128:学園の入学と言えばアレ(上)
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
ウチの室長の『カワイラ死未遂事件』があった、その日の昼休み。
「今日はなんか、バタバタしてんなぁ。
まだ週の初めなのに……?」
そんな事をぼやきながら、昼食後のお茶。
何やらバタバタと、慌ただしい足音が聞こえてくる。
「── バーバラ研究ぅ~員んんっ!
ちょっと下男を借りますねぇ~~っ」
顔見知りになってきた女性事務員さんに、有無を言わさず引っ張って行かれる。
「え?」「は?」
俺も室長も、揃って『いきなり何事?』って顔になる。
「良いから来なさい!
緊急なのっ、急ぎの用事なのっ!」
だが、相手の剣幕とあまりの勢いに、引っ張られるまま、なすがまま。
さっき室長に、『立場逆転』な説教しちゃったばかり。
ちょっと気まずかったので、用事で外出はむしろ有り難い。
連れて行かれた先は、今朝来たばかりの、魔導三院の本館にある機材管理室。
「もー、いきなり何さ!」「何で俺たちが手伝わされるんだ!?」
先に連れてこられて、ブツクサ言ってるのは、顔見知りのバイト学生さん2人。
確か、そばかす少年のマーティンと、三白眼少年のガビノ。
片手をあげて挨拶しつつ、事情を聞いてみる。
「よっ、2人とも。
── で、何なの、これ?」
「知らねーよ、なんで俺たちが、こんな事を……っ」
「なんか緊急で、士官学校に機材を運びこまないといけないらしいよ?」
士官学校?
って、確か『普通』と『上級』があったな。
妹弟子がいる魔剣士学科がある、『普通の』士官学校の方か?
機材管理室の『観音開きな外扉』が全開で、デカい荷物が次々と荷車へ運び込まれている。
「ほら、そこの3人!
無駄口たたかないで、早く作業しなさいよぉっ」
なんか、学生っぽい女子に注意される。
額縁メガネの目つきが険しい、なんか風紀委員っぽい女子生徒だ。
バイト男子2人(そばかすと三白眼)と同じようなデザインの制服なので、彼女も魔導学院の生徒なんだろう。
「うるせーな、そっちのミスで俺たちが手伝わされてるってのに!」
「そうだよ、アルゴ研究室が日程を間違えたせいだからねっ」
「いつまでも、グチグチうるさい男たちねっ
そんなにイヤなら、研究員の人に文句言ったら~ぁ?」
学生男女3人が口ゲンカを始める。
そこに、パン!パン!パン!と手を叩く音が響く。
「ちょっと、学生さん達?
時間がないんだから、早く手を動かしてちょうだいっ
── もちろん、アルゴ研究室の助手の貴女もね?」
「ええ、わたしもですか!?
こんな力仕事なんて、落第寸前の落ちこぼれ学生が、単位稼ぎやる雑務ですよねっ?
わたしって一応、アルゴ研究室 ── 主要派研究室の推薦枠なんですけど!?」
女性事務員さんの指示に、女子学生さんは不服満面。
上手く言って機材運搬から逃れようとするあたり、高学歴でよく見る『論破したがりガール』らしい。
しかし、冷たい目の女性事務員さんの方が、一枚も二枚も上手。
「あら、そうだったのぉ~?
ごめんなさいね、そうだとは知らなかったわぁ~。
── じゃあ、『アルゴ研究室の今年の推薦枠は、成績優秀を鼻にかけて仕事をサボる怠け癖がある』って研究室に報告しておくわね?」
「……くぅっ」
── 一撃必殺!
── 見事なカウンター1発で、マットに沈むぅっ!
「あのねえ、貴女?
魔導学院の生徒さんの間なら『アルゴ研究室への推薦枠』って言えば、チヤホヤされるかもしれないけど。
ここ、魔導三院の主要研究室にはその程度の秀才くらい、いくらでも落ちているわよ?」
「う……っ」
「そもそもこの事態って、貴女の連絡ミスが原因なんでしょ?」
「うぅ、う……っ」
── 追撃のダウン攻撃! さらに、起き攻め!
── これは痛い! フーキイーン選手、もう起き上がれないかぁ!?
── いかがでしょう、解説のブンブン●さん?
── 若手チャレンジャーの心を折りにいく、すばらしい悪役っぷり。
── 流血上等の残虐ファイトに、セコンドの男子学生2人も顔面蒼白ですよ。
「だったら挽回のためにも、早く手を動かしなさいっ!
それとも『こんな小間使いなんて嫌になったから辞めて帰る』のかしら!?」
女性事務員さんが、お客様気分の抜けない学生バイト相手に、ビシッと厳しい指示。
そして、その吊り上げた目つきのまま、こっちにも声を向ける。
「ああ、そっちの下男も早く ──
── って、アナタ……、意外と力持ちなのね?」
「おっす、楽勝っ」
運送業のオッサン達と、息を合わせて荷物を持ち上げていたら、妙に感心された。
まあ、先週とか筋トレの代わりに運送業バイトしてたからな。
見た目は貧素な俺が、肉体労働なオッサンと2人で、ヒョイヒョイ荷物動かしてたら、学生さんたちにも火が点いたらしい。
「あのくらい、私だってっ」「ボクは何があっても辞めませんよっ」「俺だって、せっかく研究助手に抜擢されたんだっ」
そんな気迫で、学生さん3人で木箱を持ち上げようとするが、
「う~ん!」「お、重いぃっ」「全然持ち上がらないんだけどっ」
生まれたての子鹿みたいに、足をプルプルさせるだけ。
荷物は一向に上がらない。
「アイツ、あんなに軽そうに持ち上げてるのに」「中身が違うのよ、絶対これだけ重いわ」「別の荷物にしよう?」
学生さん3人は、大物の移動をあっさり諦めたみたい。
細々した部品とかを運び始める。
なので、仕方なく相方になった運送業のオッサンと2人で、『セーノっ』で息を合わせて持ち上げる。
すると、目を白黒させるバイト学生さん3人。
「ウ、ウソだろう……」「え、あんなにアッサリ?」「アレ、すごい重かったわよねぇ……っ」
(まあ、俺、『成り損ない』とはいえ、魔物退治専門の魔剣士流派の人だからね。
ナヨナヨ軟弱で(笑)文句ばかりのバイト学生さん(呆)と比べられてもなぁっ)
── 内心、得意顔。
▲ ▽ ▲ ▽
さて、荷物積みだけでなく、そのまま荷物下ろしまで手伝わされる事になった。
なので、荷物と一緒に大型貨物に載せられて、現地まで強制連行。
その間がヒマだったので、ちょっと運び込んだ機材を触ってみる。
特に気になるのが、銀色のタコさんウインナーみたいな、大人の背丈より大きい円柱。
「おい、チビ。
何をいじくり回してるんだ」
「それも高価な機材だから、壊れたら怒られるよ?」
バイト男子学生たちだ。
そうは言いながらも、この2人もヒマしてたのか、近寄ってくる。
なので、ちょっと訊いてみる。
「結局、コレって何の機材?」
「攻撃魔法の計測に使う<魔導具>じゃなかったけ?
<聖霊銀>製の攻撃標的」
そばかす少年の方が答えた。
「ああ、だからアルゴ研究室なのか……、チッ」
三白眼の男子学生は、何かあったのか、舌打ちしてる。
そばかす少年は微苦笑して、説明を続ける。
「確か、攻撃魔法の威力に反応して色が変わるんだよ。
緑、黄色、オレンジ、赤だったかな?」
「ふ~ん……」
俺が感心して、表面をなでていると、風紀委員っぽい女子生徒が口を挟んできた。
「下級魔法が緑で、中級魔法が黄色、上級でオレンジ、特級が赤よ。
落第生たち、他人に説明するなら、もっとちゃんとしなさいっ」
「うるせえな、ガリ勉女っ」
「はぁあ! ガビノには言ってないん、で・す・け・どぉ~?」
「おい! お前のミスのせいで、俺たちは手伝わされてるんだぞ!」
「『お前』じゃなくて『グラッツイア先輩』でしょ!
だいたい、なんで貴族の私が、運送業者とか低能無学な連中と打ち合わせなんかしなきゃいけないワケ?
そういう雑務って、下男のアンタ達の仕事じゃない!」
「こ・い・つぅ~~っ!」
グラッツイアとかいう額縁メガネ女子は、思った以上に当たりがキツいみたい。
「── だってそうじゃない。
汚くて汗臭い雑務をする条件で、魔導三院の研究室に出入りさせてもらってるんでしょ?
私みたいな成績優秀じゃない、落第生ギリギリのアンタたちが!
赤点や必須単位をマケてもらってるんだから、もっと働きなさいよっ」
貴族的というか、選民意識が高いというか。
あるいは、『ちゃんと勉強しないと、あんな底辺な仕事をするハメになるわよ』と言い聞かせる教育ママ的なヤツというか。
(ファッショナブルでエレガンツな頭脳労働しかヤらないタイプだな。
やたらと『男女平等!』『女性の活躍する社会!』とか言ってるタイプというか……)
空調トラブルで機械室にもぐりこみ油まみれになる業務とか、急に男性に『やくめでしょ、はやくして』とか押しつけてくるヤツ。
そんなの、前世ニッポンでいっぱい見たな。
そのくせ、生理休暇や育休・産休はガンガン遠慮無くとって、他人にシワ寄せよこして悪びれないし。
(こういうヤツは、話すだけ損だしな……)
いわゆる『にわか勢』だ。
最近は女性でも、ノーメイクすっぴんネイルなし作業服な『ガチ勢』が増えてきたので、いよいよ短所が悪目立ちする『なんちゃって口だけ』タイプ。
そういうのに限って、自己矛盾や短所を指摘すると大爆発を起こす。
結局は、関わらないのが一番だ。
「……お、ホントに緑に色が変わったっ」
『聖霊銀製の攻撃標的』とかいう機材に触れたまま、下級魔法【撃衝角】で使うくらいの魔力を片手に込めてみる。
すると、見事に手の平の跡が銀から緑に変色。
「へぇ~、こんなにハッキリ変わるんだぁ」
そばかす少年が感心すると、その声にケンカしていた男女2人が振り向く。
「うわっ、手の平の形がクッキリ!
アナタって、魔力の操作がずいぶん器用ね」
「よーし! それなら俺は、パンチ1発で真っ赤にしてやるぜ!」
「バカ、止めなさいよっ」
「誰がバカだ!? 良いから見てろよっ
特級魔法の分の魔力を込めて、おらぁ──
── ぎゃぁあっ、手首が、手首が、ゴキッって!」
「……金属を殴れば、そうなるに決まってるでしょう?
ほんっっっと、ガビノってバカよね~っ」
何か、風紀委員みたいな女子学生と三白眼の男子学生は、見事なボケとツッコミ。
夫婦漫才みたいだ。
そばかすの男子学生もそう思ったのか、
「── ……ガビノとグラッツイア先輩って、実は仲いいよね?」
そんな事を、ぽつりと漏らした。
▲ ▽ ▲ ▽
結局、連れて行かれたのは、妹弟子の通う『普通の』士官学校の方だった。
『競技場』という名称の屋外グラウンドに機材をセットし終わったのは、午後の授業が始まる直前。
『148番、マーティン=ビューレン!』
『よっしゃ! 見とけよ、俺の炎魔法を』
男子生徒が、置かれた<中導杖>を構え、魔法を機巧起動。
ドーン!と火炎魔法が炸裂し、7個の<聖霊銀>製の攻撃標的が炎に呑まれる。
やがて爆炎の煙が収まると、銀色のタコさんウインナーみたいな人間大の機材が、半数以上は緑色に変色していた。
『── 成果5/7。
範囲魔法の精度、評価B!』
採点している教師のアナウンス。
<聖霊銀>製の攻撃標的が7個(六角形配置プラス中央の7点)並んでいて、完全に色が変わった分だけを計測しているみたいだ。
順番待ちをしている生徒達が『おおぉ~!』と盛り上がる。
すると、頭の後ろで両手組みしていた三白眼の魔導学院生徒が、ケチを付けた。
「── へっ、あの程度で、何が範囲魔法だ。
おいマーティン、同じ『名前』のよしみだ。
アイツら、魔剣士共に『これが魔導学院の生徒が使うホンモノの攻撃魔法だ!』って教えてやれよ?」
「まったく、ガビノったらさぁ……。
そんな事、本当に出来る訳ないだろ?」
「ちぇっ
あ~あ、片付けまで待機とか、面倒くせーなーっ
下手クソ共、早く能力測定を終わらせろよっ」
中身社会人な俺は、『気が短いヤツだな』と聞き流して、もう一人の男子に声をかける。
「これってもしかして、午後いっぱいまでかかるパターン?」
「あ~、多分そうかもね。
魔剣士学科の新入生の能力測定会、とか言ってたし」
すると三白眼が、またケチをつけ始める。
「見ろよ、アイツら魔力の扱いが雑すぎる。
魔剣士なんて、みんな脳筋。
たかだか下級魔法、しかも機巧発動なのに『すご~い!』とか、程度の低い事で盛り上がってるんだぜ?
この俺だったら、上級魔法を、さらに広範囲化で自力詠唱して、ドーンと度肝を抜いてやるんだけどなぁ~!」
すると、風紀委員みたいな女子生徒さんが、口を挟む。
「ガビノったら、またバカな事ばっかり言って……。
『上級の広範囲化』なんて、特級相当の難易度じゃない。
本当に、そんな魔法を自力詠唱できるの?」
「うう……っ。
そりゃあ、その、上級の自力詠唱くらい余裕だよ」
「はぁ、『上級魔法の自力詠唱』が余裕ぅ?
本当にぃ~? ちゃんと成功させた事あるのぉ~?」
「あ、ああ、5回に2~3回くらい……?」
「へ~! へ~~ぇ! 知らなかったぁ~っ
ガビノったら、そんなに自力詠唱が巧くなったんだぁ?
おば様とかお姉さんとかと会った時、全然そんな事、教えてくれなかったけどぉ~?
── だったら、『中級の実技』とか簡単に一発合格だったでしょうね~?」
「え、あ、なんというか……っ
まあ、規定時間内には、なんとか成功した……、かな?
……その、10回くらいで」
年上の優秀女子さんに詰められて、徐々に声が小さくなっていく三白眼。
(どう見ても過大申告です、この話はもうお終いっ)
激情ッぽそうな額縁メガネ女子には関わりたくないので、内心だけ突っ込んでおく。
そこにさらに追い撃ちの追加情報を加える、そばかす少年。
「でも、ガビノって。
この前『試験の時は焦って20回くらい自力発動が失敗した。時間ギリギリで合格した』とか言ってなかった?」
「おい、マーティン! しーー!」
「ああ、やっぱりねーっ
アンタ、魔力の量はスゴイけど、扱いがメチャクチャ雑だもんっ」
そんな雑談の間も、魔剣士学科の生徒さんの能力測定は続いていく。
聞こえてくるアナウンスは、ほとんどが『評価C』。
たまに『評価D』とか『評価E』とかも聞こえてくるので、A~Eの5段階評価みたい。
「はーい、学生さん達、休憩時間の間に、機材を入れ替えるわよ」
女性事務員さんの声に従い、銀色のタコさんウインナーみたいな機材の入れ替え。
測定に使っていたのを、エッチラホッチラ運んで、予備の分と入れ替える。
なんでも、あまり長時間続けて魔力を浴びせると、計測精度が下がるらしい。
いわゆる『冷却期間』が必要みたいだ。
「でも、攻撃魔法を受けた割には、傷ついてないんだな?」
見た目、表面ツルツルな<聖霊銀>製の攻撃標的を、ペチペチ叩いていみる。
「おいチビ、何を言ってるんだ」
「あ~……、そう言えばキミって、学院の生徒じゃないから知らないのか。
<聖霊銀>って金属は、魔力を弾く性質があるんだよ」
「いや、マーティン君、普通の人でもそのくらい知ってるでしょ。
── ねえ、アナタも聞いた事あるよね?」
「いや、完全に初耳。
へぇ~、魔力を弾く性質ねぇ……」
道理で、疲れてきて身体に短時間版の身体強化【序の二段目:圧し】をかけたら、何か変な感じがしたのか。
(調子に乗って『このくらいの荷物なんて俺ひとりでも楽勝だぜー、ガッハッハ!』とかしなくて良かった……)
魔法が阻害されて荷物にペッチャンコとか、目も当てられない。
「……ねえ、この子って、なんなの? 学院の生徒でも魔導塾の塾生でもないなら、なんで魔導三院に居るの?」
「いや、俺に訊かれても……」
「なんか、スミス研究室の下男らしいんだけど……」
「ああ、なるほど、スミス研究室かぁ……。それで魔導師とは縁の無い人を雇っているんだ……?」
コソコソ何か話をされていた。
▲ ▽ ▲ ▽
魔剣士学科新入生の測定を見るのに飽きてきた頃。
何か、やたらと威勢のいい叫び声が聞こえてきた。
『このわたくしに、魔法の試験で<中導杖>を使え、ですって!?』
「── お?」
ハチミツみたいなキレイな金髪を夜会巻きにした、育ちの良さげなお嬢様が荒ぶってた。
『そんな物は、魔導伯エンフィールド家の娘である、このパトリシアには不要!
“魔導の伯爵家” のお家芸、高度で精密な自力発動をご覧なさいっ』
「おお~……」
金髪お嬢様の自力詠唱は、言うだけあってかなり精密。
『チリン!』と自力発動音が鳴り、ドーン!と下級の火炎魔法が攻撃標的7個を包み込む。
『── せ、成果7/7!
評価AA!』
『おお!』『すげぇ……』『さすがは魔導伯っ』『AAって、今年初めてじゃない?』『評価AAって、1年目の魔導実技が免除だろ?』『なんでこんな子が士官学校にくるのよっ』『ああ、普通は魔導学院だろ?』
威力的には、機巧発動とそこまで大差がなかったのだが、やたらと生徒さんたちにザワザワされてる。
「うわ、あっさり二重詠唱を成功させたよ!」
「なんつー、魔法の精度だよ、あの女……」
「アレって、もしかしてオーブリー君の妹さん?」
「げっ、エンフィールド先輩の妹かよっ」
「確かに先輩が、妹さんは『ヤンチャで魔剣士が性に合ってる』とか言ってたけどさ……」
「まさか、本当に士官学校の、しかも魔剣士学科に入るなんてね~」
そして、こっちの周りの学生さん3人組も、ザワザワしとる。
なんか、知り合いの妹さんらしい。
『皆さんご覧になりましたぁ?
これが “攻撃魔法の広範囲化” という物です。
わたくしの様な、名門の俊英を目標にした方が励み甲斐があるでしょうから、是非 “お手本” にしてご研鑽あそばせぇ』
これにあと高笑いさえ付け加えれば、完璧な悪役令嬢だ。
『……これが “お手本” ですの?
この程度が?』
『…………は?』
どこからか聞こえてきた呟きに、金髪お嬢様がピシリと固まる。
『な、なんですってぇ!
わたくしの、精密な魔法の自力詠唱が “この程度” ぉ!?
でしたら、これ以上の腕前を見せていただきたい物ですわねぇ!』
『── でしたら、今からお見せしますわ!
魔導伯の子女の方っ』
フンス!フンス!と鼻息荒い、超天才銀髪美少女魔剣士さんが乱入してくる!
── ででっでっでっでっ・でぇ~ん!
── ちょうせんしゃ あらわるっ!?
言う間でもなく、当流派の血の気多い系女子でした。




