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歴史短編2

疑心

作者: 檸檬 絵郎

秋月 忍さま主催「ミステリアスナイト」企画参加作品……



 あの人は、たぬき汁を所望した。そこで私は、狸をることになった。


 まずは、おびき寄せて。油断をさせて、仕留める。私は念入りに策を練った。


 狸狩りは成功した。あの人は喜んで、私に褒美をくれた。






 時が経った。


 あの人はふたたび、狸汁を所望した。そこで私は、狸をることになった。

 

 まずは、おびき寄せて。油断をさせて、仕留める。私は念入りに策を練った。




 ところがあの人は、こう言った。


「皮算用か」


 は……?


「お前は褒美を期待しているな」






 初めてだった。傷ついた。


 あの人は爽やかだったが、私の心を疑ったのだ。


 それは私には、ひどい侮辱に思われた。




 私の心、そのみにくさ。それは問題ではなかった。


 あの人の疑心、それを恐れているわけでもなかった。


 あの人は爽やかだったが、私の心のみにくさを指摘した。そのことが、問題だった。


 私には、とてつもなく大きな問題に思われたのだ。






 不意に、あの人のなんでもない一言が、


 いつ聞いたか、それすらも覚えていない、


 本当に聞いたのかも怪しく思われるほどの記憶が、思い出された。



金柑きんかんは砂糖漬けがうまい」










 狸を獲らずとも良くなった。


 私は別のことを言いつけられた。


 私は山へ登った。


 そして、くだった。




 私にはわかった。あの人は、私を疑ってはいない。


 あの人は、いつだって爽やかだ。


 疑り深いのは、私のほうだ。




 あの人は、私を疑ってはいない……


 笑いがこみあげてくる。


 あの人は、いつだって爽やかだ、


 ほれぼれするくらいに……。










 空をあおいだ。


 まだ陽は昇らぬ。


 黒々とした木々が、


 空の声を告げた。






 私は確信した。


 私は貪欲なのだ。


 そうしてあの人は、


 いつだって爽やかだ。




































 敵は、本能寺にあり。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 金柑のワードに引っ掛かりを覚えつつ、深く考えずに読み進めて良かったです。 最後の一文で「あぁそうか!」と納得&スッキリできました。 心理描写メインで含みのある演出が素敵でした。 ネタバレ…
[良い点] 最後の一文で、すべてが納得のお話でした! 誰が誰に対して何を言ってるの? という疑問が、最後の一文で導き出された答えで読み直してみると解消されていきました。 ただ、調べて見なければわか…
[良い点] 太宰とみせかけた歴史もの。面白かったです。 [気になる点] 完全読解に歴史の素養がかなり必要かな? あとがきに、解説を付けたほうが、楽しめる人も多いかもしれません。 あと、ネタバレせずに…
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