」



ヤクザ同士で大もめを開始。



「あのアクティビティ、本当に衝撃体験!

 こう、ザバ~ンッと陸に上がると、まるで生き返ったみたいな気分?

 しかも、こう、海水と魚が口からプシューッっと ──」

「── 本当に死にかけとるんやないかいっ

 いったい、どこの世界のアクティビティやねん!?」



俺とオッサンの2人は、それを傍目に最後のシメまでヤりきる!



「それはもう、『死後の世界』!!」

「アンタとはもう、やっとられんわ~!」



オチが着いたところで、そろって頭を下げる。



── 『どうも、ありがとうございましたぁ!!』



すると、ドッとヤクザ連中が押し寄せてきた。

オチまで聞いてくれるなんて、意外と律儀な連中だ。



「オッサン! 乗れっ ──」

「── は、はいっ! せ~の、よっとぉ!」



俺が中腰にかがめば、打ち合わせ通り、すかさず商人のオッサンが背中にしがみつく。

そして、負ぶさった背を向け、出入り口へと走り出す。



「逃がすかっ」「バカにしやがって!」「今度こそブッ殺せっ」「死体処理とかどうでも良い! コマ切れにしてやれっ」



ヤクザ者が焦って駆け寄り、さらに回り込む。

しかし、小太りオッサンを背負った(チビ)とか、ヨタヨタ小走りが精々。


その間に、10人ぐらいの黒服が刃物をもって、ぐるりと包囲。



── そう、狙い通り(・・・・)

連中、ぶっちゃけ、バカである。



「── 【秘剣・三日月(みかづき)参ノ太刀(さんのたち)水面月(みなもづき)】!」



必殺技を自力発動(『チリン!』)

しゃがんで(・・・・・)地面スレスレを横回転しながら、<小剣>(ショート)()(はら)う。

超低空で放った非殺傷バージョンの【水面月】(広範囲攻撃)が、ヤクザ者集団の足首をまとめて(くじ)く。



「ぎゃあっ」「うわっ」「なんだぁ」「ちくしょー」「足が足がっ」「クソぉ、コイツらブッ殺すっ」



周囲を囲んでいた10人くらいが、一斉(いっせい)に転倒した。





▲ ▽ ▲ ▽



すぐに、覆面代わりの紙袋を脱ぎ捨てて、オッサンが走って行く。



「── ヴィッキー!

 無事かっ、ケガをしてないかっ?」


「お、お養父(とう)さん……っ

 でも、どうやって、運河の底に沈められるとか言ってたじゃない?」


「ああ、あの方が、たまたま見付けてくださって……っ」



そんな話をしながら、ガチャガチャ鎖をほどく。


そして、涙ながらの肉親の抱擁(ほうよう)

オッサンと姪っ子さんの、感動の再会の場面だ。



「……チッ」



俺はその光景を傍目(はため)に、少し顔をしかめた。

かすかに『カン!』という機巧発動音が、耳に届いたから。



── ギャリン!と首の左後方で、金属の(きし)む音。

<小剣>(ショート)で死角攻撃を片手受け。

なんとか、防御用オリジナル魔法【序の三段目:()め】の自力発動が間に合った。



「なに!」



真後ろからの驚きの声。



「フン!」


「チ……ッ」



俺は、愛剣が模造剣(ナマクラ)なので、遠慮なく剣の反対に背中をぶつける。

全体重をのせた体当たりの圧力で、相手の剣を押し返してやる。


身体強化魔法で超人パワーになった魔剣士は、一歩で10m近く()退()いたみたい。



「なんてガキだ……。

 今の不意打ちを、片手かよっ」



振り返って見れば、黒髪の長髪に(ひげ)モジャモジャの細面で、ワシ(はな)

なんか俳優みたいなヤツ。

黒服の着こなしも、様になっている。


武器は、最近よく見る対人特化の剣・<中剣(ミドル)>。

そして相手が背中に背負う魔法陣も、最近見慣れてきた汎用(はんよう)タイプ。



「なるほど……

 コイツ、【身体強化:疾駆型(スピード)】か」



新手の相手に<小剣>(ショート)を突きつけ、威圧をかけながら、チラチラと周囲を見回す。

廃倉庫をグルリと一周する空中回廊(キャットウォーク)の先に、事務所のような小部屋がある。


どうやら、あの2階(とは言っても6m以上の高さ)の事務所から、矢の様に飛んできた。

そういう、超・跳躍の突進攻撃だったんだろう。



「しかし、まぁ……ボチボチだな」



渾身(こんしん)の一撃が、俺の防御用オリジナル魔法【()め】で防ぎきった時点で、ザコ確定。


3週間前に<聖都>付近で絡んできた、暗殺者リーダー・腹筋殺し(・・・・)よりだいぶん弱い。

アイツも【疾駆型(スピード)】だったが、不意打ちの威力が段違い(ダンチ)



(剣術Lv(レベル)40()ないな……

 せいぜい、35くらいか?)



『じゃあ【秘剣・速翼(はやぶさ)】1発で倒せるか』と見切りを付ける。



すると、相手が面白い事を言い出した。





▲ ▽ ▲ ▽



「── ハッ、この俺を誰だと思っている。

 <天剣流>本家道場にその人ありと言われた、ボリバル様だぞ」


「お、マジ?

 <天剣流>本家の人か。

 貴公子(ヒョロ)、元気?

 お前、アイツと比べたら、どんな感じ?」



知り合いの知り合いか、と思わず声が明るくなる。

しかし、相手はしかめっ面。



「……ヒョロ、だと?」


「ああ、金髪貴公子(ヒョロいイケメン)……じゃなかった。

 ほらマァリオだよ、マァリオ=スカイソード」



アイツもしかして、兄弟以外にも嫌われてるの?

そんな心配混じりに(たず)ねてみる。



「アイツ『席次は5番』とか言ってたけど、お前だと席次何番(どのくらい)?」


「知るか、クソガキがっ

 テキトーなハッタリをカマしてんじゃねーぞ!」



どうやら、『俺って有名人の友達(得意顔(ドヤァ!))』という嘘つき(ホラふき)と思われたらしい。

いや、本当に知り合いなんだが。



(……そう言えば、まだアイツに会ってないな。

 せっかく<帝都>に居るんだから、その内、道場でも(たず)ねてみるかな?)



そんな事を頭の隅で考えていると、妙な事に気づいた。



「── ……ん、なんでお前、【身体強化:疾駆型(スピード)】なの?

 確か<天剣流(・・・)()杖剣型(テクニック)】だろ?

 あ、もしかして、そういう『素質なし(おちこぼれ)』?」



ドンマイ!

気にすんな、良い事あるよ。

同じ落ちこぼれとして、同情の目を向ける。



「魔力皆無(ゼロ)のガキが、なめやがって!!」



しかし、神経質(センシティブ)な相手は、いよいよ激昂(げっこう)

すまんすまん、ちょっと俺、配慮がない無神経な態度だったかもな。



「魔剣士の恐ろしさ、思い知れっ」



高速移動での走行攻撃(ヒットアンドアウェイ)

格闘ゲームでありがちな、走りながら斬る『ダッシュ斬り』って感じ。


しかし、それが実戦剣術でなかなか見ないのは、手足のタイミングが難しく、バランスが崩れやすいからだ。


(1)突進の勢いを撃剣に変換する『飛び込み斬り(立ち止まり)』

(2)ひとつひとつの動作を最小化して『走る・斬る・走るの高速切り替え』

── 普通にやれば、そのどっちかしかない。


つまり、両手両足の動きがそろって初めて『腰の入った撃剣(けん)』ってのが出せる。

腕の力だけで振り回しても、速度も威力も半分以下どころか、1/3もないかもしれない。



(う~ん、コイツの技とか、グダグダで見る所がないな……っ)



一応、駆け抜け攻撃を、カキン!カキン!カン!と、愛用の模造剣(ラセツ丸)防御(・・)してやる(・・・・)

だが、所詮(しょせん)は【身体強化:疾駆型(スピード)】の魔法効果に頼り切った、雑すぎ攻撃の乱発。


そのたびに聖都闇組織の刺客・腹筋殺し(・・・・)の使っていた『水上走行術(スケートもどき)』という超高度な高速曲芸(トリック)と比べてしまい、残念な気持ちになる。



「お前、ひょっとして、アレか……

 もしかして<四環(よんかん)(ゆる)し>にも届いてない、落ちこぼれ(ざんねんタイプ)?」


「……なんだと、クソガキ?」



そういえば、思い出した。

いつか誰かが『魔剣士名門<御三家>の本家道場とか、15歳で<五環(ごかん)(ゆる)し>なんてゴロゴロ居る』とか言ってたな。



「う~ん……才能がないのは、仕方ないけど。

 それを(・・・)口実にして(・・・・・)修行を(おこた)ったらいかんよ?」



才能ゼロでも剣術Lv60(中の上)になれた、わたくし『魔剣士失格(ナマクラ剣士)』からの金言(きんげん)です。


額縁(がくぶち)に入れて、道場に張っておいてもいいよ!



「── ま、魔剣士でもねーガキがぁぁ!

 キサマに、俺の苦労の何が解る!!

 もう、簡単には殺してやらねー!

 ズタズタに切り刻まれて、(あわ)れったらしく泣き叫びながら、死ねええぇっ!!」



目を血走らせたバカが、剣を肩に(かつ)ぐ構えで、周囲をグルグル回り。

……一応、幻惑攻撃のつもり(・・・)らしい。クソ雑だが。



(うわぁ~、スゴいなー、ハヤいなー、とても『未強化(なまみ)』じゃ対応できないなー(棒読み))



で、結局(・・)やっぱり(・・・・)、背後から。

しかも、肩から腕を切り落とそうと、見え見えの大ぶり。


それをペタンと五体投地のような回避 ──


── 同時に、薬指の指輪に偽装した待機状態(スタンバイ)の魔法を解放(リリース)

魔法の術式<法輪(リング)>が、腕輪の大きさに広がって高速回転、『チリン!』と鳴る。



「ハ! ついに、体力の限界か ── ガハァ!!」



通り過ぎたザコが、何か調子に乗った事を言いかけた所で、その背後へと反撃の一撃を叩き込む。



「── 【秘剣・速翼(はやぶさ)】!」



長髪ヒゲ男を、愛剣・模造剣(ラセツ丸)で背中から横斬り。

さらに背中に模造剣を叩き込んだまま、空中10mまで飛翔。

廃倉庫の天井スレスレへと強制連行して、空中で追撃の叩き落とし。



── ズダァァン!と、砂地の地面に衝突。

2~3回跳ね転がる(バウンド)する長髪ヒゲ黒服。



「……全然、訓練にもならん。

 最初の死角からの突進攻撃すら、野生の陸鮫(サメ)ちゃんの方がだいぶんマシだったな」



俺的には、超ザコ。

しかし長髪ヒゲ男(このザコ)、ヤクザ者にとって頼りの(つな)で、用心棒の『先生』だったみたい。



「ひぃぃっ」「魔剣士が一撃で!?」「バ、バケモンだっ」「こ、殺さないでぇ!」



あっさりヤクザ者たちは戦意喪失。

黒服連中、足を挫いて逃げられないので、適当に縛り上げる。


その後始末は、商人のオッサンと姪っ子さんに任せて、俺は帰宅。



── で、その帰り道。


大通りの屋台で晩飯とか買っていると、周囲にザワザワされちゃうし、衛兵(おまわり)さんから職務質問(ちょっといいかな?)



(あ……、紙袋かぶってるの忘れて、そのまま来てしもた……

 こんな格好で夜の街中をねり歩くとか、なんという変質者っぷりっ)



── 俺が<帝都>のDr.ボルドヘッド(ファ■ストせんせい)だ!!



もちろん、身長2.8mもないが。


とりあえず、小指・人差し指・親指の3本を立てた、謎サインをしておいた。





▲ ▽ ▲ ▽



さて、その後の事については、特に語る事もない。


数日後、俺の勤め先に、姪っ子さんがお菓子持ってお礼参り(アイサツ)に来たくらい。



「先日は、本当にありがとうございましたァっ」



やってきた時、冒険者の魔法使いっぽい格好じゃなかった。


白ワンピースみたいなスゲー上品な格好。

しかも、フワッフワッな髪をリボンでまとめて前に流した髪型で、丸顔で優しそうな笑顔だったから、一瞬、誰かと思った。



「どうでしょう、ワタシの手作りですっ」


美味(うま)美味(うま)っ」



── あ……。

そういえば、お菓子を食べきれないくらいいっぱいくれたので、女性上司(バーバラさん)に分けてあげようとしたら、なんか雰囲気悪化(ピリピリする)


もらい物のお裾分(すそわ)けを、くれた本人の前でやるのって、よっぽどマナー違反だったんだろうか……?



「い、いいよ。ロック君、わたしは」


「あらあら、そう言わず、同僚(どうりょう)の方も()()がってください。

 わたしって、こういうお菓子作り得意なんで、味には自信があるんですよ。

 ── アナタみたいな、自炊もできなさそうな女性と違い」


「わ、わたしだって!

 1人暮らしが長いから、自炊のひとつくらい……っ」


「へ~……。

 でも、独身の家事と、家庭的(・・・)っていうのは、ちょっと違いますよね? フフっ」


「…………くぅ……っ」



研究室の空気が、エラい事になった。

ヤベぇと思って、慌てて話題転換する、小心者(ビビリ)の俺。



「── あ、その……ヴィッキーさん、だっけ?

 お菓子作り上手いんだ。

 包装もキレイだし、こういう(・・・・)商売してるんです?」


「いえ、別に商売では……。

 ただの個人的な趣味というか、ストレス発散法というか。

 商談って、どちらも真剣なんで、心が(すさ)みますので……」



まあ、商人のオッサンが言うには、彼女、かなりの女傑(じょけつ)

聞いた限りじゃ『ヤクザ者に一歩も引かずタンカ切ってる』らしい。


プライベートが割と乙女な感じなら、仕事のオン・オフが激しい人なのかもね。



「もったいねー。

 こんなキラキラ満載のお菓子とか包装紙とか、若い女の子が飛びつきそうな感じじゃない?

 そういう(・・・・)商売(・・)はしないんだ?」


「え ──……っ

 若い(・・)女の子が(・・・・)飛びつく(・・・・)……っ!?」



俺が何となく言った言葉に、白ワンピース美女が驚きの表情。


頭の計算機(ソロバン)を弾き、何かの利を見付けた。

そんな顔で、ギラリと意志の光が目に宿ったのが、明らかに解った。



(そういう顔をすると、さすがにそっくりだな……

 叔父(おじ)の商人のオッサンと、目つきとか特に)



そうは思ったが『女性へのデリカシー的にはどうなんだ?』という感想なので内心に留めておく。


しかし、さすがは商人。

商機(チャンス)と思ったのか、急いで帰っていった。



「なんだったんだ、彼女は……?」


「あ~……

 チンピラに絡まれてたのを助けた、みたいな感じです」


「ふぅ~ん……っ

 ふぅぅ~~~ん……っ」



もらったお菓子をモグモグしながら、いつもの読書してたら、やたら室長(チーフ)がジロジロ見てきた。

まあ、魔導研究機関の最新の研究報告書なんで、汚さないか心配だったのかもしれない。


──あ、あと、なんか、そう言えば。

その後、また研究に行き詰まったのか、室長(チーフ)が変な事をひとり叫んでた。



『── 何で増えるんだぁぁ~~~!

 大丈夫、バーバラ(バービィ)!?

 わたしの騎士(ナイト)様って、モテすぎじゃない!!』



新しい研究資料を借りに行った時だったか。

ついでに図書室司書のお姉さんにも、もらったお菓子(スイーツ)をお裾分(おすそ)け。



「……『ナイト様』、って何?

 何か、解読する問題が増えたのかな……」



頭脳労働って大変だなー、と思いました(小並感)。



まあ、だいたいそんな感じ。

割と平穏に過ごせた、帝都生活3週間目だった。



!作者注釈!


某アニメ2期制作決定おめでとうございます!


あと、DnFアラド格闘スイッチ版を買ったんで、来るGWはこれで!!

(多分、小説書いて終わりそうな予感が今からする)

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