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48:ルナマリアの不安




 側妃様のお茶会当日。

 わたしは今日のために仕立てた若葉色のリボンドレスを着て、登城した。正直緊張するし、億劫だけれど。髪型はアマレットが複雑に編み込んで、エル様がくださったブルーサファイアの髪飾りでまとめてくれたので頑張れる。この髪飾りは本当にお守りだ。


「本日のドレスもとてもお似合いですわ、ココレット様」

「ありがとうございます。ルナマリア様もとてもお似合いですわ」

「あ、ありがとうございます…っ」


 ポポポ…ッと赤くなるルナマリア様は、予定通りサファイアブルーのドレスだ。昼用のドレスなのでビジューなどは控えめだが、裾の方に金糸の見事な刺繍が入っている。髪飾りも美しい金細工だった。


「完全にオーク様の彩りですわね」

「はい……。恥ずかしいですが、思いきってみましたの……」


 無表情だけれど、照れて瞳を潤ますルナマリア様は両の指をもてあそぶように絡ませた。まだ控え室で案内を待っているだけだというのに、彼女の少し息が上がっている。わたしは思わずルナマリア様を落ち着かせるために肩を撫でた。


「きっとオーク様は褒めてくださいますわ」

「……はい、オークハルト殿下はとてもお優しい方なので、きっと私を褒めてくださります。私はそのことで緊張しているわけではないのです、ココレット様」

「では、いったい……?」


 ルナマリア様は眉を八の字に下げて、同じように待機しているヴィオレット様へと視線を向けた。


 ヴィオレット様は本日もスミレ色のドレスをお召しになっている。ハーフアップされた髪にはいつぞやの紫色のリボンが結ばれており、ソファーにちょこんと腰かけているだけで砂糖菓子のように甘い雰囲気が漂っていた。

 彼女はわたしたちには目もくれず、傍に立っている深紫色の髪の従者にひそひそと話しかけている。その横顔はとても可愛らしい。


「オークハルト殿下のお心は現在ココレット様にありますが、ラファエル殿下がココレット様をお選びになる以上、オークハルト殿下が報われることはありません。私の恋敵は事実上、ヴィオレット様お一人です。

 ……ヴィオレット様は側妃様のご推薦でオークハルト殿下の婚約者候補に選ばれた御方です。私はただでさえ正妃派閥の家柄で……、きっと側妃様からはよく思われてはいないでしょう」

「ルナマリア様……」

「あんなに愛らしいヴィオレット様に、私、勝てるかしら……」


 ルナマリア様の声は悲痛に満ちていた。

 彼女のことはあんまり気にしなくてもいいんじゃないかしら、と思いつつ、適当なことを言うわけにもいかないので肩を撫で続ける。


「教会視察の時も、ヴィオレット様はあんなに軽々と猟銃を扱っていらっしゃったのに、私は殿下のなんのお役にも立てなくて……」

「大丈夫ですわ、ルナマリア様。普通の令嬢は猟銃なんて扱えません。ヴィオレット様が規格外なだけで……!」

「ミスティア様だっていち早く危険にお気づきになられて、私たちを守ってくださいましたし……」

「あの方の視力5.0ですし、ドワーフィスター様がついてらっしゃるもの。ミスティア様も規格外ですから!

 それにあの教会視察の日なら、わたしもなんのお役にも立っておりませんわ!」

「ココレット様はよろしいのです。貴方はこの国の正妃となられる御方、ラファエル殿下に寄り添うことができるだけで十分規格外ですもの」


 こ、婚約者候補ってわたしを含めて規格外ばっかりなの……!?

 正直ルナマリア様も規格外かはわからないけれど、普通のご令嬢って感じはしないのだけれど!


 わたしが動揺して言葉を失っている間に、案内の衛兵が現れ、お茶会の会場へと移動することになってしまった。





 会場となる場所は、側妃様やオーク様がお住まいになる後宮近くの巨大な温室で、異国情緒の溢れた植物や調度品で飾られていた。そのどれもが、側妃様の母国ポルタニア皇国由来のものなのだろう。

 わがシャリオット王国の文化が前世の中世ヨーロッパ風なら、ポルタニア皇国はインドやトルコなどの中東風らしい。この温室内の調度品だけでも金や濃いブルー、ビビットピンクやエメラルドグリーンなど、色使いがすごく鮮やかだ。

 案内されたテーブルには焼き菓子やミルクティーが用意され、そこから普段は嗅がないようなスパイスの香りがふわりと立ち上る。なるほど、これはミルクティーというよりチャイなのね。


 席にはすでにオーク様と側妃様が着いていて、オーク様がわたしたちに向かって茶目っ気たっぷりにウィンクをする。思わずエル様のくださった髪飾りに触れて平常心を心がけながら、わたしは側妃様に視線を向けた。

 側妃様を視界におさめた途端、心がけはどこかへ飛んで行き、目を丸くしてしまう。


「ようこそ、お嬢さん方。わらわは側妃サラヴィア。オークの母である。以後よろしく頼むよ」


 ポルタニア皇国人特有の艶やかな褐色の肌に、皇族だけが持つといわれる橙色の髪を短く刈り上げた男装の麗人が、そこにはいらっしゃった。


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