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002 チンピラとの遭遇

 俺は喧騒盛んな酒場を飛び出した。

 怒りを抱え、重い足取りで拠点にしている借家を目指す。


「どうして俺が追放されなきゃならないんだッ!」


 感情のままに俺は吐き捨てる。

 怒り、後悔、不満、恨み。

 いろいろな感情がごちゃまぜになって、俺の気持ちをかき乱す。

 次々と湧き上がってくる負の感情を押し殺しながら、俺は俯いたまま左右の足を交互に動かす。


 ――ドンッ。


 なにかにぶつかったかもしれないが、今の俺にそんなことを気にする余裕はなかった。

 気にせずに歩みを続ける。

 すると――。


「おい、ちょっと待て、コラッ!」


 いきなり肩を掴まれた。


「ア゛ッ?」


 振り向くと同時に、反射的に声が出た。

 いつもならこんな事はしないのだが、今の俺は自分でも抑えが効かなかった。


「なんだテメー、人にぶつかっといてその態度はッ。やっちまうぞ、コラッ」


 どうやら俺はガラの悪い酔っぱらいのチンピラに肩をぶつけたようだ。

 凄むチンピラは仲間の二人とともに、俺を取り囲むように距離を詰めてくる。


「シケたツラしてねえで、なんとか言えや。ビビって言葉も出てこねえのかぁ?」


 チンピラは舐め腐った態度で挑発してくる。

 人数と体格の優位で調子に乗ってるんだろう。

 チンピラどもは3人ともそれなりに良いガタイをしている。

 それに比べて、俺は後衛職の精霊術士だ。

 体格は一般人と変わりがない。


 だからと言って、こんなヤツらに舐められるとは……。

 どうせ、コイツらは冒険者崩れだろう。

 ダンジョン攻略に挫折し、逃げ出した腰抜けだ。

 現役冒険者特有の切れるような気配をまとっていない。

 俺はこんな三下に因縁をつけられたのか……。


 パーティーを追放された怒りとチンピラに対する怒りがごちゃまぜになって、俺の中でかつてないほどの怒りが燃え上がる。


「やれるもんなら、やってみろよッ!!」


 チンピラに向けて啖呵を切ると同時に、俺は周囲の火の精霊に呼びかけた。

 怒りのままに呼びかけた精霊達は、俺の身体にまとわりつくように集まり、巨大な火焔を噴き上げる。

 赤くうねる巨大な火の精霊の塊は、俺が見たことがないほど巨大なものだった。


 しかし、これはチンピラどもには見えない。

 精霊が見えるのは精霊魔法の使い手か、極めて稀な【精霊視】のスキルを持った人間だけだ。

 普通の人間には触ることはおろか、見ることすら出来ないのだ。

 これこそが精霊魔法が正当に評価されづらい理由であり、俺がパーティーを追放された理由でもある。


「じゃあ、お望み通りやってやらあ」


 いきり立ったチンピラが俺に殴り掛かってくる。

 その大振りのパンチが俺に届く直前、俺は低い声で精霊に命ずる。


「――やれ」


 俺の命令を受けた火の精霊たちが三人のチンピラに襲いかかる。

 俺に殴りかかってきたチンピラは、精霊にまとわりつかれ、パンチが当たる直前でピタっと動きを止めた。


 他の二人も同様だ。

 いきなり動きを止め、その場に立ち尽くす。


 そして、急に青ざめた顔になり、身体をガタガタと震わせ――その場に尻もちをついて、へたり込んだ。


 三人とも先程までの怒りと嗜虐心に溢れた表情はどこかに消え去り、その顔はなにかに怯える恐怖心に染まっていた。

 俺はチンピラどもを見下ろす。


「ひっ」


 チンピラが情けない声を上げた。


 精霊は物理的存在ではないので、物理的な影響を及ぼすことは出来ない。

 火の精霊だからといって、人や物を燃やしたりは出来ないのだ。


 しかし、生物の精神に作用することはできる。人であれ、モンスターであれ。

 例えば今回のように、術者が激しい怒りを持って精霊に命令すれば、攻撃対象を恐慌状態に陥らせることが出来る。特に火の精霊は怒りの感情と相性が良い。


 感情を高ぶらせると同時に、それを冷静にコントロールすること。

 矛盾する両者を精霊魔法使いは行わなければならない。

 今回は感情が暴走気味であったが、チンピラ相手ならそれで十分だったようだ。


 恐怖に全身を震わせながら、それでも必死に後ずさりしようとするチンピラども。

 3人とも股間を暗く湿らせていた。


 無様な姿だ。

 元はダンジョンに潜る冒険者だっただろうに。


 ここドライの街にたどり着けたのだから、それなりの腕はあったはずだ。

 しかし、冒険者はダンジョンに潜らなくなると、すぐに衰えてしまう。一年も立てば鍛えた身体も一般人レベルに戻ってしまうのだ。

 コイツらも今では酔っ払って自分より弱そうな相手に喧嘩を吹っかけるところまで堕ちたか。


 パーティーを追放された腹いせに買った喧嘩だったが、情けなく怯えきったチンピラどもを見ていると、これ以上どうこうする気は消え失せた。


 いくらパーティーを追放されたからといって、俺はコイツらみたいに落ちぶれてたまるもんか。

 俺は決してダンジョン攻略を諦めたりはしない。

 必ずもう一度這い上がってみせる。


 這いずるチンピラを見下ろしながら、俺は決意した。

 そして、そのまま無言で踵を返し、拠点に向かった――。

 チンピラ=かませ。

 鉄板ですね。


 次回――『さらば拠点』


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― 新着の感想 ―
[一言] 「チンピラは舐め腐った態度で挑発してくる。人数と体格の優位で調子に乗ってるんだろう」 どちらからぶつかるったのか忘れているのでは。人に当たったら、先ずは済みませんでしょう。
[一言] 先にぶつかっても謝らないのか?主人公こそ、チンピラじゃない? 自己中心的だから、パーティークビになるんじゃないかな。
[一言] >いくらパーティーを追放されたからといって、俺はコイツらみたいに落ちぶれてたまるもんか。 >俺は決してダンジョン攻略を諦めたりはしない。 >必ずもう一度這い上がってみせる。 そうそう! そ…
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