第一印象
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テニス部の顧問の先生と、若いその人と白髪のおじさんは、職員会議に向かうため、体育館を後にした。
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練習はいつも通り進んでいた。
私は、岩井先生の組んだメニューをこなしながら、若いその人の名前を思い出していた。
同時に、岩井先生はどこに異動になったのだろうと考えていた。
「はるか?次だよ?」
「あ、はい!」
「ぼーっとしてると危ないからね」
「すみません、、」
先輩に声をかけられてハッとした。
私だけなのだろうか。
みんなは、何も感じていないのだろうか。
岩井先生のメニューをしていても、寂しくないのだろうか。この練習を見てくれる岩井先生はもうここにはいないのに、、
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練習が終わり、片付けを始めると、同級生同士での雑談が始まった。
「はるかはさ〜、さっきの人の名前覚えてる?」
「2人とも似てる名前だったから、覚えられてない、、確か2人とも"山"って付くよね〜」
「はるかでも覚えてないもん、誰もわかんないよ〜(笑)」
私は話しながら、部室に持っていく荷物をまとめて、部室へ向かった。
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体育館を出ると、そこに若いその人がいた。
「こんにちは〜、、」
『こんにちは。部室見せてもらえる?』
「あ、はい、、」
正直、男の人は怖い。
女の人が多い環境で育った私は、男の人に恐怖心を覚えてしまっていた。
私の後ろを付いてくる、若いその人は、少し微笑みながら『二階なんだね〜』と言っている。合わせるように笑いながら、部室の中へ誘導した。
『え、これだけ?』
「?」
『ユニフォームは、、』
「これです。黄色と白。」
『これもうボロボロじゃん(笑)、、、何これ?大会?』
「そうです。この地区の1年生大会。」
『へぇ〜、強いんだ』
遠くから、私を呼ぶ声が聞こえた。
そうだ、雑巾がまだだった。
部室の窓を開けて下を覗くと、そこには同級生の咲と愛がいた。掛け声と同時に雑巾が私に向かって投げられる。うまくキャッチして雑巾を干すと、部室を出た。
若いその人は、まだ部室をジロジロと見ていた。
「あの、、」
『もう行く?』
「はい、、」
『ありがとう』
礼儀正しい人だ、と思った。先生にはお礼を言われるなんて、そうそうないことだ。部室の鍵を閉めると、下で待っていた咲に鍵を落とす。咲は先輩に鍵を渡すため、走っていった。
相変わらず、私の後ろをついて歩いてくる若いその人は、少し古びた部室に文句を言っていた。
と、思っていた。
『部室に何もないんだね〜 全部揃えなくちゃな〜』
何もない、とはどういうことだろうか。
ユニフォームも少し古いけどあるし、今までの先輩方から受け継いだ救急箱も、雑巾だって部員で集めている。
何がないんだろうか。
少しだけ私の脳に戦慄が走った。
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