101:帝都滅殺、慈悲はない(失敗)
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
<翡翠領>の『魔物の大侵攻』から2ヶ月ほど経った。
家(山小屋)の庭先で、日課の手合わせを終了したら、結構な汗。
タオルがびっしょりだ。
だいぶん気温が上がってきて、そろそろ本格的に夏。
「リアちゃんも、そろそろ士官学校入学の時期か……」
「そうですわねぇ……」
そう、アゼリアの士官学校への入学の時期がやってきた。
タオルで汗をフキフキしてる妹弟子は、浮かない表情。
「……わたくし、同世代の人とのお話は苦手ですの。
しかも、<帝国八流派>直系に、貴族や帝室の子弟子女なんて、きっと気難しい方ばかりですわ。
士官学校で、うまく馴染めるでしょうか?」
格式のある<帝国八流派>本家の子は、ほぼ強制的に士官学校(に併設された魔剣士学科)へ15歳~17歳の3年間は通わされる。
アゼリアの叔父さんが言うには、士官学校には名門貴族や帝室の少年少女も通うので、『将来の上司・部下として顔合わせ』な意味合いがあるらしい。
帝室や貴族の子は、高級官僚や軍の将校 ──
<帝国八流派>本家の子は、軍の指揮官クラス ──
── だいたい、そういう進路が決まっているみたい。
(まあ、身分制度はゆるいけど、一応は封建社会だしね、この帝国……)
実力があれば、平民でも成り上がりの自由がある。
一方で、高位の貴族とか皇帝の身内に失礼すると、問答無用で『不敬罪で逮捕』という不平等もある。
前世ニッポンで例えれば、江戸時代中盤くらいのイメージかな。
帝国が建国して約300年。
多少の問題はあるが、安定政権で天下太平。
首都の庶民は、基本的にのんびり生活できているみたいだし。
「兄ちゃんがアドバイスを ── って言いたいところだけど。
俺も、コミュ障だからなぁ」
そもそも前世ニッポンの頃から、『学校』とかいう同世代の集まり自体が、超苦手。
割とブラック企業っぽいサラリーマン生活の方が、100倍居心地がよかったくらい。
(そんなワケで、学校生活で悩んでいるヤツも、社会人でワンチャンあるよ!
ハッキリ言って、学校より会社の方が、超ラクショー。
これオッサンから『若者』への『攻略ヒント』な!)
何事も『これも給料のため……っ』って割り切れば、たいてい耐えられる。
宴会の隠し芸などという、口にするもおぞましいような冒涜的な苦行も。
── ああ! PC画面に! ウインドウに!?
── 社内ネットワーク上に、新入社員が歓迎会でダダ滑り宴会芸という、失笑の黒歴史がっ
── 嫌! 厭世! 夢見て待つ君! もう世界とかザブンと滅ぼしていいから!!
(…………なんか今、ヌルリと、名状しがたい記憶がフラッシュバックしたっ)
ブンブン頭を振って、悪しき記憶を振りはらう。
海底都市民な顔になるところだった。
── 閉話休題
「そういえば、リアちゃん。
<御三家>のライバルとかは、同世代で、歳が近いんじゃなかったっけ?
ほら、貴公子とか<精剣流>のケーン君とか?」
「う~ん……
この前の<天剣流>の方も、その<精剣流>の方も、年齢とかまで存じ上げませんわ」
うん、そうか。
例の如く『同世代ライバルの<精剣流>ケーン君』も覚えてないのか。
……あれ、もしや?
「……ところでリアちゃん。
<天剣流>の貴公子の名前、覚えてる?」
「………………」
「おい妹、何か言え」
「……ん?」
「かわいく首を傾けてもダメ!」
「……たしか、『ボ』……『ボ』、『ボ』、『ボ』?
── 『バ行』から始まる名前ですわよ、ね?」
「マァリオだ!」
<天剣流>の『マァリオ=スカイソード』!
超キノコ兄弟か伝説エルフ剣士みたいなN天堂に怒られそうな名前!!
当たるどころか、かすってもねーぞ!?
お前、一応、帝都の魔剣士名門<御三家>の一員だろうが!
ちゃんと覚えとけ!
(── やっぱり、リアちゃんがコミュ障ナンバーワン!(略して『やリN1』))
そんな俺の呆れのジト目。
アゼリアは振り返り、デカい声で誤魔化す。
「わたくし貞淑な乙女ですので!
お兄様以外の年頃の男性と、親しくしていません事よぉ~?
オーホッホッホ!」
「……なんのアピールだ、それ」
あのなぁ、ポンコツ妹。
『貞淑』って言葉は『友達がいない』という意味じゃないからな?
「── でもまあ、最近、帝都にお友達もできましたので!
色々お手紙で相談してみたいと思いますわっ」
ちょっと帝都生活に期待が出てきたのか、ワクワクし始める妹弟子。
「……あぁ、うん、そだね」
そういや居たな、スパイ女子。
(どうせアイツら日頃はヒマなんだろ?
手の空いてる時間に、リアちゃん見守らせるかなぁ……)
俺は風呂と夕食の準備を始めながら、そんなちょっと過保護な事を考えていた。
▲ ▽ ▲ ▽
── さて、そんな感じの会話を思い出す、夕食後のまったりタイム。
考えれば考えるほど、妹弟子の帝都行きが心配になってきた。
なお、当のアゼリアは、入浴中。
(── そもそも、だ。
帝都とか、カネの亡者な商人とか、麻薬売買の犯罪組織とか、ロクデナシの貴族とか……。
どうせ、そんなしょうも無い連中が山盛りな場所だろう、きっと(偏見))
そんなドブネズミ色な無法街に『正義感の強い天才美少女魔剣士さん(もちろんリアちゃん)』が訪れようものなら、結果は火を見るより明らか(断定)。
多分、余計な騒動に巻き込まれる。
きっと、巻き込まれまくる。
具体的に言えば ──
── なんか学園で退学をかけた決闘挑まれたり
── アホ王子的なヤツに惚れられたり
── 舞踏会でバカ王女的なヤツに嫌がらせされたり
── エラい人が観戦中の武術大会で暗殺事件が起こったり
── ひょんな事でヤクザから子どもを助けたら裏組織に命を狙われたり
── 邪教のテロリストから街を守ったのに濡れ衣きせられたり
きっと、そんな、ロクでもない目にあいまくるのは、確定的に明らか。
(── あれ……
もしかして、帝都民とか、生かしておく価値ねーんじゃね?)
そんな事を考え出すと、思考が悪い方向に転がっていく。
心優しく、ちょっと世間知らずな『お嬢様』なリアちゃんなのだ。
あと、対人戦がちょっと苦手という、タマにキズな欠点もある。
(いかん!!
マジで、都会のゲス共につけ込まれる危険性がッ、ガガァッ、グガガガァ……ッ!(バグり挙動中))
── 地下に監禁されたボロボロのアゼリアがっ!
── 虚ろな目でひとつぶの涙、『おにい、さま……』とかぁぁぁあア!?
(うわぁあああぁぁぁぁああ~~~~ぁ!)
兄ちゃん、想像しただけでブチギレそうだぜぇええ!
「── よし、滅ぼすか……」
色々考えた結果、そういう結論になった。
「……な、何?」
剣帝が、ピクッと老眼鏡付きの顔を上げた。
夕食後のダイニングテーブルで日記をつけてた手が、完全に止まってる。
「── ジジイ。
ちょっと帝都まで、ひとっぱしり行ってくる。
リアちゃんの安全が心配だから、先に壊滅させておくっ」
「何をする気じゃ、お主は!」
山小屋からひとっぱしりしようとする。
だが、夜の庭先を出る前に、あっさりジジイに捕まってしまう。
── 大丈夫ダイジョーブ!
── ちょっと帝都を滅ぼすだけだからっ
── 何をトチ狂ったか!
── 発言の内容が、少しも『ちょっと』ではないぞっ
── ほら、この前、俺が創った【秘剣・三日月:四ノ太刀・八重裂】あるじゃん?
── アレを横薙ぎブッパすれば、2~3週間くらいで都市壊滅できると思うし!
── 方法なんぞ訊いておらんっ
── いや、そう言われてみれば、本当に出来そうで空恐ろしい……!
── ロック、本気で止めぬか!
── いや、イける、イけるって!
── 全てはヤる気の問題だって!
── 俺、ヤる気だけは、他の誰にも負けねーしっ
── 明後日の方向に暴発するなぁ~~!
── ええ~い、こんなバカげた事で帝国存亡の危機を招く訳にはいかんっ
── 師の責務として、力尽くでも止めてみせるっ
(いや、ジジイ、『帝国存亡の危機』って(笑)
軽くチョロッと必殺技ブッパするだけなのに、そんなオーバーな(呆))
自分で『壊滅』とか言っておきながらアレだが。
所詮ソレは、あくまで抱負というか理想というか、非現実的な決意表明な感じのアレ。
『海賊王になる』とか。
『俺より強いヤツに会いに行く』とか。
『兵法天下一、日本開山』みたいな。
実際には半月も時間ないんだから、どう頑張っても半壊までもいかないだろうし。
▲ ▽ ▲ ▽
そんな感じで、俺の決意表明に過剰反応したジジイが、殺意マシマシ全部乗せな気迫で手合わせ強要してくる件について。
(ん~~……
魔力が貧弱な俺が、現実にそんな事できるとか、ジジイも思ってないだろうし。
もしかして、そんな口実で、寝る前に運動不足を解消したかったのかね?)
あるいは、『冗談でもそんな寝言をほざく、元弟子の性根を叩き直す』的な?
まあ、俺も元・弟子としての義理があるから、仕方なく夕食後の運動に付き合ったけど。
── いいじゃん、ジジイ?
── さきっちょ、さきっちょだけ!
── ちょっと必殺技ブッパして、さきっちょで斬るだけだからっ
── 良い訳あるかぁ~~~!!
── 大丈夫、ダイジョーブだって!
── 苦痛なく即死さぁっ
── 恐怖なく即死さぁっ
── 一瞬であの世行きさぁっ、イイだろぉ?
── 何も『大丈夫!』ではないわぁ~~~!
そんな感じで、キンキンガンガンやり合う事15分。
「── お風呂あがりましたわよ~?
ところで2人とも、日が暮れたのにうるさくすると、ユキとブチが寝られなくて困っていますわよ?」
── メェ~……
── メェ~……
そんなワケで、アゼリアが呼びに来た辺りで、手合わせ終了となった。
「ゼェ……ゼィ……っ
もう、いい……
そんなに、リアが心配なら……ゼェッ
……お主も、着いて行けばよかろう……っ」
なんか知らんが、ジジイがそんな事を言い出す。
「ハァハァ……いや、ジジイ……俺は別に……フゥッ
不安要素だけ、消滅させれれば……ハァッ……それで別に……」
リアちゃんの純潔を汚しそうなカスが(物理的に)居なくなればOKくらいの感じだったんだが。
俺的に『格闘ゲーム』ひとつ無いような、文明的に未開(笑)な帝都(呆)とか、1ミリも興味ないしな。
「まあ! お兄様が一緒に、帝都に!?
わたくし、アゼリアが心配だからですかっ」
話を聞いたリアちゃん、お目々キラキラ。
「んもう、んもう、んもうぅ~!
お兄様ったら、どうしてどうして、リアをこんなに喜ばせますの!?」
「……おふっ
兄ちゃん、今ちょっと足腰ガタガタだから、加減して?」
ひさしぶりに、ドッスンドッスン体当たりされる。
愛情が痛い(物理)。
「ウフフ~ッ
帝都でお兄様とデート……っ
今から、待ち遠しいですわ~っ」
テンションが上がったリアちゃんが、クルクル回る。
妹弟子の明るい顔を見ていると、俺もなんか楽しくなってきた。
なので、前世ニッポンの氷上競技みたいに、抱え上げてクルクル5回転くらいしてみる。
「あははは~っ」「うふふふ~っ」
めっちゃ喜ばれた。
▲ ▽ ▲ ▽
自室のドアを開けたら、なぜかベッドの上に先客。
銀髪に映える青い寝間着の妹弟子が、自分の枕を持ってゴロゴロしてた。
「久しぶりにお兄様のお布団ですわ~
ウフフッ、良い匂いですわ~、今日はグッスリですわ~」
「……おい妹、何をやってる?」
兄弟子が風呂に入っている内に、妹弟子がベッドを占拠していた件について。
「アゼリア、この前も言ったろ。
『そろそろ年頃の乙女なんだから、兄ちゃん離れをしような』って」
「もうっ、本当は『リアちゃん好き好き~』なのに、意地悪なお兄様っ
最近、甘やかしが足りませんわ! 不満ですわ! プゥ~ッですわ!」
わざとらしく頬をプックリして、何か言ってくる。
何を幼児退行してんだ、このポンコツ妹は。
「何で、こんな夏前の熱い夜に潜り込みますかね、キミは?
ほら、兄ちゃんの汗くさいベッドから出なさいって」
冬の寒い時期なら、まだしも。
せっかくこの前、夏物の薄い布団を出したばかりなのに。
お子ちゃま銀髪女子を追い出そうとするが、薄い寝具にしがみついて離れない。
「い・や・で・す・のぉ!
いぃ~やぁ~!
今日はここで寝ますのぉ~~っ」
「お前なぁ……」
久しぶりに、ワガママ大爆発のリアちゃんである。
「最近は、帝都の寮生活の予行練習してましたの。
お兄様にくっつかない、1人暮らしの練習でしたのよ?
でも、お兄様が一緒に行かれるなら、別にそんなの気にしなくて良かったんですわっ
なんか、リア、せっかく頑張ったのに、すごい損した気分ですわ!
だから、しばらくは、一緒に寝ますのよぉ~!」
「………………」
いかん、やらかした。
しばらく押し問答したが、結局ダメだった。
諦めて、今晩は兄妹弟子で一緒に寝るハメに。
(兄離れさせようと色々やってきたのに、完全にやらかしたのかもしれん……)
せっかく妹弟子に、『自立心』と書かせてベッド横に貼らせたのに。(今年の目標を書道で書く的な感じで)
俺の方から、まるで台無しにしてしまったらしい。
後悔して、ちょっと憂鬱。
だが、リアちゃんのスヤスヤ寝顔を見ていると、どうでも良くなってくる。
(── しかしな、妹弟子……)
寝返りするたび、オッ●イ押しつけるの止めなさい。
『紳士な兄弟子』にも、ガマンの限界があるんですよ?
!作者注釈!
↓↓↓ から、『ブックマーク追加』、評価『★★★★★』、
↓↓↓ 『いいね!』などお願いします。
↓↓↓ 更新作業の励みになります。




