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瓦礫世界のシナリオ進行  作者: namakox
第一章「出会い」
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第5話「家族」

僕がパンを食べ終わったのを見て、カイラは南の方を指さして言った。


「向こうに何か見える」


僕もそれを見ようとしたが、見えなかった。もっと遠くの方に何かあるとしても、僕には見えそうにない。


「カイラさんは目がいいですね」


僕はカイラの目の良さに嫉妬しながらそう言った。瓦礫ばかりの世界から何かが見つかることは、あまりないことだ。だから、その「何か」を僕はとても見たかった。


「そうでもないぞ。私の弟の方が目がよかったからな。て言うかほら、少し動いてるように見えないか?」


そう言われても僕にはそれが見えない。それを見ようと一応は見たが、やはり分からなかった。


「見えないです。というか、カイラさんには弟がいたんですね」


僕はうんざりしながらそう言った。話題を変えようと思った。


「そう言えば、お前には言ってなかったか。じゃあ、向こうに進みながらでも弟の話をするか」


カイラは「何か」に向かうつもりらしかった。「何か」に近づけばそのうち僕にも見えてくるだろうし、こんな強情な姉を持つ弟がどんな人なのかとても気になったのでカイラに賛成した。


「はい!是非、聞かせてください。ちょっと興味あります」


カイラと僕は「何か」に向けて歩きながら弟の話をしはじめた。


「私の弟の名はシイラだ。弟は優しくて気が利く人だったな。私の背より少し小さくても、その心の広さは人一倍あった」


「そうなんですか。それは、意外ですね」


僕はカイラの性格を知っていたので、弟もそういう人柄かと勝手に思っていた。だから、何気なく口が勝手にそう動いてしまった。するといきなりカイラは進むのをやめて、僕の方を睨みつけて言った。その瞬間に僕は自分がやらかしてしまっていたことに気が付いた。とっさに身構えた。


「意外で悪かったな。もう話さん」


そう来たかと僕は感心してしまっていた。本当はそんな場合ではないのだが...。カイラは誰が見ても分かりやすく怒っていた。


「すいません。なんでもないです。弟さんの話を聞かせてください」


「なんでもなくはないだろう!絶対に話さん!」


僕はカイラが続きを話してくれるように促した。しかし、カイラはなかなか話そうとしてくれない。


「ごめんなさい。話してくれませんか?」


「.......そうか。口には気をつけろよ。」


カイラはそう言ってから、また進み始めた。カイラは思いの外、自分の性格を気にしているのだろうか。


「はい。分かりました。」


僕はただカイラの話を聞きたくてそう言った。


「私の弟は、実はもう生きていない。殺されたんだ。突然の別れだった。あんなに優しい弟が、なぜ殺されなければならなかったのか。私には分からなかった。」


僕は突然の暗い話に、返す言葉が見つからなかった。カイラはしばらくして、話を続けた。


「私にはどうする事も出来なかった。目の前で殺された弟に、何もする事が出来なかった。」


カイラの声が少し震えていた。しばらく、何も言わずに瓦礫の中を進んで行った。そして、カイラはまた、話を続けた。


「私は弟の事を、小さい頃から可愛がっていた。最初に弟を見た時に、こんな瓦礫だらけの世界に天使みたいな人間がいることを、初めて知ったんだ。死際までそうだった。だから、私は許せないんだ。そんな弟を殺した奴をな。」


ちらりと見えたカイラの目が、いつもより鋭くなっているのが分かった。カイラは本気だった。本気だというのは言われずとも分かる。そういう人はどこか落ち着いた鋭さを持っているからだ。カイラはその後、家族の話をし始めた。


「そう言えば、私の父親は歴史家だった。主に第3世代と第1世代の歴史を研究してたよ。」


突然の事実に僕は驚いた。


「えっ!かなりの、物好きじゃないですか。」


世界を瓦礫だらけにした第3世代の歴史を研究する事は、あまり人受けが良くない。


「確かにそうだな。でもって、私の弟も歴史が好きだった。父親にいつも教えこまれていたよ。」


世界を瓦礫だらけにした第3世代の歴史を、知りたい人間がいることを初めて知った。僕は到底、知りたいとは思えなかった。


「父は歴史を知ることは、今を守ることになるとか言ってたな。過ちを繰り返さないようにするのが自分の役目だとかね。そう言っては物凄く狂ったような事もしていた。私は父を見て人間の本気と狂気なんて紙一重だと思ったよ。」


カイラの話はそのどれもが、僕にとっては新鮮な話だった。


「そうなんですか.......ね。」


僕はカイラに向かって、苦笑いをすることしか出来なかった。それ以上は、深く考えないようにした。鉄の臭いを含んだ風が周辺に留まっていた空気を遠くに流していった。その風が吹き抜けていく方向に視線を少し上げて向くと、遠くに小さな「何か」があるのが見えた。明らかに周りの景色から浮いていた「何か」は、直ぐにカイラが言っていたものだと分かった。気がついたら「何か」が僕にも見えるくらいにまで近づいていた。「何か」は丸く、透き通った灰色をしていた。


「カイラさん。たぶん、僕にもやっとあれが見えたんですが.......。あれは一体、何でしょうか。」


僕はカイラにきいてみた。


「私も初めて見た。もっと近づいてみよう。」


カイラはどんどん「何か」に近づいていった。その好奇心は父親譲りなのだろうか。


「カイラさん!待ってください。そんな何か分からないものに、躊躇なく近づいたら危ないですよ。」


「そう言われるとそうだな。」


案外すんなり聞きいれてくれたカイラは、少し大きめの錆びた瓦礫の上で僕を待っていた。


「あれはなんだ?一見、柔らかそうな感じだけど灰色って。気味が悪いな。」


僕がカイラが待っていた瓦礫に着くと、カイラがきいてきた。


「さっき僕がカイラさんに聞いたのに、僕が分かるわけないじゃないですか。もしかして、忘れたんですか?」


そう言って笑っていると、ふと見た「何か」が、風に吹かれて少し揺れたように見えた。


「うっかりしてただけだ。」


カイラがそう言って直ぐに、僕が驚きながら今見た事を話す。


「カイラさん!今、あれが少し揺れませんでした?風が当たって.......。」


「つまり、柔らかいって事だな!危なくなさそうだな。早くいくぞっ!」


カイラは僕の言葉を遮って、勝手にそう結論づけた。そして、また「何か」に向かって進み始めた。柔らかいから危なくないって、どういう考え方なのだろうか。そもそも、本当に柔らかいかもわからない。溜息をひとつついて、僕はカイラの後に着いていった。カイラの足取りが軽すぎることに、不安を感じずにはいられなかった。

言語


この世界の言語は、第3世代の言語がその地域ごとに受け継がれている。つまり、第3世代で日本語を話していた地域は第4世代でも日本語を話している。言語は第1世代が第4世代に基本的な知識として伝えている。そのため、誰でも第3世代の資料を解読することは容易に出来る。

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