01 :か弱い男の娘(絶望)
俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)
―― 異世界転生したら、か弱く可憐な男ノ娘ッ(☆ミ)
つまり、キモオタ中年男が生まれ変わって大変身。
―― 見よこの、男子とは思えない『可憐可愛いで小柄な華奢体格』!
―― いやぁ~ん! 幕張で女装したら、カメラ小僧に囲まれちゃうぅ~~!?
(※ 注意:価値観が平成で止まってます)
(── ちがう、そうじゃない……っ!)
思わず、奥歯がギリ……ッと鳴る。
窓ガラスに映る『今世の自分』に、怒りと不満。
俺の前世は、格闘ゲーム愛好家。
理想は、もちろん主人公キャラか準主人公みたいな『細マッチョな高身長イケメン』!
現実は、全くかけ離れた『ナヨナヨ貧弱チビ』……。
見た目通り、『か弱く(笑)可憐(呆)』な男子なワケだ。
さらに魔法アリアリ異世界なのに、魔力までザコなんだ。
まだ前世ニッポンの頃の方がマシまであるわ、この今世の身体。
つまり、物理も魔法も貧弱なチビ男子に転生した俺。
ヤベー魔物いっぱいな致命的な異世界だから、頭を抱えちゃう。
(―― おぉい、どういう事だよ!?
異世界転生したら神様的な人から違法改造能力もらえて、最初から無敵サイキョー無双ぬるゲー状態で、可憐乙女モッテモテのキャッキャウフフって話はどこいった!?
アレ『ワンクリック詐欺』みたいな悪質ハッカーの罠広告かよぉ!!!)
思わずそんな愚痴すら、ノドから飛び出そうになる。
「―― おい、ロックよ。
いい加減に事情を説明せんか」
「……んぁ?」
ちょっと現実逃避してたので、何か変な声がでた。
前を見上げると、白髪ジジイの呆れ顔。
「『ん?』では、ないわ……
まったく、こやつは……ハァ」
「………………」
「むくれてないで、少しは反省せぬか、ロックよ……」
「反省? え、なんで?」
「ハァ……ッ まったく、困った奴よ……っ」
「…………」
腕組んで見下ろしてくるジジイと、座って見上げている俺。
つまり、お説教されている俺。
しかも、石畳の上に正座中。
さっきから、めっちゃ足痛い。
(これ、さすがに『児童虐待』だろ……?)
前世ニッポンなら、ソッコーで訴えられてるぜ。
ここ近年は体育会系の部活でも体罰禁止らしいし。
(―― 良かったなぁジジイ!
ここが中世並みに倫理観と道徳がガバガバの、クソ異世界で!!)
そんな不満が顔に出たんだろう。きっと。
仁王立ちのジジイが、諦めた顔で『フン』と鼻息ひとつ。
ちなみに見た目は、白髪で長身な、剣の達人ジジイだ。
「まあ、お主が暴走する原因など、ひとつしか無いか。
で、『あの子』に何があった……?」
「── だってジジイお前!
アゼリアのピンチだぞ!!」
俺は、目を吊り上げて反論。
しかし、目の前の白髪ジジイは肩をすくめるだけ。
「ハァ……、やはりそれか。
この『魔剣士道場』を壊滅させた理由は……っ」
―― 【悲報】俺氏、絶世の美少女さんをクズどもから守護ったら超怒られてしまう【むしろ善行】
▲ ▽ ▲ ▽
ジジイは『フッハァ~~~!!』というクソデカため息。
「―― まぁ……、死人が出なかっただけ、不幸中の幸いか」
ジジイが、この『道場』の中でくたばってるザコ連中を見て、また『ハァッ!』ってため息。
あえてこっちを見ないジジイから
『ワシ激怒だから反省せえよ?』
という、無言の『圧』をバシバシ感じる。
「………………」
(そういう、さ。
ミスを責める空気って良くないと思うんだよね。
失敗って人間みんなする物なんだからさ、それを怒るより、次に起きない対策を考える方が建設的っていうの?
―― あ、これ、前世ニッポンで社会人経験ある俺からの“助言”ね?)
そんな事を考えてると、ジジイが振り返ってくる。
怒っているというより、あきれ果てたとか、疲れたとか、そういう感じのジト目だ。
「── それで、ロック。
お主は、妹弟子がナンパされるたび、『魔剣士道場』を潰してまわる気か?」
「誰がナンパくらいで、『道場やぶり』するかよっ」
「しかし、アゼリアは『ナンパがケンカの発端』と言っておったし……」
「ち・が・う・わ・いっ
ジジイ、俺はなぁ ──」
俺とジジイが言い争っていると、少年の声が割り込んできた。
「── あ、あの……っ」
この赤毛少年は、恵体(恵まれた体)ってヤツ。
俺より一つ年上の16歳で、すでに体格が青年並だ。
この世界というか、この国というか、転生先は高身長ムキムキ男ばっかり。
おかげで、俺がいよいよチビで華奢に見られて、ナメられてしまう。
「お、俺が! 俺なんかが!
お弟子さんと決闘なんて、大それた事をしたせいで……っ
―― 申し訳ありませんでしたっ」
赤毛のヤツ、スライディング土下座だ。
「俺、責任とって、道場をやめます!
ですから、どうかお許しを!」
赤毛少年が、涙ながら何度もペコペコ頭を下げる。
俺は、そのゴツい肩をつかんで止める。
「お前が、頭下げる必要なんて、ないだろうが!
問題は、お前じゃないっ」
「そうじゃのぉ。
問題は、全部ロック、お主じゃし」
「ちがうわ!
混ぜっ返すな、ジジイ!
── 問題の、トラブルの原因! 全部あの2人だからなっ!」
俺は、赤毛少年の先輩であるアホ2人を指差す。
道場の入口そばでくたばってる、悪党2人組だ。
「では、ロックよ……。
なぜ、その2人を倒して『手打ち』にしなかったんじゃ?」
「── はあぁ~~! 何いってんだジジイっ!?
男と男の決闘に、イチャモン付けてくる!
チビ・貧弱・落ちこぼれの俺に、多勢に無勢でかかってくる!
そんなヒキョー者だぞ、アイツら!」
「……貧弱……落ちこぼれ……。
ロックお主、自分の事を、そのように思っていたのか……?」
ジジイが、何か遠い目をしてる。
俺は構わず、事情説明を続ける。
「コイツら、次はもっと汚ねえ策を使ってくるだろ!
『か弱い女の子を人質』にしたり!
── うわあぁ……っ!?
ア、アゼリアがさらわれちゃったら、どうすんだよジジイ?!」
「あの、アゼリアが……さら、われる?」
俺がこうも熱心に訴えてるのに、ジジイは反応イマイチ。
「アゼリアは、なぁ!
か弱い女の子で、可憐なお嬢様なんだぞ!
もしも! クズでゲスな悪党に押さえ込まれて『ゲッヘッヘッ』とか ――
―― ……ぅぅわぁァッ!?!?」
「……か弱い?
押さえ込む……、あの特級のジャジャ馬娘を?
―― そんなマネができるのは、お主くらいじゃろうが……」
何かよく解らん反論をしてくる。
まったく何考えてんだ、このジジイ……っ
妹弟子・アゼリアは『才能のない俺に負ける』くらい、か弱い女の子だぞ!
(── いや、違うよ?
ウチの妹弟子に、『魔剣士の才能』がないワケじゃないんだ!)
むしろ、トップクラスの天才だと思うよ!
きっと伝説とかなっちゃう超・天才児!
ただ、あの子は、心の優しさがアダになっちゃうタイプ。
心が天使だから!(身内のひいき目)
きっと、怒りMAXか、闇堕ちか、そういう暴走状態しか本気の全力100%が発揮できないんだろう。
(……ウチの妹弟子、対人戦とかマジ苦手だからな。
剣の達人なジジイはともかく、『ナマクラ剣士な兄弟子(俺!)』にも勝てないとか……)
お兄ちゃん、色々心配です。
── だからこそ!
── そんな子だからこそ!
── 魔力も才能もない俺が、カラダを張って血まみれになってでも!
「女の子はぁ! 男が守ってあげんと! いかんでしょう!?」
俺の血を吐くような絶叫。
「…………ハァ……」
だがジジイは、いよいよ白い目。
『もう、めんどくせえなコイツ』という表情だ。
「……あの子とて、人並み以上にしっかり鍛えておる。
降りかかる火の粉くらい、己で振り払えるじゃろ……」
「ジジイが、そんな放任主義すぎるからだろ!
だから俺がこんなに、妹ちゃんの心配しないといけないんじゃねえか!?
ジジイ、テメー、俺を育成途中で放り出してアゼリアを弟子にしたクセに、色々無責任だろが!?」
「………………そうか。
まあ、お主がそうまで言うなら、本人にも訊いてみよう。
── これリア、こちらに来なさい」
ジジイは、遠くへと呼びかける。
▲ ▽ ▲ ▽
「なんですの、お師匠さま?」
道場入り口のベンチから立ち上がる、銀髪美少女さん。
―― あら、どこの高貴なご令嬢様かな?
―― もしや、どこかの国のお姫様かな?
なんて気品あふれる美少女っぷり!
小動物のようにポリポリとクッキーを召し上がっていたお姿も、口の周りについたクッキーの欠片までもが、チャーミング!
これが俺の妹弟子、アゼリア=ミラー(15歳) ──
── 愛称リアちゃん(今日も可憐カワイイ)な訳だ。
「今の話、聞いておったか?
お主はどう思う?」
「うーん……リアは、そうですわね ──」
銀髪美少女・リアちゃんは、碧眼をちょっと細めた。
(うんっ、うんっ! そうだよねリアちゃん?)
可憐で心優しく繊細な、花もさかりの15歳。
ゲス野郎に純潔を狙われる(!?)なんて、乙女のピュアなハートが傷ついちゃうよね?
「── リアも!
お兄様といっしょに、『道場破り』をしたかったのですわ!」
妹弟子の、天真爛漫の笑顔。
「お兄さま直伝の『超必殺アルティメット奥義』で、ズバズバですわ!
ついでに、お師匠さまの『五行剣』で、ザクザクですわ!
気持ちよい汗をかくと、夕食のデザートがいっそう美味しいですのよぉっ!
わたくし、3日も修行がお休みで腕がなまりそうですわ!
試し斬りの相手が欲しいですの!」
銀髪お嬢様のニコニコ笑顔から、クソ物騒なセリフが吐き出される。
「……リアや」
「……リアちゃん」
それを見て、師匠であるジジイの心と、兄弟子である俺の心が一つになった。
まさに以心伝心、声も重なる。
── 『そっちの的を借りて、気が済むまで打ち込み練習してなさいっ』
俺とジジイが指さしたのは、魔剣士道場の端にある『人型標的』。
丸太木に鉄兜と胴鎧をつけた、剣術の練習設備だ。
「わかりました!
思いっ切りブンブンですの!
── とりゃー!」
ガン!ゴン!ガン!ゴン!と、妹弟子が木剣で工事現場みたいな音を鳴らす。
だいぶん体力が有り余っていたみたいだ。
それを見て道場の主 ―― 初老魔剣士が、苦笑い。
「―― さ、さすが。
『剣帝』 さまの、お弟子さま方ですね……ハハハ」
「あの、お師匠さま。
俺は、いったいどうしたら……」
赤毛の年上少年は、道場主の袖をソッと引き、なかば涙目。
(元々コイツがからんできたのが原因だし、自業自得よなぁ……)
赤毛少年の凹みっぷりを見ていると、俺もニンマリと口元が緩む。
── まあドンマイ、気にすんなよ!
『粗相して勤務先が吹っ飛びそう』とか、そういう案件って誰にでもあるさッ☆
(俺も前世ニッポンのサラリーマン生活で、ガチ土下座な案件とか2~3回あったしなぁ……っ(経験者の温かな眼差し))
いわゆる『類友』な友情の絆を感じて、心がホンワカ。
―― そんな懐かしい気分のせいか。
俺は、なんとなく過去の記憶にひたり始めた。
!作者注釈!
この作品にはオマージュ要素が含まれています
2023/01/21 タイトルと内容を少し変えました
2024/07/03 解りづらい部分を修正しました
2025/01/14 長くて冗長な部分削りました
2025/03/08 長くて冗長な部分削りました
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