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11 システィーナ礼拝堂

 初めて見る光景に、レアはしばらく言葉を失くしました。

 システィーナ礼拝堂の天井画です。笑っている人、悲しんでいる人、考え込んでいる人……。そこには無数の“人”の姿がありました。

 「家族」

 ロジェがぽつりと一単語を口にしました。そう。そこに描かれているのは、家族の姿です。

 「家族が欲しいなって、ここでママと話したんだ」

 「かじょく……」

 天井に少しでも近づけるようにと肩車したレアにロジェは頷きました。

 「パパは自分の夢を持つなんてこと、到底できなかった。自分の声がなにを言いたいのかすらわからなかったんだ。でもママの頭の上には、こういう、全部の人が活き活きしてる世界ができあがってたんだ。だから」

 レアはまだ天井に描かれ天の国のような絵に夢中でした。

 「ママの夢がパパの夢にもなった。そういう世界っていいなって、強く想ったんだ。それで生まれて来てくれたのが、ロマンヌと」

 ロジェはぴょんとジャンプし肩の上のレアをしょい直します。

 「君だ」

 そして今度は少しだけ厳しい口調になって、

 「銃を持ってる人なんて見たら、そこからすぐ逃げなくちゃだめだぞ」

 「パパ。やっぱりいたんでしゅね。あのパーティー会場に」

 ロジェがかすかに目を見開きます。

 「それでレアのこと、見ててくれたんでしゅね」

 「……銃が撃たれたときは、ぞっとした。庇おうと走ったけど、もしレアが避けてなかったらどうなってたか」

 お尻の下のパパの肩が震えているのを感じてレアはしゅんと頷きました。

 「ごめんなしゃい、でしゅ」

 頭の上のふたつの小さなぼんぼんが本人と同じように項垂れているのを見ておかしくなったのかロジェはくすりと笑うと、

 「今回はちょっと、辛い想いしたみたいだな」

 その言葉でこみ上げてくるものを飲み干したあと、レアはすっきりとした顔をしました。

 「大丈夫でしゅ。ロマーノを狙った人達は捕まったし、ロマーノのお父しゃまとお母しゃまも反省したみたいだし。ロマーノも……また“スピルト”に来てくれましゅ」

 「そうだな。……レア」

 「はい?」

 「大人に守られた安心できる世界にいたってことは、レアにとってもきっと大切な糧になるよ。だって他の人にも、そういう世界をわけてあげられるかもしれないんだ。ちょうどパパにわけてくれたママみたいに」

 「……しょう、でしゅねっ」

 レアはロジェの肩からそっと降りると、元気よく、差し出された手を握りました。

 「さ、帰ろう、予定より日が長引いたから、ママもロマンヌも心配してる」

 「あいあいさーでしゅ」

 そしてふたりは、連れ立って歩き出したのでした。温かい、“我が家”に向かって。


 Fin

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