106:vs剣魁殺し(前)
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
さて、場所は引き続き、商店だか役所だかの3階建物の屋上。
段々と激しくなってきた夕雨に濡れて、ちょっと寒くなってきた。
不意打ちをしてきた30代半ばの黒赤髪男は、どうも暗殺者チームのリーダーっぽい。
「『凍てる狼』が、自分の毒でやられるなんてなぁ。
まったく、とんでもないガキみたいだな」
リーダーらしい男は、そんな事を言いながら、ブラブラ歩いて倒れた毒使いに近づく。
割と無防備そうな背中だが、うかつに手を出して罠だったら面倒だ。
なので、とりあえずは様子見。
その間に、リーダーは倒れた部下(?)を担ぎ上げる。
そしてそのまま、平屋根の壁に洗濯物みたいにひっかけた。
「この辺りに転がられていると、流石に邪魔だ。
── さて、待たせたな『剣帝流の一番弟子』くんよぉ?」
途端に、ダン!と壁を蹴って、突進。
濡れた平屋根の滑りやすさを、そうやって対策してくる。
(超人的な身体能力の、魔剣士の弱点だよな……)
俺はそう分析しながら、防御のオリジナル魔法【序の三段目:止め】を自力詠唱。
キン!と突進刺突を受け流せば、案の定の結果。
前世ニッポンのバイク並のスピードで突っ込んできた魔剣士は、止まりきれない。
まさに雨の日のバイクみたいに、ツル~ン!と空滑りしてすっ飛んでいく。
(── 筋力と速力が有り余り、空回りしてしまう)
それが、魔剣士の最大の弱点だ。
「カハハッ、やはりそうか!
不意打ちなんかでは、傷ひとつ付けられないかっ」
リーダーは、平屋根の端の壁を蹴って止まる。
「なんて食い甲斐のある『本物』だ!
機会を下さった聖教の神に感謝だなっ」
「暗殺者のくせに、なんつー事を言ってやがる……」
やたらハイテンションな裏稼業に、ちょっと呆れて突っ込んでしまう。
「悪い悪い。
最近<錬星金>の剣を手に入れたのに、あまりに下らないターゲットが多すぎて。
ようやく斬り甲斐のある相手に巡り会えて、ちょと浮かれてたのさ」
「へ~、それが<錬星金>?
初めて見た」
「こんな物でいいなら、見せてやるさ。
自分の心臓に生えた姿を、好きなだけ見るがいい!」
黒赤髪の男が、また壁を蹴って急加速。
今度は、微妙にカーブしながらの突進斬り。
普通なら躱せそうな一撃だが、雨降りの足下が石床でツルツル。
ハデに動くと、むしろ体勢が崩れてピンチになる。
なので完全回避というより『避けながらの受け流し』みたいな対応。
── だが直後に、背後でジャバー!と妙な水音。
片目に映した魔力センサー【序の四段目:風鈴眼】で見る、相手の位置がおかしい!
「── チィ……っ」
ほとんど勘で、斜め前に飛び込み前転。
同時に、シュパン!と頭上を金色の斬撃が通り抜けた。
「カハハ、なんだお前っ
後ろに目でもついてるのか?」
黒赤髪の暗殺者は、背後から前に通り過ぎた後、両脚を滑らせて振り向く。
ほとんどアイススケートみたいな動きだ。
雨降りの石床の上は、滑って踏ん張りが効かない。
だから逆に、氷上のように『横滑り』で方向転換──
── 簡単にやってみせるが、難易度は<魄剣流>の『滑るように歩く歩法』以上だ。
「……ムチャクチャな歩法を使うヤツだな」
「簡単に避ける相手が言うセリフか?」
なんか呆れた目を向けられる。
そして、アイススケートみたいな高速機動で、また斬りかかってきた。
▲ ▽ ▲ ▽
この暗殺者チーム。
人前でベラベラ秘密とかしゃべっちゃう、アホアホ集団というイメージだったんだが。
そもそも、魔剣士というエリート街道からドロップアウトで裏稼業とかやってるんだから、だいぶん低レベルなんだろうと思ってたんだが。
思いがけずに手強いし、手練れだ。
(まったく、この前の『神童コンビ』レベルに闘るなんて、聞いてねーよ……っ)
内心グチがでちゃう。
さっきの毒がまだ残っててピリピリするのもあって、ちょっとウンザリ気味。
さて、ちょっと剣術Lvを整理してみよう。
剣術Lv25 …赤毛少年
剣術Lv30 …<轟剣ユニチェリー流>の一般道場生
↑↑ ここまで【秘剣・三日月】で必殺 ↑↑
剣術Lv35 …<轟剣ユニチェリー流>の師範代クラス
↑↑ ここまで【秘剣・速翼】くらいで倒せる ↑↑
剣術Lv40 …<魄剣流>の神童ルカ
剣術Lv45 …<天剣流>の金髪貴公子
↑↑ ここまで【秘剣・木枯】で防御を崩せる ↑↑
↓↓ ここから、うかつに必殺技ブッパすると迎撃くらう ↓↓
剣術Lv50 …妹弟子
剣術Lv70 …剣帝(腰痛ver)
……え、ジジイの全力だとどんな感じだって?
(俺の未完成奥義【ゼロ三日月・乱舞】(↓↘→↘↓↙ ←+ [P][K])を全撃相殺して、技後の硬直にブッ飛ばされるんだよ(経験済み)。
── 言わせんな恥ずかしいっ)
そんな、最近腰の調子が良くて、ちょっとハッチャケてるジジイの話はよしとして。
(この暗殺者リーダーが、さっきの感触通り『剣術Lv45』なら、【木枯】の連撃で防御コジ開けるのが早いんだが……)
いかんせん、相手の動きが、かなり速くて複雑。
さっきの『毒使い戦』を見られたんだろう、明らかに魔法を警戒されてる。
攻撃後即離脱で絶え間なく動き回り、さらに数秒の休息時間もくれない。
お陰で、なかなか必殺技のタイミングが取れない。
「カハハ、なるほど!
魔剣士未満のくせに『剣帝流の一番弟子』と名乗るだけあるようだっ」
「………………」
俺は、反論しないワケではなく、息が上がって声が出せない。
しかし、なんでコイツら、さっきからペラペラしゃべるんだ?
暗殺者ってもっと寡黙な印象があったんだけど、
「ならこっちも本気だ!
未強化で『特級の身体強化魔法』に、どれほど付いてこれるかなっ!?」
黒赤髪の男が、『カン!』と腕輪型<魔導具>を発動。
今までの50%増くらいの速力で、3階の平屋根を駆け回る。
息をつく間もない高速機動と連撃。
パシュン!パシュン!ジュバーン!と、雨の日のバイクみたいに、水切りながら突進してくる。
ガン!ガン!ガン!と割と防御で精一杯。
(というか、さっきからホントに、攻撃のタイミングが読みにくい。
リズムが変というか、呼吸が読めないというか……)
さて、どうしようかね。
休む間もなく連続攻撃されていて、割と防御で手いっぱい。
それに、さっきの『毒使い戦』もそうだが、『限定解除コード』が上手くいってない。
相手は躊躇なく『殺し』に来ている、ってのに。
(まさか『使えば必ず殺す』のが『必殺技』の弱点になるなんてなぁ……)
例えば、相手が魔物だとすれば、この程度はザコ(せいぜい脅威力2~3?)。
必殺技1発で充分に片が付く。
だが、人間相手となると『活人剣』モードが解けてない事が支障になる。
つまり、斬り殺す事ができない。
非・殺傷モードの必殺技なんて、実質的に攻撃力10%~20%くらいの物だ。
となると『殴り倒す』ために、何回も必殺技を使う事になる。
そして、何回も必殺技を使って見せれば、上級者の魔剣士はすぐに分析して対処してくるだろう。
つまり、『ここぞ』というタイミングまで温存しないと、自分の首を絞めるだけ。
(……いかんな。
正直、対人戦の真剣勝負って物を ── 『活人剣』って物をちょっとナメてた。
もうちょっと『非殺傷・制圧技』みたいな『必殺技』を創っとけばよかったか……?)
もはや迷走しすぎて、自分でも何言っているか解んないけどな。
そんな事を考えていると、ムダにテンションが高い暗殺者のリーダーが何か言ってくる。
「── カハハ!
流石は『剣帝流』! 堅牢で的確な防御! <小剣>の達人という事か!」
あ、ちなみに、剣の特性っていうか武器全般というか。
長いほど攻撃向き、短いほど防御向き、っていう特徴がある。
そういう意味じゃ、<小剣>ってのは『盾代わりに使える剣』って感じ。
つまり防御特化。
で、コイツら暗殺者チームが使ってる<中剣>は『攻防バランスが取れた剣』。
言うなれば、対人戦特化。
魔物退治に活躍する<正剣>とか<長剣>とかは『かなりの攻撃特化』という分類かな。
逆に『対人戦』になると、予想外戦法みたいな小手先の技が勝負の決め手になる分、防御がおろそかな長い武器は隙を突かれやすい。
── 以上、豆知識的な解説おわり。
「だが、その自慢の受け流しも、いつまで保つかなっ!?」
「………………」
俺は、ハァハァ呼吸を整えるのが精一杯な感じ。
暗殺者は、一度大きく空気を吸い込むと、再び高速機動で駆け回る。
今度は、回転を多用した、トリッキーな死角攻撃。
バシャーンと水切って背後に回り込み、ヒュンヒュンヒュン!と死角からのスピン斬撃。
まさにアイススケートじみた動きになってきた。
(……おいおい、動きがハデになった分、狙いが雑になってるぞ?)
いつか神童と模擬戦した時も思ったが。
剣術Lv40~45とかだと、特級の身体強化魔法を使ったら、パワーとスピードを持て余しがちになるのかな。
(しかし、ウチの子とか、昔から『特級の身体強化』とかフツーに使いこなしてるんだが……。
剣術Lv5とか10違うだけで、そんなに差がでるもんか?)
まあ、妹弟子は超天才児だし、と言ってしまえばそれまでだけど。
「恐ろしいか! これが特級の魔剣士を敵に回すって事さ!」
突進の下段斬撃で飛ばされ、横滑り旋回の追撃を空中ガードしてやり過ごす。
せっかくの必殺の連撃が、単発×2回になってしまっている。
つまり、走速が出過ぎなせいで、細かな間合いの調節が利いてない。
解りやすくPCで例えれば、マウスの移動速度5倍とかしたら、明後日の方向に飛んでいくような感じか。
完全に、スピードを持て余してやがる。
(……うわー、流石は特級の身体強化魔法だぁー(棒読み)
こわいなー、すごいなー、未強化じゃ対抗できないなー(棒読み))
暗殺者は、高速移動攻撃にこだわるせいか刺突と横薙ぎばかり。
特級の身体強化でスピードは上がったが、動きが雑でワンパターンな分、対応がしやすくなってきた。
それに、いい加減、相手の不可思議な動きにも慣れてきたので、回避や防御を最小限に動作を削っていく。
── すると、暗殺者は1度、腕輪型<魔導具>に触れて、動きを止める。
「……フンッ、本当によく粘るなっ」
多分、特級の身体強化魔法の制限時間がきたから、かけ直したんだろう。
すぐに、『カン!』と機巧発動音。
暗殺者リーダーは、仕切り直しとばかりに、黄金色の宝剣を構え直す。
「しかし、この<錬星金>の剣の攻撃を、それだけ耐えるとはね。
その模造剣、いったい何で出来ているんだよ?」
「……ただの鋼鉄製、<魔導鋼>ですらない」
【序の一段目:断ち】を非殺傷モードで魔法付与してるから、耐久性が上がってるだけなんだけどね。
数合の打ち合うたびに、魔法付与かけ直さないといけないから、相当な業物であるのは間違いないんだが。
それを素直に教えてやる理由もないので、ちょっとおちょくってやる。
「ってか、逆にその剣、本当に<錬星金>なのか?
お前、ニセモノつかませられたんじゃね?」
「── ……っ!?」
心当たりでもあったのか、暗殺者リーダーの顔が引きつった。




