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51:聖女の魅了



 ルシファー・ヴァレンティーヌ、年齢は三十三歳で独身。職業は王家の影裏部隊リーダー。藍色の髪と瞳を持った耽美系イケメンお兄さまがエル様のものになってから早数日。離宮内にある執務室がもはやホストクラブである。

 正当派王子様なエル様に、可愛いアイドル系のレイモンド、ワイルド系騎士のダグラス、そして新入りのルシファー!!!

 なにここ、楽園? いくらでもドンペリ入れたい。視界の端に金髪オーク藍色髪オークやドワーフがチラチラしても、全然気にならないくらい良い。最高。もはやイケメン四人でアイドルデビューして欲しい。眼福。


 正直、この状況をじっくり堪能したいのだけれど……。


「私の部下達も皆、ラファエル第一王子殿下の配下に就くことを決めてくれました。これで王家の影の裏部隊はラファエル第一王子殿下のものです」

「ありがとう、ルシファー。それで母上がオークハルトの暗殺を企てた証拠や、クライスト嬢に暴行を加えた証拠の方はどうでしょう?」

「現在シャドーと共に着々と集めております。まずはこちらの書類に目をお通しください」

「これは……すごい……。よくこの証拠を手に入れられたね」

「ラファエル第一王子殿下の御為ですから」

「本当にありがとう」


 正妃様断罪に向けての準備が本格始動し始めた。


 ルシファーやシャドー達がヴァレンティーヌ公爵家で証拠を集めたり、オーク様や側妃サラヴィア様たちから長年繰り返された暗殺未遂について詳しく聴取したり、ルナマリア様からも正妃様から受けた妨害について事細かに聞き出しているところだ。


 それと同時進行で、ゴブリンクス皇子とピアちゃんの件に関してポルタニア皇国に抗議しているところである。

 ポルタニア皇国側はゴブリンクス皇子がエル様に対して不敬をしたことは謝罪し、賠償金も提示したけれど、オーク様を傀儡化して内政干渉しようとした件に関しては一切認めなかった。それどころか、平民のピアちゃんだけでなくゴブリンクス皇子さえも切り捨てる気らしい雰囲気が漂っている。

 このままだとたぶんゴブリンクス皇子は継承権剥奪の上、平民落ちで、我が国にそのまま置き去りにされてしまいそう。いらないんですけど。


 わたしが内心溜め息を吐いていると。執務室の扉がノックされた。フォルトさんが扉を開けると、ドワーフィスター様が書類を片手に執務室に入ってくる。


「ただいま戻りました、ラファエル殿下。ピア・アボットの事情聴取をして参りましたが、これといって新しい情報は出てきませんでしたよ」

「そうですか……。お疲れさまです、ドワーフィスター」


 ドワーフィスター様はそのままルシファーのもとへ移動すると、「尋ねたいことがあるんだけど」と彼に話しかけた。


「ピア・アボットが下位貴族の精神を操っていた件について、魔術師としてのあなたの意見を聞きたい」


 ドワーフィスター様は魔術仲間として、たいへんルシファーを気に入ってしまった。魔術関係だとこの人本当にチョロいからねぇ。

 時間があればルシファーに魔術トークを振って楽しんでいる。


「……彼女から魔道具の類いは出てこなかったのですよね?」


 ルシファーが顎に手を当て、考えるように質問する。


「ああ。彼女自身からも、寮の部屋やアボット男爵家の屋敷もすべて調べたが、なにも出なかった。ポルタニア皇国にあるゴブリンクス皇子殿下の宮殿はさすがに調べることは出来ないけれど、仮にポルタニアにあったとしてもここから距離がありすぎるから、魔道具の効果が出る範囲ではないと僕は思うのだが、ルシファー殿はどう考える?」

「私も、ポルタニア皇国に置かれた魔道具という線は薄いと思います。それほどの効果がある魔道具を作るには、かなり多くの魔術師が必要ですし、アボット元男爵令嬢が操った相手が下位貴族ばかりだったことが気になります。それほど強力な魔道具なら、最初からオークハルト第二王子殿下を操ってしまえば良かったのですから」

「そうだよな……。ではいったいどうやってピア・アボットは下位貴族を操ったんだ?」


 二人の会話を聞いて、わたしの思考もぐるぐる回る。


 ピアちゃん……魔道具でも魔術でもない……他人を操る……ヒロイン……魅了……。ふむ。


 前世夢女の勘が言っているーーーピアちゃんって魅了の力を持った聖女じゃない?


「……もしかするとピア・アボット様は聖女の力を宿しているのではありませんか、ドワーフィスター様?」


 わたしの発言に、ドワーフィスター様だけでなくエル様達も目を大きくさせた。


「だが、我が同志ブロッサム嬢よ、あの女は他人を操りはしたが、癒しの力など見せなかっただろう」

「たしかに文献に残っている聖女たちは、ツェツィーリアをはじめ皆、自分の心身を代償に他者を癒しています。でも癒しの力が聖女の力の全てではなく、一部に過ぎなかったらどうでしょうか?」

「……歴代の聖女達も他人を操る力を持っていたが、使わなかった、もしくは文献に記されなかっただけという可能性もあるということか」

「聖女伝説に関してはルナマリア様の方がお詳しいので、訊ねてみた方がいいと思います」


 もしかしたら聖女の力が弱くて、癒しの力はほとんど使えないけど魅了だけは出来るパターンかもしれないわね。

 ただひとつ気になるのは、ピアちゃんの能力の代償だけど……。

 ピアちゃんが捕まってから身体検査を行ったけれど、聖女ツェツゥーリアのように盲目だとか、はっきりと分かる身体的障害は見つからなかったのよね。

 内臓疾患とかだったら、この世界の医療ではそう簡単には見つけられないのだけど。


「ドワーフィスター、ココの言う通りピア・アボットに聖女の力があるかどうか調べてください。クライスト嬢にも私から頼みましょう」

「承りました、殿下」

「エル様っ、わたしもアボット様の件をお手伝いしてもよろしいでしょうか?」

「ココが?」


 夢女の勘が必要な案件だと思うので、わたしも名乗り上げる。

 エル様はしばし考えるように黙り込んだが、口を開ける。


「わかったよ、ココ。許可しよう」

「ありがとうございます、エル様っ」

「だげどココ、私は母上の件が忙しいので一緒には居られない。護衛にシャドーをつけるから、離れないようにね」

「……ルシファーでは駄目ですか、エル様?」

「ごめんね、ココ。ルシファーには母上の証拠探しに専念して欲しいから……」

「そうですよね、わがままを言ってしまってごめんなさい、エル様」

「ううん、気にしないで」


 また、シャドーなのね……。


 ちょうど執務室の扉横に立っていたシャドーと目が合った。シャドーは「安心しろって、お嬢。オレが命に代えても、絶対にお嬢を守るからさ」とウィンクしてくる。


 ……その台詞、ルシファーに言われたかったなぁ。


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