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35:稽古





 無事に新年が明けると、王都に初雪が降り始めた。

 道の状態が悪く、馬車を走らせるのも危ないので、毎日行われていた妃教育も中断している。春になればまたみっちりとレッスン漬けの日々が戻ってくるだろう。


 ミスティア様もルナマリア様もヴィオレット様も、今は休暇としてそれぞれの領地に戻っているらしい。

 わたしも例年はそうだったのだけど、今年は王都のタウンハウスに居残っている。代わりにレイモンドが父と共にブロッサム侯爵領の屋敷へと向かった。


 レイモンドにとっては初めての長旅の上に初めての領地なので、姉として一緒に行ってあげるべきかとも思ったのだけど、エル様のいらっしゃる王都から離れたくはなかった。妃教育はお休みだけれど、週二回のお茶会は継続されているのである。

 それにレイモンドは養子になってからまだ半年ほどしか経っていないのに、ずいぶんと度胸のある男の子に育ったと思う。

 初めて会った頃はわたしのあとを付いてまわることが多かったのに、今では跡継ぎ教育を立派にこなしている。眼鏡の魔道具のおかげで使用人たちとの関係も良好で、エル様やドワーフィスター様とも手紙で交流している。父もそんなレイモンドに満足そうだった。

 男の子の成長は早いものだなぁ、と思いつつ、レイモンドがイケメン(ショタバージョン)からすくすくとイケメン(青年バージョン)に育っていくことが嬉しい。最終形態が実に楽しみだ。その間に十三歳くらいの美少年期もあるわけだし……楽しみが多いわ……ッ!


 もちろん成長過程が楽しみなのはレイモンドだけじゃない。愛しのエル様と……、そしてダグラスもだ。


「どうぞ、こちらです。ココレット様」

「ありがとうございます、フォルトさん」


 案内をしてくださった従者のフォルトさんに笑顔でお礼を言うと、彼は照れて赤くなりながらも嬉しそうに頷いた。


「エル様もダグラスも、ココレット様の応援が励みになっておられますから」


 そう言ってフォルトさんが指をさすのは、室内稽古場の中央だ。そこでは動きやすい服装をしたエル様とダグラスが向かい合い、剣の稽古をしていた。

 模擬剣らしい長刀がぶつかり合い、カンカンカンッと金属音を立てる。エル様は素早い身のこなしでダグラスの剣捌きを避け、ダグラスは力強い腕の振りでエル様に迫っていく。

 ……なんていうか、もう、眼福ですっ!!! もうそれしか言えない! エル様は麗しすぎるし、ダグラスは格好良すぎる!!!

 剣を打ち合う度に、一つ結びにされたエル様の金髪が揺れて色っぽいし! 筋肉質のダグラスの肌に、冬にも関わらず浮かぶ玉のような汗も色っぽい!


 わたしは両手を祈るように組み、二人の稽古をうっとりと眺めた。

 はぁ……、幸せ……。


 十分ほどそのまま打ち合いが続き、最後にはエル様がダグラスから一本取った。

 ダグラスは床に膝を着いたまま、乱れた息を整えている。エル様は汗ばんだ長い前髪を払うと、ダグラスに手を差し伸べて彼を立たせた。その動作も紳士的で好き!

 麗しい上に剣術も強いとか、エル様完璧王子様だわ……。


 ぼうっと見惚れるわたしに、エル様は振り返って笑いかけた。


「いらっしゃい、ココ。雪道の中せっかく来てくれたのに、放っておいてしまってごめんね」

「いいえ、ちっとも。エル様の勇姿が見られてとても幸せですわ……」

「ココは相変わらず優しいね」


 エル様とダグラスに汗拭き用のハンカチをそれぞれ渡す。エル様は嬉しそうに受け取り、ダグラスはわたしをじっと見つめながら恐る恐るといった様子でハンカチを受け取った。ダグラスの反応はなんだか野性動物みたいだなぁと思う。


 ダグラスは今、騎士見習いとして王宮内にある騎士団の寮で暮らしている。エル様との稽古以外の時間は、見習いとして訓練をしているそうだ。

 出会った頃はガリガリの少年だったというのに、一月も経てば実に健康な体つきになった。寮の食堂で栄養のある食事をたくさん取れているのだろう。このまま順調に高身長でガタイの良いワイルド系騎士に育って欲しいものだわ。


「……ココレット様、このハンカチは、洗って…お返しします」


 騎士団では敬語も習うらしく、辿々しいながらも整えた言葉遣いでダグラスはわたしに話しかけてくる。

 わたしはいつものように首を振る。


「返さなくていいと、いつも言っているでしょう? ダグラスは訓練でたくさん汗をかくのだから、使ってください」


 もうすでに何枚も彼にハンカチをあげている。一応気を使って男性向けのシンプルなデザインのものを渡しているので、人前で使っても恥ずかしくはないはずだ。


「でも……」


 ダグラスとしては貰ってばかりで気が引けるのだろう。でもそれを上手く伝える敬語が出てこず、ダグラスは口をパクパクと金魚のように開閉する。


「ダグラスがエル様をお守りできる立派な騎士になってくれれば、それで十分ですわ」

「……はい」


 ダグラスが渋々といったように頷く。

 そんなダグラスを見て、エル様は彼の名を呼んだ。


「私だけじゃなく、まず一番にココのことを守れる騎士になってくださいね。私の方は護身術だって学んでいるのですから」

「まぁ、エル様……!」


 エル様の言葉にキュンとする胸を両手で押さえる。イケメン王子と騎士に守られる今世とか最高よ……!


 ダグラスはエル様の言葉に「はい」と真剣な表情で頷いた。


 うん、成長の楽しみなイケメンばかりでパラダイスだわ!


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