4 ロンドンのとある公園
バラと緑あふれるイギリス・ロンドンのとある公園の白いベンチ。プレヌとロマンヌは休んでいました。ロマンヌを見つめるプレヌの目はちょっぴり切なげです。というのは。
「かわいいお洋服を試着しても心が浮き立たないなんて、ロマンヌの落ち込み具合は重症そうね」
「ママ、なにか言った? 」
「え、えぇ」
プレヌはロマンヌの頬を両手で挟み込みました。
「ロマンヌ。いったいなにがあったの? ここのところずっと浮かない顔して」
「うん……」
ロマンヌはうつむいて、
「ママはパパに気持ち、どうやって伝えたの? 」
「え? それはね、ただ一言『好き』って」
「そっか……」
「今考えてもそれが一番効果のある言葉だと思ったの。あの人、どこかで自分に価値がないって思ってたところがあったから。そういう人にはね、好きになってくれる誰かがちゃんといるんだって知らせることがいちばん」
「そう、かな」
「エルネスト先生だってそうよ」
「……ママ……」
ロマンヌは驚いて顔をあげました。
「ロマンヌの伝えたことはちゃんと彼の心の糧になってるはずよ」
「どうして、知ってるの? わたしが想い伝えたこと」
「あら忘れちゃった? ママは妖精さん。なんでもお見通しなのよ」
ロマンヌは少しだけ声に出して笑ったあとで、
「でも先生はわたしの気持ちには応えられないみたいで」
「まぁ、どうして? 」
プレヌは眉をひそめ心から悲しそうな顔をしました。
「わたしはこれからたくさんの人と出会って、たくさんの人を癒してくんだって。『それを僕だけのものにしてしまうのはとても惜しいから』だって」
「……そう……」
「あれからいっぱい考えたの。先生の言いたいこと。どういうことかなって」
「えぇ」
「まだはっきりとはわからないけど……。わたしを大切に想ってくれてるのかなって」
「そうね」
「だからね、この想いはとっておくことにしたの。大切に……いつかまた出すときがくるまでしまっておくの。そうやってレアが言ってくれたから」
「そう」
「……そう、決めたんだよ。なのにどうしてこんなに悲しいんだろう」
「ロマンヌ」
気が付いたらロマンヌはママに抱きしめられていました。
「きっとその想い、また使う日が来るわ。だからもう落ち込まないで。だって」
ロマンヌを離すと、ママはにっこり笑って、
「ロマンヌを落ち込ませることがエルネストのねらいじゃないってことだけは確かだもの」
「……うん」
ロマンヌははにかんで笑って見せました。その笑顔にはしかしまだいつもの華やぎはなく、少しだけ悲しい気持ちになるプレヌでした。