109:vs燃ゆる狼(2戦目)
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
帝国騎士団の第三『街道守備隊』にくっついての旅、6日の昼過ぎ。
いまのところ旅程は順調。
魔物の大群でも襲ってこない限り、当初予定の通り7日目の明日夕方には<聖都>に着くらしい。
「リアちゃん、おやつのドライフルーツ食べようか?」
「いただきますわっ
お兄様、これ美味しいですわっ」
「お、砂糖がついてない所も結構甘い。
昨日の町の市場で買ったコレ、アタリだったね?」
「ええ! パクパクがとまりませんのっ」
「ねー?」
妹弟子は、少し固めの乾燥イチジクを、小さくかじりってモグモグ。
美味しい物を食べる時は、小動物系な食いしん坊である。
そんな感じで、相変わらずブラリ旅な気分な俺と妹弟子。
乗合車両の他の客も、そろそろ旅に慣れてきたのか、ノホホンとしてきている。
「ところで少年少女」
ポロンポロンと、リクエスト曲を演奏し終わった鋼糸の講師センセイが、不意に口を開いた。
「ん、何?」
「昨夜、またよからぬ輩がよからぬ話をしていたようであ~る」
「またかい」
「またですの……?」
俺とアゼリアは、そろってため息。
そして一応、乗合車両の乗客を確認。
やはり一昨日と同じで、乗っている車両は別みたいで、この車内に暗殺者3人の姿はない。
「ああ、昨夜の町でも酒場に集まっていた。
また同じ顔ぶれで、同じような話だったのであ~る。
どうやら、<聖都>に着くまでに片を付けたいとの話、気をつけ給へ」
「まだ懲りてないのか、あのボケ暗殺者チーム……」
「むしろ、少年少女に恥をかかされた事を、随分と根に持っていたようであ~る」
「そりゃ、まあ、完全に面子潰したからな」
俺も妹弟子も、流派特有の『活人剣』な習性のせいで、暗殺者チームをうっかり殺し損ねてしまった。
だから仕方なく、生命の代わりに『面子が丸つぶれ、一般市民に小馬鹿にされる』という形で、ヤクザ者の生命線を断ち切ったのに。
他人に怖がられるからこその、ヤクザ稼業。
一般市民に舐められるようになれば、廃業だ。
「しかし、講師センセイも、よく酒場に行くよなぁ」
「楽器演奏と酒場は切っても切り離せないもの。
拙は<翡翠領>までの旅路で、あちこち街道沿いの町の酒場で演奏して、路銀を稼いできたのであ~る。
世話になった店の主人や、協演した歌姫に挨拶しないと、不義理になるのであ~る」
「そういうもんか……
音楽業界も、結構大変だなぁ」
「うむ、人との繋がりあっての仕事なのであ~る。
義理人情を軽んじたらいけないので、少年も注意し給へ」
「……なんで、俺も?」
「先日、拙の独自技術による演奏を伝授したはず。
我が生徒よ、才能にあぐらをかくことなく日々励み給へ」
「ソウ、デシタネ……」
すまん、講師センセイ。
俺、『鋼糸使い』になる事で頭がいっぱいで、演奏の事とか100%忘れてました。
すると妹弟子が、感心の表情。
「……さすがはお兄様ですわ。
わたくしには、出来そうにない仕事ですもの」
「キミはもうちょっと、人付き合いを頑張ろうね?」
「『世間ずれ』はお嬢様の美点ですわっ
リアが、正真正銘、名門のお嬢様という証なのですのよ?
それなのに、ウフフ、お兄様ったらおかしいっ」
「開き直るな、ポンコツ妹っ」
本気で、もうちょっと頑張れよ。
兄ちゃんな、学園の寮生活なのに『ぼっち飯』してる可哀想なリアちゃんとか、見たくないんだが?
▲ ▽ ▲ ▽
さて、特に問題なく、6日目も町についた。
魔物の群れに遭遇とか全然なかったらしく、予定より早く夕方前に到着した。
このあたりの事情は、2ヶ月前の『魔物の大侵攻』の影響じゃないかという話だ。
『魔物の大侵攻』が起こった地域は、その後数年は魔物の被害が格段に減るらしい。
(なんか話を聞いていると、自然の個体数調整みたいだよなぁ……)
・中型~大型魔物が増え過ぎる
↓
・中型~大型魔物のエサ(虫型魔物)がメチャクチャ食われて絶滅寸前になる
↓
・種の保存のため、虫型魔物が食われる以上に大繁殖する
↓
・大量発生した虫型魔物のせいで、そのエサ(小動物とか植物)が壊滅
↓
・虫型魔物が大量死(自滅&餓死)
↓
・エサがなくなった中型~大型魔物が人間の住処に殺到
↓
・中型~大型魔物が大量死(討伐)
↓
・魔物が適量に戻る
(うん……
なんか考えれば考えるほど自然の摂理っぽいな、『魔物の大侵攻』って)
高さ30mの市街城壁が、定期的にブッ壊されかけるような『自然の摂理』とかね。
『異世界マジ地獄!』としか感想が出てこないが。
── 閉話休題。
今日の宿泊地は、<聖都>まで1個前の宿場町だけあって、規模が大きいし活気がある。
おかげで、町中に対人戦闘に使えそうな広場がいくつかありそうだ。
暗殺者に先手を譲ってたら、その内に足下をすくわれる。
それに『何時襲ってくるか解らない』とか、普通にストレスだ。
「── なので、こっちからおびき寄せて、ボコボコにします」
「はーい、解りましたわ! ブチコロですの!」
そんな感じの作戦になった。
▲ ▽ ▲ ▽
「ハハン! バカなガキだぜっ
こんな廃墟に自分から飛び込むとはなっ」
俺を追いかけて廃墟に入ってきた大男が、コートを脱ぎ捨てる。
スキンヘッドで、革鎧姿。
厚手の手袋に、金属製の多節棍みたいな武器。
すでに背中には身体強化の魔法陣が浮かんでいる。
臨戦態勢だ。
「う~す、<狼剣流>の『燃ゆる狼』さん、こんにちわっ
今日は手合わせ、ありがとうございますッ!」
「何をふざけてやがる、このメスガキがぁ!
一昨日たまたま、俺たちにマグレ勝ちしたからって、調子にのるんじゃねえっ」
何もふざけてないがな。
どうやったら『活人剣』の『制限解除コード』が上手くいくか、手探りでやってるだけなんだが。
やーね、裏稼業とかひねくれ世界で生きている人は。
言葉の裏を読むような事ばっかりやってるから、他人を信じる『純粋な心』を失ってるんだろうね?
「自分、『剣帝流』の一番弟子、ロックっす!
特級の魔剣士パイセンの胸を借りるつもりで、殺意全開でいきま~~す!」
「チビのメスガキがなめやがって……っ
ククッ、だがな、貴様の手の内なんて、もう知れてるんだよ。
俺は『凍てる狼』と違って、魔法を使う時間なんて与えねえ!
すぐに、火傷まみれにしてやるぅっ!」
メスガキじゃないがな。
オッス、俺オスガキ、よろしくな?
「う~す、今日こそザコ暗殺者を殺れるように頑張りま~~すっ」
「── 死ねえぇぇぇぇ!!
【火走りの魔法剣:蛇火炎】ぁ!」
命をかけた戦闘だってのに、激怒すぎだろ、このハゲ。
(もっと冷静に闘らないと、足下すくわれちゃうよ?)
そんな事を考えながら、鞭の様に襲ってくる連結式金属パイプを、コン!と模造剣で弾く。
すると、カ・カ・カン!と天井・壁・床と跳ねて、今度は足下へ。
(なるほど。
これがリアちゃんが言ってた、反射の連撃か)
俺はひとまず、縄跳びを跳ぶくらいのジャンプして回避。
「ククッ、その身軽さがいつまで続くかな!」
スキンヘッドの暗殺者は、ちょっと冷静になったのか、6連パイプを引き戻す。
そして、6連節の真ん中あたりを、両手で握る。
「これが俺の、もう一つのとっておき!!」
左右の手で、太鼓の連打のように金属パイプを振れば、左右で炎と鉄が暴れ狂い始めた。
簡単に言うと『3節棍 × 2』という感じの攻撃だ。
コ・コ・コ・コ・コン!と、炎が噴き出す金属パイプが、廃屋の中を激しく反射。
前世の観光地の、ファイアーダンスとか思い出す。
「くたばれ!!」
『燃ゆる狼』は、炎と鉄の乱れ打ちを続けながら、突進してくる。
「あぶね!
【秘剣・速翼:四ノ太刀・夜鳥】っ」
薬指の指輪に偽装した待機状態の魔法を解放。
魔法の術式<法輪>が、腕輪の大きさに広がって高速回転、『チリン!』と鳴る。
隠密&高速機動の必殺技で、円を描くようにして、相手の攻撃を回避。
ってか、この必殺技を純粋に回避で使ったの初めてだな。
「高速の飛翔魔法か!
それは知ってるっ ──
── そこだぁ!!」
しかし、スキンヘッドはさらなる追撃。
すばやく金属パイプを持ち変えると、再度、6連パイプの鞭状攻撃で回避先を狙ってきた!
▲ ▽ ▲ ▽
── しかし、そこに運良く障害物。
カ・カァン!と廃墟の柱に巻き付く、炎の6連パイプ。
「あっぶね~……っ」
「チィ……、運のいいヤツめっ」
この柱がなければ、まともに食らっていたかもしれない。
ちょっと冷や汗がでた。
「このハゲ、思った以上に手強いな……」
今の【夜鳥】に、いつもの自爆式幻像【徒花】を組合せしなかったのは、ワケがある。
このスキンヘッド暗殺者が、自分に跳ね返る金属パイプの直撃を無視していたからだ。
つまり、さっきの『もう一つのとっておき』とかいう技は、自爆ダメージ上等の巻き添え攻撃。
(格闘ゲームで言えば、『H.A.付きの突進技』……!
── くっ、うらやましい……っ)
防御力が強化される【身体強化:剛力型】、それも特級ならではの闘い方だろう。
半端な攻撃は『焼け石に水』。
一撃で意識を刈り取るくらいの強撃じゃないと、こっちがボコボコにされるだけ。
「火の回りやすい狭い廃屋の中なら、俺が『黒油』を使わないと思ったんだろ?
まあ、その通りさ、この作戦はそんなに悪くない。
ククッ、単純に、狭い場所での戦闘は、俺の方が一枚上手だったってだけさっ」
『燃ゆる狼』は、再び『両手に3節棍』状態で、炎の魔法剣付き金属パイプをデタラメに振り回しながら、ゆっくり近づいてくる。
逃げ道をふさぐように横移動し、ジリジリと距離をつめてくる。
「自分を倒した凄腕の魔法使いを、俺があっさり返り討ちにした。
── そんな話を聞いたら、あの『剣魁殺し』はどんな顔をするかな?」
『燃ゆる狼』は、ペロリと舌なめずり。
跳ね返ってゴンゴンぶつかる金属パイプも、肌を焼く炎の魔法剣も気にしてない。
特級【身体強化:剛力型】の防御力アップもスゴいんだろうが、それ以上に特殊な訓練を積んでいるんだろう。
「……暗殺者チームとか命がかかった間柄なのに、意外と仲が悪いんだな、お前ら。
ああ、もしかして ──
── だから、3人同時じゃなく1人ずつかかってくるのか?」
つまり、君たち協調性がないワケね?
まあ、こんな周囲の影響ガン無視な闘い方なら、チームワークもクソもないだろうけど。
「ククッ、所詮は魔物相手の魔剣士流派か!
最も力がある者が、群れを率いる!
人間も、獣も、あらゆる世界で当然の話さっ
友達ごっこじゃあるまいし!」
「そんな関係じゃ、何も生まれんだろうに……」
前世ニッポンで言うところの『ブラック企業あるあるネタ』だな。
同じ組織内での競争も、ある程度の信頼関係がなければ、お互いの足を引っ張り合うだけ。
行き着く先は、仲間や部下の成果を取り上げる搾取か、ウソまみれの不正行為とかだ。
「ククッ、腕は良くとも、甘っちょろい考え方だなっ
お嬢様同士でつるむはずだ!」
「……いい加減、女子に勘違いされるの、面倒くせえなー……」
いっそ『ボクは男です』とか看板の下げて歩くかな ──
── そんなバカな事さえ考えながら、『チリン!』『チリン!』『チリン!』と『必殺技連撃』の準備。
「ククッ、いくら『剣魁殺し』を倒した凄腕でも、そうだろうさ!
焦って魔法を自力詠唱すれば、不発も当然だっ」
(……ああ、この『遅延発現』って魔導の小技、相手にはそう見えるのか。
今度から、そういう引っ掛けに使おうっ)
う~す、<狼剣流>の『燃ゆる狼』さん!
対人戦の駆け引き、マジ勉強になります、ありがとうございます!
── なので、そろそろ寝てていいよ?
「── 行くぜ!」
「お前もわざわざ宣告かい!
随分とお上品なんだな、お嬢様たちの闘い方はよぉっ」
俺がダッシュして詰め寄ると、スキンヘッドもダッシュで迎え撃つ。
そして、俺を左右から押しつぶすように、金属パイプと炎の乱舞!
「【秘剣・陰牢】 × 2! ──」
天井と床に、合計12本の設置型斬撃が生えた。
パッと見た感じ『巨大な獣の牙顎』みたいだろう。
その『巨獣の牙の乱立』が、金属パイプと炎の乱舞を跳ね返す。
「なにぃ!?」
その巨大な獣の口の中 ── つまり『牙』に守られた横幅40cmの安全地帯。
小柄な俺からすれば、十分なスペースだ。
それを通って敵の懐に入る。
「── か・ら・の! 【秘剣・木枯】!」
秒間20発の連続刺突。
『燃ゆる狼』は、【陰牢】にパイプが引っかかったようで、両手を封じられ、防御も出来ない状態。
顔面と胴体をメッタ打ちに、潜水ゴーグルみたいな防具とマスクが弾け飛ぶ。
「── グゥ、ガァ……ッ
な、舐めるな、この程度の連撃でぇっ!!」
しかし、裏稼業っても【剛力型】の特級魔剣士。
全20発の直撃を、なんとか耐えきった。
(コイツも、かなり身体を鍛えてるな……
ひょっとしたら剣術Lvも40越えくらいはあるのか?)
連撃必殺技【木枯】終了時の、ほんのわずかな硬直。
それを見逃さず、敵はバックジャンプして離脱。
そして、すぐさま切り札で反撃してきた。
「『牙蛇螺』ぁぁ!!」
6連金属パイプが、1本の槍として伸びてくる!
武器には大した仕掛けがないので、純粋にバランス感覚だけで制御しているみたいだ。
(── 妹弟子に聞いてたから対応できるけど、マジでヤベー技だな!
知らなかったら間違いなく食らってた。
かなり厄介な『初見殺し』だな……っ)
こんな曲芸じみた技を急に使われたら、完全に意表を突かれるだろう。
しかも、引き戻しの時にも予想外の追撃がある、殺意の高い2連発。
コイツら3人とも、暗殺者というハミ出し者のくせに、感心する程の練武だ。
(そんな『初見殺し』を完封とか!
やっぱり当流派の超天才児は世界一だな!(得意顔))
それでは俺も、この『曲芸使い』に引導を渡すか。
「俺も、それは知ってるっ ──
── ここだぁ!!」
その、レンガの壁くらい粉砕しそうな、剛の一撃をギリギリで回避。
そして、引き戻す瞬間の回転操作のタイミングを見切り、特殊技を自力発動。
【序の三段目:払い】。
成人男性を10m近く吹っ飛ばす、特殊技で最強の一撃だ。
炎を吐く6連パイプは激しく横に弾け飛ぶ。
「な、なに~~ぃっ!?」
そして、使い手本人をグルグル巻きにして、身動きを封じる。
「なんだ、この異常な剣の腕前はっ!
技量だけなら、昨日の銀髪の方に、引けを取らないだと!?
── 貴様、凄腕の魔法使いじゃなかったのか!?」
「さっき言ったろうがっ
俺は、『剣帝流』の一番弟子で、魔剣士失格のロックだぁ!」
慌てて逃げようとする暗殺者の脳天に、【序の三段目:跳ね】で一撃。
非・殺傷モードとはいえ、模造剣での渾身のジャンプ攻撃だ。
さすがの【剛力型】の特級魔剣士も、そのまま昏倒だ。
!作者注釈!
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