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異世界カクゲーSPIRIT'sサイキョー伝説[↓↘→+s] ~知ってる?異世界って格ゲー無いんだぜ(絶望)……ハッ!無いなら作ればいいんじゃね(閃き)~  作者: 宮間
Demo画面:記念短編

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100/236

100:短編1/紫の雪の中で(下)

100話記念の短編



「── お、ザコ魔物、発見っ

 【秘剣・三日月(みかづき)】!  【秘剣・三日月(みかづき)】! 【秘剣・三日月(みかづき)】!」


「ああ! お兄様ぁっ

 全部とったらダメですのよぉ!

 【秘剣・三日月(みかづき)】! 【秘剣・三日月(みかづき)】!」



一瞬だった。

何か、魔法らしき魔力光の、しかし異様に小さい何かが、いくつも飛んできた。


父子の目の前で、カマキリ魔物5匹の上半身が、ズルリ……ッと両断されて落ちる。



「な、何が起こった……っ」



父は呆然として、石のように固まる。



「おお! あっちにも一杯いるっ

 しかも、なんか防具や武器が落ちてるぅ~~っ

 いやっほぉ~、カネもうけの予感!!」



黒髪の子どもは歓喜の声を上げて、雪を蹴散らしながら惨劇の現場へ駆け寄っていく。


きょとんとした子が、父を見上げてたずねた。



「お父さん……この人たちは……?

 いい人? わるい人?」


「別に、悪い人ではありませんわよ?

 横取りしたと言いたいのなら、モタモタしていたそちら(・・・)に非があるのではなくて?」



答えたのは、どこか高慢そうな銀髪の子ども。

整った容姿から(さっ)される血統の良さと、素人(しろうと)でも解る膨大(ぼうだい)な魔力。


どこかの貴族の子女か、あるいは武門の名家の直系か。

成人男性の胸にも届かない身長なのに、大人の騎士が使う<正剣>(フォーマル)を背負っている辺りも、普通ではない。



父は、警戒心をあらわに、我が子を抱き寄せる。



「な、なんなんだ! お前達はっ!?」


「なんですの、この方たち……っ

 フン、魔物を横取りされたからって、そんなに怒らなくてもっ」



銀髪の少女は、眉を寄せて黙ってしまう。



「よ、横取り……!? 非が、ある……!?

 ま、まさか、お前たちもわたしの財産をねらって ──」



混乱が極まった父が、見当違いの事を叫ぼうとした瞬間。



── ズドン! ズドン! ズドン!と、大岩が落ちたような音が連続した。



(ぞく)11人の死体と、それをあさる(・・・)カマキリ魔物の周囲で、紫の雪が舞い上がる。



── グ・ガ・ガ・ガ・ガアアア~~~!と、周囲の木の葉が一斉に震えるような、大音響の叫び。



うずくまった体勢で、すでに小さな物置小屋くらいの大きさがある、黒毛のサルのような魔物。

そんな巨体が5~6匹、大木から飛び降りてきたのだ。



『チィ! もう来たのか、このクソザル!

 ── ガアアアアァァァ!』



黒髪の子どもは、何故か対抗するように大声をあげる。



「ひ、ひぃ……、なんだあの怪物は……っ

 ……ま、まさか<終末の竜騎兵(ドラグーン)>……!?」


「……何言ってますの、この方?

 あんなの、ただの(・・・)大型魔物ですわよ……」


「お父さん、お父さぁん……っ

 わたしも、あんな風に食べられちゃうのっ?」


「あら、そちらの小さい方。

 そんなに(おび)えなくても、大丈夫ですわ。

 リアのお兄様が、すぐに追い払って(・・・・・)くれますわよ?」


「な、何を言っているんだ、お前は……っ

 見ろ、さっきの虫型魔物を食ってるんだぞ!

 あんな大きな魔物だって、手づかみで丸かじりだなんだぞ!

 そんなバケモノぉぉ!

 ── ひぃぃ~~、どんな魔剣士だって、ひとたまりもないぃ~~っ!!」


「…………リアの、お兄様を。

 そこらの魔剣士なんか(・・・)と比べるの、()めていただけません?」



銀髪の子どもが、冷たい目で静かな怒りを向けてくる。


幼く見えても魔剣士。

魔物に(いど)む戦士の怒気に、父は声を震わせる。



「── うっ

 わ、わたしはっ、……何も、間違った事を言ってないっ」



父が、思わす顔をそむけると、何か異常な光景が目に入る。



── ガァガァ! ガ・ガァ! グ・ガ・ガ!


黒髪の子どものまわりを、ひたすら飛び跳ねて、雄叫びをあげる魔物。

一見すれば絶体絶命の状況。

だが、よくよく観察すると、黒い巨体の魔物が一定距離を開けて、まったく近寄らないのが解る。



「まさか……っ

 いや、そんな訳が……っ」



父の心に浮かんだのは、現実味のない推測。

── 急いで虫型魔物を捕らえる仲間を、背中にかばっている?

── 仲間がエサを集める間、(おとり)となって気を引いている?

── あんな巨大な魔物が、あんな小さな子どもを、怖れて近づかない?



ザクンッと、黒髪の少年が積雪に一歩踏み込めば、もはや明らか。

黒毛の巨大サル魔物は、10m以上は飛び退(すさ)り、総毛を逆立てて激しく威嚇。



「ほ、本当にっ、あの子どもに、(おび)えている?

 あんな、巨大な魔物が!?」



── グ・ガ・ガ・ガ・ガアアア~~~!と、再度、鼓膜が痛いほどの雄叫び。



『── う・る・せ・え!

 このクソザルが、俺に歯向かうなら、もう一回調教すんぞ!

 オラー!!』



黒髪の子どもが、すさまじい跳躍力で、5倍以上の巨体に跳びかかった。





▲ ▽ ▲ ▽



グガァァ!!と、巨大サル魔物の片腕が振り回される。

遠くからでも、パァン!と空気が破裂する音が聞こえた。



「ああ、なんてこった……っ」



父は、惨劇を予想して目を細めた。

あまりに急な事だったので、今度は子の視線をふさぐ余裕もない。



だが、そんな予想は裏切られる。



『── 【秘剣・速翼(はやぶさ)弐ノ太刀(にのたち)乙鳥返(つばめがえし)】っ!』



空中の子どもが、魔物の攻撃を受ける瞬間、有り得ない速さと軌道で高速移動した。

弧を描いて魔物の背後に回り込み、背中を切り裂いて、魔物の斜め後ろに着地。

まるで、猛禽(もうきん)の狩りを連想させる、鋭い飛翔魔法!


黒毛魔物の背中から鮮血が散る。



『── ムサシ敗れたり!

 もはや貴様では、我が秘剣・『乙鳥返(つばめがえし)』はとらえられんぞ? デュフフ!』



黒髪の子どもは、お気に入りの芝居の台詞でも真似しているのだろうか。

格好付けた後に、やたらと緩んだ顔が、なんともみっともない。

子どもがチャンバラ遊びで、得意になっているみたいな雰囲気がある。


しかし、そんな無防備な背中に、他の魔物達は襲いかかる様子もない。

むしろ、ケガを負った1匹を連れて、山の奥の方へと去って行ってしまう。



『ムサシ君、ばいば~いっ

 ── 次に会った時ナメた態度したら、マジ殺すからな?』



銀髪の少女が言ったとおり、『追い払った』と言える異常きわまりない状況が、目の前で繰り広げられる。



── 人間など、ひと呑みの巨大なバケモノが

── 娘マリアンヌと年齢に大差ない、十代前半の子どもの手によって



「バ、バカな……っ」


「ほら、リアの言った通りですわよね?

 あの大型魔物、4本の腕のうち1~2本がないですわよね?

 あれは調教済みの(・・・・・)目印(・・)に、お兄様が斬り捨てたのですわっ」


「お、お前は……お前はぁ……っ

 いったい、何を言っているぅ……?」


「あの大型魔物、『巨人の箱庭』に来るたび襲ってきて、鬱陶しかったのですわっ

 全滅させても全滅させても、次に来たら頃には、また別の群れが住み着いていますの!

 もう、まったくキリがありませんわっ

 するとお兄様が、名案を思いつかれましたのよっ

 殺し尽くしてしまわず、群れのボスにこちら(・・・)の顔を覚えさせよう、と!

 お兄様が半日追いかけ回したら、わたくし達を見ると逃げ出すようになりましたの!

 ── すごい思いつきですわよね!!」


「……………………」



父は思った。

── 別に、何一つとして、すごい思いつきではない。

── ただ、そんな力技を実行し、実現してしまう能力がおかしい、と。



「あぁ~あ、落ちてる武器防具、鋼鉄製ばっかり……

 街に持っていても、全然カネになりそうにねーな……

 ── あ、リアちゃん、結局その人達はなんだったの?」


「全然わかりませんわ!

 リア、この方たちに興味ありませんものっ」


「うん……お返事は元気だね?」


「はい、お兄様、アゼリアは今日も元気ですのよ!!

 ── この方たち、魔剣士じゃないので、きっと迷子ですわ!

 リアが魔物を横取りしたとか、そんなはしたない(・・・・・)事は、ないに決まってますものっ」


「あ~、はいはい……。

 しかし、迷子の親子さんがいるなら、今回の『雪中訓練』は中止だな。

 ハァ……せっかく、重い荷物もってここまで来たばかりなのに、またすぐ下山かよ……」


「はいはいはいっ

 お兄様、今度来た時は、リアが魔物とおっかけっこしたいですのっ」


「キミがやると、全滅させちゃうからダメ」


「お兄様のイケズ!

 んもぅっ、んもぅっ、んもぅっ」


「── おふっ、

 リアちゃん、不満があると兄ちゃんに体当たりするの、そろそろ()めような?」


「スキンシップですわぁ!」


「……妹弟子の愛情が痛い件について」


「ラブラブですの!」



まるで、安全な街中でじゃれ合うような、黒髪と銀髪の子ども2人。


── 現世の地獄

── 生きて帰った者のない禁足地(きんそくち)


そんな風に言われる特級の危険地帯、『巨人の箱庭』ジャイアント・ガーデンでする態度ではない。



「……夢……夢を、見ているのか……

 ……雪山で遭難すると、非現実的な夢をみるとか……?」


「お父さん、お父さんっ

 わたしたち、たすかった?

 ねえ、たすかったんだよね?」



茫然自失の父と、喜色満面の子。

不幸な親子2人は、暢気な様子の子ども2人の後を追い、さらなる奥地へ向かう。


そして、その奥地(・・・・)にこそ、真に正気を逸して、あらゆる常識が打ち砕かれるような、驚天動地(きょうてんどうち)の『事実』が待ち構えていた。





▲ ▽ ▲ ▽



「フッフッフッ

 マリアンヌ、覚えているか?

 『お父さん、この人たちすごいね。うちの商会の護衛にやとってあげたら?』

 あの後、お前はそんな事を言っていたんだぞ」


「や、やめてよ、父さん!

 わたし、あの頃、世間知らずな子どもだったんだから!」



顔を真っ赤にする娘。

彼女は、こう付け足した。



「間違っても、ロックさんには言わないでよ!

 失礼な女だって、思われちゃうっ」


「おやおや、そうなのかい……

 まさかマリアンヌに、父さんや兄さんより大事な男の人ができるなんてなぁ」


「ち、ちがうっ

 そういうのじゃないからっ!」


「じゃあ、アゼリアさんの事を『義妹(いもうと)さん』って呼ぶ事になるのかな?

 わたしも、あんな立派な少年に『お義父(とう)さん』って呼ばれるなら、歓迎するべきところなのかな?

 いや、やっぱり年頃の娘の父として、怒るべきなのかな?」


「だから、そういうのじゃないの!

 もう! 父さんの意地悪(いじわる)っ」



娘の成長に、父は目尻(めじり)を下げる。


── 天上世界にお戻りになった<起源の聖女>フォント・サンクト・シーコ

── その聖兄であらせられる偉大なる『天の恵みの神(アーメ=ユージュ)』よ

── 御慈悲(おんじひ)をたまわり、今日も家族と(すこ)やかに過ごせている事、深く感謝申し上げます


父は、ささやかな幸せを()みしめて、心の中で祈りを捧げた。



「── さて、思い出に(ひた)っていたら、日が暮れてしまう。

 そろそろ出発するとしよう」


「ええ、そうね。

 行きましょう、父さん」


「あの方々は、元気にしていらっしゃるだろうか……」


「もう、父さんったら、おかしいっ

 世界最強の武人でいらっしゃる、あの人達に何かあるくらいなら、この世界なんてとう(・・)に終わってるわよ?」


「それは、そうだな。

 うむ、それでは、あの方々の元気なご様子を見に行こうかっ」



帝都より、商人の父と娘が旅立った。



あの懐かしい、帝国東北部<翡翠領>(グリンストン)へ。

『現世の地獄』の入り口へと通じる<ラピス山地>へ。

そして『世界終末の先兵』より現世を守る、最強の魔剣士一門の元へと。



!作者注釈!



あんなのを娘婿(むすめむこ)にするなんて、考え直した方がいいと思います。


2022/12/29 燕返つばめがえし → 乙鳥返つばめがえし に変更



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