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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

俺を追放した理由、知ってんだかんなぁ!?

作者: 零の深夜
掲載日:2021/07/14


「ミッド。君にはこのパーティーから抜けてもらう」


 俺こと、ミッド・ハーミルは辺境の町バニシュの一角にある宿屋の一室で、Sランク冒険者パーティー“レジストマリス”の面々に囲まれながら、そこを追放されようとしていた。


「そんな!今まで貢献してきたのに一体どうして!?」


 俺を追放すると金髪をかき上げながら宣った剣聖、レオス・アルビオンに、俺は食ってかかった。


「そ、それはだな⋯⋯そうそう、お前は直接戦闘に関わっていなかったな!」


 演技下手くそかよ。

 そうそうじゃねえだろ。


 俺は内心そう思いながらも、この茶番に乗っかってやるつもりである。


「そ、それは⋯⋯戦闘中に応援とか呼ばれたら厄介だと思って⋯⋯」


 俺が言い淀むふりをしていると、別の方向から声がかかった。


「あら、他にも理由はあるわよ?」


 口を開いたのは賢者のルーシャ・サルフォンである。彼女はその長い銀髪を少し振り、頭のとんがり帽子を少し目深に被ると、続けた。


「貴方のジョブにも問題はあるのよ。貴方、ジョブは?」


「隠者⋯⋯だけど⋯⋯」


「ほら見なさい。ウチのパーティーは剣聖、賢者、守護者、聖女の面々が揃っているのよ?それが貴方ときたら、隠者なんて、アハハ⋯⋯笑わせないで!」


 ルーシャは目を細めて笑ったかと思うと、カッと目を開いてまるで(オーガ)のような表情、強い口調でそう言った。


 ルーシャはかなり演技派じゃないか?これ本当は本気じゃないか?と言うくらいの形相で、俺は少し唖然としていた。


「ま、そういうわけだ。これは俺たちの総意だからな。まあ諦めてくれや」


 俺の肩をポンポンと優しく、けれども力強く叩くのは、このパーティー最年長の守護者、ガレス・ウィンだ。彼にはよく相談にも乗ってもらったし、その重厚な鎧の如き態度も相まって、彼のことはこのパーティーの中では一番信頼しているかもしれない。


 今更追放と言っても俺が不自然に思うだろうと最後まで黙っているつもりだったのだろう。


 ここに来て口を開いたのは、やはり彼なりの優しさなのだろう。


「ガレスがそう言うなら⋯⋯」


「本当か!?いやー、助かるぜ!」


 本当は後腐れなく出て行こうとしたが、嬉々としてガレスがそう言うのを聞いて、つい叫ぶ。


「今までお前らはそう思ってたんだな!よく分かったよ!」


 部屋の扉を勢いよくバンと閉めると、俺は宿から飛び出した。


「あっ、ミッドさん!」


 扉の先で会ったのは、買い出しから帰ってきた聖女、フォルナ・ハワードだ。


「じゃあな」


 一言、すれ違い様にそう言うと、彼女の長い金髪を靡かせ、俺は小走りで宿を出る。


 部屋からは「ガレス!気ぃ効かなすぎ〜」なんて声が聞こえたが、聞こえないフリで外へ出た。



ーーーーーーーーーーーーー


 宿を出た先、少し歩いた所で俺はふぅとため息を溢した。


「はぁ⋯⋯円満に出るつもりだったのに⋯⋯」


 思い返されるのは先程のやりとり。彼らも追放には本気ではない事は分かっていた。しかし、「助かるぜ」は無いだろう。仮にも追放する側だぞ!?


 なんか思い出したら苛々して来た⋯⋯。


 まあいい。大人になりきれなかった俺にも非はあるだろう。


「それにしても、追放かぁ。もうちょっとなんか無かったんかなぁ?切羽詰まってるのは分かるけどさぁ」

 

 そう。再度述べる事になってしまうが、あの時、あの場所で、俺は追放される事を“知っていた”のだ。


 それは、一週間前の夜の事だった。


 あの日、なんだかレオス達の様子がおかしいと違和感は感じていたのだが、俺以外のメンバーでコソコソと密談をしている時点でその違和感は確信へと変わったため、部屋の窓にへばり付いて、どんな会話がされるか聞いてやったわけよ。


 いやまあ、わけよって言うのもおかしいんだけどさ。盗聴してるわけだし。


 密談の内容を要約すると、世界中に蔓延る魔物の発生源を見つけたという、眉唾ものの情報だった。


 罠の可能性もあるし、情報が本当だとしたら誰かが情報を持ち帰らなくてはならないとのことで、レジストマリスから冒険者ギルドに情報を開示できるように、荷物の中に情報を持たされているらしい。


 鞄を漁ってみると、鍵が出て来た。多分、隣町のギルドに情報の書かれた書類を預けてあるんだろう。知ってるから要らんけど。


 それで、戦闘能力の低いくせに頑固な俺はどうせ付いてきたがるだろうから、追放したことにしようって話らしい。


 その、なんていうかまあ、会議の最後で出てたんだけどさ⋯⋯そういう“役割”抜きにしても俺には生き残ってて欲しいんだとさ。

 

「なんだよそれ⋯⋯」


 そんなふうに言われたらさぁ⋯⋯


「助けるしかないだろ」


ーーーーーーーーーーーーー


 それからは案外大変だった。


 まず、物資の補給係がいなくなってしまったため、買い出しはフォルナが担当することになった。


 というのも、彼女はよく俺にくっついて買い出しに付き合っていたため、何を買えばいいか把握しているからだ。


 と、そうは問屋が卸してはくれなかった。


 いざ自分だけでいきなり商人と交渉をと言われても、難しいだろう。見ているのと実際にやってみるのは難易度が全然違うのだ。


 更に辺境の地という事もあって、ポーションの類はなんと相場五倍もふっかけられていた。


 その時は流石に見ていられなくて、アワアワしているフォルナに変装をして助け舟を出してやったが。

 

 他にも、索敵が働かず、魔物の発生源のあるらしき森を進んでいるときに魔物に囲まれていた時には、魔物を惹きつける香料を振りかけた人形(デコイ)を使って援軍が向かわないように誘導した。


 キャンプで武器の整備がままならないから皆が寝付いた時に、見張りのガレスに“眠り草”という植物を粉末状にした眠りの粉を風魔法に乗せて眠らせてやった。いやまあ、やったっていうか普通に犯罪なんだけどさ⋯⋯。


 で、寝てる間に武器研いだり盾の補修したり、魔法杖の先端の魔石の調整したり、見張りしたり、寝てる奴らにポーションとか魔力回復薬を飲ませて全回復させたりした。誰かが起きそうになったら眠りの粉振りかけてまた眠らせた。


 俺働きすぎじゃね?


 そうこうしているうちに、あっという間に夜が明けてしまい、俺は一睡もすることができなかった。


 まあ、しょうがないか。皆を眠らせちゃったの俺だし、責任は取るよ。

 ガレスが起きた時に皆に土下座までしてるのがなんか申し訳ないと思った。少しだけね。


 俺徹夜なのにアイツだけしっかり眠れたのかスッキリした顔してたし。


 そんなこんなで森を抜けたらなんと材質不明の黒々としたデカい扉が全開になっていた。


 しかもあろうことかその扉から魔物が出るわ出るわ。それはもうわんさかと。


 その出てくる様を観察していて初動が遅れたためだろう。レジストマリスは、斥候なんて要らないくらいの大量の魔物にわさわさと囲まれた。


「なぁ、やっぱりミッド連れてこなくて正解だったよなぁ!?」


 ガレスが背中合わせに立っているレオスに問いかけると、レオスは一つ頷いた。


「そうだね。彼が生還してくれるだけでこの場所の調査は行われるだろうからね。今頃はもうギルドに到着している頃かな?」


「あぁ、バニシュの町に冒険者ギルドは無いしなぁ⋯⋯それで、どうするよこの状況?ただ死んでやるわけじゃねえんだろ?」

 

「もちろんさ。ここで包囲網を正面から打ち破ってあの門まで辿り着き、ボクとガレスで扉を閉める!そして残った奴らを殲滅すればボク達の勝ちだ!」


「簡単に言うわねぇ〜。ま、嫌いじゃないんだけど!」


「あうう、自信ないですけど、やれるだけ、やってみます!」


 おお、なんか俺居なくても気合い十分って感じだな。


 って言っても元々戦闘にはあんまり関わって来なかったのは事実だし、隠者の俺の存在はあんまり関係ないか⋯⋯悲しいなぁ。


 そんなことを思いつつ、俺はレオス達から少し離れた場所から魔物の観察をしている。


 流石に魔物の発生源と言うだけあって、この場にいる魔物は最低でもAランク相当の粒揃いだ。


 ミノタウロスにキングトロール、ドレッドオーガや変わり種だとグラトニースライムなんてのもいる。しかも、それぞれ数体どころではない。軽く二桁は居るだろう。


 更に、空を見上げてみると、雲一つない晴れ渡った空のど真ん中に黒い影がチラチラと蠢いていた。


 それらは、だんだんと大きくなり、こちらへと近づいてくるではないか。


「ドラゴン!」


 叫んだのはガレスかレオスか、はたまた俺がうっかり声を出してしまったのか。兎に角誰かの声で上へと意識が向けられると、黒い影が視認できるほどの近さにやって来ていた。


 赤い鱗や青い鱗、黄色い鱗に黒い鱗。さまざまな体色を持つ空飛ぶトカゲは、その筋肉質でずっしりとした四肢を見せつけるように優雅に飛び回り、口には炎や水、雷や、黒いエネルギーを蓄えている。


 圧倒的なプレッシャーと、そのオーラは見れば分かる。伝説にも語られる絶対強者、ドラゴンで間違い無い。


「あれ、結構ピンチっぽい?」


 いや、よくよく見てみると上のドラゴンは無視することに決めたようだ。


 確かに、ドラゴン達は未だに飛び回っているだけだし、案外正面突破の作戦は悪くないのかもしれない。


 というか、アイツら死ぬ気みたいな事言ってたしな。


「おいおい!ドラゴン達が!」


 空を飛び回っていたトカゲ共が、一斉に口を開いて、先程まで溜めに溜めていた力を解放した。


「“カウンターバリアー”!!」


 美しいソプラノボイスが響くと、レオス達とドラゴンの間の空間に、歪みが現れた。それがドラゴン達のブレスを吸い込んで、光属性の魔力へと変換、更にデカい光線として撃ち返す。


 この一撃で、空を飛んでいたドラゴンの大半は消し炭となってしまった。


 フォルナの魔法だ。名前の通り、この結界は魔力による攻撃を全て吸収して何倍もの威力にして跳ね返すというズル魔法である。


 とはいえ、消耗が大きいうえ、物理攻撃に弱く、ドラゴンの尻尾の振り下ろしで簡単に壊されてしまう。


「ご、ごめんなさい!私はここまでみたいです⋯⋯」


 ドラゴンのブレスにも耐えうるどころか反射をしてしまう結界を作り出したのだ。動けなくなるのも無理はない。


 フォルナはその場でペタンと座り込んでしまった。


「そんな!フォルナ!」


 ガレスの伸ばそうとした手を引き、レオスは唾を飛ばしながら叫んだ。


「振り返るな!ボク達の手に人類の命運がかかっているんだぞ!」


「くそっ!さっさと終わらせてフォルナを回収するぞ!」


 そう叫んでいるうちに、魔物の大群に呑まれ、あっという間にフォルナの姿は見えなくなってしまった。


「じゃ、今度はアタシが血路って奴を切り開く番ねー」


「何をする気だルーシャ!?」


 ルーシャは侵攻する二人の少し後ろで立ち止まると、詠唱を開始する。


 すると彼女の足元には薄紫色に輝く巨大な魔法陣が描かれ、それはやがて彼女の真正面に向けられる。


全属性砲門解門(フルバースト)

 

 魔法陣から出るのは煌びやかな無数の魔法だった。


 炎、風、水、土、氷、雷、光、闇と言った様々な魔法が飛んでいく様は、魔法というより、最早一つの芸術とも呼ぶべき光景だった。


 切り取ることが可能であるならば、この光景はどの名画よりも素晴らしい物として扱われるだろう。そう思わざるを得ないほどに美しいのだ。


 しかし、その美しさとは裏腹に、正面を塞ぐ魔物達はその圧倒的なまでの魔力量を受けて散り散りになった。


「はぁ、はぁ!行きなさい!!振り返るなバカどもぉぉ!!」


 顔を蒼白様子で叫び声と、彼女の倒れる音を背後に聞きながら、ルーシャの魔法によって開けた道を二人は決して振り返ることなく進み続けた。


「「うぉぉおおお!!」」

 

 レオスとガレスの二人は剣を構えて目の前に立ち塞がる魔物をばったばったと薙ぎ倒していく。相手からの攻撃は最小限の動きで避けつつ自身から攻撃を繰り出す時には最大限の攻撃を放つ事で、AランクやSランク相当の魔物すら一撃で屠っていた。


 そうして辿り着いた門の前で、レオスは向かって右端に、ガレスは向かって左端に立つと、黒いの扉を掴み、レオスとガレスはお互いの方向へ向かって扉を押し始める。


 「「せぇぇぇぇのおおおおお!!!」」


 ガレスは守護者として今までさまざまな攻撃を最前線で受け止めて来たその筋肉を惜しげもなく発揮している。


 レオスはというと、これまで様々な魔物を葬って来た中には、ゴーレム種のような、力技で対応しなくてはならない相手もいた。


 何が言いたいかと言うと、レオスは剣聖でありながら、剣の技や腕だけが全てでは無いのだ。


 魔力による自己強化と、鍛え上げて来た上腕二頭筋に血管を浮かび上がらせ、いつも飄々としているその顔も、今ばかりはくしゃくしゃに歪めている。


 そんな二人の努力もあって、徐々に黒い扉はズズズと重い音を立てて閉まりはじめた。


 「いける!いけるぞおおおお!!!」


 後続の魔物達にも、先程のルーシャの魔法が直撃していた為、その足並みは未だ整わず、追いついてくるまでにはまだ少し時間が掛かるだろう。


 その間に少しでも扉を閉める!完全に閉め切るのだ!そんな思いが彼らの表情から見てとれた。


 やがて、その思いに応えるようにして扉はあと少しで閉まり切るという所まで動いた。


「はぁい。そこまでデスヨ〜」


 そこまで来て、邪魔をするものが現れてしまった。扉の隙間に剣が差し込まれてしまい、つっかえになってしまったのだ。


 声の主はまるで道化師のような奇抜な格好をした男だった。


「構わねえ!剣ぶっ壊してこの扉閉めんぞ!!」


 ガレスが大声で叫んで更に力を込める。


「あっはは、無駄無駄ぁ〜この剣は簡単には壊れませんヨ〜!」


 更に、道化師の男は両手を広げると、その手に魔力が集まり、やがてバチバチと音を立てて青白い閃光が宿った。雷の魔法で彼らを仕留めるつもりだろう。


「ここまで、か⋯⋯」

「後一歩だったんだが⋯⋯」


 諦めムードに入っているレオスとガレスに俺は思いっきり息を吸い込んで叫び散らした。


「諦めんじゃねえええええええええ!このバカチンどもがあああああ!」


「ミッド!?」


「今頃ギルドにいるはずじゃあ⋯⋯」


「話は後だ!」


 蚊帳の外に居た道化師の男は目を見開きながらも、今度は俺に向かって雷の球を放とうとしていた。


「ハッハぁ〜今までどこに隠れ潜んでいたかは知りませんが、ノコノコと姿を現すなんて、おバカさんですネぇ〜」


「ノコノコと?姿を現した?逆だよ。()()()()()()()()()()()()


 嘲るような道化師の態度に意趣返しの如く俺も馬鹿にするような顔をしてやる。


 次の瞬間、道化師の首が飛んだ。


「ば、馬鹿ナァァァァァァ!?」


 死体を見てて状況が良くなるわけもなし、奴から視線を切って、俺は大きな扉を見据えた。


「丁度いい!お前らジッとしとけよぉぉぉおおおオラァ!!」


 予期せぬ俺の登場に力が緩んでいたのだろう。扉の隙間のつっかえになっていた剣を渾身の飛び蹴りで蹴り付けてやると、すんなりと剣は向こう側へと吸い込まれるように消えてしまった。


「今だ!本気で扉閉めろぉおおおお!」


 レオスもガレスも、ハッとした様子で我にかえると、腕の筋肉を盛り上げて扉を閉める。


 少しすると、ギイイインという耳障りな音を立てて扉は完全に閉まった。


「驚いたよミッド⋯⋯まさか君が⋯⋯」


「レオス!話は後だ!後続の魔物共が追いついて来やがった。この窮地を切り抜けるぞ!今度は全員で⋯⋯な?」


「しかし、ルーシャとフォルナが⋯⋯」


 渋い顔をするレオスに、ガサガサと藪をかき分けてきた()()()が声を返した。


「呼んだかしらぁ?」


「ご心配おかけしました!」


「二人とも!無事だったのか!」


 俺はフォルナもルーシャも、魔物の群れに呑まれる寸前で救出し、安全圏へ避難した後回復薬を飲ませて完全回復させたのだった。


「これで問題ないだろう!さぁ全員揃って帰還するぞ!」


 応!と全員の声が揃った。


「あ、フォルナ。一応扉を封印しておいてもらえるか?二度と開かなくなるような強力なヤツで!」


 俺の提案に、フォルナはビシッと敬礼して返してくる。うん。良い子だ。


「分かりました!」


「あ、じゃあアタシはこの物騒なの土に埋めちゃうわね〜」


 二人が詠唱している間、俺たちは完全に無防備な彼女達の守備に徹さなくてはならない。


「さーて。んじゃまあサクっとやりますかぁ!」


 俺がペロリと唇を舐めると、レオスが肩を掴んできた。


「待ってくれミッド!君は直接戦闘は⋯⋯」


「あれ?あぁ、あんまりこういうこと言いたくないんだけどな、俺が野営中の見張りしてる時にお前らの事()()()()()あったか?」


 そう言われてレオスは逡巡した後に、目を見開いた。


「まさか君は⋯⋯」


「意外とやれるかもよ?まあ、強さの指標なんて無いし、そこで見ててくれよ」


 レオスの手をそっと払うと、俺は懐から短剣を取り出して構えた。


「“斬殺血界”!そっから先は、俺の間合いだ!」


 狼型の魔物が一歩を踏み出した瞬間、その首が飛び、横に並んだ同種の魔物達も次々に首を刎ねていく。


「すごい⋯⋯」


 俺を中心とした半径五百メートルほどの円形状に血溜まりができると、魔物達の動きはピタリと止まった。なかなか賢いようだ。


「な?」


 両手に血塗れのの短剣を構えてレオスを見やると、呆然と立ち尽くしていた。


「ボクは、自分で思っている以上に人を見る目があったみたいだ」


「ここに来てそんなこと言う!?ったく、素直に褒めてくれよ⋯⋯」


 このナルシストめ!


 決死の突進や遠距離からの魔法、毒粘液なんかも斬り伏せているうちに、背中の二人の詠唱が終わったようだ。


「“エターナルシール”!」

「“人界追放”!」


 フォルナが杖を振ると、その先端からジャラジャラと音を立てて鎖が飛び出し、扉を雁字搦めにした。更にその上から光の輪っかが飛び出してぐるぐる巻きにする。


 ルーシャも後に続くように杖を振るうと、扉の真下に魔法陣が現れ、地面が沼のようにぬかるむと、ズブズブと沈み込み、その姿はやがて完全に消失した。


「結構派手にやったなぁ!」


「えっと、ダメ⋯⋯でしたか?」


 ふるふると上目遣いでこちらを見るフォルナに、俺は首を横に振って答える。


「うんにゃ、魔物の発生源なんていうスケールのデカい話だ。あれでももしかしたら足りないくらいかもしれない」


 俺は懐から魔力回復薬を二人に渡して飲むように促すと、彼女達はグビグビと旨そうにそれを飲み切った。


 それを確認して、背中に刺さる視線の数々に振り返り、改めて短剣を構え直す。


「そんじゃあまあ、切り抜けるか!」


 そこからの勢いは凄まじかった。


 ガレスが叫びながら敵の注目を集め、大盾で敵の攻撃を防ぎ、レオスが敵のど真ん中を走り抜けると、ブロック肉にされた魔物の死骸が大量に転がった。


 ルーシャは強力な魔法を撃ちまくり広範囲の敵を消し炭に変えて、フォルナは傷ついた仲間への回復と攻撃力増強等の補助に徹しながらもこの帰路に食らい付いている。


 俺は俺でデコイを使って魔法を撃ちやすい場所に敵を誘導したり、フォルナは近づく魔物を斬り伏せたり、ガレスのカバーしきれない魔物を斬ったりと大忙しだ。



「最初から一緒に戦ってくれればよかったのによお」


 そうガレスが漏らしたのは魔物の群れを振り切り、森を抜けて、辺境の街 バニシュへと続く街道を歩いている時だった。


「おかげで魔物の乱入とか今まで無かっただろ?」


 ニシシと笑って見せると、ガレスと雰囲気が和んだのか、ニッと笑いかけてくる。


 あぁ、いつもの感じに戻れてよかったと俺が胸を撫で下ろしたその矢先、俯いていたレオスが肩を震わせていることに気がついた。


「どしたん?」


「ミッドは怒っていない⋯⋯のか?勝手に追放なんて言い出した事に⋯⋯できればその⋯⋯パーティーに帰ってきてもらいたいんだが⋯⋯」


 ああ、まあ、気にするなとは言えないよな。


 俺も啖呵切っちゃったわけだし。いや、アレはガレスが悪いだろ!

 まあ、長い付き合いだし、そういう奴だって知ってるから別に怒ってないけど。


「俺は元々抜けるなんて一言も言ってないぞ。受け入れてくれるなら、俺はまだこのパーティーでやっていきたいと思ってる。幸い、ギルドに離脱の申請出してないからな」


「もちろんさ!これからもよろしく!」


 レオスの手をガッチリと掴み、握手すると、レオスがブンブンと腕を振ってきた。地味に痛かったので、強めに握り返した。


「でもな、俺は怒ってるんだぞ?本当は街に帰ってから言おうと思ってたんだけどな、お前らに二つ。言いたいことがある」


 魔物の気配もないし、人目もないしここが丁度いいだろう。


「分かった。聞こう」


 ただならぬ気配を察してか、先頭のレオスがピタリと足を止めると、それに倣って横のガレス、フォルナ、ルーシャも足を止めて殿を務めている俺の方に向き直った。


「一つ目はな、こんな事があるなら相談をしてくれって事だ。お前達が俺に生きててもらいたいと思っている以上に、俺はお前達に生きていてもらいたい!ハナから諦めんのはナシな。俺はお前達と一蓮托生でありたいと思ってる」


「ミッド⋯⋯」


 誰の声だったのかは分からないが、全員、神妙な面持ちで頷いてくれた。


「まあ、戦闘に介入しないで遊撃ばっかやってた方も悪いっちゃ悪いからな。けど、相談も無しに勝手に死のうとしたのは許せねえ」


 俺はそう言ってすっとレオスに近づくと、その額をピンと指で弾いた。


「痛っ!」


 次はガレス。


「いてぇっ!」


「少しは残される側の人間の気持ちも考えてくれよ」


次はフォルナに向き直る。


「フォルナは後で俺と一緒に交渉術の修行だからな」


「え、なんでそれ知って⋯⋯」


 見てたからね。あんまりほじくり返されると面倒なので、ルーシャに向き直る。


「何よ。叩きたいならさっさとやればいいじゃない」


 言わなきゃダメだよな⋯⋯やっぱ。後でわかって怒られる方が怖い。


「いや、ルーシャにはもうお仕置きというか⋯⋯俺的にはご褒美貰っちゃったんだけど⋯⋯」


「はぁ?」


「いやさ、さっきルーシャは気絶してたわけじゃん?自分の生命力まで魔力に変換した大技を使ってさ⋯⋯」


「まあそうね。アタシの中だけの魔力じゃ足りなかったもの」


「それでさ、口の中にポーションとか流し込んだ訳だよ。うん」


「それで回復したのよね?アタシいまピンピンしてる訳だし」


「いや、それがさ、肺に入ったのか分からないけど、むせて全部吐き出しちゃってさ⋯⋯」


「それで、無理矢理飲ませた⋯⋯ご褒美ってあんたまさか⋯⋯!」


 段々と話を理解するにつれ、ルーシャの顔がカアッと赤く染まる。


「すみません!口移しで飲ませてしまいました!」


 俺は腰を深く曲げて、誠心誠意謝った。その頭の上に、肘鉄が飛んできて、自然と土下座の格好になる。


「信じらんない!初めてだったのに!」


「あー。やっちまったなミッド」


 ガレスがくつくつと笑っている。色んな意味で頭が痛い。


「けどあの状況だったらそうするしか⋯⋯」


「え?ふつう意識ない人間に回復薬飲ませるなら腹掻っ捌いて中身ぶっかけるよなぁ?」


「どこの普通だ!野蛮すぎないか!?理にかなってるとは思うけど⋯⋯」


 確かに、完全回復を即座にできるのなら、腹を開いて流し込むほうが手っ取り早そうだ。


「試してみようか」


「オイオイ!冗談だ!なに目ぇギラつかせてやがる!」


 レオスは腹を抱えて整った顔を崩し、ゲラゲラと笑っている。


「もういいわ!お腹切られるよりはマシだったし、今度アタシのお願い一つ叶えてもらうってことで勘弁してあげるわよ!」


 そう言って、ルーシャはズンズンと先へと進んで行ってしまう。


「ルーシャ、そっち反対方向⋯⋯」


「あぁん!?」


 彼女は身を翻して俺を睨め付けて近づいてくる。


 怖っ。何をされるかと身構えるが、俺の前を素通りすると、ズンズンと足を鳴らして進んで行ってしまう。


「ありゃあ、ご機嫌取り大変だぞ?」


 ガレスめ。他人事みたいに言いやがって。いや、完全に外野のつもりなんだろう。同じパーティーなのに。


「ヒィ⋯⋯ヒィ⋯⋯ゲホッ⋯⋯ミッド⋯⋯それで二つ目は?」


 コイツ⋯⋯笑いすぎて虫の息になってやがる⋯⋯。


 ああ、それはな⋯⋯と言って俺は息を吸い込み、高らかに言ってやった。


 「俺を追放した理由、知ってんだかんなぁ!?」


 よく晴れた空に、俺の声が響いた。

 お読みいただきありがとうございました。

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