書籍1巻記念SS①:猫派、犬派、ウサギ派、鳥派、何派?
皆様の応援のおかげで第2回ドリコム大賞・金賞を受賞し、美醜あべこべが書籍化&ボイスドラマ化しました!!! コミカライズ企画も進行中です!!!
本当にありがとうございます!!!
10/10頃、DREノベルス様より『美醜あべこべ異世界で不細工王太子と結婚したい!』というタイトルで発売予定です。
何卒よろしくお願いいたします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾⁾
エル様の離宮の庭でみんなでお茶会をしていると、茂みの辺りでガサゴソと音が鳴った。
と同時に、まったりとマフィンを食べていたヴィオレット様の姿が、目の前からシュンッと消えた。
「勝手に退席して申し訳ございません。茂みにいたのはただの猫でしたわぁ」
十秒にも満たない間に茂みから出てきたヴィオレット様は、そう言ってサバトラの猫を捕獲してきた。
ヴィオレット様の行動があまりにも速すぎて、茂みに何かいるのか考える暇もなかったわね……。
「まぁ、猫ですの!? どこで飼われている猫かしら!? それとも野良猫!?」
「フン……。たぶん城の下働きたちが食事を与えている猫だろうな。おい、レイ。サンドイッチの中身の蒸し鶏を水で洗ってこい。ソースを落とせば、猫でも食えるだろう」
「かしこまりました、フィス様! 僕、ちょっと水場まで行ってきますねっ」
「ああ。頼んだぞ、レイ」
何やらミスティア様とドワーフィスター様が猫にソワソワし始め、レイモンドが相変わらず子分らしい行動を取っていた。
「あらぁ? ワグナーご兄妹は猫派ですのぉ?」
ヴィオレット様が尋ねると、
「ねっ、猫派というほどでもありませんわ!」
「たかが畜生相手に、好きも嫌いもないさ」
と、二人ともツンデレを発揮しつつ、猫を撫でている。
ドワーフィスター様が推測した通り、下働きの者たちに可愛がられている猫のようで、毛並みが良く、人慣れしていた。気持ちいところを撫でられるとゴロゴロと喉を鳴らし、ワグナー兄妹がどんどんメロメロな表情になっていく。
「そうおっしゃりつつもぉ、お二人とも随分と手慣れた様子で猫を撫でていらっしゃるのねぇ」
「そう言うヴィオレット様は何派ですのよ!?」
「わたしはぁ、どれかと言うと犬派ですわねぇ。特に猟犬が好ましいですわぁ。主人に忠実でぇ、獲物を狩る手伝いをしてくれますものぉ」
ヴィオレット様らしい言葉に、その場にいる全員が納得した。
「ルナマリア様は何派ですか?」
わたしは近くの席のルナマリア様に尋ねると、彼女は無表情の頬をポッと桃色に染めた。
「……私は、実はウサギが好きです。フワフワしていて可愛いので」
「ああ。そう言えば、ルナは昔からウサギのぬいぐるみなんかが好きだったな」
クライスト筆頭公爵家に招かれたことがあるらしいオーク様が、ルナマリア様の言葉に頷いていた。
たぶん彼女の部屋にウサギのぬいぐるみがたくさん飾られていたのだろう。
「オークハルト殿下は、どんな動物がお好きでしょうか?」
ルナマリア様の質問に、今度はオーク様が答える。
「そうだな。俺は大型犬が特に好きかもしれん。何故だか親近感が湧くのだ」
「ああ、確かにお前は犬っぽいな……」
わたしの隣に腰掛けていたエル様が、遠い目をする。
確かにオーク様のブラコンっぷりと犬の飼い主に対する忠誠心は、似ているところが多いのかもしれない。
「ダグラス、君はどんな動物が好きだい?」
護衛として立っているダグラスにエル様が問いかけると、彼は眉間にシワを寄せ、難しい表情をした。
「野良犬や野良猫はスラム街にも結構いたんスけど、残飯を争う敵だったんで、好きとかないっスね……。あ! 鳥は好きです! うまいから!」
「ああ、そっちの好きか」
ダグラスの答えに苦笑されたエル様だが、
「でも、私もどれかと言うと鳥が好きかな。食べるほうの意味じゃなくて」
と、おっしゃった。
「ではエル様は鳥派なんですね!」
いいことを聞いたわ! 今度、エル様に鳥グッズをプレゼントするのもいいかもしれないわね!
推しの新情報を心に刻んでいると、エル様は暗い表情をして続けた。
「私は見た目のせいか、昔から犬や猫どころか動物全般に好かれなくてね……。鳥は姿が見えなくても、囀る声が美しいから好きだよ……」
試しにエル様が、ワグナー兄妹に可愛がられて液状化している猫に近寄ると。
猫は急に警戒態勢になって全身の毛を逆立て、尻尾もブワッと膨らませて、「シャーーー!!!」と威嚇を始めた。あわわ……。
「あら? ココレット様はまだ何派かお答えしていないわね?」
ミスティア様がふと首を傾げたので、わたしは胸を張って答える。
「わたしは勿論エル様派ですわ!!!」
「わたくしは動物の話を聞いたつもりでしてよ?」
「エル様派なんです!!!」
「……ああ、そう。まぁ、いいわ」
だって、すべての生き物の中でエル様が一番格好良くて好きなんだもの♡
そう思ってエル様に振り返ったら、彼は『まったくココったら』と言うように、照れた表情をしていた。
しばらくすると、猫用の蒸し鶏を用意したレイモンドが戻って来て、ドワーフィスター様から「レイの好きな動物はなんだ?」と聞かれていた。
レイモンドはお面を抱き締めて、「僕はキツネ派です!」と笑った。