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52:周囲の変化




 ヴィオレット様がオーク様の護衛役だと発覚してからだろうか。エル様と二人でのんびり過ごすお茶会がめっきり減ってしまった気がする。


 週に二回ほどのお茶会予定が消えてしまったのではなく、“二人きり”になれなくなってしまったのである。

 ダグラスとの稽古が優先されるようになったときは、イケメン×2=楽園だったのでむしろヒャッホウ! ハピハピ~! だったわたしだけど。

 最近はオーク様がしょっちゅう追加されるようになった。


「兄君! 今日はここまで課題をやったぞ! 教師たちからも褒められたんだ。ぜひ見てくれ!」

「俺も剣術の稽古に参ったぞ! 兄君、ダグラス、お手合わせを願う!」

「兄君ー!! ココ!! 喜んでくれ、城下で人気のパティスリーのケーキを買ってきたぞ!! ルナとヴィーも呼んだから皆で食べようではないかっ!!」

「なに、次の教会視察だと? 俺も連れて行ってくれ!」


 奴は突然現れる。

 なんならわたしより先にエル様とお茶を飲んでいる。油断するとお茶会の最後に登場する。気を抜くとエル様の隣の席に腰かけている。どれだけブラコンなのかしら。


 オーク様の飛び入り参加の回数が増えていった最初の方は、エル様も不機嫌になられることが多かった。けれどだんだん諦めの境地に辿り着いたらしく、最近は溜め息ひとつで済ませることも増えた。


 そのうちフォルトさんがオーク様付きの専属侍従や侍女たちと仲良くなってお茶やお菓子の種類が増え、部屋に飾る花すら華やかになり(たぶんこれもオーク様専属侍女のセンスだろう)、オーク様に連れられてルナマリア様やヴィオレット様も頻繁に訪れるようになり、仲間外れは可哀想だとわたしがミスティア様を呼ぶようになり、ダグラスとの稽古も定期的にあって、時折ドワーフィスター様が魔道具の新作を携えてエル様に会いに来るようになり、さらにドワーフィスター様の子分としてレイモンドまで離宮へ訪れるようになってきた。←イマココ


 正直、エル様と二人きりで見つめあっていたお茶会が恋しい。ロングギャラリーでシュバルツ王の美しい肖像画を二人で眺めたあの日はもはや遠い過去だ。

 あの頃のエル様はわたしに照れてばかりいて、ほんとうに可愛らしかった……。もちろん今も素敵だけど!


 でも、今のこの状況も悪くはないのかもしれない……。


「あらココレット様、なにをぼんやりなさっておりますの? せっかくオークハルト殿下がご用意してくださったポルタニアのお茶が冷めてしまってよ?」


 思案するわたしに、ミスティア様が声を掛けてくださる。わたしはゆっくりと顔を上げ、とりあえずチャイっぽいお茶を一口飲んだ。

 そんなわたしの目の前へ、ルナマリア様が無言のまま新しいお茶菓子が乗ったお皿を差し出してくださった。

 礼を言って受けとると、すぐさまミスティア様が「わたくしも頂くわ」と横から手を伸ばした。公爵令嬢に歯向かうまい。お茶菓子はたくさんあるのだし。


 お茶菓子を三人で分け合い、のんびりとお茶をしながら、わたしは稽古場の中央に視線を向ける。

 そこではエル様とオーク様が模擬刀を打ち合い、ダグラスとヴィオレット様が訓練をしていた。ダグラスは普通の模擬刀だけど、ヴィオレット様は今日は薙刀みたいな武器を使用している。しかもドレスのままでだ。

 ドレスについては以前尋ねてみたけれど、ヴィオレット様曰く「どんなときでもオークハルト殿下を御守りせねばなりませんからぁ、日頃ドレスでも訓練しておりますのぉ。もちろんこのドレスには軽量化や隠しスリットなどの、動きやすい工夫が施されておりますのよ」と愛らしく微笑んでいたけど。それでも動きやすくはないでしょうに。

 そして彼女の恋人兼従者のサルバドルさんが壁際に控え、彼女を応援していた。

 実に平和な光景である。


 そうやって全体を見回してから、わたしは改めてエル様へ顔を向ける。

 エル様はまるで教師のように「踏み込みが甘い」「次の動作が遅いぞ」とオーク様へ助言しながら彼の攻撃を完全に捌いている。

 一つに結んだ金髪が流れるように揺れ、オーク様を追い詰めていくそのお姿はオークキングと闘う勇者だ。はぁぁぁ……美しすぎるぅぅ……!!!

 エル様の蒼い瞳はいきいきと輝いていた。


 王宮の庭園で行われたあの茶会で、一人苦痛そうな表情をして突っ立っていたエル様とは、だいぶん違うように見える。

 あの頃のエル様はとても孤独だった。オーク様は侍女たちのために必要以上にはエル様に近付くことが出来なかったし、レイモンドやダグラスのように苦しみを理解してくれる人も居なくて。ドワーフィスター様の魔道具もなかった。

 わたし一人でエル様を支えることなんて、きっと無理だっただろう。

 だってこの人は将来、このシャリオット王国の国王になるのだから。

 エル様がただの庶民の子供なら、わたし一人でも支えられただろう。醜さ故に働き口がなくても、友人が居なくても、誰から意地悪なことをされても、わたし一人で守ってあげられた。

 でも、エル様は王太子だから、この国を守る責任を果たすために、たくさんの味方が必要だ。

 そして今エル様は、信頼できる味方を少しずつ増やしているところ。二人きりのお茶会ができなくて拗ねている場合ではないのだ。わたしは名実ともに婚約者となれるよう、どっしりと構えなくちゃいけないのだ!


 カキンッ! と音を立てて、エル様によってオーク様の模擬刀が飛ばされる。

 わたしは椅子から立ち上がり、「流石ですわ、エル様っ」と拍手する。

 ミスティア様もスッと静かに立ち上がり、わたしに合わせて拍手をした。ルナマリア様は救急箱を持って、オーク様のもとへと駆け寄っていった。


「応援ありがとう、ココ、ワグナー嬢」


 エル様は汗に濡れた長い前髪を掻きあげた。なかなか見ることのできない白い額の美しさに、わたしはクラリと目眩を感じる。


「ココ、どうかしたかい?」

「……いいえ。エル様の色香に酔ってしまったみたいで……」

「あなた何をおっしゃっているの、ココレット様?」


 本気でわけが分からないと言いたげなミスティア様を無視して、エル様へハンカチを差し出す。エル様はミスティア様に微苦笑を浮かべつつ、ハンカチで汗をぬぐわれた。


「そろそろ次の教会視察の予定を決めようと思うんだ。ココも手伝ってくれるかい?」

「もちろんですわッ」


 両手をグッと握りしめ、前のめりになって頷いた。

 また予定が合えばオーク様やほかの婚約者候補たちも参加するだろう。ダグラスはもちろん護衛として一緒だし、そろそろドワーフィスター様がレイモンドをお供に連れて参加してきそうな雰囲気もある。きっと賑やかになることだろう。

 ぜひ、エル様が楽しんでくださるといいな。


 わたしはまだエル様が教会視察で本当はなにを見つけたいのか知りもせず、そんなことを思っていた。


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