プチ竜宮城の楽しみ
なんだか口幅ったいことを散々語ってしまったので、ここからは金魚の魅力についてたっぷりと。
我が家には現在60センチ水槽が二つ、で~んと出窓に置かれている。ろ過装置は上部ろ過でリビングには四六時中ポンプで水をくみ上げる音が静かに響いて心地よい。
この音を心地よいと思うかどうかは個人差があるので、些細な音が気になる人には寝室やリビングへの水槽の設置はお勧めしない。水槽とは癒しのために置くものであり、これがストレスの原因となるようでは本末転倒だからである。
もっとも、こうした音が気にならない私のティータイムは優雅だ。
普段は安い紅茶をがぶがぶ飲みながら文章を打つ私も、リラックスを求めるこの時だけはとっておきの良い茶を淹れる。今は手元に頂き物の良いウーロン茶があり、熱いお湯で入れたこれに砂糖をかけた自家製の梅を添えて用意するのが至福なのである。
さて、水槽はリビングの出窓という目立つ場所にあるのだから、座れば水中を優雅に泳ぐ金魚が目の前で楽しめる。
アザとー水槽の目玉は琉金、これは左右の水槽に2匹づつ、握りこぶしサイズのものが色っぽく尻を振って泳ぐ。
琉金の最大の魅力は泳ぐたびに振られる尾びれの美しさにある。背は大きく盛り上がった『キャメルバック』と呼ばれるラクダ様のふくらみを描き、尻尾に向かって流れ落ちるように急激にすぼまり、そこからふわりとスカートのように尾びれの広がるものが良魚とされている。
うちの子たちは埼玉の道の駅で買ったという謎出自の子たちだから、そんな高級魚には遠く及ばぬが、尻尾の開きは理想的である。色揚げ用の餌を与えて丹精したオレンジの斑、それと対を成す白色を薄く引き伸ばした半透明の繊細なドレープ。これが開きすぎると安っぽくも見える、閉じすぎていては面白味もない。あくまでも春風に吹き上げられた薄地のスカートのように恥じらいと清楚を含んで広がるが良し。
ひれの美しさと言えばコメットも負けてはいない。十センチを超すコメットが一匹、琉金を押しのけるようにして悠々と泳ぐ。水槽の端でターンする、その一瞬に閃く長い尾はまさに流星が尾を引くかのように艶やかで。
このコメットはフナ尾(普通の和金と同じ縦に薄い形のもの)であるが、これが胴体と同じ長さだけ長く発達しているのだから、狭い水槽では魅力を十分に発揮できない。うちの水槽が60センチにグレードアップされたのはこのコメットのためでもあったのだ。
それに合わせてランチュウ、これは少し変わった高級魚を掬わせる金魚屋から入手したもので、おそらく元の筋は良くないハネ金(選別の時に良魚ではないと判断されたもの)なのだろう。
一匹はランチュウであるかすら怪しい。魚体はあまり大きくならず、ひれは四方八方に大きく広がりすぎていて泳ぎも下手だ。ただ頭がふっくらと盛り上がっているからランチュウだろうという程度の雑魚であるが……実はこの子が一番泳ぎがかわいい。不器用であるがゆえに大きく体ごと振り回す泳ぎ方も、愛嬌のある顔立ちも、幼児を眺めるようなあどけないかわいさにあふれまくっている。
もう一匹は大当たりだったとしか思えないほどの見事な黒いランチュウで、こちらは体格もひれの開きも、頭の辺りのふくらみも実に見事で、泳がせても気品がある。
これだけの個性あふれる魚が泳ぎ回るのだから、その眺めはさながら竜宮城である。
水の中を気まぐれに泳ぎ回る赤と、白と、時々横切る黒。この色彩の合間にふわりとひれが揺らめき、ふわりと沈んでゆく……これを楽しみながらのティータイムにどれほどの癒し効果があることか。
と、書きながらも私は、今日もそろそろ癒しのティータイムにしようかとお湯を沸かしている最中なのである。