サムライ卍テンプル2
盗み、強姦、殺人。犯罪ならなんでもありのこの街に、一人の男がやって来た。彼の名はサイトー。極東の国ジャポンのサムライである。
サイトーはハンバーガーショップ「テキサス」の中に居た。
「おいおい。こんな金通用しねぇよ」
店員は怒鳴り付けた。サイトーが渡したジャポンの通貨はこの街では使えない。しかし、街一番の高利貸しで知られる「トイチ銀行」が強盗に襲われ、業務を停止しているために両替することが出来ないのだ。
「金が無いなら帰りな」
無一文と同じになってしまったサイトーはこんな調子で三日間何も食べることが出来なかった。店から追い出されたサイトーを三人のチンピラが囲む。
「知らない顔はまず殴れ。ってことわざ知ってっか?」
顔を狙った右ストレートが放たれる。この時、チンピラAの重心は左足に乗っている。サイトーは僅かに顔を反らして拳を避けると、この左足を崩した。支えを失ったチンピラAの体は前へ倒れる。サイトーはこの勢いを利用し、瞬く間にチンピラAを一回転させ地面に叩きつけた。
仲間がやられたことで逆上したチンピラBはナイフを取り出してサイトーに切りかかった。チンピラBはナイフを振り上げたが、これは大きな隙を作っていた。サイトーはチンピラBの手首を掴んで返した。つまりこの時ナイフは下を向くことになる。同時に反対側から飛びかかって来たチンピラCをかわして足をかけナイフの真下に転ばせると、そのまま手首を降ろさせた。ナイフはチンピラCの肩に刺さる。サイトーは仲間を刺した事で狼狽えたチンピラBを背負い投げして倒した。
「命が惜しくば去れ」
一言だけ告げるとチンピラは一目散に逃げていった。
さて、武士は食わねど高楊枝と振る舞ってきたサイトーではあるが、しかし腹が減っては戦も出来ぬともいう。ここで遂にサイトーは行き倒れてしまった。
道端で倒れているサイトーに近づく二人の影があった。一人は十歳の少女。もう一人は爆発したような白髪をした髭の老人である。
少女はサイトーのマゲを木の棒でつついていた。
「じいじ。これサムライじゃない?」
「珍しいの。生きとるか」
少女が木の棒でサイトーの目を突こうとすると、すんでのところでサイトーはそれを防いだ。
「こいつ、生きてるよじいじ。連れて帰ろうよ」
老人がそれを許すと少女は跳び跳ねて喜んだ。サイトーは朦朧とする意識の中トラックの荷台に乗せられたのであった。
次にサイトーが目を覚ました時、彼は街の外れにある工房「カラクリ」に居た。大きな歯車が回転し、張り巡らされたパイプからは蒸気が時折吹き出ている。扉が開き少女がパンを片手に入って来た。
「目が覚めたね。サムライ」
少女がパンを投げ渡すとサイトーはそれを取りかじりついた。
「私はメイク。じいじの名前はクラフト。サムライは何ていうの?」
「サイトーだ」
「じゃあ、サイトー。ついてきて」
クラフト老人は分解されたリボルバー拳銃を組み立てていた。
「さすがはサムライ。回復早いの」
基盤が剥き出しになった機械や部品があちらこちらに散乱していた。サイトーがネジを拾い上げる。
「興味あるかの?」
「いや。以前使えていた主が同じ様なことを」
カチャカチャとクラフト老人の手元でリボルバー拳銃が組み立てられていく。
「何故、この街に」
「腕試しに」
メイクが笑った。
「行き倒れていたのによく言うわ」
サイトーも笑う。
「その通りでござるな」
カチャリ、全ての部品が組合わさった。
「修行の旅は良いが、お主これからのあてはあるのかの」
サイトーは黙って首を振る。
「だったらここで住めばいいじゃない。ね。じいじ」
突然入り口の扉が開いた。現れたのはこの街一番の大悪党ギャング・スター。修理を依頼したリボルバーを受け取りに来たのだ。サイトーとスターの視線が一瞬交錯する。スターはクラフト老人からリボルバーを受け取った。
「聞いてた通り、馬鹿高い修理代だな」
怯えたメイクがサイトーの後ろに隠れた。
「例えばだ…」
スターは銃口をマルコフ老人に向けた。メイクが声にならない悲鳴を上げて駆け出そうとしたがサイトーはメイクの肩に優しく手を置いた。
「金を払わないってなったら…」
スターが引き金を引く。
「こうなる訳か」
パスンと力の抜けた音がし、銃口からは旗が出てきた。
「良くできた偽物だぜ。良い腕してるな爺さん」
クラフト老人が金を受け取り本物の銃をスターに渡すと二人は大笑いして握手した。スターはメイクに驚かせた詫びだと言って飴玉を渡して頭を撫でていたが、直にサイトーを見た。その瞬間に冷徹な静寂が起こった。壁にかかっている時計の針の音が響き渡る。
「サムライ。何を求めてこの街に来た」
「『強さ』だ」
スターの瞳に鈍い光が宿る。
「だったら…」
スターとサイトーが同時に自分の武器に手をかけようとしたその時、時計が12時を差して鳩が飛び出す。それを見たスターは慌てて工房を飛び出していった。
「サイトーよ。この街で老いぼれと小さい女の子と二人で暮らすにはあまりに心もとないのじゃ。ここで用心棒をする気はないか」
サイトーは正義の味方ではない。己の強さのみを求め続け多くの人を切ってきた。しかしこの時、クラフト老人とかつての主の姿が重なり、また自分に期待の眼差しを向ける幼い少女にサイトーは心を決めた。
「その話、受けるでござる」
メイクは跳び跳ねて喜んだ。
蒸気が吹き出し、歯車が回りだす。




