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57:告白(ラファエル視点)




 醜い化け物と蔑まれていたシュバルツ王が、実は愛を知っていた。


 その事実にまさかこれほどまでに心が慰められるとは思わなかった。

 そして『金のクロス』について、知りたいことはおおよそ知れたような気がする。盲目の聖女ツェツィーリアが心配してくれたシュバルツ王の弟の孫とはつまり、私だ。

 きっと『シュバルツ王の再来』である私を破滅の人生から救おうと、彼女の癒しの力が込められた『金のクロス』が、人生のやり直しという奇跡を起こしてくれたのだ。

 それもただのやり直しではない。私の隣に立つことの出来るココを、流行り病で死なせぬ道を選んでくれたのだ。


 それに気付いた途端、私はココに後込みしていた気持ちを捨てた。

 ココの本当の思惑を知ろう。私の正妃になる本当のメリットを知ろう。それがどんなに愛情からかけはなれたものであっても、構わない。ココの本心を知って傷付けられてもいい。だってどうしたって私はココを愛している。

 ココに私の真実を話そう。人生をやり直しているなど、頭が狂っていると思われるかもしれないが……。それでもいい。どうしたってココの本当の心に近づきたい。そして私の真実を知って欲しい。分かり合いたいのだ。


 そんな気持ちが溢れて、私は告げた。

 ラファエル・シャリオットとして二度目の人生を歩んでいるのだと。


 ココは初めのうちは可愛らしい唇をポカンと開けて驚いていたが、次第になにか納得がいったように私の話に相槌を打ち始めた。

 城内での孤独、学園でココの義弟であるレイモンドと出会ったこと。妃が出来ずに王太子の座を逐われ、スラム街でダグラスに出会い、国家転覆を謀ったこと。そして最後に断頭台で死んだことーーー。

 口を挟むこともなく私の話を聞いていたココのペリドット色の瞳は次第に涙ぐみ、最後の方ではハンカチを噛み締めるようにして泣いていた。

 話が終わると、彼女はワッと両手で顔を覆って叫ぶ。


「イケメンが……! 貴重なイケメンを殺すなんてヒドイ! イケメン無罪適用してよぉぉぉ!!」

「こ、ココ……?」


 ココの言っていることが分からない。

 私がおろおろと彼女の肩を抱けば、ココが顔を上げた。鼻の頭を赤くして泣く彼女は、不謹慎だがとても可愛らしい。


「前回の人生はとても大変だったのですね、エル様……ッ!」

「信じてくれるのかい? こんな荒唐無稽な話を……」

「もちろんですわ、エル様! だって、わたし、前世の記憶がありますもの!」

「え?」

「わたしだって転生者ですもの。逆行転生のひとつやふたつ、余裕で信じられますわ!」

「え??」


 彼女の話に、今度は私が目を白黒させる番だった。


 なんと、ココは前世で異世界で暮らしていた記憶があるのだという。

 それもとても奇妙な価値観が浸透した世界で、なんと……私やレイモンドのような醜い男達が『格好良く』、オークハルトやドワーフィスターといった美しい男達が『不細工』なのだという。

 なんという価値観だ……。


「ですからわたし、今生こそイケメンと結婚したいと思って頑張ってきたのに、ちっとも出会えなくて……。どの男の子もどこの魔界生まれなのって感じで、世を憂いていたのです」

「いけめん……?」

「そんなある日、王宮のお茶会でまるで天使のようなエル様とお会いすることが出来たんです! 神様はわたしを見捨てませんでした!」

「私が、天使……」


 薔薇色に上気した頬を恥ずかしそうに両手で押さえながら微笑むココは、本当に幸せそうで……。ペリドット色に輝く瞳が本当に愛しげに私を見上げていて……。

 なんというか、ココの語る話に嘘など何一つないのだと信じることが出来てしまった。


「つまりココは、本心から私の妃になりたいと思っていてくれている……?」


 醜い私がこんなに自意識過剰な台詞を口にする日が来るとは思いもしなかったが、ココは満面の笑みで頷いた。


「はいッ! 一目見た瞬間からエル様をお慕いしておりますわ!」


 ココの内側には政治的思惑も女としての権力欲もない、ただただひたすらに明るい愛情だけがあった。

 私が最も愛せなかった己の醜い外見を、ココは前世から引き継いだ奇妙な価値観で心の底から愛してくれていた。

 これほどの奇跡があるだろうか、聖女ツェツィーリアよ。なんのために二度目の人生を送らねばならないのかと、何度も嘆き苦しんだ過去が救われていく。貴女のもたらした奇跡はとても凄まじいものだった。


「ココ、私も王宮の庭できみを一目見たときからきみを愛しているよ。

 私の一度目の人生の悲劇の発端は、きっとココに出会えなかったことなのだろうね」

「わたしが今生で流行り病から生き延びることができたのは、きっと聖女様の奇跡のお陰だったんですね……。前世を思い出すことができたのも、きっと」

「ああ、そうなのかもしれない」


 私とココはもう一度、ルッツとツェツィーリアが永遠に眠る墓へと祈りを捧げた。

 言葉に出来ないほどの多大な感謝を込めて。


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