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23:魔道具





「アンタは本当に必要ないのか? 醜いものでも直視できるようになる眼鏡は」


 ドワーフィスター様が魔術式を組み直しながら、わたしに尋ねた。

 けれどその質問に答えを返したのはわたしではなく、隣のソファーに腰掛けているミスティア様だった。


「ココレット様には必要ございませんのよ、フィス兄さま。わたくしは直接拝見したことはありませんけど、ラファエル殿下と仲睦まじく微笑み合っているそうですから」

「そうなのか? アンタ、よっぽど視力が悪いのか?」

「フィス兄さま、視力平均が4.8の我がワグナー公爵家に比べれば下々の者たちの視力など、みんな総じてお悪いのですわよ」

「ふーん、そうなのか」


 ドワーフィスター様の『国初の魔法宰相になる』発言から、わたしが助手に訪れるとミスティア様が同席されるようになった。

 そしてミスティア様は『ラファエル殿下の正妃になる』という目標を口にしなくなった。

 そんなことをしなくてもドワーフィスター様が宰相を目指す限りワグナー公爵家は安泰だからだろう。彼女は無理をしなくても良くなったのだ。


 だがしかし、エル様とご挨拶することを諦めたわけでも、妃教育をおろそかにするわけでもない。

 彼女は本当に王家への忠誠心があつかったのである。


「フィス兄さまがココレット様を気に入っても無駄ですからね。ココレット様はラファエル殿下のご寵愛を一身に受けていらっしゃるの。わたくしはお二人に、臣下として尽くすつもりですわよ。このシャリオット王国と王家、そして下々の者たちのために」

「……僕はべつにココレット・ブロッサムに対して妙な気持ちはない」


 ドワーフィスター様は拗ねたように分厚い唇を尖らせる。

 ふふん、と笑うミスティア様はとても気分が良さそうだ。


「だから早く眼鏡を完成させてくださいませ、フィス兄さま! わたくしは臣下としてラファエル殿下にご挨拶しなければならないのですからッ!」

「はいはい、煩いなぁティアは」


 面倒くさそうに頷きながらも、ドワーフィスター様は手を止めない。


 ヴェールなどの実験で、老眼鏡がいちばんマシだったとミスティア様がおっしゃっていたので、ドワーフィスター様は眼鏡タイプの魔道具を作っているらしい。とりあえずは既製品の眼鏡に魔術式を組み込んでいくのだそうだ。

「不細工にだけ反応して、その顔の認識を甘くするんだ」との説明だったが、たぶん前世のデジカメなどの顔認証機能に近いものだろう。あちらは顔を認識してくっきりとその表情を写したが、その反対で顔を認識してモザイクをかけるような感じなんだと思う。


 相手の表情が分からないというのは後々問題があるかもしれないけれど……。挨拶をする程度なら問題はないだろうし、ドワーフィスター様も改良を重ねてくれるかもしれない。

 まぁそのためには、まず最初の一つを完成させなければならないのだけど。


「その眼鏡が完成されたら、結構売れそうですよね、商品として」


 そうしたらエル様やレイモンドだけではなく、世の中で虐げられているたくさんのイケメンたちを救えるのではないかと思って。わたしがポツリと口にすると。

 ワグナー兄妹はハッとしたように顔を見合わせた。


「た、たしかに……!」

「魔道具の生産ラインを確立できれば、ワグナー公爵家はますます安泰になるのではないかしら……!」

「ティア!」

「フィス兄さまっ!」


 魔法宰相を目指すドワーフィスター様と、ワグナー公爵家の繁栄を夢見るミスティア様の心が一つになった瞬間だった。






 こうして商売魂も加味された眼鏡タイプの魔道具は、一月のうちになんとか形になった。まだまだ改良の余地はあるのだろうけれど。


「どうです? わたくしに似合いますか?」


 艶々黒髪の縦ロールに、紅色のキラキラした瞳、目元のホクロ。十一歳とは思えないほど妖艶な雰囲気のあるミスティア様が、銀縁眼鏡をかけて照れたようにこちらに視線を向ける。

 なにこれ……! エロい……ッ! しみじみとエロいわ、ミスティア様……!!

 視力5.0とか意味わかんないくらい視力が良いのに伊達眼鏡とか、そのギャップがエロいよ~!!!


 息切れしそうな呼吸を整えながら、わたしは頷いた。


「完璧にお似合いですわ、ミスティア様!」

「ふふん、まぁ、そうでしょうとも」


 ミスティア様は胸を反らして頷くと、次にドワーフィスター様へ体ごと振り向いた。

 頬を赤らめながら、澄ましたように言う。


「……フィス兄さま。……今回のこと、協力していただき感謝しておりますわ」

「ティア……」


 ドワーフィスター様も頬を赤らめつつ、澄まし顔で答える。


「僕の方こそ、ティアには感謝してる。……今まで心配をかけてすまなかった」


「本当にその通りですわよ、馬鹿兄さま」と鼻で笑うミスティア様は、とても幸せそうな表情をしていた。


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