131:商魂たくましい
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
<帝都>東北区域の船着き場には、倉庫が建ち並んでいた。
商人のオッサンから案内されたヤクザの隠れ家は、その一角。
『くぅっ、はずかしめを受けるくらいなら、死を選ぶっ
ひと思いに、殺せっ』
薄汚れた廃倉庫を覗き込めば、現実に『くっコロ』の現場だった。
(こう、目の前で『くっ殺せ』とか言ってるのを見たら、ウンザリするな……っ)
── 『せっかく助けに来たのにぃ……っ』っていうか
── 『もっと命を大事にしろよぉ……っ』っていうか
思った以上に、イラッ☆とした。
だいたい『ナマクラ剣士』とか、魔力が極少なのに魔剣士修行とか、素質ゼロの無謀行為してきたワケだ。
しかも、<ラピス山地>の凶悪魔物に本気噛みされつつ。
それに比べて、このお嬢さん。
魔力恵まれまくった上に美人さんで、実家金持ちっぽい身なりの、人生イージーっぽい人。
そんなヤツが、簡単に命投げ捨てる言動は、正直、シャクにさわる。
(マジで、このまま放っておいてやろうかな、このクソ女ぁ……っ)
前世世界の超☆聖☆人な釈尊だか救世主だかも、こう言ってたはず。
『神サマ仏サマに助けてもらえるのは、必死に頑張っているヤツだけ!』
── そうは苛立つが、横で身内の中年男がいて。
「ああ、ヴィッキー……っ
よくぞ……っ
よくぞ、無事でいてくれた……っ
ワシが五体無事でお前を死なせたなど、天国の兄に申し訳がたたない所だったっ」
とか、年甲斐もなくハラハラ涙を流していると、中々、文句も言いにくい。
「………………」
そんな風に、オッサンと俺とで2人並んで、コソコソと廃倉庫の様子を確認中。
── 倉庫の柱である鉄骨に縛られた、魔法使いな美女・ビッキーさん。
その周りに、見るからにヤクザ者という男達が、10人ほど。
『ハッハッハァ~、いつもながら、威勢のいいお嬢ちゃんだなっ』
『アンタの叔父貴には、だいぶん迷惑かけられたんだ』
『埋め合わせをしてもらわないと、やってられねーぜ!』
『あの中年男、ちょっと痛めつけただけでピーピー泣いて命乞いだったぜ?』
『そんな泣き虫の臆病者のクセに、証文を踏み倒そうなんて小ずるい事をしやがってっ』
外まで音が響かないからと、ヤクザ者達は大声で荒ぶってる。
(なるほどなぁ……っ
いわゆる『慈善事業じゃねえんだよ!』案件か……)
つまり、借りた金を踏み倒し。
夜逃げ失敗。
で、ヤクザ激怒。
── これじゃあ、どっちが悪人か、非常に微妙なところ。
違法金利だとしても、『借りた金返せ』というヤクザ者の主張に理があるくらい。
(うへぇ……
前世ニッポンで路上生活してたヤツとか、大半がその手の連中らしいからな)
だから、ホームレス連中は、偽名が標準。
本名とか出身地とか、決して教えられない。
前世世界では『生活保護』とか便利な制度があるのに、連中が『利用しない』のもこのせいらしい。
借金踏み倒した後ろ暗さから『身元判明して金貸しに見つかったら命に関わる!』とビビリちらかしているワケだ。
(── で、そんな感じの自業自得的にブッ殺されかけてるのが、このオッサンと姪っ子さんなワケね?)
思わず、乾いた目を向けてしまう。
グズグズ泣いてるオッサンに。
すると、廃倉庫の中から、ゲラゲラ大笑いが聞こえてくる。
『特別に演目を教えてやろうっ』
『俺たちの相手が終わったら、次はキタねえ物乞いどもの相手だぜ?』
『だいたい、この生ゴミ臭い汚いジジイ共に犯されてる途中で、ぶっ壊れるんだがな』
『ヒッヒッヒィ! 次にガラス瓶に相手をしてもらい、最後は焼けた火箸が相手だぁっ』
『ガラス瓶の痛みで正気にもどって、火箸の熱さで暴れ狂うのが爆笑なんだよなぁっ』
『お前がどんな叫び声をあげてくれるか、今から楽しみだぜっ』
ヤクザ連中は、ろくでもない事を実に楽しそうに言って、盛り上がってた。
あまりに内容がろくでもないので、ヤクザ者への同情心的な気分が、一瞬でふっ飛んだ。
(── ……訂正。
それなら、姪っ子さんも『くっ殺せ』とか言うわっ
たとえ俺だって『頼むからひと思いに殺してくれっ』って言うわ!
本当にヤクザ連中とか、『人食いの怪物』より性質が悪いなっ!?)
なんか前世ニッポンの、胸クソ事件を思い出す。
ほらアレ、往年の格闘マンガ家の娘か隠し子かが、海外で惨殺された事件。
もしも。
もしも、何かの間違いで、俺の超可愛い妹弟子が、そんな事になったら……!?
── 超怒り成層圏突破全宇宙壊滅次元寸断必殺技『全生命苦痛の果てに嘆き懺悔しろ!!』が必要になってしまうぅっ
(※ 格闘ゲームなら、レバー四回転半後に画面破壊! 死ね! ことごとく!)
(やっぱり、裏社会は全壊必滅!!
── 裏の破壊者になりたくて!)
そんな、怒りピキピキ状態の俺。
すると、連中のクソ会話を聞いて顔を青ざめさせたオッサンが、涙目をこっちに向けてくる。
「── お、お願いします……っ
わたしに支払える物なら、なんでも!
だから、どうか、どうか、あの子を……っ」
「はいはい。
じゃあ、準備開始だ」
俺は、小声でそう答える。
そしてオッサンと2人、急遽用意していた物を装備した。
▲ ▽ ▲ ▽
俺は、とりあえず短時間版の身体強化【序の二段目:圧し】を自力発動。
廃倉庫の、クソ重い上に、バキバキに錆びた鎧扉をガラガラと開ける。
「はい、どうも~~」
「どうも、どうもぉ~っ」
小走りでパチパチパチ……ッと拍手しながら入っていく、俺とオッサン。
── 『………………っ!』
俺らの場違いに明るい声に、一同がギョッとして振り返る。
そして、口を開けてポカ~ン。
いきなり、紙袋に目の穴だけ開けたナゾの人物2人が乱入したら、誰でもそうだろう。
「え~、今日はお日様もまぶしく良い天気で ──」
「── もう、夜やないかいっ」
紙袋かぶった俺が、同じく紙袋かぶったオッサンの中年腹を、パァン!と勢いよく叩く。
「本当にいい陽気。思わず運動したくないりますね~、お一ぃ、二ぃ~、三四ぃ~ ──」
「── もう、ずぶ濡れやないかいっ」
また、オッサンの中年腹を、パァン!と。
── 『………………』
周囲は、シィ~~~ンッ!とすさまじい沈黙。
高校の学園祭で、陰キャが一発逆転を狙って大・失・敗!
例えるなら、そんな『大講堂で大事故』みたいな、極寒の空気感。
「げ、芸人……?」
誰かがポツリとつぶやいたが、気にせず続ける。
「いや~、ちょっと私さっき海で新体験を。
あ、知ってます? 海底散歩という、最新のアクティビティ!
こう、縄で全身グルグル巻きで ──」
「── 殺されかけただけやないかいっ
しかも、それヤクザが死体処理するヤツ!」
廃倉庫の中に、俺らの即席漫才の声と、パァン!と突っ込みの音だけが響く。
「お、お養父さん……?」
── 『………………っ!?』
姪っ子さんの恐る恐るという声に、ヤクザ者が一斉に振り向く。
「はぁ!?」「あの野郎っ」「まだ生きてやがったか!」「バカにしやがって!」「テメーら、しくじったなっ」「そんな!」「ちゃんと運河の真ん中で底まで沈めましたっスよ!」「じゃあアレはなんだよ!?」「ピンピンしてんじゃねーか!」
ヤクザ同士で大もめを開始。
「あのアクティビティ、本当に衝撃体験!
こう、ザバ~ンッと陸に上がると、まるで生き返ったみたいな気分?
しかも、こう、海水と魚が口からプシューッっと ──」
「── 本当に死にかけとるんやないかいっ
いったい、どこの世界のアクティビティやねん!?」
俺とオッサンの2人は、それを傍目に最後のシメまでヤりきる!
「それはもう、『死後の世界』!!」
「アンタとはもう、やっとられんわ~!」
オチが着いたところで、そろって頭を下げる。
── 『どうも、ありがとうございましたぁ!!』
すると、ドッとヤクザ連中が押し寄せてきた。
オチまで聞いてくれるなんて、意外と律儀な連中だ。
「オッサン! 乗れっ ──」
「── は、はいっ! せ~の、よっとぉ!」
俺が中腰にかがめば、打ち合わせ通り、すかさず商人のオッサンが背中にしがみつく。
そして、負ぶさった背を向け、出入り口へと走り出す。
「逃がすかっ」「バカにしやがって!」「今度こそブッ殺せっ」「死体処理とかどうでも良い! コマ切れにしてやれっ」
ヤクザ者が焦って駆け寄り、さらに回り込む。
しかし、小太りオッサンを背負った俺とか、ヨタヨタ小走りが精々。
その間に、10人ぐらいの黒服が刃物をもって、ぐるりと包囲。
── そう、狙い通り!
連中、ぶっちゃけ、バカである。
「── 【秘剣・三日月:参ノ太刀・水面月】!」
必殺技を自力発動。
しゃがんで地面スレスレを横回転しながら、<小剣>を薙ぎ払う。
超低空で放った非殺傷バージョンの【水面月】が、ヤクザ者集団の足首をまとめて挫く。
「ぎゃあっ」「うわっ」「なんだぁ」「ちくしょー」「足が足がっ」「クソぉ、コイツらブッ殺すっ」
周囲を囲んでいた10人くらいが、一斉に転倒した。
▲ ▽ ▲ ▽
すぐに、覆面代わりの紙袋を脱ぎ捨てて、オッサンが走って行く。
「── ヴィッキー!
無事かっ、ケガをしてないかっ?」
「お、お養父さん……っ
でも、どうやって、運河の底に沈められるとか言ってたじゃない?」
「ああ、あの方が、たまたま見付けてくださって……っ」
そんな話をしながら、ガチャガチャ鎖をほどく。
そして、涙ながらの肉親の抱擁。
オッサンと姪っ子さんの、感動の再会の場面だ。
「……チッ」
俺はその光景を傍目に、少し顔をしかめた。
かすかに『カン!』という機巧発動音が、耳に届いたから。
── ギャリン!と首の左後方で、金属の軋む音。
<小剣>で死角攻撃を片手受け。
なんとか、防御用オリジナル魔法【序の三段目:止め】の自力発動が間に合った。
「なに!」
真後ろからの驚きの声。
「フン!」
「チ……ッ」
俺は、愛剣が模造剣なので、遠慮なく剣の反対に背中をぶつける。
全体重をのせた体当たりの圧力で、相手の剣を押し返してやる。
身体強化魔法で超人パワーになった魔剣士は、一歩で10m近く飛び退いたみたい。
「なんてガキだ……。
今の不意打ちを、片手かよっ」
振り返って見れば、黒髪の長髪に髭モジャモジャの細面で、ワシ鼻。
なんか俳優みたいなヤツ。
黒服の着こなしも、様になっている。
武器は、最近よく見る対人特化の剣・<中剣>。
そして相手が背中に背負う魔法陣も、最近見慣れてきた汎用タイプ。
「なるほど……
コイツ、【身体強化:疾駆型】か」
新手の相手に<小剣>を突きつけ、威圧をかけながら、チラチラと周囲を見回す。
廃倉庫をグルリと一周する空中回廊の先に、事務所のような小部屋がある。
どうやら、あの2階(とは言っても6m以上の高さ)の事務所から、矢の様に飛んできた。
そういう、超・跳躍の突進攻撃だったんだろう。
「しかし、まぁ……ボチボチだな」
渾身の一撃が、俺の防御用オリジナル魔法【止め】で防ぎきった時点で、ザコ確定。
3週間前に<聖都>付近で絡んできた、暗殺者リーダー・腹筋殺しよりだいぶん弱い。
アイツも【疾駆型】だったが、不意打ちの威力が段違い。
(剣術Lv40もないな……
せいぜい、35くらいか?)
『じゃあ【秘剣・速翼】1発で倒せるか』と見切りを付ける。
すると、相手が面白い事を言い出した。
▲ ▽ ▲ ▽
「── ハッ、この俺を誰だと思っている。
<天剣流>本家道場にその人ありと言われた、ボリバル様だぞ」
「お、マジ?
<天剣流>本家の人か。
貴公子、元気?
お前、アイツと比べたら、どんな感じ?」
知り合いの知り合いか、と思わず声が明るくなる。
しかし、相手はしかめっ面。
「……ヒョロ、だと?」
「ああ、金髪貴公子……じゃなかった。
ほらマァリオだよ、マァリオ=スカイソード」
アイツもしかして、兄弟以外にも嫌われてるの?
そんな心配混じりに尋ねてみる。
「アイツ『席次は5番』とか言ってたけど、お前だと席次何番?」
「知るか、クソガキがっ
テキトーなハッタリをカマしてんじゃねーぞ!」
どうやら、『俺って有名人の友達(得意顔)』という嘘つきと思われたらしい。
いや、本当に知り合いなんだが。
(……そう言えば、まだアイツに会ってないな。
せっかく<帝都>に居るんだから、その内、道場でも訪ねてみるかな?)
そんな事を頭の隅で考えていると、妙な事に気づいた。
「── ……ん、なんでお前、【身体強化:疾駆型】なの?
確か<天剣流>は【杖剣型】だろ?
あ、もしかして、そういう『素質なし』?」
ドンマイ!
気にすんな、良い事あるよ。
同じ落ちこぼれとして、同情の目を向ける。
「魔力皆無のガキが、なめやがって!!」
しかし、神経質な相手は、いよいよ激昂。
すまんすまん、ちょっと俺、配慮がない無神経な態度だったかもな。
「魔剣士の恐ろしさ、思い知れっ」
高速移動での走行攻撃。
格闘ゲームでありがちな、走りながら斬る『ダッシュ斬り』って感じ。
しかし、それが実戦剣術でなかなか見ないのは、手足のタイミングが難しく、バランスが崩れやすいからだ。
(1)突進の勢いを撃剣に変換する『飛び込み斬り(立ち止まり)』
(2)ひとつひとつの動作を最小化して『走る・斬る・走るの高速切り替え』
── 普通にやれば、そのどっちかしかない。
つまり、両手両足の動きがそろって初めて『腰の入った撃剣』ってのが出せる。
腕の力だけで振り回しても、速度も威力も半分以下どころか、1/3もないかもしれない。
(う~ん、コイツの技とか、グダグダで見る所がないな……っ)
一応、駆け抜け攻撃を、カキン!カキン!カン!と、愛用の模造剣で防御してやる。
だが、所詮は【身体強化:疾駆型】の魔法効果に頼り切った、雑すぎ攻撃の乱発。
そのたびに聖都闇組織の刺客・腹筋殺しの使っていた『水上走行術』という超高度な高速曲芸と比べてしまい、残念な気持ちになる。
「お前、ひょっとして、アレか……
もしかして<四環許し>にも届いてない、落ちこぼれ?」
「……なんだと、クソガキ?」
そういえば、思い出した。
いつか誰かが『魔剣士名門<御三家>の本家道場とか、15歳で<五環許し>なんてゴロゴロ居る』とか言ってたな。
「う~ん……才能がないのは、仕方ないけど。
それを口実にして修行を怠ったらいかんよ?」
才能ゼロでも剣術Lv60になれた、わたくし『魔剣士失格』からの金言です。
額縁に入れて、道場に張っておいてもいいよ!
「── ま、魔剣士でもねーガキがぁぁ!
キサマに、俺の苦労の何が解る!!
もう、簡単には殺してやらねー!
ズタズタに切り刻まれて、哀れったらしく泣き叫びながら、死ねええぇっ!!」
目を血走らせたバカが、剣を肩に担ぐ構えで、周囲をグルグル回り。
……一応、幻惑攻撃のつもりらしい。クソ雑だが。
(うわぁ~、スゴいなー、ハヤいなー、とても『未強化』じゃ対応できないなー(棒読み))
で、結局、やっぱり、背後から。
しかも、肩から腕を切り落とそうと、見え見えの大ぶり。
それをペタンと五体投地のような回避 ──
── 同時に、薬指の指輪に偽装した待機状態の魔法を解放。
魔法の術式<法輪>が、腕輪の大きさに広がって高速回転、『チリン!』と鳴る。
「ハ! ついに、体力の限界か ── ガハァ!!」
通り過ぎたザコが、何か調子に乗った事を言いかけた所で、その背後へと反撃の一撃を叩き込む。
「── 【秘剣・速翼】!」
長髪ヒゲ男を、愛剣・模造剣で背中から横斬り。
さらに背中に模造剣を叩き込んだまま、空中10mまで飛翔。
廃倉庫の天井スレスレへと強制連行して、空中で追撃の叩き落とし。
── ズダァァン!と、砂地の地面に衝突。
2~3回跳ね転がるする長髪ヒゲ黒服。
「……全然、訓練にもならん。
最初の死角からの突進攻撃すら、野生の陸鮫ちゃんの方がだいぶんマシだったな」
俺的には、超ザコ。
しかし長髪ヒゲ男、ヤクザ者にとって頼りの綱で、用心棒の『先生』だったみたい。
「ひぃぃっ」「魔剣士が一撃で!?」「バ、バケモンだっ」「こ、殺さないでぇ!」
あっさりヤクザ者たちは戦意喪失。
黒服連中、足を挫いて逃げられないので、適当に縛り上げる。
その後始末は、商人のオッサンと姪っ子さんに任せて、俺は帰宅。
── で、その帰り道。
大通りの屋台で晩飯とか買っていると、周囲にザワザワされちゃうし、衛兵さんから職務質問。
(あ……、紙袋かぶってるの忘れて、そのまま来てしもた……
こんな格好で夜の街中をねり歩くとか、なんという変質者っぷりっ)
── 俺が<帝都>のDr.ボルドヘッドだ!!
もちろん、身長2.8mもないが。
とりあえず、小指・人差し指・親指の3本を立てた、謎サインをしておいた。
▲ ▽ ▲ ▽
さて、その後の事については、特に語る事もない。
数日後、俺の勤め先に、姪っ子さんがお菓子持ってお礼参りに来たくらい。
「先日は、本当にありがとうございましたァっ」
やってきた時、冒険者の魔法使いっぽい格好じゃなかった。
白ワンピースみたいなスゲー上品な格好。
しかも、フワッフワッな髪をリボンでまとめて前に流した髪型で、丸顔で優しそうな笑顔だったから、一瞬、誰かと思った。
「どうでしょう、ワタシの手作りですっ」
「美味美味っ」
── あ……。
そういえば、お菓子を食べきれないくらいいっぱいくれたので、女性上司に分けてあげようとしたら、なんか雰囲気悪化。
もらい物のお裾分けを、くれた本人の前でやるのって、よっぽどマナー違反だったんだろうか……?
「い、いいよ。ロック君、わたしは」
「あらあら、そう言わず、同僚の方も召し上がってください。
わたしって、こういうお菓子作り得意なんで、味には自信があるんですよ。
── アナタみたいな、自炊もできなさそうな女性と違い」
「わ、わたしだって!
1人暮らしが長いから、自炊のひとつくらい……っ」
「へ~……。
でも、独身の家事と、家庭的っていうのは、ちょっと違いますよね? フフっ」
「…………くぅ……っ」
研究室の空気が、エラい事になった。
ヤベぇと思って、慌てて話題転換する、小心者の俺。
「── あ、その……ヴィッキーさん、だっけ?
お菓子作り上手いんだ。
包装もキレイだし、こういう商売してるんです?」
「いえ、別に商売では……。
ただの個人的な趣味というか、ストレス発散法というか。
商談って、どちらも真剣なんで、心が荒みますので……」
まあ、商人のオッサンが言うには、彼女、かなりの女傑。
聞いた限りじゃ『ヤクザ者に一歩も引かずタンカ切ってる』らしい。
プライベートが割と乙女な感じなら、仕事のオン・オフが激しい人なのかもね。
「もったいねー。
こんなキラキラ満載のお菓子とか包装紙とか、若い女の子が飛びつきそうな感じじゃない?
そういう商売はしないんだ?」
「え ──……っ
若い女の子が、飛びつく……っ!?」
俺が何となく言った言葉に、白ワンピース美女が驚きの表情。
頭の計算機を弾き、何かの利を見付けた。
そんな顔で、ギラリと意志の光が目に宿ったのが、明らかに解った。
(そういう顔をすると、さすがにそっくりだな……
叔父の商人のオッサンと、目つきとか特に)
そうは思ったが『女性へのデリカシー的にはどうなんだ?』という感想なので内心に留めておく。
しかし、さすがは商人。
商機と思ったのか、急いで帰っていった。
「なんだったんだ、彼女は……?」
「あ~……
チンピラに絡まれてたのを助けた、みたいな感じです」
「ふぅ~ん……っ
ふぅぅ~~~ん……っ」
もらったお菓子をモグモグしながら、いつもの読書してたら、やたら室長がジロジロ見てきた。
まあ、魔導研究機関の最新の研究報告書なんで、汚さないか心配だったのかもしれない。
──あ、あと、なんか、そう言えば。
その後、また研究に行き詰まったのか、室長が変な事をひとり叫んでた。
『── 何で増えるんだぁぁ~~~!
大丈夫、バーバラ!?
わたしの騎士様って、モテすぎじゃない!!』
新しい研究資料を借りに行った時だったか。
ついでに図書室司書のお姉さんにも、もらったお菓子をお裾分け。
「……『ナイト様』、って何?
何か、解読する問題が増えたのかな……」
頭脳労働って大変だなー、と思いました(小並感)。
まあ、だいたいそんな感じ。
割と平穏に過ごせた、帝都生活3週間目だった。
!作者注釈!
某アニメ2期制作決定おめでとうございます!
あと、DnF格闘スイッチ版を買ったんで、来るGWはこれで!!
(多分、小説書いて終わりそうな予感が今からする)




