1話 出会い
世界四大陸、北の大陸アルバレス。
アルバレスの一番南にあるマルベロズ村の港に船が到着した。
この船は観光用に作られたものでアルバレスの大陸を1年かけて周る船だが、それでも大陸中を歩きまわるよりもは何十倍以上に早い。
この船に乗り込んでいる客は代々40か50人ほど、その乗客の中には1人の少年がいた。
彼の名前はアジベル・デーグラ、世界で100分の1しかいない魔法使いの内の1人だ。
「到着した、マルベロズ村。ガルベルド王国の冒険者ギルドまでもう少しだ」
マルベロズ村からガルベルド王国までだいたい20キロ、半日森の中を歩き回れば到着するほどの距離だ。
「ここから俺の新しい人生が始まるんだ」
冒険者になり、どんな生活が待っているかワクワクしていたアジベル。
その背後から徐々に距離をつめてくるような不審な気配が近づいてくるのを感じた。
得体の知れない寒気に耐えきれず振り替える。
黒いフードを被って顔の見えない小柄な何者かが左右に体を揺らしながら近づいてきた。
「何者だお前は」
怪しい人物はアジベルの言葉に答えはせず、歩みを止める様子もない。
ただ近づいてきて両手を伸ばしアジベルの体に触れようとする。
「た、た・・す・・け・・て」
フードを被った不審人物は透き通るような綺麗な声質。だけど力の無い小さな声で、アジベルの目の前に倒れた。
「え、どうした。何があった?」
倒れるときフードが取れた。その顔は顔立ちの整った美しい少女だった。
何者かに襲われたのか、その様子はただ事ではなかった。
「怪我してるのか、病気が発生したのか。もしかして命を狙われて逃げているとかじゃ」
倒れた少女を起き上がらせようとした時、グゥ~とお腹から音がした。
「誰か食べ物を。3日間、何も食べてない」
お腹空いた。という様子に自分が有らぬ妄想をしていた恥ずかしさと、少女の倒れた理由に対して何とも言えないことに対して苦笑いをするアジベルだった。
数分後、港町のレストランで昼飯を食べようと店に入ったアジベル。
彼の目の前には、まるで野生の本能を剥き出しにしたかのようにテーブルの上に並ぶ食事をがっつく少女。
綺麗な顔からは想像もつかないような品の無い大食いをする。
10人分の食事を容易く平らげる食いっぷり。本当に三日間まともにご飯を食べていないようすだ。
「お腹が空きすぎで死ぬかと思った。本当にありがとう。貴方は命の恩人です」
「そんな大袈裟な。気にしなくていいよ、困ったら助け合うのが人間だからね」
笑顔で返事を返すアジベル。
だけど少女の格好を見て気になることがある。
それはフードを取った彼女の姿がとても貧乏人とは思えなかったからだ。
何故なら全身に泥や汚れが付いているのに、肌と髪は手入れをしているような艶がある。
しかも着ている服が商店で売っているような安物ではなく繊細に作られたワンピース。
今では傷や汚れによってあまり良いものには思えないが、原価だと庶民が買えるような服じゃない。
元はどこかの国のお嬢様。そんなふうに見えた。
「なあ、あんた。何があったんだ」
事情を聞こうとしたとき彼女は言葉を詰まらせた。