表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Round 5:聖都ステージ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

112/236

112:聖都の刺客


「なんじゃこりゃー!?」



開演(かいえん)の声は、まるで雄鶏(おんどり)だ。

早朝の漁が終わったばかりの港町が、ドッと群衆の笑い声で()いた。



「船のマストの上ぇ~っ!?」

「なんでこんな所にっ」

「またか、あのクソガキどもがぁ!!」



パンツ1枚という、半裸状態のたくましい成人男子が、3人。

脱出芸人(・・・・)笑う狼群(ラフィング・パック)』の叫び声は、船上5m程の高さもあって、よく港の波止場に響いた。



「今度は何だ!」

「あ、リーダー、上だ上!」

帆柱(マスト)の上の方に、『ここを引っ張って』とか、ワザワザ書いてあるっ」

「ふざけやがってぇ~~!」」



リーダー『腹筋殺し』のキレ芸を、観客は『待っていました』と大爆笑。



帆柱(ほばしら)の上部に遠見の台座がある。

その上に ── 作業用の足場だろうか ── 細い丸太木が十字に組まれて、四方に張り出している。

笑う狼群(ラフィング・パック)』の3人は、その上に(また)がっていた ──

── いや、彼らの『設定』を重んじて、あえて『何者かに(また)がらせた体勢で捕縛されていた』と、言っておこう。


両脚は丸太木を(また)に挟んだ形で、両足首を縛られている。

両手はロープにつるされ、頭上で両手首を縛られている。


つまり、両脚はほとんど使えず、両手が結ばれた状態のままで、腕力と握力だけで50~60cmほど上まで自分の身体を持ち上げないといけない。



「手を変え品を変え、こんな下らない事をよく思いつくっ」



一歩間違えれば、観客を冷めさせてしまうような、メタ発言。

しかし、ヤツらはやはり『元・劇団員』なのだろうか。

真に迫る演技力で、まさに憎々(にくにく)しいとばかり。



俺は(・・)、その台詞に少し苛立(いらだ)つ。

まさに先日、芸の『(はい)り』があまりに芝居臭いと、皮肉を言われたばかりだから。


── 所詮(しょせん)ニセモノ、これが『芸』だってわかっている

── だけど、見ている間くらいは、現実を忘れて没頭させてほしい


『だから、そう()ってるんだろうが!』

そう怒鳴り返した自分の声が、脳裏で虚しく繰り返された。



「くそがぁ、この程度ぉ、魔剣士の修練(しゅうれん)に比べればぁっ」


『がんばれ~!』


「うるせえ、黙って見てろっ」


『ワハハハハッ』


他人(ひと)が困ってる姿を見て、わらうなーーっ」



観客を怒鳴りつけるなんて、芸人の禁じ手だ。

それを芸として完成させ、笑いまで取るなんて、並の発想ではない。


あの時の俺に、こんな『能力(げい)』があれば。

そんな口惜(くちお)しさが、思わず握り拳を振るわせた。



「── 何をしとるか、オノレらっ」



厳めしい声が、急に響いてきた。



「何のイタズラじゃあ、ワシの船じゃぞ!」



薄毛で白髭(しろひげ)の老漁師が、怒りに顔を赤くしている。

思いがけない闖入者(ちんにゅうしゃ)に、盛り上がっていた群衆も静まりかえった。


大柄な老人がズンズンと進めば、自然と人波(ひとなみ)が二つに割れる。



「── ふん、『ご迷惑をおかけします』じゃと?

 『笑う狼群(ラフィング・パック)の脱出芸をお楽しみ下さい』か……」



老人は不機嫌そうに、マストの上部に縛られた半裸男3人に目をやり、大きく鼻息。



「ふんっ

 なにが『腹筋の暗殺者』じゃ!

 物騒な芸名しおってっ」



すると、臆する事無く本人たち ── 『笑う狼群(ラフィング・パック)』が声をかけた。



「ご老人、この船の持ち主か!?」

「助かったぁ、この縄をほどいてくれっ」

「クソガキにこんなイタズラをされて、ほとほと困ってたんだっ」


「ふんっ」



老漁師は、周囲を見渡し、また不機嫌の鼻息。

そして苛立(いらだ)たしげに歩き回り、こう告げた。



「── オノレら、きちんと払ってやらんかぁ!

 無銭見物(タダみ)なんて、真剣に芸をやるヤツらに、失礼じゃろうがっ

 ほら、見物賃(おひねり)を入れてないヤツ、早く入れんか!

 ほらそっちも、こっちの連中もじゃっ」



100人を超えそうな人だかりに対して、あまりに実入りの少ない集金箱を、わざわざ持って回って、そう(うなが)した

そして、帆柱(マスト)に縛られた3人に向けて、大声で告げる。



「── そこの芸人たち!

 今日だけはワシの船を勝手につかった事、許してやる!

 真剣に生きとるヤツは、目を見れば解るからなっ

 ただ、次からは許さんぞ!

 ちゃんと持ち主に、(ことわ)りくらい入れんか!」


「おお!」「じいさんっ」「話がわかるっ」「サイコーだ、あんた!」



静まりかえっていた観客が、一気に歓声を上げた。



「な・ん・で! そんな話になるんだよぉ~~!

 いいから、俺たちを助けろよぉ~~~っ」



そこはさすがに、芸人集団をまとめるリーダーだ。

すぐさま安定のキレ芸を披露して、ドッと笑いを誘う。

盛り下がりかけた場が、すぐさま(あった)まってくる。



「ほぉ……ええ声しとるな、しかも腹から出とる。

 ありゃ、もしや芸人やないで、プロの役者かなんかか?」



老漁師も感心の声でつぶやいた。





▲ ▽ ▲ ▽



「くそぉっ くそぉっ くそぉっ

 もういい! 誰の助けも借りん! 今までも俺はそうやって生きてきたぁっ」



リーダー『腹筋殺し』が、中断していたロープ登りを再開する。

わずか50cmほどとはいえ、両手首を結ばれて自由がきかない状態。

両手を擦り合わせるような動きで数cmずつしか登れないため、1分近く時間がかかる。


そして、残り10cmまで迫った時に、それは起きた!

ロープ上端は油でも塗られていたのか、滑って一気に落下。



「ああぁ~~~!

 ── オ、フォッ!!」



落差30~40cmとはいえ、丸太木で股間を強打!

男なら誰でも悶絶(もんぜつ)必至(ひっし)


同時に、カァ~ン!と丸太木に下がった(かね)が鳴り響く。


当然、観客は大爆笑!

口笛の音さえ飛び出す!



俺も、思わず噴き出すほどの、大笑い。



── やりやがった!

── コイツ、やりやがった!!



それと同時に、打ちのめされるような悔しさを感じる。


男なら、誰だって理解できるだろう。

あの、金的を強打した後の、なんとも言えない長引く痛み。



── それを、鐘が鳴り響く『余韻(よいん)の音』で表現するだとぉ……!?

── 金的の苦痛と、鐘の音、だとぉ!?

── 本来なら決して結びつかないような、点と点を結びつけやがった!



天才的……っ!

天才的な発想力……っ!!



「て、手が……油で、ベタベタにぃ……

 これでは、もう登れない……っ

 た、頼む、『()てる(おおかみ)』ぃ……」



金的の痛みで、いまだ悶絶するリーダー。

笑う狼群(ラフィング・パック)』1番の美青年(ハンサム)に話を振る。



「フッ、任せろ、リーダー。

 俺が冷静沈着に、この仕掛け(ギミック)を攻略するっ」


『きゃぁぁ~~!』『()てる(おおかみ)さまぁ~~!』



自信たっぷりの発言に、若い女達の歓声が飛ぶ。

チームの頭脳役は、落ち着いてロープを腕の力で登り始めた。



「こうやって、両手の指と指の間に、ロープをからませて、登っていけばっ

 例え、油で(すべ)ってもっ」



確かに堅実な攻略法。

観客の間から『おぉ~っ』と感心の声も上がる。


策士(さくし)(さく)(おぼ)れる』

その典型を()って()せる辺りが、さすがは頭脳派芸人。

リーダーの倍の時間、2分以上をかけて頂上までたどり着いたが、そこに作戦の穴がある。


解放のロープの方に片手を伸ばすと、指にからめて落下を防いでいたロープが、バラバラと外れてしまう!



「うああぁ~~~!

 ── オォンッ!!」



鳴った!

また鳴った!

カァ~ン!とっ

金的の鐘の音が、高らかに!!


さらに、ビィィィィ……ン!と、痛みの長続きを隠喩する余韻を残していく。



「アァ……ァァ……アァ……ッ」



という、『()てる(おおかみ)』苦痛の声と響き合う!


『金的の醜態』なんて、言うなれば『ありふれた一発芸』だ。

それの潜在能力(ポテンシャル)を最大限に引き出すために演出を()らして、観客から限界まで笑いを引き出そうという、悪魔的発想のハーモニー!!


こんなに『音』を効果的に利用するなんてっ!


そう来る(・・・・)と解っていた同業者(オレ)すら、思わず吹き出してしまった。





▲ ▽ ▲ ▽



「俺の出番だなぁっ」



やる気に溢れた、スキンヘッドの熱血漢。

芸人集団『笑う狼群(ラフィング・パック)』の最後の1人。

()ゆる(おおかみ)』が大声を上げて、衆目を集めた。



「要は片手で登ればいいんだろぉ!

 【剛力型(パワー)】で鍛えた俺には、楽勝だぁっ」



真打ち登場とばかりに、意気揚々と。

自分が吊されたロープを、片手の握力と、引っ張る反動だけで上り始める。



「俺はなぁっ

 油で(すべ)るのだって、慣れたもんなのさっ」



上端部の油で濡れた落下誘発ゾーンは、人差し指と中指の間で握って、抵抗を増して対応。

1分半ほどで、余裕のクリア。


『引っ張って』と書かれた紙のついたロープを、思い切り引き抜く。



「── どうだぁ!」

「よくやったぁ『()ゆる(おおかみ)』っ」

「フッ、今日ばかりはお前を見直したぞっ」



歓喜に()く、芸人3人。

だが、熱血漢の情けない悲鳴を期待してた観客たちは、『ああ~……っ』と少し残念がる声。



そんな時だった。


シュルルル……ッ!と、不意打ちに音が響き、ガクンッと『()ゆる(おおかみ)』が落下!



「なんでだぁあ!!

 ── ヒャィ……ァハァッ!」



野良犬が蹴られたような、情けない悲鳴!

同時に、チリン!チリリン!チリチリリン!と、股間強打の丸太木に吊された鈴が暴れて、長々となる。


唖然としている観客を置き去りに、事態はさらに進行!



「まさかっ!」「俺たちもっ!?」



()ゆる(おおかみ)』のロープが落ちた反動でもあったのか、両手に繋がるロープが引き上げられ、すぐに落下!



「オゴォォォ……っ!」「ンバァァァ……ッ!」



カ・カン!!と、鐘の二重奏!


さすがは屈強な熱血漢。

()ゆる(おおかみ)』は耐えがたい痛みの中でも、大声を張り上げる。



「なんで俺だけ、かわいい鈴の音なんだよぉっ」

「し~る~かぁぁぁぁ~~っ!」

「アァ……ァァ……アァ……ッ」



カオスである。

置いてきぼりの観客が、一斉に大爆笑!


しかし、事態はそれに終わらない!

キリキリキリ……ッと木材が軋む音が響き始めた。



「な、なんだっ」「次はなんなんだよっ」「もう勘弁してくれぇっ」



芸人3人が(また)がる、股間強打用の丸太木が斜めに傾いたと思ったら、帆柱(マスト)から分離したっ!?


『うわぁぁぁ~……っ』と3人で声を揃えた絶叫!(見事!)

あえなく海水に落下(ダイブ)


畳みかける、という言葉のお手本のような展開だ。



周囲の大爆笑が、さらに倍増。

身を折って腹を押さえている者、呼吸困難でヒィヒィ言っている者、地面に座り込みバシバシ叩いている者 ──

── 観客たちの、この上ない反応だった。





▲ ▽ ▲ ▽



── やりやがった……!

── コイツら、やりやがった……!



それを尻目に、芸人(オレ)はひとり怒りに震える。

抱腹絶倒の観客を見渡せば、何人か見覚えのある顔があった。



── そこの2人!

── 何をバカみたいに大口あけて笑ってる!?

── お前達も名の知れた芸人だろうが!

── 笑ってばかりじゃなく、少しは悔しがれよ!



そのだらしない、何も考えてない大笑いに、(いきどお)りを覚える。



── 今、ヤツらがどれほどの大道芸の資産(ネタ)を、浪費(ろうひ)したか!

── 名も無いような新人どもに、無数の資産(ネタ)を消費しつくされたんだぞ!

── 芸の世界に身を置いているのに、この意味が分からんのか、キサマらはぁ!?



あまりに、プロ意識がない。

まるで、ただの観客(シロウト)だ。


そう思いながらも、短くフッと吐息(といき)

気分を切り替えるためだ。



見事な幕引きを見せた新進気鋭の若手3人が、ザバリと海から上がってきたからだ。



胸中には、怒りも憤りも悔しさも、渦巻く感情は無数にある。

だが、俺は芸人(プロ)だ。

同業者の礼儀として、いの一番の拍手だけは欠かす訳にいかない。


俺の拍手につられて、観客(シロウト)も拍手という最大級の賛辞を始める。



── コイツら、なんて目をしてやがる……っ



上演後に観客から寄越される、爆笑と歓声と口笛と拍手。

干魃(かんばつ)の後に()慈雨(じう)のような物だ。


見物賃(おひねり)以上の価値がある』

『俺はこの瞬間のために生きている』

そう豪語する芸人(プロ)も少なくない。


それ(・・)を、(あふ)れんばかりに一身(いっしん)に受けながら、まるで満足していない。

まるで飢えた狼のような、不満や苛立(いらだ)ちのかいま見える、ギラギラとした眼光!



── なるほど、『笑う狼群(ラフィング・パック)』……っ!

── その名の意味は、笑いを食う飢えた狼、か!?

── この程度の観客の数ではとても満足できない、そういう訳か!



まるで海藻のように、濡れた髪が顔に張り付いた(さま)

股間を押さえて苦痛を思い出し、身じろぎする(さま)

ようやく笑いがおさまってきた観客に、思いだし笑いを()いる!


全てが完璧で、全てがプロだ!


そして、去りゆく3人の背中には、ぞれぞれ『歓声』『爆笑』『大感謝』の文字が!



「なんて連中……っ

 なんて連中なんだ、貴様らは……っ」



俺は、芸人(おれ)は、名人(おれ)は、意を決する。



「── <聖都>(センダード)が『昇還祭(しょうかんさい)』の三日目!

 芸術祭の第三部『大道芸頂上決戦』で、必ず貴様らを倒す!

 そう、この俺が!

 大道芸の正統派最古参『お手玉芸(ジャグリング)』の達人級演者(マスター・クラス)にして、着ぐるみ芸の第一人者!

 この『かしこいお猿さん☆ラッキー君』がなぁっ!」





▲ ▽ ▲ ▽



風雲急を告げる。

闘いの予感に導かれた名人たちが、<聖都>(センダード)へ続々と集結し始めていた、


昇還祭(しょうかんさい)』の三日間の最終日。

それは、初代<聖女>(サンクト・シーコ)が天に還ったとされる日。


その記念すべき祭日に、<聖都>(センダード)の大聖堂前中央広場で(きそ)われるのが、芸術祭の第三部『大道芸頂上決戦』である。



── 『最高の芸人』!!



その栄誉を得るため、芸で食う演者(オオカミ)たちが牙を()く!

まさに、大道芸の戦国時代が始まろうとしていた!



※ 芸術祭の第三部『大道芸頂上決戦』は、有志一同による自主開催になります。

 そのため芸術祭の第一部および第二部とは異なり、賞金・賞品・後援者(スポンサー)契約などのない、名誉(めいよ)褒賞(ほうしょう)のみの大会です。

 あらかじめご了承の上、振るってご参加ください。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 飢えた狼の如く<笑い>に貪欲…!! な、なんて奴等だ『笑う狼群』って芸人ユニットは…!?全世界の芸人が震え上がっちまう超大物新人の爆誕する瞬間を見てしまったぜ……!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ