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異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 5/条件未達成演出:聖都炎上

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122/236

122:陰謀論、誕生(下)

予想外の言葉に、酒場にはピリピリした空気が漂っていた。


ここ<聖都>(センダード)では、聖教公認の英雄『神童コンビ』の人気は高い。

誰もが、身内の悪口を吹き込まれた様な、不愉快(ふゆかい)さを感じていた。


だから口々に、疑問の声を上げる。



「おいおい、真犯人は神童コンビかよ……」

「神童ルカの目的は、いったい何だ?」

裏社会(ヤクザもの)を追い出すにしても、やり過ぎじゃないか?」

「そもそも、剣帝流と何のつながりがあるんだ?」



そんな訳ないだろう、という空気。

そのままであれば、この場に居合わせた全員が『酒場で変なデマを聞いた』で終わらせていたであろう。


しかし、最初に話していたテーブルの1人が、ふと思い出した、とばかりに口を開く。



「── そう言えば、聞いた事があるな。

 神童コンビは、『剣帝流』とつながりが深いって。

 確か<翡翠領(グリンストン)>の『魔物の大侵攻』(モンスターパレード)で共闘した(えん)とか……」


「なるほど……元々、知り合いなのか」

「神童と剣帝流が、共謀して<聖都>(センダード)で暴れた?」

「再開発のため?

 色町から裏組織(ヤクザもの)から追い出す、地上げのために?」

「そこまでするか?」



すると、店内の別のテーブルに、話題が飛び火する。

誰かが『この際に思い切って』という感じで声を上げる。



「お、俺も!

 なんか、おかしいと思っていたんだ……

 神童コンビが<翡翠領(グリンストン)>入りしたのは、『魔物の大侵攻』(モンスターパレード)が始まる1ヶ月前。

 その間、何をしていたかというと、分派道場の連中をつきっきりで鍛えていたらしい」


「おいおいおい……」

「それじゃあ、まるで……」


「そうだろ?

 まるで『魔物の大侵攻(モンスターパレード)を待ち構えていた』!?

 そんな感じにも思えるんだ……っ」



複数の証言に、店内のざわめきが大きくなる。

皆が、口々に何か言い合う。


そんな中で、こんな言葉も飛び出した。



「そう言えば『神童コンビが剣帝流の秘術を手に入れた』って話がなかったか……?」


『魔物の大侵攻』(モンスターパレード)を食い止めた後に、報酬代わりに伝授されたんだろ?」


「いや、伝授されたのは『魔物の大侵攻』(モンスターパレード)の直前のはずだ。

 <魄剣流>本家の魔剣士から聞いたから、間違いない」


「はぁ!? それおかしくないかっ」


「そもそも、そんなに簡単に『流派の秘術』って他流派の人間が教えてもらえるものなのか?」



── 事実、金貨1枚で簡単に売買してくれました!

そう証言できる人間は、ここにはいなかった。


そもそも、証言があったとしても、鼻息一つで一蹴されていただろう。

あまりに非常識がすぎる。


だから、話はさらに迷走の方向へと加速していく。



「それって、商人で言えば『商売の金策(タネ)を教える』ようなもんだろ?」

「……それ、よっぽど親しい相手でもないと、有り得なくないか?」

「しかも、『魔物の大侵攻』(モンスターパレード)で共闘する前に?」

「魔物退治に特化した、剣帝流の秘術を?」

『魔物の大侵攻』(モンスターパレード)が、まだ(・・)起こって(・・・・)無い(・・)時期(・・)に?」

「おいおい、それじゃあ何か……」



「── まるで(・・・)神童コンビは(・・・・・・)

 <翡翠領(グリンストン)>で『魔物の大侵攻』(モンスターパレード)が起こることを知っていた(・・・・・)みたいじゃないか……」



居合わせた人間の背筋に、ゾッと走るものがあった。



「未来を見通すなんて、人間じゃねえよ……」

「まるで神様が何か……」

「もしかして『神童』って、そういう意味の……?」

「剣帝流……門外不出の秘術……神童コンビ……秘密のやりとり……襲撃事件……再開発……」

「おいおいおい、まさか<翡翠領(グリンストン)>の『魔物の大侵攻』(モンスターパレード)から半年前の事件まで、全部つながってるのか……?」



「── まさか(・・・)

 この全てが(・・・・・)神童ルカの(・・・・・)策略だった(・・・・・)……?」



そんな言葉がつぶやかれると、周囲が一斉に静まりかえる。


喧噪の絶えない酒場が、今だけは物音ひとつしない。

誰かが、ゴクリとツバを呑む音さえ響いた。





▲ ▽ ▲ ▽



「── フハハ……ッ

 まさか、こんな “““真相(しんじつ)””” だったなんてっ」



目つきのおかしい男は、そう吐き捨てると、ヤケ酒のように麦酒(ビール)を飲み干す。

そして空のグラスをテーブルに叩き付けるように置くと、一気に語り出した。



「神童コンビの頭脳役、神童ルカ様は<黒炉領>(ブラックフォージ)『魔物の大侵攻』(モンスターパレード)を経験した事で、その前兆を予測できる様になった。

 それから2年後に、今度は帝国東北部<翡翠領(グリンストン)>が危ないと感づいた。

 だから1ヶ月前に<翡翠領(グリンストン)>に乗り込み、分派道場に『魔物の大侵攻』(モンスターパレード)を迎え撃つ準備をさせた。

 同時に自分は『剣帝』にかけあい、(きた)る魔物の大群のために、秘術の伝授を受ける。

 そして、万全の体制で『魔物の大侵攻』(モンスターパレード)を撃退!

 神童コンビのお二人は、2度も『魔物の大侵攻』(モンスターパレード)を戦い抜いたという、歴史上唯一無二の英雄になられたが、それで話は終わりじゃなかった」



男は、新しいグラスの麦酒(ビール)を、またひと息で飲み干す。

そして、(のど)を潤して、語りを再開する。



「きっと神童ルカ様は、ずっと心を痛めてらっしゃったんだ。

 この<聖都>(センダード)に裏組織がはびこり、罪のない人々が苦しむ現状に!

 さらに、衛兵や教会の僧侶さえも、賄賂(わいろ)脅迫(きょうはく)雁字搦(がんじがら)め。

 もはや、正攻法では悪を裁けない!

 しかし、そこに神々のお導きがあった!」



もったいぶる様に、ひと息、区切る。



「── そう、最強流派『剣帝流』だ!

 帝国東北部の辺境<ラピス山地>!

 そんな、正気の人間は決して近寄らないような危険地帯に身を置き、見返りを求めず魔物退治を続ける、崇高(すうこう)なる魔剣士の猛者達!

 <翡翠領(グリンストン)>の『魔物の大侵攻』(モンスターパレード)という一大事を知って、本来は門外不出の秘術を開示してくれた彼らに、神童ルカ様は心打たれた!

 ── 彼らなら、聖都の闇を払うために、力を貸してくれると!!」


「お、おい、それって……」


「都市内で魔剣士が暴れるなんて、重罪だ。

 死刑になってもおかしくない。

 それでも、もうマトモな方法では<聖都>から裏組織を排除できないほど、根深く入りこんでしまっている。

 だったら、誰かが『ドロを被る』しかなかった!」


「ま、まさか…」


「そう剣帝は、いや『剣帝様(・・・)』は偉大なる『魔剣士の皇帝(ちょうてん)』だ。

 皇帝陛下が後ろ盾という、帝国最高の権威がある。

 だったら(・・・・)<聖都>(センダード)の市街地で魔剣士が暴れるという、本来は死罪になってもおかしくない重犯罪でも、『追放処分』くらいでも済むかも(・・)しれない(・・・・)

 見返りを求めない『辺境の英雄』だ。

 人々の窮地を見捨てる事ができない」


「なんてこった……」


「── だが、剣帝流の弟子!

 剣帝様のお弟子さん達は、偉大なるお師匠様が、ドロを被る事を許せなかった!

 彼らは、お師匠様の代わりに、自分たちが犠牲になる道を選んだ!!」



涙をもらすような、悲痛な声で“““真相(しんじつ)””” が叫ばれる。


もはや原型を留めておらず、明後日の方向に飛んでしまっている“““真相(しんじつ)”””なのだが。



「そんな、そんな事が……っ」「剣帝流は……」「剣帝様が、そんなに<聖都>(センダード)の事をっ」「“““真相(しんじつ)””” を知らず、非難していた自分がはずかしい……」



聴衆は、誰もが涙ぐむ程に感じ入ってしまっている。

すると、酒場に居合わせた客の1人が、こんな補足を言い出した。



「つまり、こういう事か……

 剣帝流の弟子2人が、裏組織の本拠地である<聖都>の色町で暴れる事で、注意を引きつける。

 そして、神童ルカ様が率いる<裏・御三家>の精鋭魔剣士集団が包囲網を展開して、一網打尽にするっ

 全ては、<聖都>(センダード)に巣くう裏組織(はんざいしゃ)を一掃するために!

 そういう、『剣帝流と裏・御三家の合同作戦』だったのか。

 ── なるほどな、<魄剣流>の知人が、『当主様の命令で、その日は必ず道場に居なきゃいけない』とか言っていたのは、このためだったのか」


「ああ、きっとな。

 そして決行日が『昇還祭(しょうかんさい)』の前夜という事にも、きっと意味があったんだ。

 神童ルカ様はきっと、悪徳に汚れきった<聖都>(センダード)を、天上世界から降臨さえる初代<聖女>(サンクト・シーコ)様の御霊(みたま)にお見せしたくなかった。

 だから、その前にケリをつけたかった……」



男は、そう話をまとめる。

そして、晴れ晴れとした表情で、新しい麦酒(ビール)に口をつけた。

寝不足の様な病んだ目つきが、多少マシになっていた。



「じゃあ、剣帝流の弟子2人は、悪を(あば)くために命がけで闘ったのか……」

「そもそも『兄弟の絆』(ブラザーシップ)子飼いの暗殺者すべてを敵にまわすんだ」

「普通の魔剣士じゃ、すぐ殺されちまうな……」

「さすがは、魔剣士最強流派っ」

「それなのに、追放処分になった?」

「なんでだよ、納得いかねーぞっ」

「なんでルカ様は、この事を公表しないんだ?」



事件の裏に隠された “““真相(しんじつ)””” を知らされ、義憤に燃えだす民衆。

まるっきり勘違いで、デマ情報なのだが、不幸にも指摘できる人物がいない。



「バカ、出来る訳ないだろ」

「そうだよな、他の都市や聖教の信者に、<聖都>(センダード)が裏組織に牛耳られていたって認める様なもんだ」

「聖都巡礼の信者には、口が裂けても言えないな」

「それに、不幸にも巻き込まれた一般市民もいる」

「そうか、大手を振って、正義とは言えないもんな……」

「非難される事は、最初から承知の上って事か……っ」



真偽確認(ファクトチェック)されないままの “““真相(しんじつ)””” が広がっていく。

その中で、有りもしない『決意』とか『真の意図』さえも発見(・・)されてしまう。



「そんな非情の決断も、すべてこの<聖都>(センダード)の未来のため」

「<聖女>様のお膝元(ひざもと)にたまった(うみ)を出すため、全て秘密裏(ひみつり)に……」

「ルカ様も、剣帝流の2人も、どれだけ高潔なんだ……っ」

「なんとか、彼らに(むく)いる方法はないのかよっ」

「俺は言うぜ、この “““真相(しんじつ)”””!」

「ああ、知っていて黙っているなんて、出来ないなっ」

「そうだ、そうだ!」

「いったい誰のお陰で、こんな風に安心して美味い酒が呑めてると思ってんだっ」



── 『ウッヒョ~~! 悪党を殴るとスカッとするな!』

とか暴れ狂った少年(バカ)が、うっかり聖人扱いされてしまう事態、発生。



「神童ルカ、なんという頭脳の持ち主」

「あの方には、全てがお見通しなんだな……」

「まるで、神算鬼謀(しんさんきぼう)謀略家(ぼうりゃくか)じゃないか……」

清濁(せいだく)(あわ)()む、とは、まさに『王の(うつわ)』じゃないか……っ」



そんな話し声を聞き、隠された“““真相(しんじつ)””” を明かした男が(うなづ)く。



「── 『神算鬼謀(しんさんきぼう)のルカ』か……

 『あのお方』に相応(ふさわ)しい、二つ名だなっ」



そして、同じテーブルの仲間へ目を向ければ、彼らも感じ入ってしんみりとした表情。

仲間のひとりが、こう切り出した。



「せめて、俺たちだけでも、人知れず活躍した英雄たちに感謝を!」

「ああ、剣帝流と!」

神算鬼謀(しんさんきぼう)のルカ様と!」

「この<聖都>(センダード)の繁栄に!」



── 乾杯!の声と共に、酒場のグラスが一斉に掲げられる。



そんな根も葉もない “““真相(しんじつ)””” が、まるではしか(・・・)のように<聖都>(センダード)全体に広がっていった。




▲ ▽ ▲ ▽



かくして、神童ルカの受難の日々が始まる。

結果、ヤケ酒の泥酔という現状である。


相棒の姉ベルタの肩をかりて、千鳥足でグチを続けていた。



「なんか、みんな、ワイの事を『神算鬼謀のルカ』とか呼ぶんやで?

 犯罪者の取締とか、色町の復興とか、行き詰まっとる案件とかっ

 なんか知らんが、色々聞かれて、意見求められて!」


「へ~」



酔っ払いの繰り言に、ベルタは聞き流す態度。

しかし、当の本人は話せば話すほど興奮していく。



「仕方なしに、何気なく思いついた事をゆーたら!

 『さすが!』

 『まさか、あの時、ここまで……』

 『貴方の様な知恵者(ちえしゃ)に意見するのは、気が引けるのですが』

 『すべての可能性は、もう考慮済(こうりょず)みでしたか……』

 『なるほど、やはりお見通しだったのですね』

 『神童とは、強い魔剣士というだけではないのか……』

 『これが……神算鬼謀……』

 『まさに、神がかりっ』

 『さすルカ!』

 とか意味の分からん事ゆーて、勝手に納得するんや!」


「はぁ~」


「そのたびに、こうなっ

 肩にドンドン石でも積まれてような気がして、胃が()とうて()とうて、しかたないんや!」


「だからって、お酒の飲み過ぎは、良くないですよ?」


「だが、ベルタ。

 ワイもそのくらいなら、まだへこたれん。

 問題は、<聖女>様まで、おかしな噂を真に受けとるらしいんや!

 『ルカ殿、本当はどこまでが、計略の内だったのですか?』とかお訊きになるんやぞ!

 『わたくし、行政府(ぎょうせいふ)の方から手を引いて、貴方にお任せした方がいいような気がしてきました。そちらの方が、聖教の(つと)めに集中できますし』とかおっしゃるんやぞ!

 なんでや!

 なんで、そんな話になっとるんや!」


「はあ、大変ですね?」


「そうやろ! そう大変なんや!

 やっぱり、そうや、よかった、お前と話せて良かったぁっ」


「はぁ……」



ベルタは、お酒臭い不快さと、好きな人にしがみつかれる幸福の、プラスマイナスで微妙な心地。

おかげで、話の内容は大部分が右から左に素通りしてしまっている。



「ワイは、どうしようもない悪ガキがそのまま大人になったような、アホたれやろ?

 ひねくれもんの天邪鬼(あまのじゃく)や!

 決して、皆が言う様な『神算鬼謀の策略家』とか、おかしなもんやない!

 なんや『全てがお見通し』って!

 ワイは、剣の腕が立つだけの『ロクデナシ』やぞ!?

 どいつもこいつも、そろっておかしな事言うな!」


「……ん~」


「── なあ、ベルタっ

 ワイは、そう(・・)いう人間やろ?

 頼む、そう(・・)と言ってくれっ

 誰かにそう(・・)言ってもらえんと、ワイはもう、もうっ

 自分がなんなんか、わからんようになってきとるんやっ」


「はい……?」


「ベルタ頼むっ ベルタ後生(ごしょう)や!」


「え、あの……?」


「頼む! お前に、お前にまで見捨てられたら! ワイはおかしくなるっ」


「………………」



(……なんだか。

 ルカ様がひざまづいて、泣きながらすがってくる姿って、ちょっとドキドキしちゃう……っ

 ── だ、だから、もうちょっと冷たい目をしてよう、かなっ?)



神童カルタの姉ベルタは、何かイケナイ扉を開けようとしていた。




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