107:vs剣魁殺し(後)
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
「どう考えてもソレ、本物の<錬星金>の剣じゃないだろ。
だって、こんな鋼鉄製の模造剣が斬れないんだぜ?」
そんな風に、暗殺者のリーダーに挑発混じりの誤情報を言うと、意外な反応。
動揺したのか、ちょっと動きを止めた。
『いや、そんな』とか『だが、たしかに』とか『クソ、あの野郎』とか、ブツブツ言い出している。
(バカが虚言にかかって、よかったぜ……
さすがにこの猛攻をさばき続けるのは、腕がシビれてきたし)
魔法的な毒素の解毒が終わってないのか、ちょっとダルいし。
雨に降られ続けて、寒くなってきたのもあるし。
体調不良的に、早く勝負を決めたい所だ。
(最初の1撃。
気配殺しての渾身1撃が、かなりのモンだったな……
妹弟子が【五行剣:土】使った時くらいの威力だったんで、ちょっと焦ったぜ)
多分、コイツは本来【身体強化:剛力型】の適性。
天賦というしかない、抜群のセンスを感じる1撃だった。
だが、特級の【剛力型】なんて、鉄剣で岩でも叩き割るような脳筋の権化。
対大型魔物専用みたいなモンだ。
対人戦では使う所がないくらいの過剰火力。
『首を刃物で撫でれば致命傷』という対人戦(特に暗殺)なら、むしろ【身体強化:疾駆型】が有利。
だから、不向きな【疾駆型】に努力して適応したんだろう。
ぶっちゃけ、動きにセンスって物がない。
(対人戦に特化した流派のせいで、せっかくの持ち味が死んでるな……
もったいねーなぁ……)
剣の才能とか欠片もない俺からすれば、ちょっと呆れちゃうくらい。
まあともかく、この暗殺者リーダー、不意打ちの1撃には自信があったはず。
しかし、その初撃で相手を殺しそこねたから、【身体強化:疾駆型】を活かした攻め手に方針変更したんだろう。
(いつかの神童ルカみたいに、体格差で押しつぶしてこない辺り、だいぶん警戒されてるな……。
こっちに魔法を使わせないために、一時も止まらずスピードで圧倒、って戦法かな?)
それが、大きな間違い。
こちとら、<御三家>が速剣の大家<封剣流>の超天才児と手合わせしているんだよ、5年間毎日な。
【疾駆型】の攻めの対処は、得意中の得意。
こんな雑な突進攻撃をさばくなんて、朝飯前よ。
(実際、朝飯前に手合わせしているだけに! ひとり笑)
「── まあ、いいさ。
この業界で不義理をするとどんな目に遭うか、思い知らせるだけだからなっ」
おっと黒赤髪男は、もう考え時間が終了。
(しっかり呼吸できた時間は、せいぜい10秒ってところか。
スタミナ残量20%から、60%くらいまで回復か?
もうちょっと、休息時間が欲しいな……)
しかし、コイツの呼吸どうなってんだ?
あれだけの激しい、連続攻撃。
しかも、雨の中マスクつけてる割に、まるで乱れてないんだが。
▲ ▽ ▲ ▽
(できたら、もうちょっと休息時間を稼ぎたい……)
なので、ちょっと気になった事を、暗殺者リーダーに訊いてみる。
「── お前ってさぁ。
暗殺者みたいな犯罪者のくせに『不義理』だの『神に感謝』だの。
妙に殊勝な事を言うよな?」
「カハハッ
まあ、子供はそう思うだろうな。
裏稼業は、強い者が傍若無人に振る舞うってね。
実は意外と、無法な世界ほど『道義』が重んじられるもんさ?」
「…………アホか」
……なんか、前世ニッポンでヤクザ者が『人の道を極めるからゴクドー』とかドヤ顔で言ってたの、思い出すな。
ジアゲ屋とか、ソーカイ屋とか、ジンケン屋とか、キギョーシャテーとか。
どいつもこいつも、ろくでなしばかり。
なんでそんな連中に限って『イヤ自分、根は真面目ッスから』みたいな事言うかね?
「……あのさ。
お前らみたいな社会の寄生虫が、常識人みたいな面すんなよ。
きちんとマジメに生きてる一般市民に迷惑だろうがっ」
まったく、あの社会のクズ連中のせいで、どれだけ迷惑かけられた事か。
ヤクザやチンピラやヤンキーが『本当は良い人!』とか言ってる連中はマジで猛反省しろよ。
歌舞伎に出てくる親分、任侠映画、ヤンキー物のTVドラマとかさぁ!
『本当の男の生き方!』みたいな取り上げ方すんなっ
そんなんだから芸能界は、ヤクザ稼業って言われるんだよ!
(なお興業関係は、実際にヤクザとつながっている、これ常識な?
だから『ボク達ワタシ達ゲーノージンを守ってくれる、ヤクザさんマジいい人!』とか頭ハッピーな事を言いやがる……!)
まったくもって、迷惑千万だ。
しかし、別に俺も『ヤクザ者と関わりを持つな』とまで言ってる訳じゃない。
無法者に頼らざるを得ない事情があるもんな、興業関係とか特に。
「カハハ、若いな『剣帝流』!
社会の闇は、お前の想像よりずっと深く、黒いもんさっ
例えお前ら『剣帝流』がいくら強かろうと、『闇社会』を相手にする事はできやしない!」
前にも同じような事を言ったが、別に『剣帝流』は世直し集団ではない。
当流流はあくまで、魔物退治の専門家。
それ以上でも、それ以下でもない。
不正がはびころうが、犯罪組織がデカい顔しようが、手を出す気は無い。
そもそも、社会がそれで上手く回っているなら、文句つけてもしょうがない。
「── よし、そのケンカ買った!
お前の所属する『闇社会』とかいうヤクザの巣窟、全部潰してやろうっ」
だが、俺のカワイイ妹弟子に害をなすなら、根こそぎだ!
異世界人生15年で練り上げた、魔剣士失格の『対人剣術』と『必殺技』が火を吹くぜ!!
「は……?」
「うん、そうだな、それがいいな。
うちの純真可憐なお嬢様が、帝都で面倒事に巻き込まれるのが心配だったんだけど、どうすれば良いか解らなかったんだよ。
いいヒントくれて、サンキューな?」
「……何を、言っているんだ。
お前は……?」
「いや、だからぁ!(笑)
お前らヤクザ者を全部つぶせばいいんだろ?(呆)」
「おい……おいおい……っ
バカ言うな、できる訳ないだろ、そんなのっ」
「おいおい、笑わせるなって。
どう考えても、そんなのラクショーだろ?
── だってお前ら、魔物なんかより、ずっと弱いじゃん?」
そう、今の俺なら!
今の俺が、前世ニッポンに戻れるなら、あのゴミ・クソ・カス・ゲス・ウンコ連中を、絶対的暴力で一掃できる!
ああ!
なんで異世界から逆転移とか出来ないかな!?
今の俺なんて、魔力のおかげでマジで人外な強さ!
リアル『虎殺し』以上!
リアル『熊殺し』以上!!
リアル『鬼殺し』以上!!!
ヤクザ者の親分さん(笑)とか、自称・愛国者さん(呆)とか、ラクショー!
日本刀持ち出そうが、拳銃持ち出そうが、完封!
ヤクザ100人が束になっても、秒殺できる自信があるのにぃっ!!
(もっとも、前世ニッポンの世界にもどったら、きっと魔法なんて使えないだろうしなぁ……
所詮、机上の空論だよな、これ……)
そう冷静に考えると、ちょっと気分が盛り下がってしまった。
▲ ▽ ▲ ▽
「── ハァ……!?
魔物相手の田舎剣術がのぼせやがって!」
暗殺者リーダー、顔真っ赤。
マスクとフードからチラ見えしている耳すら真っ赤。
俺の威勢りが、なんかクリティカルな挑発になったっぽい。
「のぼせてるのは、お前らだろうが!
こんなビビリ丸出しのみっともないバカデカい城壁の中で、か弱い『魔剣士以外』イジめて、何を威勢ってやがる!?
この外に出て魔物と斬り合いしてから、大口たたけっ」
なので、追い撃ちの挑発。
昨夜の居酒屋で、『今の俺なら全盛期の剣帝だって一撃!』とか威勢り倒してたアホが、絶対に言われたくないであろう事を、ワザワザ言ってやる。
「ガキがぁ……
ちょっとばかり魔物退治が得意だからって、調子にのりすぎだな。
── 『対人剣術の極み』、<狼剣流>の恐ろしさ、思い知らせてやろうっ」
調子にのってるのは、お前だお前!
まさに『自分に刺さる言葉』。
プラス実践空手道イコール風●拳、うおおおおおおお!(月1ミッション完了!)
ボケ暗殺者が、当流派の最強無敵ジジイと手合わせしてみろ!
なんで俺とリアちゃんが、兄妹弟子のアウンの呼吸的な抜群のコンビネーションで斬りかかってるのに、剣1本でさばけるんだよ!
おかしいだろ!?
『2人ともまだまだじゃな?』じゃねーんだよ、理不尽ジジイ!
「はいはい、<狼剣流>すごいすごいっ
うわぁ~、『対人剣術の極み』ってスゴいんだろうなぁ~(棒読み)。
アレレぇ~暗殺者のオジさぁん、ボクみたいな魔剣士未満がまだ傷ひとつないなんて、ホントはやさしい人なんだねぇ~?(体はコドモ探偵風)
── あ、そういや、お前の武器って<錬星金>とかのスゲー剣だったっけ?(失笑)」
「── このぉっ」
暗殺者リーダーの、怒りに任せた上段の斬撃。
最初の渾身の1撃以上だ。
さすがに特級の『疾駆型』による全力攻撃だ。
避けるどころか、防御すら精一杯。
ズガン!という骨に響く、剛の剣!
「くぅ……っ」
あっさり1~2m弾かれて、壁際まで吹っ飛ばされる。
防御用のオリジナル魔法【序の三段目:止め】を使っているのに。
さらに、壁にぶつかった時に濡れた石床のせいで踏ん張れず、壁から跳ね返って前につんのめってしまう。
ほとんど転ぶ寸前の体勢だ。
「これで終わりだよ、『剣帝流の一番弟子』くんよぉっ」
黒赤髪の男は、追撃ですぐ目の前に迫ってきていた。
黄金の剣を構えての、突進刺突!
「── かかったなっ
【秘剣・木枯】!」
中指の指輪に偽装した待機状態の魔法を解放。
魔法の術式<法輪>が、腕輪の大きさに広がって高速回転、『チリン!』と鳴る。
魔法の効果で、空中の体勢を強制的に修正し、秒間20発の高速刺突!
「なにぃ!?」
<錬星金>の刺突を弾き飛ばし、顔と胴体を滅多打ち。
「ゴフォ……ッ
ば、バカな……なんだ、今のはぁ……っ」
アイススケートみたいな横滑り移動で、途中で逃げられる。
有効打になったのは5発くらいか?
「思った以上にやるな、お前……」
完全に不意を突いた【木枯】で倒しきれないとは。
もうちょっと鍛えたら剣術Lv50になるのかもしれない。
「ま、どっちにしてもお前、速剣のセンスねーよ。
【身体強化:剛力型】に鞍替えして、ちゃんと剛剣を練ってこい」
1撃1撃は、確かに鋭い。
しかし、速剣の醍醐味である連撃になってくると、ボロが出始める。
(多分、予想なんだが、速剣には連撃を生むしなやかさが必要で、剛剣には力を伝えるガッチリした肉体作りが必要なんだろうな。
コイツ、その辺りが、まるでチグハグなんだよな)
そんな事を考えながら、『チリン!』『チリン!』『チリン!』と、必殺技を遅延発現。
久しぶりに実戦使用する、『必殺技連撃』だ。
「さて、今度はこっちからいくぜ?
【秘剣・三日月】!」
「く……っ
オリジナル魔法か!?」
ダメージにふらつきながらも、初撃の『飛ぶ斬撃』(もちろん非・殺傷バージョン)は難なく躱される。
回避した相手が、こちらの死角から攻め込もうとした瞬間 ──
「── 【秘剣・三日月:参ノ太刀・水面月】!」
波紋のように広がる、広範囲攻撃で迎え撃つ。
ノータイム2連の【三日月】が可能になったのは、妹弟子方式の諸刃【断ち】のお陰だ。
「チィ……ッ」
暗殺者とか裏稼業でも、さすがは特級の魔法剣士。
屋上いっぱいに広がる広範囲攻撃を、超反応してジャンプ回避する。
「コイツ、これだけの腕前のくせに、まさか魔法が専門なのか!
有り得ないだろっ」
しかし、そこはやはり、特級の身体強化魔法の弱点が出てしまう。
焦って動けば、微妙な力加減がきかなくなるのだ。
(つまり、『筋力と速力が有り余って空回り』。
魔法を回避するためだけに、飛びすぎなんだよっ)
上空7m近くに跳び上がった相手 ──
── 空中で身動きとれない獲物を、猛禽のように強襲!
ズドン!と【秘剣・速翼】で下から追撃!
「── ガハッ」
「空中だからって、油断しすぎだっ」
模造剣を腹にめり込ませたまま、さらに上空へ。
上空10mほどから、追撃の叩き落としをお見舞いする。
「もう一丁だ、おらぁっ!」
「グワァァ~~……ッ!」
石畳でドォン!と黒赤髪男がボールみたいに跳ねて、ゴロゴロと転がる。
一応、近づいて、気絶しているのを確認。
「まあ、なんだ。
こんな<ラピス山地>の魔物より弱い連中に威勢られてもなぁ……」
俺はそうつぶやいて、ふと気付いた。
そもそも、家(山小屋)のある<ラピス山地>は魔物がヤバすぎて、熟練の冒険者やエリートな騎士も、滅多に近づかない場所だ。
それはつまり ──
「── と言う事は……
大半の魔剣士って、俺より弱いんじゃね……?
うわぁ~……」
そんな今さらな事実に気付き、なんかちょっと悲しい気持ちになってしまった。
!作者注釈!
主人公の得意魔法が炸裂! 効果は抜群だ!
イキリチラシ・エルラン(挑発の精霊よ彼の者の心をイラ☆っとさせたまえ)
(異世界●じさん風詠唱)
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