115:トリック解説
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
さて、前回のネタばらしといこう。
まずは、女暗殺者との入れ替わりを説明しよう。
── ちょっと昨日の夜まで、話がさかのぼる。
鋼糸の講師センセイが、また暗殺者たちの密談を盗み聞きするとか言い出したワケだ。
「少年は、拙の独自技術を継承できた奇特な人物。
こんなところで死なれては、困るのであ~る」
なんだか、妙に意気込んでいた。
一応『無理しなくても良いですよ』と止めたんだが、ダメだった。
話に聞く限り、講師センセイは熟練の『鋼糸使い』らしい。
女僧侶さん情報では、盗賊数人や低級な魔物くらいならチャチャッとやっつけるくらいの腕前との事。
だが、今回の相手はプロの暗殺者集団。
さすがにちょっと心配だったので、俺も着いて行く事に。
「お兄様っ リアは、リアはっ?」
「君はぁ~……あ、ほら、お昼の老婦人さんを守ってあげてね?
リアちゃんの昔の知り合いって事で、狙われたら大変だから」
「解りましたのっ
か弱いお婆さんをお守りしますわっ
悪いヤツが来たら、容赦なくブンブンしましてよぉ!!」
フンスッ!フンスッ!と、いつも以上に気合いが入りまくった妹弟子は、『さすがにソレくらったら、鞘付きでも死ぬんじゃね……?』というような素振り。
そんな感じで妹弟子は、昨日の老婦人さんのお宅に1泊させてもらう事に。
夕暮れ過ぎに再訪問したのに、イヤな顔ひとつせずに、こころよく引き受けてくれた。
昼間に訪問して昔話をしている内に、『祖母と孫娘』みたいな雰囲気になってきた2人だ。
せっかくの機会だから、『そんな建て前』で旧交を温めてもらっているワケだ。
(老婦人さん、マジぐう聖!
このクサレ異世界にも、善人はいるんだなぁ……っ)
そんなワケで、俺と講師センセイだけ、密談の現場である酒場に潜入。
講師センセイは、お客さん。
俺は、臨時の皿洗いバイト。
マスクで顔を隠して、カチャカチャカチャカチャ皿洗いしながら、キッチンの中から裏社会の連中を観察。
裏社会連中の密談(藩王国古語での会話)の内容は、講師センセイが同時翻訳。
しかも『鋼糸を使った糸電話みたいな小技』で伝えてくれる、という万全のアフターサービスっぷり。
(さすがは中二病の理想・『鋼糸使い』!
多芸で有能で、極めたら何でもできちゃいそう!
金貨何枚も渡して教わった甲斐がありそうだっ)
それで。
暗殺者の夜襲作戦を聞いた以上、ちょっとバイトの小休憩の間に、俺だけ残していた宿屋を引き払った。
酒場に戻ってきて閉店まで、またカチャカチャカチャカチャ皿洗い。
暗殺者たちは、やはりアホ集団。
途中、『コイツら、本当に熟練の魔剣士なのか……?』と心配になったくらい。
最後の最後まで、キッチンの中でスカーフでマスクという雑変装の俺に、まるで気付かなかった。
▲ ▽ ▲ ▽
そして、今日の早朝。
「うぅ~ん……、いい天気ぃ~」
2色髪の少女が、宿の屋根裏部屋の窓を開けて、大きく背伸び。
「今日はさすがに仕事よねぇ……
剣帝流って、ホントにそんなに手強いのかな?」
「おちこぼれのザコ兄貴はともかく、正統後継者のアゼリア=ミラーは超天才児だぞ?」
「ああ、そうな……ん…… ──
── ……え?」
「よっ!」
4階建て屋根の上で、気安く挨拶する俺。
夜明け前に酒場が閉まったので、行く所がないので、それから宿屋の屋根の上に待機してた。
おかげで、冷え切った身体と、クマの浮かんだ徹夜顔。
そんな寝不足全開の、座った目つきの俺。
「あ、あ、アンタ……っ
な、な、なんで、こんな所にっ」
<翡翠領>少年少女5人組の1人が、ビビリ満載の震え声。
「バカ、大きな声出すなよ、しぃ~……っ」
「え、あ、うん? えぇ……な、なに……?」
2色髪の少女は混乱してるのか、言われるまま声を潜める。
ちなみに、この子の正体が、鋼糸の講師センセイを酒場から港町の城壁の外まで追いかけて行ったヤツ。
『破局の歌い手』の末妹。
俺は、それにまるで気付いていない態で、親しげに語りかける。
「あのさぁ……ちょっとリアちゃんの事で話があるんだよ。
朝早くですまんが、部屋で話していいか?」
「あ……うん…… いや、えぇ…… で、でも……」
俺が適当な事を言いながら、強引に窓から部屋に入ろうとする。
相手は対応に困って、しどろもどろ。
(バカだなー。
アヤしいと思ったら、すぐに攻撃すればいいのに……
それとも『まだコイツ気付いてない? 誤魔化せてる?』とか甘い事を考えてるのか?)
ダメダメだな、この子。
場数が少ないというか、経験不足というか。
(でも、まあ、しょせんは暗殺者って事か……)
毒、火事、不意打ち、闇討ち、etc...
確実な勝利のためには、手段を選ばない。
そういう、職業・殺し屋さん。
だから、不利な戦闘の経験が少なく、逆境にまるで慣れていない。
攻撃は鋭いが、防御に回ると脆すぎる。
相手にペースを握らせるとか、論外だ。
(戦闘ってのは、どうやって相手のペースを乱し、自分のペースを維持するかって事だぞ?
まったく、これだから異世界の暗殺者はぁ……!
格闘ゲームという伝統文化を疎かにするからだぞ?)
── そんなワケで。
この後メチャクチャ制圧った。
寝起きの『破局の歌い手』とかいう女暗殺者3人とも。
▲ ▽ ▲ ▽
「── 本当に私。
アダリンとは、幼なじみなの……」
2色髪の少女は、そんな私的事情まで素直に吐露した。
(胃液をゲロった後だけに、独り笑い)
なお『アダリン』というのは、昨日の朝の三つ編みモジモジ少女。
「4年前まで<翡翠領>に住んでて、あの子の家の魔剣士道場に通っていて。
その頃は、まだ父さんの商売が上手くいってたから……」
個人経営の商人な父親が、多額の借金を残して自殺。
2色髪の少女は、その娘として本来なら、親の残した借金返済のために身売り。
しかし、魔剣士としてそこそこの才能があったから、暗殺者チームの一員として抜擢された。
若くして職業売春か職業殺人か、どっちが良かったが解らない究極の2択だが。
そして現在は、『破局の歌い手』3人組の末妹として、色町の用心棒から暗殺までなんでもござれの裏稼業。
「なるほど。
<聖都>裏組織の暴力担当が『兄弟の絆』ねぇ……
で、売春と薬物と人身売買、そういう違法売買担当が『姉妹の絆』か……」
(前世世界でも、中華マフィアの『八兄弟』だの『十三姉妹』だの、妙な名前の犯罪組織あったなぁ)
海外工場を作るくらいのデカい企業に勤めてた同級生が、アタマ痛いとボヤいてた覚えがある。
(そう言えば、同級生から『お前、パソコン詳しいなら、転職してみる気ない?』みたいな事を誘われたな……)
他に、『海外とか慣れたら楽しいよ』とか『ミドリ町とかゴーゴーバーとか海外風俗興味ないの?』とか『シャンハイとか美人多いし、ニッポン人ならモテるよ』とか『コピー基盤とか裏ロムとかいっぱい手に入るよ』とか、妙な事を色々言われた。
学生時代に仲良くなかったヤツに急にからまれた(しかも、謎のヤキニクおごり!スゲー不審!)話だったから、基本的に全部聞き流していたが。
結局、同級生が『ヤクザかマフィアかとトラブって行方不明になった』と聞いた時、ゾッとした。
変な誘いに乗らなくて良かったぜ。
危うく、密輸の片棒を担がされて、俺も消される所だった。
「やはり、裏社会滅殺……慈悲はなし……」
『……ひぃっ』
俺がポツッと言ったら、過剰反応する年上女2人。
どっちも青い顔して、床にペタンと座り込んでる。
『破局の歌い手』とかいうチームを組んでる姉貴分の2人だ。
長姉と次姉という呼び名らしい。
── さっき得意満面で、俺の背中にゼロ距離自力詠唱してきた【撃衝角・劣】をスカらせた上に、即座に模倣して悶絶させたから、『魔法使いな暗殺者』の鼻っ面が折れたんだろう。
俺は、ビクビクしている女2人をチラ見して、また末妹に目を向ける。
「── 話はもどるが。
それじゃあ、昨日の朝の4人組は、本当にただの昔の知り合いってだけか?」
「うん……昔のトモダチ……。
っていうか、アダリンも、みんなにも、あっさり忘れ去られてた。
さすがに、ちょっと、ショックだったけど……」
昨日の早朝は、標的の確認をかねて、昔の知り合いに声をかけたらしい。
思い出してもらうまで、色々昔話をしたみたいだが。
(んじゃ、<翡翠領>マイナー流派の少年3人と少女1人は、ボコボコにしなくていいのか。
良かった良かった……)
── それで、この後。
2色髪の末妹と衣装交換しようとしたら、3人とも寝間着を脱ぎ捨ててパンツ下ろし始めたからビックリしたぜ。
その後、やたら命乞いしてくるし。
思った以上に、説得が効き過ぎた感じ?
(模造剣に【序の一段目:断ち】で魔力刃を魔力付与して、宿屋の木製椅子をズパパパパン!
── 『直■の魔眼ごっこ』!!
ウヒョー! 俺が『型月』だ! したのは、脅しすぎだったかなぁ……)
▲ ▽ ▲ ▽
さて、そんな経緯で、『破局の歌い手』の末妹のフリして、行商人の乗合車両に乗り込んでいたワケだ。
「── さすが『戦闘屋』とか名乗るだけあるな。
一瞬、魔法の解放が遅れたら、首を折られてたぜ……」
リーダー『骸骨被り』にやられかけた、首をかるく撫でる。
背後からの強襲を迎撃したのは、至近距離用の改造魔法。
ちょうど今朝覚えたばかりの【撃衝角・劣】だ。
本来は下級魔法である【撃衝角】を、威力と範囲を絞る事で、初級魔法並に簡易化・高速化。
暗殺者の手札だけあって、なかなかの使い勝手。
「── 『破局の歌い手』!
これはどういう事ですか!?」
『#2』とか言われてたメガネ青年が、怒りの声。
しかし、その相手はこっちしか見てない。
「ねえ、もう良いでしょ、私達!」
「約束通り協力したわよ! だから、もう解放してっ」
見れば、長姉と次姉は、最後尾のドアにしがみついている。
俺は、借り物の衣装と腕輪型<魔導具>3個を、ひとまとめにして投げ渡す。
「ああ、いいぜ、行きなっ」
俺がシッシッと犬を追い払う手つきをすると、途端に『破局の歌い手』の女2人はペコペコ。
「約束守ってくれて、ありがとうっ」
「今度、いえ、今晩<聖都>でお礼するからっ」
そんな緊張感の無い言葉に、ちょっとため息。
「バカ、しばらく<聖都>に来るなよ?
お前らの妹にも言っとけよ」
『はいっ』
女2人の声を揃えた返事。
すると手配屋の女が、行商人の荷物に埋まったまま、怒声を上げる。
「『破局の歌い手』ぅぅ! 裏切ったわねぇ!」
「うるさい、バ~~カ! 死んじゃえっ」
「こんな割にあわない暗殺、二度とごめんよ!」
負けじと怒鳴り返す、占い師メイクの女暗殺者2人。
手配屋の女は、いよいよ血相を変える。
「『兄弟の絆』を、<聖都>の闇を敵に回して、無事で済むと思ってるの!?」
「股を開くしか能がない『姉妹の絆』が、えらそうに!」
「標的の事くらい、ちゃんと調べろっ このバケモノに拷問される所だったんだから!」
醜い口ゲンカだ。
俺は、ちょっと引っかかって、口にする。
「……バケモノ?」
『ひぃっ、ご、ごめんなさい、ダンナ様ぁ!!』
2人が揃って背筋をピンと伸ばし、90度どころか120度くらい深々と頭を下げる。
土下座ぐらい簡単にしそうな勢いだ。
(……どんだけ、コイツらにビビられてるんだ、俺)
あと、何がダンナ様?
「……もう、いいや。早く、行きな」
「はい、ダンナ様っ 何でも言う事をききますからっ」
「<聖都>の『星々のお告げ』に来て! 妹入れて3人がかりで相手するからっ」
そう言い残して、女占い師みたいな格好の2人は、中型の乗合車両から飛び降りた。
「たったひと晩で、『破局の歌い手』をまとめて骨抜きにしますか……っ」
「このガキ、女みたいな顔しているのに、とんでもない女殺しねっ
どんな凶悪武装を隠してんのよっ」
「……おいっ」
バカ女2人、変な事言い残して消えるな!
なんか変な誤解されているだろうがっ
バツとして、ミニスカメイド服とか着せんぞ、オラー!
▲ ▽ ▲ ▽
「── 取った!」
背後に気配。
同時に、首への一撃。
「取れてねーよっ」
俺は、魔法発動と一瞬で身体の上下を入れ替えて、首への攻撃を回避。
そして、背後に密着した小柄な敵を蹴り上げ、天井にたたきつける。
『超れっ●だ~ん』(飢えた狼たちがスペシャルな必殺技)の始動モーションというか。
つまり、逆さの両足裏蹴りというか、斜め上へ上昇ドロップキックというか。
ほら、アレだ。
<翡翠領>の『魔物の大侵攻』の時に、首魁の溶解液攻撃から、妹弟子を助けるために使った特殊技の変形。
「なんなの、コイツっ! 今の有り得ない動きっ」
「『チリン!』と自力詠唱の音! つまり魔法を体術に組み合わせて、動作を加速させている!?」
残り2人。
気の強そうな姉ちゃんと、メガネ青年。
(うう~ん……
やっぱり、頭良いヤツや場慣れしたヤツに必殺技を見せると、簡単に解析されちゃうな)
『活人剣』な流派のツラい所。
短期決戦で1撃KOしていかないと、自分の首を絞めるな。
そんなワケで、相手に対策される前に、自分から突っ込んだ。
「早いっ」「挟み撃ちをっ」
さすがは『戦闘屋』とか言われているだけあるな、この『人食いの怪物』だか『人食いの怪物殺し』だかの4人組。
リーダーと少年が倒されても、動揺が最小限で、すぐに適切に対応してくる。
── そこで、2人の背後で『カン!』と魔法の起動音もどき。
「なに、魔法!?」「まさか『破局の歌い手』っ」
ハッと背後へ目線と注意が行く、戦闘屋の男女2人。
そうそう、さっき出て行った女占い師2人の置き土産かと思っちゃうよね?
残念、違います!
今のは、鋼糸の講師センセイ直伝の、鉄弦の演奏。
乗合車両に乗り込む際に、ベンチと手すりの間に、蜘蛛の巣みたいに弦を張っておいて、有線の遠隔操作。
『鋼糸演奏』の音マネで、起動音と鳴らしたワケだ。
「かかったなっ 【秘剣・木枯:弐ノ太刀・旋風】」
戦闘屋の男女2人の真ん中に割って入って、竜巻回転。
周辺攻撃の連続刺突をゴスゴスゴスゴス!
「ぐは……っ!」「うあぁ……っ!」
2人まとめてK.O.だ
やはり対人戦は、実害のないハッタリや引っ掛けみたいな、小手先の技が勝負を制してしまう。
(── で、それに特化すればするほど、フェイント&トリック重視の『虚の剣』ばかりが上達する。
もちろん、フェイントやトリックを極めたところで、生物的に弱者な人間は殺せても、圧倒的強者な魔物は殺せない。
それがつまり、魔剣士の本分である魔物退治から遠ざかった『道場剣術』ってワケか)
うわ~、都会生活って、やべえな。
これ、安全・安心な生活にうつつを抜かしてたら、即・弱体化するじゃね?
「よしっ
俺も、腕が鈍らないように、道中でも魔物を斬るようにしよう!」
ザコな兄弟子が10年近くかけて、必死に『剣術Lv60』まで鍛え上げたんだぞ?
今さら弱体化とか冗談じゃねえや。




