表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 5/条件未達成演出:聖都炎上

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

120/236

120:聖都の悪夢(下)

店の外から、ドオォォン!と花火(・・)らしき音(・・・・)が響いてくる。



「── ふぅ……っ

 明日から『昇還祭(しょうかんさい)』だけあって、みんな浮かれているな……」



大きなイベントを前日に控えた色町は、すでにお祭り騒ぎ。


昇還祭(しょうかんさい)』。

それは、夏の(なか)ば、農作業の手が空いた頃に、初代<聖女>である<始源の聖女>フォント・サンクト・シーコ様が天に昇った無数の魂を連れて、地上の様子を見に来られる日。


少なくとも、聖教においては、そうだと信じられている。

だから、皆、花火を鳴らし、ご馳走を用意し、歌や踊りで初代<聖女>様と先祖の魂をもてなす。


そんな<聖都>(センダード)最大の、祭事にして催事(イベント)だ。



しかし、白髪交じり中年男だけは楽しみにする訳でもなく、ただ(いか)つい顔を気難しげに歪めるだけ。



「あら、折角の接待なのにぃ。

 中隊長さんったら、お疲れなのかしら」



中年男がグラスの強い酒をチビチビしていると、厚化粧の女がしなだれかかってくる。

そして、無遠慮にこちらの股間に手を伸ばす。



「あら、意外とコッチは元気じゃない?

 まあ、『疲れマラ』って言うしね。

 ── もう2階(ウエ)に行っちゃう?」



好色そうに笑う女。

しかし商売女(カノジョ)の内心とすれば、面倒な客の相手なんて早めに終わらせたいのだろう。


こうやって、本来は『裏組織を取り締まる』はずの衛兵の制服組の上役連中を、甘い蜜(ワイロ)懐柔(かいじゅう)しているのだ。

ここ<聖都>(センダード)で100年以上続く、悪習であり腐敗だ。



「まだ、十代(なか)ばか……」


「あらやだ、そんなに若く見える?

 もう5年以上この店にいるのよ、わ・た・し!」



中年男はその(・・)職業柄(・・・)厚化粧(あつげしょう)誤魔化(ごまか)した少女(・・)娼婦の実年齢を見抜いてしまう。


すぐに、手元で遊んでいたグラスを、一気に(かたむ)ける。

近い年頃の実の娘の顔が、脳裏にチラついたから。



「……いこうっ」


「はいはい、焦らないでっ

 たっぷりサービスして、あ・げ・る・か・ら」



下着を隠す気がないくらい短いスカートの少女(・・)が、ギシギシなる安い造りの木製階段に片足をかけた。


その瞬間、酒場・兼・娼館のドアが弾け飛んだ。



「なんだお前ぇ ── グホッ!」


「『こんばんわ』と『おやすみなさい』の、ご挨拶ですのぉ!」



入り口で金勘定をしていた黒服が、ゴツン!と一撃で殴り倒される。



「な、なにっ なんなのっ」



娼婦の怯えた顔は、年相応。

つまり、親元にいるはずの少女の物。

最近、生意気な口をきくようになった自分の子と大差ない。


── ああ、こんな少年少女の『あるべき未来(ドン・ドハレ)』を守るのが、自分がかつて目指した衛兵(やくにん)の道!


中年男がそう感じ入れば、身体は自然と、戦闘の準備を終えていた。

『カン!』と機巧(ギミック)発動音で、上級の身体強化魔法が、力をみなぎらせる。



「何者だ! 帝都の裏組織か!?」


「あら、この店は『当たり』だったみたいですわね?」



侵入者は、どういう訳か、若い娘。

いや、<聖都>(センダード)の双頭の裏組織『姉妹の絆』(シスターシップ)『兄弟の絆』(ブラザーシップ)では、少女(それ)も珍しくない。


付近の村や小都市から、孤児・捨て子・家出娘・不良少年が、<聖都>(センダード)(きら)びやかさに()かれて、次々と集まってくる。

だが、田舎でまともに人間関係(・・・・)でき(・・)なかった(・・・・)()が、都会に来たところでどうなる(・・・・)はずもない。

結局は、生活苦から『身売り』か『手を汚す』かの2択に(おちい)るのだけ。

そして若さが(かげ)る四十手前の頃に姿を消し、都市の外で骨だけ(・・・)が見つかる。


ここ<聖都>(センダード)は、帝国3大都市に数えられる程の『繁栄』という(あか)りの下に、そんな(・・・)深く暗い影を落としていた。



「この俺、衛兵の中隊長が居合わせた所に襲撃(しゅげき)とは、運のない刺客だな!

 たとえ子供でも、少女でも、容赦はせんぞ!」



そんな(・・・)、どうにもならない現状を『どうにか』したい。

若き日の男は、そんな熱い想いを抱いて、衛兵に入隊した。

そして当然の顛末(・・・・・)として、『見えない大きな手』に(にぎ)(つぶ)された。


ここに居るのは、あの日の抜け殻。

倒すべき敵の走狗(イヌ)に成り果てた、みずぼらしい中年。



「こう見えても、剣の腕だけは自信がある!

 俺は<四環許し>(上級の魔剣士)だ、降参するなら今のうちだぞ!」


「フゥ……ッ

 ── 訂正、どうやらこの店も『外れ』のようですわ」



男の内心の無様さを笑う様に、少女は呆れ混じりの鼻息。



「なめるなっ」



強い酒のせいもあって、かっと怒りに火が点いた。

男は、安酒場の軟弱な床板を踏み破らんばかりに、ズン!と強く強く踏み込む。



── 『ヤクザ者を見逃す汚職役人』

かつての自分が(さげす)んだ存在(ゲス)になり果てても、打ち込み続けた剣術。



── 人を守る剣士になりたい!

そんな熱意の残滓(ざんし)が、鍛え続けた渾身(こんしん)の一撃!



── これぞ我が生涯と、信念の結晶!

冒険者の半鎧くらい易々と貫通するであろう、<轟剣(ごうけん)流>の師の絶技!

それ(・・)に、あと一歩(・・・・)と迫る(・・・)、我が得意技!



── 剛撃の刺突(ツキ)



「……雑、ですわっ」



それが、ヒョイっと避けられた。

銀髪の少女は、上半身を柔らかく大きく()らした。


男の渾身の刺突(ツキ)は ──

『必殺』の(いき)にまで()り上げた得意技が ──

 ── 刺客の少女の身どころか、その胸甲にさえも、ギリギリかすらない(・・・・・)!?



「── ……なっ!?」



上級(よんかん)の魔剣士である中年男(ジブン)の渾身の一撃を、それ(・・)をまるで素人のガムシャラであるかのように、軽くあしらってくる。

中年男(ジブン)と、娘ほどの(とし)の少女には、そんな絶望的なまでの腕前の格差(・・) ── いや断絶(・・)が横たわっていた。


師匠や同じ道場の俊英・特級(ごかん)との稽古(けいこ)ですら、これほどの無力さを痛感した事はなかった。



── まるで、神童コンビ!?

── いや、あるいはそれ(・・)以上!!



「……ば、バカな……っ」



たった一度の攻防で、悪夢の様な実力差が知れた。

そのため、次の動きが少し遅れてしまう。



「く……っ

 だが、簡単には負けんぞっ」



── 今はこの背に、守るべき子供(モノ)()るのだから……!



男が慌てて剣を引こうとするが、抑え付けられてビクともしない。

よく見れば、刺客の銀髪少女は、自身の胸甲と奥の手に持つ棍棒らしき武器を(もち)い、こちらの剣を『テコの原理』で抑えつけている。



「困りました……

 これでは簡単すぎて、特訓になりませんの……」



そんな言葉と共に、刺客の銀髪少女の手前の手が跳ね上がる。

たった一撃で、男の手の中から<中剣(ミドル)>がはね飛ばされた。


何より問題は、相手のその武器。

鋼鉄製の鈍器か何かと思っていたが ──



「── はぁっ!

 フライパンだと!?

 ふざけるなっ そんな物でぇっ」



男に出来たのは、不条理に対して怒声を上げるだけ。

竜巻のように回転する少女が、片方の武器で足を払い、倒れた所に頭へ一撃。


ゴォ~ン!と大鐘(おおがね)のような音が頭蓋(ずがい)に響く。



『きゃあ! なんなのアンタ!』『うるさいですの』『この、くらえっ』『さっきの方よりお話になりませんわ』『なんだ、うるせえ ── お!ぉぉ……っ』『汚い物、見せないでくださる?』『きゃああっ』『逃がしませんわ』



上下逆さまの視界の中、銀髪の少女が淡々と、老若男女おかまいなしに殴り倒していく。


男は、混濁する意識が闇に落ちるまで、それ(・・)を眺めていた。

かつて夢に描いた、それ(・・)を。


周囲の全てを敵に回しても、いっさい(ひる)む事もない、圧倒的な『武力(ちから)』。



── あの日の俺に、こんな『実力(ちから)』があれば、あるいは……っ



そんな強い後悔を抱きながら。





▲ ▽ ▲ ▽



「── お、おい、神童!

 おい神童って!

 アイツら、街中で魔法ぶっ放したぞ!

 一般市民もお構いなしだぞ、いいのかアレ!?」



放心状態から最初にもどったのは、『兄弟の絆』(ブラザーシップ)の重鎮。



「い、良い訳が、ないやろっ

 なにをとんでもない事しでかしとんや、アイツらぁ~~!」


「ルカ、俺は道場に行って人を集めてくる!

 そちらは、現場に向かって暴走を止めよ!

 ── つまりは、役割分担っ」



神童コンビの巨漢は、そう言い残して、商会の屋根から飛び降りた。



「お、おう、そうやな!

 ── と言う訳で、手伝え犯罪者!」


「えぇっ、お、俺もぉ!?」


「お前のせいで、こうなっとるんやろがぁ!?」


「あ、いや、そ、そりゃそうだけど……っ

 でも、あんなバケモノ魔剣士を相手に、役に立つ自信がないんだけど……」



神童ルカが、重鎮の男を肩に担ぎあげ、特級の身体強化のジャンプ力で、建物の屋根上を飛び跳ねる。

色町が近づいてくると、何かとんでもない会話が聞こえてきた。




『── グヌヌヌッ!

 剣帝流のガキどもが、調子にのりおってっ

 お前達ならアレを()れるんだろうな!?』


兄弟の絆(ブラザーシップ)第一兄(エルダー)ともあろう方が、何を解りきった事を……』

『その通りだ。この<聖霊銀(ミスリル)>の全身装甲(フルアーマー)は、いかなる攻撃も弾く』

『そしてこの巨体から、繰り出す一撃は、全てを肉塊(ミンチ)に変える』


『さすがは妖鬼人(トロル)豚鬼人(オーク)獣鬼人(ウェアウルフ)の3人。

 銀星12座(ミスリル・スター)巨躯戦団(ティターンズ)だ、大した自信だ』


『おっと、俺らを忘れちゃ困る、なあ赤斬魔(レッドキャップ)?』

『ああ犬面魔(コボルト)、あのガキどもを真っ赤に染めるのは、俺たちさ』

『あの綺麗な顔をしたメスガキが、この<聖霊銀(ミスリル)>の全身装甲(フルアーマー)に魔法が効かず、泣き叫ぶ姿が早く見たいわぁっ』


『ふん、泣女魔(バンシー)の悪趣味さは、相変わらずのようだな。

 よし、妖魔戦団(ベムズ)の3人、お前達も一緒に行けっ』




重鎮の男は青ざめ、神童ルカは顔をしかめる。



第一兄(エルダー)、正気か!

 こんな街のど真ん中に、あの(・・)銀星12座(ミスリル・スター)』を呼び出したのか!?」


「その名前、覚えがあるで。

 確か『戦闘屋』とかいう上位冒険者くずれ(・・・)よな?」


「そうだ、『兄弟の絆』(ブラザーシップ)の切り札だ!

 だがマトモな(・・・・)冒険者(・・・)だった『人食いの怪物(マンイーター)』とは違い、快楽殺人で表社会に居れなくなった狂人どもっ

 標的だけじゃなく、無関係な人間も5人10人と、見境なく惨殺して回る!

 このままじゃ、色町が血の海に ──」


「── おいおい、マジか!?

 そりゃ、ワイも『剣帝流』に加勢(かせい)して、被害を食い止めんと!」



そんな緊迫を、完全にぶち壊す、脳天気な叫び声が割って入った。




『お、装備の良さそうなザコの群れ発見!

 ぬぅうううん、一瞬千(いっしゅんせん)げ ── ミス【ゼロ三日月・乱舞】! でしたぁ!』


『ぎゃぁああ!』『俺の足ぃ!』『腕が、腕が!』『うそだ、うそだ』『<聖霊銀(ミスリル)>の全身装甲(フルアーマー)が真っ二つにぃ!?』『血が、血がとまらないぃのよぉ』


『ああ、お兄様ずるいですわ!

 リアも<聖霊銀(ミスリル)>装甲を斬ってみたかったですわっ』


『……さすがにフライパンじゃ、無理だろう?』


『自分は模造剣(ナマクラ)を使ったですわよねぇ!』


『ああ、そういや、そうか……

 リアちゃん、すまんすまんっ』




外野の心配を180度裏切る、とんでもない結果が聞こえてくる。



「お、おい神童っ、おい神童って!

 アイツら、なんかスゴイおかしな事を言ってるぞ!

 <聖霊銀(ミスリル)>装甲を斬る?

 銀星12座(ミスリル・スター)をまとめて倒す!?

 ── はぁぁぁ!?」


「まあ、よく考えたら『竜殺の剣士』な訳や、あのチビ。

 全力出せれば、大抵の相手に負ける訳ないわなぁ~」


「なにそれぇぇ~~!

 そんなひと言で納得しないでくれよぉ!

 俺、ぜんぜん意味わかんないんだけどっ!」


「その『意味の解らん連中』にケンカ売ったアホが、お前らやぞ?

 ── まあ、安心せい。

 最悪、『剣帝流』をおびき寄せる(おとり)にでも、なってもらうさかい」


「── や・め・て・ぇぇ~~っ!

 魔物がウヨウヨいる森に放り込むようなマネ、やめてくれ~~!

 同じ死ぬにしても、せめて公平な(さば)きを受けさせてくれぇ~~!」


「……自業自得、やろ?」


「いやぁぁぁぁぁ~~~!!」



深夜の街中に、悪党の悲痛な叫び声が響いた。




▲ ▽ ▲ ▽


結局、この後、約20分ほど騒動は続いた。



聖教の総本山<聖都>(センダード)(さか)()で、嬉々(きき)と暴れ続けた。

そして、悪党も役人も住民も震え上がらせ、その流派の名を恐怖と共に刻みつける事に成功する。


ロックとアゼリア ── 剣帝の『粗暴(そぼう)な』弟子2人 ── に、いまさら手を出そうなんて考えるバカは、誰もいなくなった。


ロックの目論見(・・・)どおり(・・・)に。



むしろ ──

── お前らとは、二度と関わりたくない!

── (たの)むから早く出て行ってくれ!

── はぁっ、昨日の事件について弁明したい!?

── 罪!? 罰!? んな事いいから、早く帝都へ行け!



そんな感じで、ほぼ厄介払(やっかいばら)いな状況。


極悪非道を行った兄妹弟子は、翌日の昼前には<聖都>(センダード)を出発。

まさに(あらし)の様に、台風一過(たいふういっか)と去って行くのだった。


!作者注釈!


聖都編のエピローグ、あと1話の予定。

なんかやたら長くなっちゃった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ