第5話 爆撃
戦争モノが好きな人はこの回好きかも。
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「攻撃って……」
紅太郎が浩一の言葉を再度、聞き直すかのように口を開いた。浩一の衝撃の言葉に時が止まるような静けさが基地内に広がる。
「あんなのを放置しといたら危ないだろ」
確かにそうだ。
「昨日だって全国で数百人の死者が出たんだぞ」
確かに正当な理由だ。
人的被害を与えた先日のダーク・ドラゴンの渋谷襲撃。論理的に考えて、政府がこれに黙っているわけがない。
そして、浩一は腕を組んで言う。
「議会でも過半数の賛成で我々軍に
攻撃命令が出た」
おいおい。政府のお偉いさん方達の割には決断は早いじゃないすか。普段は経済だの金だのブツブツ言うハゲおじさんしか居ないのに。しかし致命的な問題がある。
「しかし、問題なのが敵をどうやって
おとすかだ」
そりゃそうだ。悩むのもよく分かる。ダーク・ウィングの連中達がこの近辺にいる事は分かっているが、もちろんの如くその近辺には住民もいる。小範囲の敵を如何に叩くかが課題となる。
浩一が悩んだ顔をしていると…
一人の軍人が立ち上がって意見を言った。
マクラスキー大佐だった。
「ここは爆撃をしましょう」
「下手に火炎放射器や毒ガスを
使用して、近隣に被害が出ては
大変ですし」
言う事は分かる。後は人類史兵器の爆弾が奴らに効果があるかどうかだ。
「君が言うと心強いね」
浩一は司令官として部下に労いの言葉をかけた。上司は部下に労いの言葉もとい、指揮向上をしなければ部下はついて来ない。当たり前だがそれ一つで信頼というものは大きく変わる。逆に言ってしまえば、浅はかな信頼は簡単に崩壊し、更には面倒事に巻き込まれる可能性が高くなるとセットでおトク。だからこそ浩一は部下との信頼関係を大事にしている。方だと思う。
「光栄です」
彼が爆撃を勧める理由は他でもない。
彼の祖父はかのミッドウェー海戦にて、
アメリカ海軍のSBD爆撃機を率いて、日本の空母の赤城、加賀に爆弾を落し、大勝に導いたからだ。
今でも彼はこの事を誇りに思っている。
日本人として、そんな人が日本の軍に
居ることに少々劣等感があるがな。
「よし!総員配置に着け!」
「これより、爆撃の準備をする!」
「了解!!」
浩一の一声で機関員が一斉に動く。
「地下格納庫から機体を15機」
「滑走路に配備!」
「爆弾運送完了!」
「誘導ミサイル通常弾!搭載に
入ります!」
「滑走路整備完了!」
「走行可能です」
基地内にこのような声が響く。紅太郎たちは巨大なモニターがある作戦司令室からその様子を見ていたが、廊下からは忙しい足音がドア越しに聞こえてくる。
使用する機体は、世界情勢の変化に対応するためにアメリカと日本の共同開発で作られた新型の爆撃機だ。一点の場所への攻撃に優れており、狙いを定めやすいというのがポイント高い。この羽田の基地には20機配備されており、今回の攻撃ではその内の15機が使用される。
「よし、搭乗員!機体に乗れ!」
「第1次攻撃隊!発進!」
浩一の掛け声と共に15機の爆弾機が数分の
間に目的地に向かって飛び立った。
それから数分後……
「本部から隊長機へ
攻撃目標地点 座標3,8,13……」
「攻撃隊…頼んだぞ…」
浩一が指を組んでいる。
その瞳には人類がこの危機を乗り越える為の試練に挑むのに相応しい目をしていた。人類はただの弱小生物では無い事を証明するため。
しかし、その願いは叶わなかった…
「目標地点到着。降度を下げ、
攻撃体制に入ります」
異変は直ぐに起きた。
「ん?なんだあれは?」
一人の兵隊が上空にあるものをとらえた。
「人影…?」
航空隊の搭乗員が妙な人影に疑問を抱いた。
その瞬間、人影から強力な冷気が放たれた。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
スピーカー越しに兵隊の悲鳴が聞こえて、基地内に響く。
「どうした!?何があった?」
「攻撃隊より、本部へ
3,4,6,8,9,10,11,13,14号機が
やられ………」
通信が途絶えた。
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
再び悲鳴が響く。
本部では兵士の恐怖に怯えた声だけを残し、
沈黙が走った。
「機体、全機レーダーから消失」
「全滅です……」
「………………」
浩一の額に汗が吹き出る。
また、紅太郎もこの事態に漠然としていた。
「嘘だろ…」
その時、紅太郎の頭に少女の言葉が横切った。そう。皇居の時に言われた。
[(回想)
「この世界を…ダーク・ウィングから
守って!」]
「こんな奴らと戦うのかっ…」
渋谷での戦闘では何とかなるかもしれないと思ったかもしれない。だが所詮は下っ端的存在のダークドラゴン。恐らく映像を見る限りだとダーク・ウィングの上位個体である事は確か。近代科学を駆使して作られた爆撃機を手を傘しただけで撃墜させる程の力を持っている事を確証された。恐らくこのような個体がまだ数体いると思うと後ろに引いてしまう。
一方、浩一は数分、表情を見せなかったが、
顔を上げて、
「我々、人類は未知の生物を
甘く見ていたようだな」
浩一は静かに立ち上がり、命令を待つ部下に指示を出した。
「第2次攻撃中止!」
「体制を立て直せ!」
そう言うと、浩一は部屋から出ていった。
ほぼ同時に紅太郎も部屋を出た。
本部の施設の中にある少し広い空間で
少し休もうと思い、そこへ向かうと、
その近くに見覚えのある懐かしい顔の
人間がいた。紅太郎よりも少しだけ身長が高く、凛々しい瞳。幼い頃に見てきた憧れの背中。幼い頃に見放された憎き額。五年前に見たときよりも姿は多少変わっていたが、間違えるはずがない。
「兄さん……!?」
第6話につづく
そろそろ新作を書こうかな。
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