103:トラブル多発
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
「……皆伝であ~る」
「早くね!?」
「少年、もはや拙に教えられる事はないのであ~る……」
「まだ、3日目だぜ!?」
「まさか、これほど早く、師を越えてくるとは……
精妙にして緻密なる魔力の制御。
それによる、自在にして流麗な音質の変化、圧巻の一言であ~る」
(コイツ、まさか教えるのが面倒くさくなった!?)
前世ニッポンの電子演奏機のイメージで『100メガショックなゲーム機の起動音(テレレンテレレン♪)』とか演奏しただけなんだが。
(── もしや。
前世ニッポンのゲーム音楽が、この世界では不快だったり?)
そんな疑惑さえ覚える。
「なぁ、センセイ、センセイって!
契約なんだから、せめて7日は面倒みてくれよ!」
「だから! もう! 拙の教える事が! ないのであ~る!
拙も聞いた事が無い、高音がつんざくような音響など、簡単に奏でられたら、自信喪失なのであ~る!」
「……うぉぅ、そ、そうか……マジで、すまん」
駆け出しの生徒さん(もちろん俺!)がいきなり調子乗って、前世ニッポンのエレクトリックなサウンドを即興でチューン!!
異世界文化のゴイスーなサウンドが、ユーのハートにズギュ~~ンッした結果、うっかりプロのモチベーションをデチューンしちゃったワケか。
(いわゆる、パルスのファルシのルシがコクーンでパージな感じか……
たしかに1番アカンやつだな、それは(混乱中))
さすがのコミュ障な俺も『こんな演奏なんてどうでも良いから、弦を使った戦闘技術を教えてくれよ!』とか言い出せない雰囲気。
「センセイ、泣くな、泣くなって」
なんかグズグズ言ってるおセンチさんを慰めたら、故郷の演奏プロ一家でのイザコザとか特に興味も無い昼ドラ話を延々と聞かされた。
取りあえず、鋼糸の講師センセイ(ひとり笑)が、楽器演奏イップス克服のため苦心で編み出した演奏法をひっさげて故郷に凱旋!落ちぶれた天才児のリベンジ!!のつもりで、藩王国の宮殿音楽会に殴り込みのゲリラ・ライブ的『俺の演奏を聴けぇぇ~!』で『感動!感涙!スタンディング・オペレーションで大喝采!ミュージックシーンを揺るがす伝説の幕開けッ!?』のハズが、真逆の大ブーイングで伝統を汚す演奏とか邪道とか音楽を何も解ってないとか言われまくって、泣きながら故郷にララバイしたのは理解した。
(この中年も、なかなかヘビーな人生送ってんなー(鼻ほじ))
なんか予想外の理由で『鋼糸使い』への道のりが遠くなった件について。
▲ ▽ ▲ ▽
「── は~い、『兄弟』。
3人そろっているわね。
次のターゲットはこれよ」
「ふん、なるほど。
今回の依頼は随分と金額がいいはずだ。
噂に聞く『剣帝の弟子』か……」
「フフ、怖じ気づいたの?」
「カハハ、まさかっ
時代遅れのロートルの、さらに弟子だろ?」
「ほほう、なかなかの美人じゃねえか。
おしいな、あと5年もすれば、十分楽しめたのに」
「ねえ、ちょっとぉ。
標的のメスガキ相手に色ボケしないでよ?
女が欲しいなら、『姉妹の絆』の子を買って」
「クク、色ボケとは、俺がか?
おいおい、冗談言うなよ、手配屋っ
こんな澄ました女を、とくに自慢の顔を、念入りに焼け焦げにして絶望させるのが楽しいって言ってんのさ」
「フフ、さすがは『燃ゆる狼』ね。
人間なんて、火にくべる薪くらいにしか思っちゃいないわ」
「フン、ターゲットで遊ぶなんて素人。
慎重に、確実に、一撃で仕留めるのがプロだ」
「冷静沈着の『凍てる狼』らしいわね。
なんて頼もしいのかしら」
「ふん! 臆病な陰険野郎が、えらそうに!」
「ハハッ、ムダ吠えなら外にしろ、熱くるしい脳筋め」
「なんだと、テメー!」
「フン、決着をつける日がきたみたいだな?」
「── おい、お前らっ
何度言ったらわかる、仲間内のモメ事は厳禁だって!」
「フン……っ、そう言われれば仕方ない」
「だがよぉ、リーダー!
俺は、いい加減この『凍てる狼』のヤツが我慢ならねえっ」
「── なんだ『燃ゆる狼』、俺の指示がきけないか?」
「うぅ……っ、クッ」
「このクセの強い2人をまとめあげるなんて、流石だわ。
伝説の『剣魁殺し』はダテじゃないみたいね」
「カハハ、『剣魁殺し』なんて昔の話さ。
<錬星金>の剣を手に入れた今の俺なら、『剣聖』だろうが『剣王』だろうが、なますに斬ってやるよっ」
「違いねえっ」
「ああ、今のリーダーにかかれば、『全盛期の剣帝』すら造作もないだろうよっ」
「これが『笑う狼群』、絶対必殺の暗殺者チームって訳ね……!
こんな恐ろしい連中に狙われるなんて。
まったく不運なメスガキよね、少し同情するわ」
「で、手配屋。
この、一緒に映ってる黒髪のガキはなんだ?」
「そっちは、ただの付き人よ。
魔導師の格好をしているけど、実際に見たら魔力も大した事がない。
ただの見かけ倒し ── まあ、身の安全のための虚勢なんじゃない?」
「顔立ちからすれば、庶民じゃないな。
いかにも育ちの良さそうな、豪商のお嬢様ってところか?」
「ああ、まさか巻き添えになって殺されるなんて、少しも思っちゃいない。
そんな甘ったれた顔だ」
「カハハ、不運なガキだぜっ」
「質問が終わりなら、契約成立の酒杯といきましょうか?
それでは、仕事の成功を祈って!」
── 『乾杯!』
▲ ▽ ▲ ▽
「── という密談を、昨日の夜に酒場で話している連中がいたのであ~る。
少年少女、気をつけ給へ」
傷心により、昨晩の停留場所だった小さな町の酒場に繰り出したらしい、講師リュート(仮名)さんからの情報提供だった。
「……バカなのか、その連中?」
人の多い酒場とかで、ベラベラ極秘情報しゃべるなよ。
すると、リュート(仮名)さんが補足説明。
「アレは、藩王国の古語での会話だったので、他者には理解不能なのであ~る。
故郷でも滅多と話者がいない、すでに廃れた言葉なのであ~る。
拙は、伝統ある演奏一族の出自なので、宮廷行事で必要な古曲や伝統曲のために、幼少から叩き込まれただけ。
また、藩王国の貿易船は帝国南部までしか来ないのだから、こんな東北部で話者がいるとは通常思わないのであ~る」
「なるほど」
「それに、<帝国八流派>の<狼剣流>は、藩王国にルーツを持つ魔剣士流派のはず。
当時の言葉も伝承しているなら、話せてもおかしくないのであ~る」
「へ~……。
<狼剣流>なのか、そいつら」
<帝国八流派>の中で、<表・御三家>でも<裏・御三家>でもない、新興2流派の片方。
帝都への出立の際に、ジジイに注意しておけと言い含められた流派だ。
「藩王国は、北大陸の南方に位置し、西方と東方の交易の海上拠点であ~る。
<狼剣流>は山賊・海賊への対策から生まれた武術と聞く。
少年少女は魔物との戦闘になれているらしいが、用心をし給へ」
そんな風に、鋼糸センセからも忠告。
(なんで、まだ10日の旅程の半分もいってないのに、『暗殺者襲撃』とかヘビーなトラブルが起こるかね……
これって、誰の日頃の行いが悪いせいなんスか、教えて仏サマ?)
軽く元世界方向に念波を飛ばしてみるが、返答はない。
(そりゃ、俺としても、危険回避で大人しくしておきたいけど、さぁ……)
しかしなぁ……
当流派には、数日魔物退治しないとウズウズし始める、とても血の気の多い暴れん坊が居るワケで……
「いわく、血に飢えた狼。
いわく、序列争いのケダモノ。
対人戦に特化した流派とも聞きますわ。
わたくしも、一度手合わせしてみたいと思ってましたのっ」
案の定、ヤる気満々なリアちゃんだった。
▲ ▽ ▲ ▽
── 【悲報】暗殺者が秒で殺しにきた件について【襲撃】
4日目の夕方。
停留場所の町(宿場町みたいな感じ)についた時は、すでに結構な雨だった。
その時点で、ヤベーなと思ってた俺。
石積みの簡易城壁を抜けて、雨に濡れながら素泊まり宿へ小走りの最中。
【序の四段目:風鈴眼】の魔力センサーに何かが引っかかる。
ザーザーッという雨音に紛れて、ヒュンと風切り音。
案の定、ヤる気満々なナイフか何かが飛んできた。
「させるかっ」
リアちゃんの背後に迫るそれを、カキンッと模造剣で跳ね上げる。
(雨の音に紛れて、しかも遠距離狙撃かよっ
マジで殺意マシマシ、事前情報がなかったらちょっとヤバかったかも……)
そんな事を考えながら、カンカン……ッ、と石畳の小路に跳ねた刃物を見る。
なんかちょっと、前世ニッポンの忍者武器みたいな感じ。
うん?
なんかちょっと変な魔力が……
「何ですの、これ?」
「こらこら、さわっちゃダメって」
アゼリアが、見慣れない形の投げナイフに、興味津々と手を伸ばそうとするのを、片手で制止する。
【序の四段目:風鈴眼】でよくよく観察すると、投げナイフの表面に微妙な魔力の反応。
なんだ?
<回復薬>とかの反応に似ているけど、魔法薬か?
(……いや、これって<ラピス山地>でたまに見る、魔法的な毒素じゃね?
あの<治癒薬>が効きずらい毒素)
うっかり妹弟子にかすってたら、七転八倒して苦しんでた感じか!?
「おい、マジで殺意マシマシ全部乗せかよ……っ」
いや殺意どころか、苦しめて殺そうという、歪んだ悪意すら感じる。
(── よし、ブッコロそう!!)
身体強化の短時間版【序の二段目:推し】を自力発動。
「リアちゃん、もう1人は任せたっ」
そう言い残すと、近くの塀を足がかりに、民家の屋根の上へと飛び上がる。
「解りましたわっ
暗殺者さんと、思いっ切りブンブンしてきますのっ」
鼻息がフンスッフンスッと、やる気満々な妹弟子。
曲がった先に待ち構えている、魔力の気配を隠す気なしの脳筋は、適当に相手するだろう。
「俺は、毒使いのゲス野郎をブチのめす!!」




