102:門出のBGM
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
そんなワケで、妹弟子アゼリアの帝都行きに着いて行く事になった俺。
1週間ほど色々準備。
そして今日、<ラピス山地>にあるウチ(山小屋)から一番近いデカい街<翡翠領>から、乗り合いの大型車両で出発する予定。
ジジイも見送りに着いてきた。
「うわぁ~……人が多いな」
「そうじゃのう。
そもそも騎士団の第三には、行商の随伴が多い。
とはいえど、今回は格別に多いのぉ」
ジジイの説明によれば、帝国騎士団の第三方面隊は『街道守備隊』。
魔物ワラワラ世界なので、都市間を移動するのは大変危険。
日常的に、冒険者があちこちウロウロしながら魔物退治しているが、やはり追いつかない。
(なお、魔物が増えた危険地帯ほど報酬がいいので、危険を冒してカネ稼ぎ=冒険なワケだ)
農村は食料生産、都市部は商工業と役割分担があるので、街道の安全は生命線だ。
魔物が増えて、街と農村の往来がなくなると、都市部の食料がなくなって詰む。
そんなワケで、公共事業でガッツリ対策。
月一くらいで、大都市と大都市を往来しつつ、道中で農村に寄って食料や物資を大量輸送。
さらに道中で魔物を退治したり、街道の補修までするのが、帝国騎士団の第三『街道守備隊』。
そして軍人さんが大量にいれば旅路が安全だと、商人や一般庶民がくっついてくる。
遠くの親戚に会いに行ったり、聖都巡礼とかの宗教行事をする、数少ないチャンスなワケだ。
「お兄様ぁ、アイスですわっ
何故かタダでもらえましたのぉっ」
買い食い娘がアイスのカップ3個持って、戻ってくる。
「そりゃ珍しい。
お祭り騒ぎで儲かってるから、みんな気前がいいのかな?」
出店の連中とか、浮かれた客の足下みたヤクザ商売なのに。
今日に限って、やけに太っ腹だな。
「夏日で汗ばむだけに、冷たい物が美味いのう」
日頃は冷えた飲み物を嫌がるジジイも、今日はシャクシャク堪能してる。
なお、ジジイが渡したお駄賃が浮いて、そのまま妹弟子のお小遣いになった。
「あぁ……キ~ンってきた……」
この世界でも、アイスをガツ食いしたら頭痛が。
魔法とかあるせいで、微妙に物理法則も人体構造も違いそうなんだが。
「お兄様の、ひと口食べたいですわっ」
「はいはい、あ~ん」
「ぅん~~! レモンも美味しいですのっ
お返しですわ、あ~ん」
「いや、それはちょっと恥ずかしいんだけど……
兄ちゃん、これでも男の人なので」
「あ~ん、あ~んですのよ? あ~ん」
「はいはい、あ~ん……」
そんなこんなで、師弟3人でアイス食い終わる頃には、また一段と人間が増えてた。
▲ ▽ ▲ ▽
「あ、ロックがあそこに居ますっ」「おぉ~い、剣帝流っ」
呼ばれて、そっちを見れば、赤毛の恵体少年・ニアンとか、見覚えのある一団。
<轟剣流>分派のユニチェリー道場の面子が、20~30人やってくる。
「剣帝さま、ご無沙汰しております。
改めまして、『興武館の名誉館長』ご就任、おめでとうございます。
お祝いの挨拶が遅れ、まことに申し訳ありませんっ」
「いやいや、ユニチェリー殿、そんなに畏まられなくとも……。
ハァ……最近は、不相応な役職を持たされたせいで、皆の態度が窮屈でな」
「ハハハ、故郷の英雄なのですから、仕方ありませんよ?」
ジジイはユニチェリー師範と、大人同士のあいさつ。
「え~、それでは! 我ら<轟剣ユニチェリー流>一同!
伝統ある帝都士官学校へと羽ばたかれ、今後ますます飛躍されますアゼリア=ミラー嬢のご清栄を願いましてぇ~!!」
アゼリアは、顔見知りになってきたゴツい道場生たちから激励の最中。
そして俺は、ニアンと雑談。
「へ~、剣帝流のリアちゃんだけじゃなくて、他にも新入生がいるのか」
「ああ、毎年5~6人くらいかな」
ニアンたちが言うには、帝都の士官学校への新入生は、<帝都八流派>の直系だけじゃないらしい。
例えば、数年前に<轟剣流>分派のユニチェリー道場の娘さんも入学したそうだ。
<翡翠領>は、<帝都八流派>の関係道場だけでも3~4件。
それ以外を含めると30件以上は道場があるらしい。
で、そういう主要流派じゃないマイナー流派でも、希望すれば(そしてバカ高い入学金が払えれば)士官学校の魔剣士学科には入学できる。
むしろ、マイナー流派ほど、帝都の貴族や皇帝血縁とのつながりが欲しいので、何が何でも跡取り息子・娘なんかを入学させたがる。
(まあ『マイナー流派』とか、剣帝流も他所の事は言えないからな……
師匠・後継者・元弟子と、3人しか居ない弱小流派だし)
徐々に、出発口の南門(の風除室みたいな中庭)は、魔剣士道場の関係者でごった返してきた。
20~30人の厳ついオッサン集団に、野太い声で壮行されている10代男女がチラホラ。
「『剣帝』様のお弟子様がた。
そろそろ出発のお時間になりますので、ご乗車の準備を」
気の強そうな金髪メイドさんがやってきて、時間を告げる。
なんか知らんがジジイが、『魔物の大侵攻』の後に、他流派交流道場の名誉館長みたいな地位に、強制的に就任させられてた。
で、この元騎士団の精鋭らしい金髪メイドさん(ツリ目の美人でスタイルが良い!)は、組織運営に不慣れなジジイの補佐役。
つまり、どっちかというと秘書ポジション。
しかし、新設道場の掃除とかもやってるらしいので、メイド服で通しているらしい。
(なんかこの人、時々、こっちをジッと見てくるんだよなぁ……)
今世の俺はチビでザコなので、バカにされるの慣れてる。
悪意や侮蔑の視線なんて、今さらだ。
慣れすぎて、いちいち気にもならない。
しかし、メイド服の秘書さんの目線は、なんか方向性が違うんで、微妙に居心地が悪い。
なんか熱っぽいというか、妙にムズムズする。
時々、『年上女房』とか『子どもは、最低3人』とか、気になる事をポツッと言うし。
なんか色っぽいため息とかするし。
いわゆる『婚活中』なのかな?
「── ん、お弟子様、『がた』?
アゼリアさんだけ、じゃないのか?」
「ああ、俺も、って事。
色々あって、帝都まで着いて行く事になったんだよ」
不思議そうな顔した赤毛少年に、端折った説明。
「へ~……、いいな、帝都かぁ。
ここ<翡翠領>領都の10倍くらいデカいんだろ、すげえよなぁ。
俺も一度、行ってみたい」
「そうか?
どうせ大した物ないだろうから、欠片も興味が湧かないんだが……」
格闘ゲームがあるなら、喜んで行くけど。
電子部品が皆無(笑)な、魔法のファンタジー世界(呆)とか。
「ロックって、魔法とか得意なんだろ?
そういうの、帝都が本場じゃないか」
「ジジイが魔導の教本10冊くらい持ってて、昔の国立の魔導師学園の教科書らしいけど、もう20回は読破したし。
しかも、何年か前にアゼリアの叔父さんに頼んで最新版を取り寄せてもらったけど、50年前の本と、ほとんど内容が変わってないし。
基礎研究が発展しないとか、魔法省の魔導なんとか院とかの研究員って、ちゃんと仕事してんのかな?」
「……お前って、やっぱ、そういう所が普通じゃないよな」
「いや、俺も<御三家>の秘伝とか、<四彩の姓>の奥義とか。
その辺なら、がぜん興味があるんだが。
でも、どうせ門外不出で教えてくれるもんでもないだろうし」
「……うん……そうだな……」
なんか、ニアンが額を押さえてる。
うむ、調子にのってしゃべったけど、これアレだな。
前世ニッポンで、『PC詳しいんでしょ? ちょっと教えて』みたいな事を女性社員に聞かれて、得意げにベラベラ話した後に、反応が似てる。
(── またも『オタクが専門用語を早口で羅列』とか、一般人にドン引きされる事をやってしもた。
俺も、せっかく異世界転生したのに、まるで成長しねーな……)
せっかく異世界でできた、友達1号なのに。
愛想尽かされないように、言動に気をつけないと。
そんな事を考えていると、出発式典が開始。
なんか領主だか領主代理だかが出席していたらしく、ピシッとした儀礼服の騎士団員もいっぱい。
エラい人たちの挨拶とか、ズンチャカすごい大人数の演奏で、華々しく送り出された。
「いつもこんなのなのか。
すげえな、これなら士官学校の入学生も気合いが入るよなぁ」
「いつもこんな派手な訳がないのであ~る。
わざわざ領主クラスの権力者が直々に、しかも式典までひらいて見送りなんて、ほとんど王侯貴族並の待遇なのであ~る」
なんか、ポロロンポロロンやってる人に、謎のツッコミをされてしまった。
▲ ▽ ▲ ▽
さて、ところで前世ニッポンで『楽しみとしての旅行』を意味する『観光』という言葉があった。
これは古代中華の古文書に出てくる言葉、『観国之光』の略。
国のあちこちに光をあてて見て回れ、みたいな意味合いらしい。
そんな言葉がわざわざ造られた理由は、本来『旅行』は『楽しむ物ではない』からだ。
行商みたいな仕事や、遠方の親族の冠婚葬祭への出席。
あるいは、故郷から追放された放浪。
それが、本来の『旅』。
(なお、ガイドブックや旅行ブームの火付け役は、貝原益軒っていう江戸時代の薬学者。
これ豆知識な?)
── で、何が言いたいかというと。
平和で自由な印象のある江戸時代も、『お伊勢参り』ブームあたりまでは、旅行は庶民にとって遠い存在だった。
そもそも関所を通してもらえない(脱藩騒ぎで、最悪殺される)。
ヘタすりゃ道中で盗賊に襲われる、命がけの遠征。
よく楽曲にでてくる『人生はあてのない旅』とか、本来はそっちの意味合い。
つまり『うっかりしてたら死ぬよ?』の意だ。
── この異世界でも、庶民にとっては、旅行はそんな感じらしい。
「お兄様、夏ミカンむきましたわ」
「サンキュー、美味美味っ」
「酸味がさわやかですわねー」
「ねー?」
こんなノンキな感じは、俺ら2人だけらしい。
大型車両に同乗している一般庶民のみなさんは、ワクワクと言うよりピリピリ。
だいぶん遠くなった故郷の方を、涙目でいつまでも見てるヤツもいる。
前世ニッポンの高速列車だか大型飛行機だか、という広い車内が、お通夜みたいなドンヨリ空気。
そのせいか、ポロロンポロロンしている人が、大活躍。
どうやら、プロの演奏家らしい。
リラックス・ミュージックっての?
明るい曲とか落ち着く曲とか演奏して、大型車両の乗客に大好評。
ついでに色々リクエストされて、小銭を稼いでいる。
何か<翡翠領>の定番曲らしい演奏とか、大合唱と拍手が起きたくらい。
お陰で、乗り合い大型車両の雰囲気がだいぶん明るくなった。
「どうしましたの、お兄様?」
「なんか、あの人変わってるなぁ、と思って」
「そうですわね。
楽器もないのに、弦だけで曲を弾くなんて、大道芸でしょうか?」
「ん~~……それだけじゃないんだけど」
よくよく見れば、妙な事をやってたので、ちょっと訊いてみた。
「なあ、演奏家さん。
そうやって魔力を込めて曲を弾くと、何か違いがでるの?」
「── …………っ!?」
上機嫌で弾き語りしていた演奏家が、ギョッとした顔で振り返ってくる。
いかん、何か悪い事でも言ったか?
▲ ▽ ▲ ▽
「『本村』の連中は拙の事を、『リュート』と言っていたのであ~る。
故郷を出た時に縁故も家名も捨てたので、君らもそう呼んでくれ給へ」
左肩と左手の間に金属の弦を張って、ポロロンポロロンしている人は、元・藩王国の演奏家らしい。
「そういえば、拙も思い出したのであ~る。
確か、魔剣士の銀髪少女と、少女のように見える黒髪少年。
どちらも凄腕だと、女僧侶が熱心に話していたのであ~る」
なんか、『魔物の大侵攻』の時の同行者・ルーナさんの知り合いらしい。
「そう言われれば、なんか、俺も聞いた覚えが……」
── 『こう、ポロロン!って、いつも弦を鳴らしてる男の人だよ?』
── 『ロック君によく似てるのよ、不思議な魔力の使い方が」
── 『弦を指に巻いて、魔物に巻き付けて引っ張ったり、投げ飛ばしたり、スゴい事するのよ!』
ああ、噂の『鋼糸使いさん』か……。
(鋼糸を操って、シュパンシュパンと敵を切り裂くとか……
そういう『中二病の権化』、前世ニッポンから理想でした!)
そんなワケで、レクチャーを頼んでみた。
もちろん、講師料として、ちゃんとお金は出した。
いきなり金貨何枚も渡したから、周囲からドヨドヨされたけど。
技術料は大事。
それに、中二病のためなんで、仕方ないね!!
「請われれば、教えないでもないが……」
「ん?」
「拙も、何人か教えた事があるだけに、自信がないのであ~る。
今まで誰も、簡単な演奏すらできなかった、独自技術なのであ~る」
「俺も、今すぐ出来るようになるなんて、甘い事考えてねーよ。
基礎を教えてくれれば、何ヶ月か、あるいは年単位で練習してみる気だし?」
「………………」
ウキウキな俺に対して、ちょっと困惑気味な講師センセイ。
(鋼糸だけに。ひとり笑)
「なるほど、得心したのであ~る。
生まれ持った才能も素質もない身だからこそ、険しき道程は常であり、厭う事もなし。
魔剣士ならざる身で、魔剣士を越える剣士とは、かくあらん……か」
講師センセイは、ポロロロロロン!と、何か激しめに弦を弾く。
そして、こっちに向き直り、気合いの入ったセリフを言う。
「少年、了解したのであ~る!
<聖都>に到着するまで、7日間ほどの旅程!
その間に、拙の編み出したこの独自技術、伝えられるだけ全てを教示すっ!!」
「う~す、生徒のロックで~す。
よろしくお願いしま~す!」
デュフフwww! 拙者ww痛いヤツではwwwござらんwwww!!
何せ現実に、『鋼糸使い』に成れちゃうワケだからな!!
(ああ~、ニッポンに戻って自慢し倒してやりてぇえ~~!)
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