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14:藍色髪眼帯のオーク




 藍色の髪に病的なほど白い肌、左目は眼帯で隠されているが小粒な右目は藍色に輝いている。太い眉に分厚い唇、そしてとにかく顔の輪郭が大きい。ここにルイーゼ様がいらっしゃったら瞳の中にハートを浮かべそうな、完全なるオーク顔。

 突然目の前に現れた黒ずくめの服装をした青年の、オーク様に次ぐ高レベルオーク度にわたしは唖然とする。視界の暴力だ……!


「あれ、お嬢、驚きすぎて声も出ない感じ? ごめんね、驚かせちゃってさ」


 オーク顔の青年は淡々と言いながらわたしに近付き、妙に芝居がかった仕草で跪いた。その際にこめかみの辺りの長い髪が一房、むだにサラサラと揺れる。


「オレは王家の影だ。お嬢を守るためにつけられている。オレのことは気軽にシャドーと呼んでくれていいよ」


 王家の影、キターーーーー!!!


 シャリオット王国に王家の影なんて居たの!?

 名前がシャドーって、オークハルト並みになんのひねりもないし!

 ていうか、いつからそんな、国お墨付きのストーカーが付いていたの!?

 え? ということは、オークがいつでもどこでもわたしを見ていた?

 ていうかなんでお嬢呼び?

 ヤバイ、怖い、鳥肌がすごい!!!


 わたしは腕に浮かんだ鳥肌を隠すように腕を組ながら、それでも彼の言うことが信じられなくて、というか信じたくなくて、口を開いた。


「あなたが王家の影だという証拠があるのですか……? 本当にそうだというのなら、なぜ姿を現したのです?」


 たまたまとんでもない変態に出会ってしまっただけだと思いたい。

 だってそうじゃなきゃ、着替えとか入浴とかトイレとか寝ているときとか……すぐ傍にこんなオークが潜んでいたなんて恐ろしすぎる……!

 ううぅ、こちとら前世からの夢見がち喪女なんですよ! エル様にもまだ肌を見せたことないのに酷すぎるでしょ!


 半泣き状態のわたしに、シャドーが答えた。


「なぜお嬢の前に姿を表したかと言うと、警告もあるけど、お嬢に知られたところでなんの害もないからかな。でも一番の理由は……お嬢が面白いからさ」

「はぇ……?」

「オレも隠密歴長いからさ、それこそ色んな女を知ってきたけれど……こんなに興味をひかれた女は初めてだ。お嬢はほんと面白いよ」


 や、やめてぇぇぇええ!!!

 全夢女がイケメンに言って欲しい憧れの台詞トップ10にランキング入りする「お前、面白い女だな」をオーク顔で言わないでぇぇぇえええ!!!


 絶望で目の前が暗くなるわたしに構わず、シャドーは話を続ける。


「でも証拠か……。う~ん、じゃあ当たり障りのないところで、ここ一週間のお嬢の食事内容でも答えようか?」


 そう言ってお茶菓子まで込みですらすらとメニューをあげられてしまい、わたしはさらに固まる。

 このオーク、マジでわたしの監視をしてる……!

 しかもその食事内容がズラズラ書かれた報告書も見せてくれた。それはシャリオット王家の紋章がきちんと印刷された上質な紙で、上層部の人間だけが使える本物の報告書だ。食事のメニューの他に、調理人や食材の卸業者の名前、産地などまで細かく書かれている。たぶんわたしの食事に毒が入れられた場合に備えているのだろう。


「い、いつから……? いったい王家が……なんの為にわたしに……? いえ、候補者全員についていたのですか……?」

「この学園に入学してから、正妃マリージュエル様が、お嬢とルナマリア・クライスト嬢に王家の影を付けている。理由はルナマリア・クライスト嬢を第一王子の正妃に、お嬢を側妃にする為だ」


 シャドーの言葉に正妃様の顔が浮かんだ。あの前世を思い出していないタイプの悪役妃か……!

 

 確かにわたしとルナマリア様はエル様の婚約者候補であると同時にオーク様の候補でもある。

 デーモンズ学園と言う王宮の者たちの目が届かないところで、わたしたち二人がオーク様と親密にならないように見張りを付けたのだろう。

 だからわたしがオーク様と二人きりで会った途端にシャドーが警告に現れたのだ。


 ふつふつと怒りが湧き上がってくる。

 王家の影とかそんな乙女ゲームの隠しキャラとかレアキャラみたいな相手をわたしに付けるなら、どうせならわたし好みのイケメンの方がよっぽど良かったという怒りももちろんある。

 こんな恐ろしいストーカーを心優しいルナマリア様にまで付けているという怒りもある。


 けれど、なによりも腹が立つのはーーーー。


「エル様の正妃になるのはわたしです! エル様を心から愛し、愛されているのはわたしです。マリージュエル様はなぜわたしを側妃になど……!」

「お嬢、王家の婚姻に愛なんているわけない。正妃派閥のクライスト公爵家と、中立のブロッサム侯爵家のどちらがマリージュエル様の利益になるかなど一目瞭然だろ」

「ルナマリア様はオーク様を愛していらっしゃいますわ! 彼女にエル様の正妃など酷なだけですっ」

「だからお嬢が側妃なんだよ。クライスト公爵家の後ろ楯さえ手に入れば、あとは白い結婚でいい。お世継ぎはアンタが生めば解決するというわけだ」

「そんなこと……っ」


 そんなこと、ルナマリア様もわたしも、もちろんエル様だって可哀想だ。


 しかしここでシャドーに喚いたところで意味はない。マリージュエル様に報告が行くだけだ。

 わたしはフーッと強く息を吐いて心を落ち着け、それ以上を声に出すのは止めた。


「あ、お嬢、あと一つ」


 乱れたローズピンクの髪を手で撫で付けるわたしを、シャドーが右目だけで覗き込む。


「ポルタニアの皇子には気を付けてね」

「え?」


 理由を尋ねようとすれば、シャドーは時間切れとでもいうかのようにその場から消えた。

 わたしはもう一度「え?」と目を丸くする。

 シャドーは本当に煙のように消えてしまった。


「あれが王家の影……」


 もう嫌だ、わたしのHPは0よ……。


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