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【書籍2巻3/10発売】美醜あべこべ世界で異形の王子と結婚したい!(書籍版:美醜あべこべ異世界で不細工王太子と結婚したい!)  作者: 三日月さんかく
番外編

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書籍1巻記念SS②:初めてのダンス

本日、『美醜あべこべ』1巻発売です!!!

何卒よろしくお願いいたします(✿ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾



 王宮の廊下を移動していると、ピアノの音が聞こえてきた。どうやら近くにあるダンス練習用の小さなホールで、婚約者候補たちが授業を受けているらしい。

 きっとココも練習中なのだろう。まだ彼女の踊る姿を見たことはないが、きっと精霊のように美しく舞うのだろう。


 ドレスの裾を翻して踊る彼女の姿を想像したら、練習の様子が見たくてソワソワしてしまった。

 そんな私の気持ちを読み取ったフォルトが、


「エル様、ダンスの練習を見学に行きませんか? 次のご予定までまだ時間がありますから」


 と誘ってくる。


「ココレット様もダンスの練習をエル様に見守っていただければ、お喜びになられるに違いありませんっ」


 そんなはずがないだろう、と思いつつも、私は結局誘惑に負けて練習ホールに向かった。





「まぁ、エル様♡ 見学にいらしてくださったのですねっ!」


 ホールの中央には、ダンスの講師と踊っているワグナー嬢の姿があった。他の婚約者たちはホールの隅で自主練中らしい。

 ココは満面の笑みで私を出迎えてくれた。……フォルトが言っていたことも、あながち的外れではないのかもしれない、と自惚れたことを考えてしまう。


「わざわざダンスの講師と順番に踊っているのかい? ダンスのパートナーが足りないのなら、そこらの従者を呼べばいいと思うのだが」


 私が疑問に思ったことを口にすると、ダンスの講師が「ノン、ノン! いけません、殿下!」と声を荒げた。


「この子たちはダンスに関してはまだまだヒヨッコです! 僕のように完璧でトレビア~ンなダンスが踊れる者以外と踊って、妙な癖がついてしまったら困ります! まずは僕がダンスの神髄を叩き込まねばなりませんのです!」

「……ああ、そうか。分かったよ」

「ご了承いただきありがとうございます、殿下!」


 ダンスの講師は婚約者候補たちへの指導に熱中するあまり、私の見た目に反応する暇がないようだ。あまりにも普通に……普通に? 会話されてしまった。


「あら? でしたら、先生。エル様となら踊っても構わないのではありませんか? だってエル様は王太子教育で『完璧でトレビア~ンなダンス』を習得しているはずですもの! 先生、エル様と踊ってもいいでしょうか?」

「こ、ココ!? 急に何を言うのですか!?」

「おおっ! そうですね! 王太子殿下ならば問題ありませんね。では許可いたしましょう!」


 何故か、私とココが踊ることになってしまった。

 ワクワクした表情でこちらを見上げるココと、『頑張ってください、エル様!』と親指をグッと突き出すポーズを取るフォルトの視線に負け――……私はココに手を差し出した。


 そういえば、これは前回の人生も合わせて初めての女性とのダンスだと気付くと、喉が異常に乾いてくる。

 緊張を堪え、私はココをダンスに誘った。


「……どうか一曲、私と踊ってくださいませんか?」

「何曲でも構いませんわ、エル様!」


 私の緊張など吹っ飛ばす勢いで、ココが私の手を取り、ダンスが始まる。


 ……本当に妙な感じだ。ダンスを練習したことはあるが、相手は男性のダンス講師であったり、フォルトであったりして、結局女性と本番のダンスを迎えることはなかったというのに。私は今、目の前のココと本当にダンスを踊っているのだ。

 女神のように美しいココが、私の腕の中で満面の笑みを浮かべている。ドレス越しにも伝わる彼女の体温とその柔らかさ、揺れる髪から零れる甘い香水の香りに、私は夢心地になる。


「……ああ、夢みたい」


 そう呟いたのは私ではなく、ココのほうだった。


「こんな……メンと、ダンスが踊れるなんて。生まれてきて本当に幸せですわ……!」

「ココ……」


 彼女の言葉の最初のほうはよく聞き取れなかったが、ココのうっとりとした表情は本物のように見えた。


「……私となんかがダンスパートナーでいいのかい、ココ?」

「エル様だけがいいのです」


 ココは甘い夢のようだ。

 こんなに甘い言葉を吐き、こんなに甘い笑顔を見せてくれるのに、その本心だけが分からない。

 いつの日か彼女は私の手から消え失せてしまうんじゃないかと、私は不安になる。


 暫く踊っていると曲が終わり、互いにお辞儀をする。

 そしてココは私に言った。


「エル様の安定したリードのおかげで、今日はすごく上手に踊れた気がしますわ! また踊りましょうね、エル様! 今日はありがとうございました!」

「……うん」


 まだこの甘い夢は続いてくれるのかと、私はぼんやりと思った。



挿絵(By みてみん)

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