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21:学期末試験




「ほらブロッサム嬢、アンタに頼まれていた去年の試験問題だ」

「わぁっ、ありがとうございます、ドワーフィスター様! でもこれ、本当にお借りしてもいいんですか? ミスティア様も同じ一年生ですけど……」

「ティアにも写しを渡してあるから問題ない。アンタに渡したのもただの写しだから、返さなくていいぞ。好きなように書き込みしてくれ」

「じゃあ遠慮なく頂きますね」


 図書館の自習用の個室で、ドワーフィスター様から頂いた去年の試験問題をありがたく鞄に入れる。

 室内には今日も魔術関連の調べものをしているドワーフィスター様と、インプット作業としてひたすら読書に勤しんでいるレイモンドがいて、なんだかこの部屋だけ試験勉強の雰囲気がない。たぶん隣の個室とかには試験勉強を頑張っている生徒がいるはずなのに、ここだけ長閑だ。


 私はお茶のカップに口をつけながら、ドワーフィスター様に尋ねてみる。


「ドワーフィスター様は試験勉強しなくても大丈夫なんですか?」

「勉強なんて授業を聞いていれば頭に入るだろ。そもそも試験なんて普段からどれだけ授業に集中しているかを見るだけなんだから、改めて勉強することもない」

「ちなみに試験順位は……」

「常に学年首位だが?」


 典型的な頭のいい奴の言い分である。指針にしたら駄目なやつだ。わたしはちゃんと復習しよう。


 心の中でうんうん頷いているわたしの目の前で、ドワーフィスター様はうんざりしたような溜め息を吐いた。


「それなのにクラス中がやれ試験勉強だとピリピリしていて、居心地が悪いったらない。その上、女どもが勉強を教えてくれとまとわりついてきて本当に邪魔だ。うざったい」

「ドワーフィスター様……」


 それを髭もじゃドワーフ野郎が言ってしまう、この世界の不思議よ……。

 わたしは本当になぜこの世界がモンスター達をイケメン扱いするのかという謎を前に、ただ立ち尽くすばかりの、小さな存在にすぎないのだった……。


 ドワーフィスター様はわたしが黙ってしまったことに気付き、ハッとしたように首を振る。


「ちっ、違うぞブロッサム嬢! 僕は色目を使ってくる女達をうざいと言っただけで、アンタのことを言ったわけじゃない……!」


 あ、そういうツンデレもどうでもいいんで。


 けれどそういえばドワーフィスター様のクラスって、確かゴブリンクス皇子がいらっしゃるんだよね。

 あのストーカー二号、クラスでの様子とかどうなのかしら?

 そう思って、ドワーフィスター様に尋ねてみる。


「ポルタニアの皇子か? ……あれはかなりの冷血漢だな。人を人とも思っていない雰囲気だ。

 僕も一度挨拶をしたが「公爵家程度が馴れ馴れしく話しかけるな」と言われてそれっきりだ。クラスの女達が最初に話しかけに行ったときも「その醜い顔でよくボクに話しかけられるな?」と嘲笑っていたな。

 まぁ、ポルタニアの皇子はあの美貌で王族だからな。あれくらい傲慢になっても仕方がないのかもしれないが」

「……オーク様は傲慢ではありませんよ」


 さすがにエル様を引き合いには出せないと思って、オーク様を比較対象へ持っていってみる。

 あれ、でも同じモンスターだから比較対照としてはむしろ最適……?


「うちのオークハルト殿下は、あれはもう奇跡の集合体みたいな御方だ。僕はあの方が神から遣わされて地上に降りてきた天使だと言われても信じるよ」

「…………」

「そんなオークハルト殿下と比べても仕方がない」

「ソウナンデスネー」


 わたしは赤べこのように首を振りながら、話をやり過ごした。





 そんなふうに地道に勉強をして、試験を受けたわたしの成績はーーー学年二位にまで喰らいついた。

 生徒玄関前に華々しく掲示された順位表に、わたしは鼻高々である。


 シャドーよ、マリージュエル様にちゃんと報告してね!

 ココレット・ブロッサムにはちゃんと正妃としての能力があるって!


「流石ですわね、ココレット様!」

「ブロッサム様、おめでとうございます!」

「まぁ、みなさん、ありがとうございますわ」


 淑女科や経営科の生徒達に褒めそやされて、大変気分がいい。モンスター顔の生徒にモテるよりもずっと有意義な時間だわ。


 ちなみに順位は、


 一位 ラファエル・シャリオット

 二位 ココレット・ブロッサム

 三位 ルイーゼ・バトラス

 四位 ミスティア・ワグナー

 五位 オークハルト・シャリオット

 六位 ピア・アボット

 ・

 ・

 ・


 という結果だった。


 顔も天才なら成績まで天才だなんて、エル様ってほんとスパダリだわ。その上性格も良くてスタイルまでいいもの。エル様に敵う男なんて居ないわねぇ。

 しみじみ、自分の男を見る目の良さに感服するわ。


「やはり未来の正妃様は違いますわねぇ」


 うっとりとわたしを見つめるルイーゼ様だけど、彼女とはたったの二点違いである。


「ルイーゼ様もすごいですわ。直前まで執筆活動をされていましたのに。学園運営者のバトラス伯爵様も大変お喜びでしょう」

「勉学しか取り柄がなかっただけですの、……今までは。試験が終わったのでむしろまた新作を執筆する時間が取れて嬉しいですわ! 夏期休暇中は書きまくりますわよ!」

「まぁ、すごい意気込みですわねっ」


 わたしたちはそのまま、夏期休暇の予定についてきゃあきゃあ話しながら、生徒玄関前から淑女科の棟へと移動していく。





 廊下の影から、あの女が淑女科の女達を率いて廊下の奥へ去っていくのを、私はイライラとした気持ちで見つめる。


 あの女がローズピンク色の髪を揺らして歩く度に、誰も彼もがふり返り、顔を真っ赤にして膝から崩れ落ちていく。涙を流して祈るバカまでいる。男も女も上級生も教師も関係なく、あの女の一挙一動に注目せずにはいられないのだろうーーーあの御方だって。


 みんなバカみたい。


 確かにあの女の顔は非常に厄介だ。

 私だって最初見たときは「こんな人間が本当に居るの? 女神か精霊じゃないの?」って思ったけれど。

 でも淑女科なんてお気楽なクラスに入っている位だから、見た目だけの薄っぺらな女だと思ったのに。

 なによ、学年二位って。第二王子よりも頭が良いってどういうことよ。


 どうすればあの女を第二王子から引き剥がせる? 第二王子の婚約者候補から落とすことができる?

 考えないと、ちゃんと。そうしないと………。


「……あの女、本当に邪魔ね」


 ココレット・ブロッサム。

 絶対にあなたをオークハルト殿下の婚約者にはさせないんだから。

 (ピア・アボット)のすべてを使ってでも。


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